恋バナをしちゃった?
春桃の父は大金持ちになっただけあり、判断力と行動力が物凄い。
私の意思など関係なく、大事な娘の為に私までも娘の進学先のハナモリヤ女子学園に押し込んでしまえるぐらいだ。
ちなみに、春桃を小学校からこの私立の女子校にしなかったのは、まるきり男の子を知らないせいで異性とのお付き合いに好奇心を持たれたら逆に危険だという、男子高卒の春桃の父の経験に基づいた判断からである。
彼の高校時代は異性への好奇心で一杯だった、らしい。
さて話を戻すが、共学の小学校に入学した春桃は、その可愛さによって男子達のアイドルとなった。
しかし、女子の気の惹き方を知らない男子では、春桃と仲の良い舳宇を攻撃し、私に喧嘩を売ってくるという、ただただ迷惑な存在にしかならないものだ。
春桃が男の子と付き合うどころか男性恐怖症を公言している結果となっているのは、春桃の父の計算通りなのだろう。
「舳宇と一緒で楽しかったの。海宇への裏切りでしょ?」
「考えすぎ。春桃と舳宇はずっと一緒の仲良しだろ?舳宇と一日いっしょぐらい、普通に当たり前だし、舳宇が男だってバレないように君こそ頑張ったんだろ?そういう達成感があるぶん、昨日は楽しかったんじゃない?」
「ちがうの!!海宇といるよりも舳宇と一緒の時の方がしっくりきたの。海宇とはできない乙女な会話がいっぱい出来たの。それっておかしくない?」
「確かに。集めているパンツからして、海宇とモモちゃんは話が合わなそう」
宗近は吹き出しながらも憎まれ口を叩き、無言で気配を消していた兄まで咳払いをして笑いを誤魔化してくれた。
ありがとう、私こそ男性不信になりそうよ。
「確かに私の話は春桃には面白く無かったかもしれない。で、後学のために知りたい。乙女な会話って、例えば?」
「例えば、ええと」
そこで春桃が恥じらったような素振りで口を閉じた。
珍しいと思いながら春桃の泳いだ視線を追えば、兄だ。
先程まで普通にムカつく笑いをしていた癖に、なぜに急に恥じらっている?
「ええと、話題は何だったのかな?」
「だから、海宇をエトマネマネになんか行かせるんじゃ無かったって話よ。生徒会長が凄い素敵なんでしょ!誰でも心惹かれちゃうくらいなんでしょ!!」
「え?」
私は春桃を見つめ直し、それから愕然とした思いを抱きながら舳宇へと視線を動かした。
舳宇は春桃に恋をしていたはず、では?
「舳宇?」
「混乱中なんだ。ごめん」
「いや、私も混乱したわ」
私は大きく溜息を吐くと、しっかりと立ち上がった。
そして、宗近に人差し指を向けてくいっと動かした。
来い、という合図だ。
「ええ、面倒?」
「うっさい、むっちゃん。クリームソーダ作ってやるから来い。冷蔵庫の羊羹も消費しなきゃだし、それら四人分を私一人に運ばせるつもりか?」
「何それ。食い合わせ考えようぜ」
「いいから来いよ。絶交解いてやるからさ」
宗近は目玉をぐるっと回すと、ぴょんと飛び上るように立ち上がる。
そして私の直ぐ隣に立った。
「海宇?僕がやろうか?」
「いや。大丈夫。すぐに戻るから春桃を頼むな」
「あ、羊羹いらないからさ、僕ちゃんも居間に残ってていい?君との絶交は別に、うん、俺の親友は舳宇なもんだし、いいかなって」
私は新たな情報でウキウキしているだけの宗近の胸元を掴み、いいから、と凄んで、そのまま部屋の外へと引っ張った。
おや、意外と抵抗が無い。
その答えは台所ですぐにわかった。
冷蔵庫からソーダを出した私に対し、食器棚からグラスを運んできた宗近が、グラスをテーブルに並べなら何てこと無い風に話題を振って来たのである。
「知ってる?俺のマンションに冬弦サンのお部屋もあったの。あっちも独り暮らしなんだってさ。ハーさんたらね、自分ちみたいに寛いでた。あ、アダモっちゃんは君の命令通りに病院に行ったからいなかった。まるで尻に敷かれた新婚亭主みたいだねってみんなで笑ってたよ」
「わお、楽しかったようで。じゃあさ、今度から宗近もそこに入り浸ったら?」
「いやだね。俺は能渡井家の畳のある家が好きなんだ。それにさ、俺が冬弦サン家に行ったのは、舳宇と冬弦サンの事を探るためだよ。冬弦サンさ、すっごく舳宇に執着してたじゃない?」
「うん。舳宇もそれっぽい事言ってたよね」
「そうね。海宇もアダモっちゃんにはそんな感じだものね」
私はグラスに注ぐソーダをテーブルに零しかけ、た。
しかしソーダが零れるどころか、ペットボトルは宗近の手に渡っている。
そしていまや、彼が私の代りにグラスに注いでいるという状況となった。
「ありがとう。助かった」
「気持悪く無いの?数秒前の出来事が修正されているんだよ?」




