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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ国の本格始動

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救世主

 


 空母の陰で脱出の機会を伺っている戦闘艇に舞い降りた、いや落下してきた人間と猫。

 フェイン王国の兵士達は呆気に取られながらもイングスの姿で思い出した。


「あなたは、フェイン王国を救って下さった時の!」


「……?」


「うえっ……。ふう、イングスにそのような続きを促すようなあいまいな言葉は通じぬぞ。吾輩が国王オルキである。これはイングス、それと防衛大臣のガーミッドだ」


 数歩よたつきながら、オルキが凛とした声で名乗った。船員達はここが間違いなくオルキ国であると分かり安堵したと同時に、オルキも船員達がここに来た理由を知りたがる。


「我が国の船を返しに来てくれたのだろうか。恐らく、レノンの船に防衛を申し出た」


「は、はい、その通りです。フェイン王国の戦艦は全て没収され、長距離を後続できる船も民間の定期連絡船のみでして」


「礼を言おう」


 オルキは戦力としてでなく、船を返しに来てくれた事に礼を言う。この状況が非常に危機的である事を全く認識していない。

 隣ではガーミッドが戦況と撃退の可否を聞き取り、どう対処するかを考えている。ガーミッドは空母の砲台が30mm砲だと聞いて意気込むが、8隻を相手にして勝てるかは別問題だとも分かっていた。


「どうした、3つの砲台で狙えばすぐではないのか」


「発射の照準を合わせ、発射後の熱を下げるのに5分、砲弾の装填に1分、その間に空母が狙われ沈んでしまいます! 実際にもう数発が着弾しておりまして」


「船の上から狙撃できる距離まで近づく事はできませんか。巡洋艇にも武器くらい積んでいるでしょう。空母の甲板に繋いでいる飛行艇を飛ばす事は出来ませんか」


「飛ばそうと動いた瞬間に狙われておしまいですよ、実際に1機は翼を破損させられています」


 空母と巡洋艇で応戦しているが、やはり多勢に無勢。レノン軍は巡洋艇が的にならないよう動き回るだけで精一杯で、攻撃にまで回れていない。


 そのような状況下、フェイン王国も反撃できずにいた。交戦経験の乏しさは勿論あるが、乗って来たのが返しに来た大切なオルキ国の船だからだ。


「よし、乗組員は全員レノンの空母に移れ。すぐ近くに船を着ける、タラップを登れ」


「えっ!?」


「レノンはフェイン王国の護衛に来たのであろう。我が国は我が国が守り抜くべき。ガーミッド、船の操縦は出来ぬと言ったな」


「はい、操縦は習っていません」


「ならばイングスの操縦をしっかりと見て覚えろ」


「は、え?」


「僕はつまり、何をしたらいいのかい」


「この船を操縦し、まずはフェイン王国の者達がレノンの空母に乗り移れるよう、あのタラップの横に船を着けるのだ」


「はーい」


 イングスはすぐに全員を甲板に集め、自身が舵を握った。タラップの横に付けて全員を登らせたなら、次は堂々と船の陰から出て連合軍の船を目指す。


「どうしたらいいのかな」


「無謀です! この戦闘艇の射撃装置は1つしかないんですよ!?」


「1つあるのならさっさと貴様が使わぬか」


「1つでどうしろと!」


 ガーミッドは戦闘艇と言いながら、実際はただの哨戒艇に過ぎない船を不安に感じていた。だが、残念ながらオルキもイングスも船の性能に疎く、それで物事を判断する気もない。


「吾輩とイングスはたった1匹と1人と1体で1つの国を解放したのだぞ。8つの戦艦くらいどうでもないわ」






 * * * * * * * * *





「1隻命中です!」


「弾はあとどれ程ある」


「9発です、全部に当てるのは厳しいかと」


「操舵を覚えたか、進むと曲がると止まるさえ出来れば良かろう」


「そんな簡単に……」


「弾が足りぬ、当たらぬというなら、イングスの投石に任せるほかなかろう!」


「動体視力と反応速度が違いますよ! え、ちょっと、本当に私が……」


 船の性能を最大限に引き出し、敵艦からの砲撃は発射された瞬間に方角を特定。イングスの操舵技術は素晴らしいものだった。

 おかげで堂々とちょこまか動くオルキ国の戦闘艇は、まだ1度たりとも被弾していない。


「吾輩が指示をしてやろう、動体視力とやらについてはイングスに劣らぬぞ」


 フェイン王国から帰って来た船には、レノンの基地で詰み込んだ石がまだ数十と積まれている。イングスは揺れる甲板で振りかぶり、小石でも投げるかのように投石を始める。


 音速など優に超えた石が1キロメータの距離を減速なく飛んで来れば、船がどうなるかは明らかだ。

 例えば隕石が地上に達する際は空気抵抗を考慮しても音速程度あるという。

 それが戦艦に当たった時、ただ凹む、穴が開くくらいの被害で済まないのは言うまでもない。


「当たった」


「こ、こっちも当たりそうです! め、目の前に着弾……」


「当たっておらぬのだから騒ぐでない! 次に備えよ……右に!」


「ひっ」


「当たった」


 被弾したのか、それとも投石が命中したのかさっぱり噛み合わない会話の中、海上には黒煙を上げる船が4隻に達した。


「油を撒き散らすことなくそのまま沈んでくれたらいいが」


「後で空母に頼んでオイルフェンスを設置しましょう。回収後の処理が課題ですが……」


「ならば、1隻を捕えて回収させ、自国に持って帰らせるか」


「当たった」


 イングスの正確な投石がとうとう5つ目の戦艦に命中した。残りは3隻。いつの間にか連合軍の砲撃は止まっていて、イングスの投石を避けようと必死に蛇行を試みている。


「一番大きな戦艦を失ったのは、向こうにとって想定外だったのでしょう。あれはこちらの空母と同じく補給艦の役目を果たしています。予備燃料をどれだけ積んでいるか分かりませんが、恐らく帰れる程は積んでいないかと」


 連合軍の空母は、今まさに緩やかに海中へ飲み込まれようとしている。船首が45度にまで傾いて、もう沈み込むまで数分だろうか。


 小型のボートで避難し無事な戦艦に拾われた者もいるが、早く離れなければ沈没の際の渦に巻き込まれかねない。


「撃ってきたが、これは当たらぬな。イングス、3隻残せ。1隻は奪い、残りのうち1隻はフェイン王国に寄贈だ。連合軍はもう1隻で帰らせる」


「投げそうだった」


「止めて良かったですね……どうしますか、救助しますか」


「相手は降参しておらぬのだろう? 撃って来よって、降参ならば白旗を上げると聞いたが」


 甲板の様子を見ると、砲撃した兵士が引きずり出され、頭を叩かれ蹴られの暴行を受けている。その横では複数名が手を大きく振り、何かを合図していた。


「あれはおかえりなさいかな、いってらっしゃいかな」


「どちらでもなく、降参と停戦を求める合図です。オルキさん、戦意を喪失した相手を攻撃したり見捨てるのは国際法違反となります」


「何だ、向こうから攻めてきて、分が悪くなれば攻撃するな、助けろと言うのか?」


「それが国際的な決まりです、オルキ国も従わなければなりません」


「戦意のない中立国に攻め込んでおいて、そんな言い訳が通用するのか」


 オルキは救助に否定的だ。理不尽だと怒るオルキに対し、ガーミッドは言い返す事が出来ない。


「悪人と同じ事をしたなら、君も悪魔獣だよ。いいのかい」


「やられたらやり返す。ただそれだけの事。覚悟もなく攻撃を仕掛けてくる奴とは違う」


「決まっている事には従わなくちゃいけないよ。決まりに従いたくないなら、決まりを変えるしかないと思うけれど。君が作った法律もそうじゃないのかい」


「……それはそうだの。まあ、救助するかは態度次第だ。行くぞ」


 オルキの号令でフェイン王国の船が連合軍の戦艦に近づいていく。

 その後ろに巡洋艇と空母が続き、空母から浮き輪や小型のボートが降ろされての救助が始まった。



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