76話:仮説と真実
この辺りから物語が大きく動き出します
調査団が帰った後、愁達はワープを使って家まで帰った。
「さて、今日は俺は事情で1人宿へと泊まる。明日の朝迎えに行くからそれまでは自由にしていてくれ」
突然の宣言で誰もが慌てふためく。しかし華奈はなんとなく事情が分かっていたため1人冷静にしていた。そう、今日は異世界転移してからちょうど1年の月日がたった日、つまりは神から召集がある日だ。そのため愁は家でなく宿に泊まると言いだしたのだ。ハク、ルナ、フィアは様々な事を言ってくるが愁は全てを華奈に丸投げした。そして宿屋へと向かって宿泊をし夢の世界へと旅立った。
―――…――…―――
愁は目を覚ます。そこは真っ白な空間が広がっていた。そう、天界である。
「おまえが一番か。大分早いな」
「少しお話したい事がありましてね」
「わかった。しばしの間女神に事情を説明するからここで待っていてくれ」
そう言われて愁は待った。そして3分ほどすると神が女神を連れて戻って来たのだ。
「お久しぶり~、元気にしてた~?」
「はい。時間が無いので要点だけを話しますね。なぜ嘘をついてまで俺達を異世界転移させたのですか?」
「どのあたりまで分かっている?」
神に問われた愁は自らの嘘に関する仮説を話し始めた。愁の仮説の構成としては主に2つ。
1つ目は死んだ理由に関する事だ。神と女神の喧嘩に巻き込まれたという事は華奈の話を聞いてほぼ確実にデマであると考えていた。なら何故わざと殺してまでこの世界に連れて来たのか?理由としては愁の中では1つしかなかった。転移する人が神たちの何かしらの目的を果たすことが出来ると思ったからわざと殺して能力を持たせて異世界へと転移させたという結論に愁は至った。わかりやすく言い換えるのであればヘッドハンティングのようなものである。
2つ目は転移の目的だ。神たちの目的は迷宮の100層の突破ではないと愁は結論づけていた。何故そう思えるのかの理由としては半年前のスキル譲渡が原因である。迷宮の100層が突破であるならばわざわざ呼び出して『隠蔽』のスキルを渡す必要が無いからである。追われる生活であっても愁はしっかりとダンジョンに潜っていた。つまりそのうち愁が100層を突破する可能性がしっかりと存在する。それなのに何故わざわざ他の4人に対して隠蔽のスキルを渡したのか、ただ単に迷宮探索をしてほしいからなのか?そうとは到底思えない。何故そう思えないのか、理由は智也、晴香、聡、美香が追われていた事にある。確かに追われている状態では迷宮の攻略は不可能と言っても良い。しかし問題は何故追われているのかである。半年の間ほぼ毎日追われるような事をあの4人はするとは考えられない。つまりは4人が犯罪を行ったという可能性は有り得ない。では何が原因であるのか、理由としては戦力の拡大が1番に考えられる。自らの国の国土を広くすることが出来たり、相手国からは大量の税金を手に入れることが出来る。つまり戦争に勝つことが出来たら自らの国は非常に潤う事になる。しかし今現在の状態では確実に勝利することが出来ないでいる。そんなところにスキル熟練度Ⅴで高いステータスを持つ者達が冒険者登録を行ったとあれば話は変わってくる。彼らをどうにかして戦争の戦力として利用できないだろうか、そしてそのためには出来ればお金を掛けたくない。このような思いから拉致を考えたのだと思う。つまりこのスキル隠蔽を渡した原因がこの戦争の戦力として利用を避ける事にあるのであれば、迷宮の100層の突破が神と女神の転移の目的でないと証明できる。
「俺は今回の異世界転移に関してはこんな風に考えたが本当のところはどうなんだ?」
「ありゃ~、神~?どうしちゃう~?」
「ふふふっ・・・はぁーっはっはっ!久鳳院愁と言ったか?今まで何人もの適すると思ったやつらを転移させてきたが、ここまで完璧に推理したやつは初めてだ!ふふふ、確かにそうだ。君の仮説は正しいよ。君たちがアイリスに転移していなければ後3年もしないうちに争いが勃発する。そして4年後、3大国に巻き込まれる形でアイリス全域での大戦争に勃発する。そして戦争の開始から14年後には大陸に残るのは1つの国になっている。しかし戦争におけるダメージが深刻な状況で1国では生きていくにはこころもとなさすぎるんだ。そしてそれから1年もしないうちにアイリスは滅亡の一途をたどる。君たちが異世界転移をしなかった場合の未来はこんなところだ。しかし君たちを転移させたことで戦争の開始が大分長引いたよ。そして君が俺達の真意を理解してくれている。つまりこのアイリスの世界はさらに長い間戦争が起きないで済む。これは俺と女神からすると非常に有難いことだ。久鳳院愁よ、感謝する。そしてお前には今後の事も考えて3つの能力を授ける。この3つの能力を上手く使えば戦争は回避できて、もし発生したとしても犠牲を最小限で済ませることが出来るはずだ。1つ目は『ダイアモンドダスト』、2つ目は『飛翔』、3つ目は『眷族召喚魔法』だ」
そう言って神は愁に対して新たに3つの力を渡した。
ダイアモンドダスト。指定範囲内に氷の粒子が舞い、その粒子が付着するとだんだんその場所から凍り付いて行くある種の拷問的な魔法でもある。スキルの発動から死の時間までが最も長く感じる魔法でもあるため、人的被害を最小限で相手国に対して降伏を持ちかける事が可能となる。
飛翔。自らが思い描いた翼を疑翼として具現化させて空を舞う事が出来るようになる。使いこなすまでに慣れが必要ではあるが、戦争が起きた際に敵情視察、戦争を回避するために暗殺等の用途によって戦争を長引かせずに被害を最小限に抑える事が出来る。
眷族召喚魔法。自らが選んだ眷族をいつでも自分の任意の時に召喚する事の出来る魔法。自分のステータスよりも強いモンスターを眷族にすることは出来ず、一度眷族を決めてしまうと二度と変更できないと言う問題点もあるが、それを帳消しに出来る程の利点も存在する。フェアリオン等の聖獣は眷族にすることは出来ない。眷族を突如召喚することによって相手側の精神に対して大打撃を与えた後に強大な力を見せる事によって相手側に対して降伏を促すことが出来る。
「さてと、そろそろ集合時間だな」
神のその言葉を聞いてのんびりしているとちらほらと転移者が集まり始めた。
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次回は明日投稿予定です。




