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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
解放軍

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解放軍

 



 * * * * * * * * *




「なんだ? おい!」


 オルキ達がそれぞれ4輪駆動車と飛行艇から降りた所で、警備の兵士が複数名駆け寄ってきた。


「我々はオルキ国の者だ」


「フェイン国王とその他全員を返して貰いますね」


 ケヴィンとニーマンが兵士の前に立つ。咄嗟に銃口を向ける兵士達に向かい、レイフがややゆっくりとした口調でけん制した。


「その引き金、指にかけたが最後だと思いなさい。どれ、一度通りの先の飛行場に連絡を取った方がいいだろう。たった5人では必ず負けると理解できる」


「なんだ? こんのじっこ」


「応援さ兵士ばむげねに行くべ」


「……おい、おい! もあもあど煙あがてら! たんだでねえかずだ、もいでら!」


 ホテルの外の状況を気にしていなかったのか、飛行場の方角を見た兵士達は口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。


「あほみたけね、もへ~っとすな! ……うわっ!?」


 遠くで銃声が聞こえる。爆撃音は途切れ途切れだが、戦争が始まって以降この地域では初めて聞く音だ。もしかしたら平和ボケして爆撃音だと認識していなかったのかもしれない。

 花火大会や飛行訓練などと一緒に考えてしまったのか。国内の連合軍はいちいち緊張感がない。


「こ、このうそしさ拘束すてまれ!」


「嘘はついていないよ」


 イングスが穏やかな表情で否定する。兵士達はオルキ国の存在を知らず、目の前の者達が何なのか理解できていない。

 国民であれば銃殺してしまえば一大事。戦争ではやりたい放題でも、自国内での規律は守られていた。

 武力制圧は出来ない。ただし、反乱を企てる者であればとりあえず拘束する事は出来る。


「両手を拘束する、かちゃましぐすでねえ」


「何が嘘なんだい。ねえ、嘘ってどれの事? どうして嘘だと思ったの?」


「な、なんだばこの……」


「子供に詰め寄られてまともな返事が出来ないとは、兵士と言えどよりけりだな。それより飛行場は白旗を上げた。どうだ、飛行場に連絡は取れたか」


 レイフの言葉に、1人が慌てて駆け込んでいく。1分程気まずい時間が流れ、戻って来た兵士の表情は明らかに狼狽していた。


「負けたてさべらって……相手すではまねだ、死ぬびょんって」


「イングスとニーマンの服を見ろ。貴様らが銃や刃物で襲い掛かった跡がしっかり残っておるだろう」


 イングスとニーマンの服はボロボロだ。今どきここまで酷い恰好の浮浪者もいない。兵士がぎょっとしたのは、それだけが理由ではなかった。


「声が、だだば……」


「吾輩の事も聞き及んだ事だろう。申し遅れた、吾輩はオルキ国の王、オルキである」


 イングスの肩に乗っていたオルキがその場で本来の大きさに戻る。5人のうち2人は腰を抜かし、1人は銃を落として放心状態。1人は何の反応か、小刻みに頷き続けている。


「魔獣を見るのは初めてであろう。貴様らの本拠地の全軍で襲いに来れば、もしかすると吾輩が負ける事もあるかもしれぬ。だが吾輩を敵に回すのが得策かどうか、よく考える事だ」


「千数百人の軍人が集まって、たったこれだけの人数を相手に出来なかった。動物達が国を襲った事も無関係かどうか、さあ、どうだろうな」


「ひっ……」


「フェイン国王に会いに行くぞ、何か問題があるか」


「ね、ねえで、す……」


「俺がここに残っていましょう。指示を」


「自由に動き回れるというのに、そんなにも期待のまなざしで命令を求めるでない」


 ニーマンが残念そうに笑い、俺が好きにしていいという事ですねと呟く。兵士達は玄関前で縮こまり、首がもげそうなほど高速で首を横に振っていた。


「さあ、行こうか」





 * * * * * * * * *





「ケヴィン、貴様はフェイン国王に会った事があるか」


「王様に会う? あるわけねえじゃん、庶民だぞ俺は。何度か遠くから見た事はあるけど」


「え、ケヴィンはいつもオルキと会っているでしょ」


「あ、いや、それはそうなんだけど」


 ホテルのフロントでは、両手を上げて降参を示す従業員達に、王家は4階にいると教えられた。

 軍人が敵わないのに警察を呼んだところで意味はない。

 一行はレイフの歩みに合わせ、ゆっくりと階段を上がって4階に辿り着いた。


「ここか。よし……」


「ごめんくださーい」


「おい、イングス!」


 金持ち向けとも言えない、ごくありふれた旅行者向けのホテルは、灰色の廊下の左右に狭い間隔で扉が並んでいる。廊下の床には敷物もなく、木製の扉は重厚そうで隙間だらけ。

 誰も情報を出さなければ、まさかこんな所に他国の王がいるとは考えもしない。


「なに?」


 扉をノックしようとしたケヴィンよりも、イングスの呼びかけの方が早かった。

 付近の扉が開く様子はない。王族がいるとバレないよう、4階のフロアには誰も泊まらせていない。


「相手は王様だぞ、そんな友達の家に遊びに来たみた……」


「さっさと扉をあけろ、悠長にかしこまって訪ねている場合か」


 オルキが扉を爪研ぎのようにひっかく。


「あ、開いた」


「こらーっ!」


 イングスが扉のノブを押し下げると、扉はすんなりと外側に開いた。

 人口が極めて少ないオルキ諸島において、鍵を掛ける、呼びかけた後ずっと待ち続けるという習慣はない。

 少なくとも、誰もイングスには教えていない。

 イングスはヒーゴ島でしていた通り、呼びかけた後で扉を開けただけだ。


 田舎者のイングスが躊躇いなく部屋へと侵入したところで、王様達と目が合う。


「あ、えっ?」


「イングス・クラクスヴィークだよ」


「え、クラクスヴィーク? フェイン王国の?」


 王子と思われる少年が怪訝そうに尋ねる。囚われて以降、庶民の風貌の者と接したのは初めてだったが、それにしても唐突で状況がつかめていない。


「違うよ、僕はオルキ国のものだよ」


「イングス、王様達が混乱するから俺に任せてくれ」


 ケヴィンが前に出て深々と頭を下げる。王様が椅子から立ち上がった所でケヴィンが頭を上げて名乗り、自分達が救出に来たのだと告げた。


「救出……そんな危険な事を、外には軍人が大勢いるというのに」


「大勢いたら駄目なのかい」


「君達が勇敢にもここまで辿り着けた事は素晴らしい。だが、我々が共に逃げようにもすぐ捕まってしまうだろう。もし仮に逃げられたとして、それを知られたなら残してきた国民が……」


「国王。もう心配は要らないのですよ。この方々は、オルキ国の皆さんは、フェイン王国を解放して下さったのです」


 レイフが一番後ろからゆっくりと前に進み、頭を下げながらしっかりと王を見つめる。その瞬間、王の表情が明らかに変わった。


「ニールセン……お前、レイフ・ニールセンか」


「久しいですね、王様」


「まあ、ニールセンなの!? ああ、まさかこんな所で再会できるなんて」


 王妃が小走りに駆け寄り、ニールセンの両手をしっかりと包み込む。王子と王女は会った事がないのか、反応が対照的だ。


「レイフさん、王様と知り合いなんですか」


 レイフは真剣な表情を崩さず、ゆっくりと頷く。


「ああ。まだ戦争が起きる前、フェイン王国の空がまだ自由を与えられていた頃、儂は王家専用機のパイロットだった」


「王家専属のパイロット!?」


 ケヴィンが驚き、レイフが「ヴェゴールのレイフ・ニールセン」と名乗った時の事を思い出した。既に戦争が始まり制空権を失って以降に生まれたケヴィンの世代は知らずとも、レイフはかつて国民的英雄だったのだ。


「そんなお前がここにいるという事は、とうとう連合国はフェインの実力者を捕え始めたのだな」


「違いますよ、救出に来たと言ったでしょう。フェイン王国に駐留していた連合軍は、全員去りました」


「撤退しただと?」


「はい。王様、さあ、国に戻りましょう」


「そんな、本当に戻っていいのか」


「貴様が帰りたいかどうかだ。貴様が貴様の国に戻るのに誰の許可がいるというのか。まーったく、戦いもせず国を明け渡すような真似をするだけの事はある」


 オルキが少しだけ体を大きくし、「吾輩は魔獣である。名前はオルキだ」と名乗った時、王子が通りの先にある飛行場が燃えている事に気付いた。


「ま、魔獣!? 神に並ぶ伝説の、そんな、信じられん」


「信じるも信じぬもどうでも良い。帰るのか、帰らぬのかはっきりせい」


「父! こちらに火が回ってきています!」


 逃げるなら今。逃げなければいずれこの周辺が火に包まれる。迷っている暇も必要もない。フェイン王室の全員が頷き、王に決断を託す。


「状況が分からないが、少なくともここに留まる理由がない事は分かる。案内してくれるか」


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