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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
オルキ国の本格始動

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入国審査の方法



 * * * * * * * * *




「皆さん、近いうちにまたお会いしましょう」


「長い間有難うございました! みんな、またね!」


「ソフィアさん、アリヤ様、お元気で!」


「国の皆に感謝を伝えてくれ。我が国にとってアイザスはかけがえのない同盟国だ。いずれ定期船や電話も整えよう」


 翌日。国王不在の間を守ってくれたアイザスの者達が帰国する時間となった。

 珍しく水平線まで見渡せる快晴の空の下、1隻の軍艦がヒーゴ島の港から出航しようとしていた。


 途中の補給基地はない。アイザスまで1000km以上の長旅を無事に乗り越えるため、オルキ国はありったけの保存食を提供する。

 その中にはせっかくフェイン王国から贈られた野菜も惜しみなく詰め込まれた。


「レモン味の飴もいいんじゃないか? いっぱいあるし何袋かあげたら」


「そうだな、壊血病になってはまずい、必ず食べてくれ。皆を健康で無事に帰さないと、皆にもアイザスにも合わせる顔がないし、面目が立たない」


「分かりました! 貴重な葉物野菜も味わって食べます」


 2週間ほどですっかり仲良くなった議員や兵士達も、見送る島民も、誰もが名残惜しさを抱えている。

 最後の兵士がタラップを渡り、係留ロープが解かれ島に投げ渡されると、船はゆっくりと岸を離れていく。


「オルキ王! 我々はあなたの姿勢を支持します! いつか正しさを貫く事が困難になった時、あなたを支持する国がある事を忘れないで下さい!」


「礼を言おう! 気を付けて戻られよ!」


「アリヤ様! んでまずごめんね! またアイザスにございね!」


「はい! 皆さんもまた是非オルキ国へお越し下さい! 花が咲く季節にはきっと!」


 船は諸島の間の海に久しぶりのエンジン音と波を立てて遠ざかっていく。とうとう手を振る姿が互いに見えなくなる頃、船は島陰に消え、静寂が戻った。


「……賑やかだった期間、あっという間だったね」


「集落の周りがちょっと整理されたかな、首都や港を示す立て看板も出来てるし、集落まで水路が通ってる」


「ああ。みんな兵士だって言ってもさ、別に戦いたいわけじゃないんだよ。オルキ国から給与が出る訳でもないのに、楽しそうに作業してくれた」


「我が国と国交を結んだ事を後悔させぬよう、アイザスを守ってやれる国にしていかなければならぬの」


 オルキ、イングス、ケヴィン、フューサー、ソフィア、ガーミッド、アリヤ。国外の国民としてニーマン。

 人間5人、魔獣1匹、人形2体。


「にゃーん」


 強いて言えば猫が1匹。


 暫くはこの仲間で凌ぎ、近づいている冬に備えなければならない。


「かなりの武器を譲ってくれた。弾も沢山あるし、1000人や2000人が一気に攻めてこない限りは迎え撃てるくらいの戦いは出来る」


「ジョエル国内の騒動にオルキ国が関わっている事は、既に知られておる。報復は想定しなければならぬな」


「オルキ王、島の位置情報は同盟国以外に伝えているのですか」


「いや、明かしてはおらぬ。アイザス、セイスフランナ、フェイン、レノン、このどこかから漏れなければ到達は難しかろう」


 やみくもに飛んで見つけられる程、オルキ国の発見は簡単ではない。セイスフランナでアリヤの情報が出回った際は、世界で発見されていない最後の島と言われたくらいだ。

 各大陸から飛行艇で探しに来るにしても、目星がついていなければたちまち復路の燃料が尽きてしまう。


「2回目の冬だ、でも大丈夫さ。南西のウグイ島は思った程寒くないさ」


「……ヒーゴ島の北東は?」


「ちょっとクニガ島との間の浅瀬が凍るくらいさ」


 オルキ諸島の西の沖合を流れる暖流のおかげで、ウグイ島の南端付近からクニガ島の西側は氷点下になる事が殆どない。


 ただ、その暖流はウグイ島とクニガ島の位置が災いし、諸島中央の内海まで入って来ない。代わりに北東からの寒流が入り込んで滞留しやすく、凍りにくい海水も浅瀬で凍り付いてしまう。


 ヒーゴ島の内海側にある港や、北東にある首都の集落付近は、冬季のウグイ島やクニガ島西部に比べ、気温が5~10度も低い。


「去年はクニガ島まで歩いて渡れるから楽だなんて思ってたけど、貿易や人の行き来を考えると不凍港が欲しいな」


「飛行艇の滑走路も欲しいね」


「うむ。ただそうなると、霧の発生しやすいウグイ島やヒーゴ島西部は難しいかろう」


「そうね、でもヒーゴ島で平坦な場所に作るとなれば、港のすぐ隣か集落のすぐ近くになっちゃうよね」


「うるさそうですね、昨日の飛行艇だって、結構な音がしましたから」


 オルキ国は、あと1つの国家と国交を結ばなければならないと同時に、国としての発展も目指す必要がある。


 自国だけで全てを賄うのは難しい。機械装置、近代的な技術、島での栽培が難しい米や葉物野菜は輸入に頼る事になるだろう。

 逆に、各島で飽和状態にある牛や羊、獲れすぎる魚介類、特にウグイ島南部のサザエやアワビは大陸で高級品として扱われる。

 牛革も羊の毛も質は良く、その肉もややグラス臭がするものの美味だ。


 石油についてはクニガ島付近で採れる可能性があり、燃料は泥炭、電力は風力や至る所にある滝と川が賄ってくれる。

 他国との距離が尋常ではない以外、自給自足には恵まれた土地。これらをどう活かすかを考える時が来たのだ。


「移住者も募る必要があるな。島長とイングスがいるから勘違いしちゃうけど、実質……」


「にゃーん」


「……子猫もいるとして、人間は5人しかいない。遭難者を待ってじわじわ増やすって方法じゃ10年後に100人にも満たないだろう」


「あ、ケヴィン! レモン味の飴舐めとる!」


「いいじゃん、1人1日1個までだろ? 今日の分を舐めてるだけ」


「おい、ソフィア、ケヴィン、小競り合いは他所でやれよ」


「ノウェイコーストの北西にある小さな島々でも、国家として1万人程度を有していますからね。世界で一番人口が少ないと言われる島国のニーエでも1500人と言われています」


「ニーエは厳密にいえばノウェイコーストの一部ですよね。自治領の1つ上の独立領なので、国としてなら世界で一番人口が少ない国はゴーゼ国南方沖のパスルで、1万人ちょうどですね」


「もしかしてフェイン王国に5万人いるって、結構多いのか?」


「現在、世界には122か国があります。フェイン王国は115番目辺りかと」


「すっくな! そりゃ占領されるわ。そういえば俺、レノンに渡るまで首都のトシャを大都会だと思ってたな」


 戦争によってジョエル連邦やギャロン帝国近隣の国は占領合併され、小さな国が20か国程消えてしまった。細々と暮らしていたならいつ占領されるか分からない。


 オルキとイングス、それにニーマンもいれば善戦は出来る。とはいえ常に1匹と2体が島に留まっている訳でもない。

 攻め込まれないために脅しが効く程度の人口と軍事力、そして経済発展は必須だ。


「やっぱり船をあと数隻、飛行艇を数機は欲しい所だな」


「移民を募るにしても、友好国から引き抜くのは角が立つよな」


「でも、連合軍側から連れてくるとスパイが紛れ込むかもしれない」


 皆の視線がソフィアに向けられる。地図を覗き込んでいたソフィアが視線に気づいて顔を上げ、その意味を察して両手でバツを作る。


「だめ、だめ、だめよ! 駄目っちゃ、あたしが審査したらいいっち思っとるやろ?」


「駄目ですか?」


「もし透視して悪人やなかったとして、その人の秘密とか全部知ってしまったらどんな顔して接したらいいと!? あんま、能力使いたくないんよ」


「まあ、そりゃ、そうだけどさ。学歴や職業や身体能力だけで審査ってのもなあ」


 国の発展に欠かせない人口。せめて数千人にはしたいところだが、どなたもどうぞお越し下さいという訳にはいかない。


 そんな中、イングスがオルキに視線を向ける。


「オルキ、君は悪人が分かるよね」


「うむ、食えば分かるが」


「食ったら駄目じゃねーか」


「美味しそうかどうかも分かるでしょ」


「まあ、そのように感じるだけで、それまでの態度で見極めない限り実際に食うまで分からぬ」


「じゃあやっぱ駄目じゃん」


 オルキも悪人を嗅ぎ分けられるが、食べてしまえば元も子もないどころか、そんな入国審査で誰が移住するだろうか。


「臭いではなくて味なんだね」


「まあ、そうだの」


 イングスは続いてケヴィンに視線を向けた。ケヴィンは飴を口に含んだままきょとんした表情で自分を指さして首を傾げる。


「ケヴィンは飴の味が分かる」


「え? おう。酸っぱいぞ」


「食べてないけど、舐めてるだけで味が分かる」


「あっ、つまりは島長が舐めて審査すれば、悪人かどうかすぐ分かる!」


「いや、それはそれでどうなんだっていうね」

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