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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
解放軍

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68/113

白旗



 夜の滑走路で、突如銃撃戦が始まった。軍の基地ではなかったはずだが、この飛行場が無事である事を知り、集まってきたのかもしれない。


 4輪駆動車、砲台、火炎放射器、回転式多銃身型機関銃、かなりの武器が揃っているようで、オルキ達はどこに動いても銃火器に狙われてしまう。


「イングス! ニーマン! 無理はいらぬ、身を保てぬと判断したら退け!」


 イングスもニーマンも体の再生機能が備わっており、ある程度の状態からは元に戻る事ができる。とはいえ、数十、数百の銃弾を一斉に浴び続けたなら再生能力も追いつかなくなるだろう。


 一方、オルキの毛皮は砲弾を除けば殆どを貫通させておらず、その鋭い前足の爪はひと殴りで兵士を瀕死に追い込む。

 砲弾は装填に時間がかかり、連射できない。視界に入れていればオルキの反射神経で避ける事も可能だ。オルキはイングスとニーマンの安全を確保しながら戦う事は可能だと考えた。


 郊外の飛行場から突如始まった激戦が、戦争中ながら静かだった町に非日常の訪れを告げる。その音は遠くのビルに反響し、幾つもの部屋の明かりが一斉に点くのが見えた。


「やってまれ! やぎへでけねばまねな!」


「ニーマン! ケヴィンとレイフを守れ!」


「分かりましたー、イングス、君は大丈夫……ですね」


「敵同士で弾が当たるから、撃ってくるのは前列のほんの少しだもんね」


「数が多くとも後方の兵士が何も出来ぬならおらぬに等しいのう」


 最初のうちは、オルキもイングス達も激しい銃撃の的になっていた。イングスとニーマンの普段着にはいくつも穴が開き、オルキも爆弾に2回ほど顔を顰めた。


 再生能力が間に合わないのではないか、オルキもさすがに疲弊し、猫の姿に戻ってしまえばもう万事休す。コッソリ数名を食べながら長期戦を覚悟しなければならないと思い始めた頃。


 あまりにも兵士の数が多すぎて、流れ弾に倒れる兵士が続出。オルキ達も連合軍も、撃てば撃つ程同士討ちになっている事に気が付いたのだ。


「や、やてまれ! わたくたどやてまれ! わためがすてやてまらい!」


「まねだ! 同士討ちすてまるびょん! んだずごとめっからしかへでらべ?」


「き、きちけて、までに撃て!」


「いぎなりそやてさべでも……あえだきゃ、ろんぱしでやるごとどちがる」


「わためがへってもなぁ」


 砲弾はオルキがひょいと避けたなら、たちまち兵士複数人が被弾することに。銃弾は体に何も詰まっていない人形達を貫通し、その先の兵士の防具を貫く。


 イングスは何も恐れず、ただひたすらに兵士達を殴り飛ばし、投げ飛ばし、捻り上げていく。それは戦闘というよりもはや作業。

 対抗しようにも兵士が銃を撃てば味方が被弾し、腕力では到底かなわない。


 その背後ではオルキが兵士を殴り、踏みつけ、噛みつき、時々ごっくんと飲み込んでいく。


 そのうち連合軍の兵士達はパニックになり、とうとう後方の兵が戦闘を放棄して逃げ始めた。


 応援を呼ぼうにも結局は目の前で対峙している兵士しか攻撃できない。

 自国領内で周囲には民家が建ち並び人口も多い。自国の兵士が大勢で、空からの爆撃は必然的に多くの国民を巻き込む。


 今まで他国の領海、領土で楽勝な戦いしか経験してこなかったため、防衛能力が著しく低い。普段からやっているはずの戦闘訓練も、味方と敵が入り混じった状況を想定していない。


「ま、まねだ! だもつづがねね!」


「逃げるな! んだべばてもっかえやてみれ!」


 ふいに後方で飛行艇のエンジンがかかった。前方及び左右の翼に付いたプロペラが回り出し、周囲に強い風が広がっていく。


 オルキがチラリと飛行艇に目をやれば、運転席にはニーマン。その横にはケヴィンがおり、あれこれと指示を出していた。


 飛行艇は駆け足ほどの速さで前進を始める。その進行方向には大勢の兵士。兵士達はプロペラに巻き込まれ切り刻まれぬよう慌てて進路をあける。


「ふむ、考えたのう」


 オルキとイングスに全てを任せ、隠れているだけでの役立たずではいられない。そう考えたケヴィンの作戦だった。窓からは時折銃声が聞こえる。レイフが撃っているようだ。


「ならば、吾輩は後方を守ってやるかのう。イングス! 続けろ! 飛行艇を狙うものがいれば、特に優先的に攻撃せよ」


「はーい」


 大勢が逃げ出し、兵士達は今更ながらオルキ達を囲み込んだ事を後悔している。

 本当なら、取り囲んだ時点で全員に投降を促し、拘束してはいおわり、のはずだった。

 大勢に囲まれては勝ち目がない。飛行艇など銃弾の的に過ぎない。

 なのにまさか誰1人として怯まず、それどころか堂々と戦い始め被弾も何のその、身一つで戦い始めると思っていなかったのだ。


「ケヴィン、聞こえるか!」


「おう、聞こえる!」


「飛行艇は別に無事でなくともよい、この国の戦闘機を代わりに乗って帰ればよかろう! この調子ならさっさと目当ての場所を目指した方が良いな!」


「んー、俺としては、このままプロペラで威嚇しながら進めるのが一番なんだけど!」


「市街地に出たなら降りても問題なかろう、こやつら、同士討ちを恐れておるし町の中で銃撃戦になれば住民が大勢死ぬ事を分かっているだろうからな」


「りょーかい! んじゃ、悪いけどイングスは4輪駆動車を1台と、銃をありったけ確保してくれ!」


「んー……」


 イングスが珍しく考え込む。といってもオルキに指示された作業は淡々とこなしている。オルキの指示をケヴィンの指示で上書きしてよいのか、判断しようと頑張っているのだ。


 数秒して出した返事は「はーい」だった。

 ただし、その行動はケヴィンの指示に忠実とは言い難い。


 ひたすらに兵士達を殴り飛ばし、投げ飛ばし、捻り上げていくのは相変わらず。遠くから照準を当てようとする砲台には、その辺の複数の兵士をぶん投げる。

 けれど、その途中で手放された銃や火炎放射器、手りゅう弾などをしっかりと拾い上げ、ちゃっかり大き目の鞄まで確保して詰め込んでいく。


 そのまま兵士の波の中に取り残され動けない4輪駆動車の前まで行き、運転手を投げ飛ばして震える兵士を蹴り出し、全く恐れなど見せずに発進させた。

 当然、目の前にいた兵士達は散り散りに。数人は足の甲を轢かれてしまったようだ。


 イングスはとても満足していた。心はないが、人形として求められる事をしっかりとやって遂げた事は確信していた。

 2つの指示を同時にこなせた事、しかもそうしようと決めたのはイングス自身。その表情は状況にそぐわず得意げでもある。


「あの野郎っこ……」


「やめどけ。はんずまってがらなんぼもすねね。この有様さ見でみろ、だもつづがねね」


「み、見逃すんだべ!?」


「おめがやってまるか? 勝てるか?」


「そいだごと……そりゃ」


 飛び立たつには足りない程度の速度で滑走路を走る飛行艇、その後に続く4輪駆動車、それらよりも大きな黒い化け猫。


 まだ1000人程も残っている滑走路の兵士達は、それらをただ見送るだけだ。

 我が身を犠牲にしても歯が立たない。仮に包囲を解いて一斉掃射出来る状況になったとしても、勝てると言い切れない。

 それどころか怒らせてしまい、戻って来て片っ端から殺戮を始める可能性だってある。


 1つだけ幸運だったのは、化け猫軍団が反撃もしくは正当防衛と若干の過剰防衛に徹していた事。このまま白旗を上げて黙って見送れば、町が戦場になる事はないし、自分達は死ななくて済む。


 指揮官らしき身分の男が我に返ったように周囲を見渡し、死者、負傷者、行方不明者の数を知らせるよう指示を出した頃、プロペラ機は爆音のまま市街地の大通りに出て、顰蹙を強制買取しながらとあるホテルの前で停止した。

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