８４話：ディア

「待って下さい」

　その場を立ち去ろうとしている愁達を呼び止めたのは狼の獣人であった。

「ん？君はこいつらの奴隷かい？」

「はい。ディア　リフルと申します。私は主を殺された身です。今後どのようにすればいいんでしょうか？」

　ディアと名乗った狼の獣人の奴隷は愁達に今後の事について尋ねた。確かに彼女は８人の中の誰かの奴隷であった。その主が愁に殺されたわけであるから彼女からすると次なる主人は愁という事になる。そのため彼女は愁達を呼び止めたのであった。

「君としてはどうしたい？」

　愁はある種、酷な質問を彼女に対して行った。奴隷は主人の命に従い行動を起こす。つまり今まで主人の命に従っていれば問題の無い状況であったのが一変したという事である。

「え、えっとー…少し考えさせてください」

「わかった。んじゃここで待ってるわ」

　そう言って愁はちょうどいい機会だと考えて皆のスキルを強化しようと考えていたのであった。わかりやすく言えば迷宮の魔物が持つスキルをスキルトランスファーで渡して強化しようと考えていた。ちなみに開拓地に関してだが愁は今日にでもメリリアナの方で職人を探す予定でいた。

　今日の予定と迷宮に関する事を相談し合って３０分ほどが経過すると思考が纏まったのか、ディアが再び話しかけてきた。

「私はもし良ければ御主人様方について行きたいと考えています。今の私１人では何をどのようにしていいのかわからない状況です。そんな状況になるぐらいであれば御主人様方について行ったほうが自らが進む道が見つかって良いんじゃないかと判断しました」

「なるほどな。確かに言えてる。戦闘をしてもらう事になるが大丈夫か？」

「以前の御主人様方は私を荷物運びや死体処理などをさせられました。しかし私は戦闘を望んでいました。そのため戦闘をする分には問題ないです」

「んじゃしばらくの間になるかもしれないけどよろしくね？」

「はい」

　そう言ってディアは自己紹介をする。それを聞いた愁達も自己紹介を続けた。

―――…―Sight of DIA Start―…―――

　私の御主人様であるデュラン様の命により私は魔族の方を含めて７人の盗賊と共にシュウという冒険者の奴隷を拉致しました。私は正体がばれるといけないのでこの事には直接かかわっていません。しかし傍から見ていても魔族が使う死霊と言うのは非常に厄介に感じました。呆気なく全員動かなくなったと思ったんですが、どうやらエルフだけは死霊術が効いていませんでした。まぁそう言う人だって少なからずいるかもしれません。割り切ったのか、魔族は召喚武器であるグレイプニルを使い始めました。私は生まれて初めて召喚武器と言う物をこの目で見ました。あの時の興奮は今でも忘れません。そして丁重に意識を失って動かなくなった彼女達をアジトまで運び込みました。

　彼女達を運んでから約１時間程度で彼女たちの御主人、シュウと言う冒険者が現れました。そして私は鑑定のスキルを使い彼を鑑定しました。するとレベルがたったの１３しかありませんでした。これだとそこに寝ている彼女たちの方がレベルが高いじゃん。心の中でそう突っ込みながらも自らの役目である念話を使って彼の情報を他の８人に伝達しました。失敗することはまずない。そう私は感じました。しかし突如聞いたこともないスキルの名前を彼は言いだしました。そんなスキル持っていなかった。私は心の中でまずそう叫びました。彼が持っているスキルは剣術と炎魔法Ⅰと鑑定のスキル。それなのに突如知らない魔法を使いだしました。突如手元に現れる複数のキラキラした石のような物。数を増やしてしばらくするとそれが８人を追尾するように放たれました。避けても曲がる。そんな状態で早くも５人が死にました。しかも１人は重症でほぼ動けないに等しい。

(なんなの！？これじゃまるでミニゴブリンと聖獣の戦いじゃない・・・)

　私の想像以上にシュウと言う冒険者は強かったです。あのレベル９７の魔族でも全くと言って良い程歯が立ちません。ミニゴブリンがゴブリンロードになった程度の違いでしかないです。死霊術で召喚されたであろう死霊もどうやったのかは一切不明ですが突如消えたみたいですし、グレイプニルに捕まったかと思えば黒炎に包まれてグレイプニルは溶けてしまいました。いかなる魔法も受け付けないグレイプニルが黒炎で溶ける？そんな馬鹿な話聞いたことありません。いったい何者なんでしょうか？本当に人間なのでしょうか？しかしこのままでは任務は完全に失敗に終わってしまいます。私が潜入するしか手が残っていません。しかしどうしましょう？どうやって抜け出せばいいのでしょうか。そもそも潜入して情報を渡したところでこの方を止められるものが存在するのでしょうか？一切能力はわかりませんが、どういった手段を用いてもこの方には勝つことが出来ないような気がしてきました。何か協力してくれる方はいないんでしょうか？とりあえず私は潜入を続けて様子を見る事にしましょう。

―――…―Sight of DIA End―…―――