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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
世界とのギャップ

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次に向かうべき国と、アイザスの協力



 オルキは当然のように語るが、壁画の年代は少なくとも4000年以上前と言われている。

 横柄な態度と物言いからかなりの高齢ではないかと思われたが、それでも皆の予想は数十歳、この中では一番年上かもしれない程度。


 まさかの推定年齢4000歳という事になり、皆が口を開けたまま固まっている。

 きっと、これからも長く生きるのだろう。


「……我々がどうあがいても、人間があなたに敵う日は来ないのでしょうね」


 アイザス軍の兵士がぽつりとつぶやく。

 予想外にも、オルキはその感想に頷かなかった。


「貴様が吾輩の脅威になる日は来ぬが、1000年後は分からぬぞ。生き物は寿命が短い程、適応能力も高く生命力も強い。結果的に進化も早い」


「ああ、長寿命の生き物は生涯に残す子孫の数が少なく、環境に適応するための世代交代が上手くいかないと聞いた事があります」


「1000年後には、あなたに対抗できるほどに進化するかもしれないという事ですか」


「可能性の話ではそうであろうよ」


 オルキは自身の優位性を否定しない。けれども、人間の可能性を否定する事もしなかった。オルキは人間を統べたいと考えているが、下等で劣った生き物を飼いならしても面白くない。

 人間が賢く優秀であればあるほど、世界を統治する甲斐があると考えていた。


「人間って、生き物の中では比較的長く生きる方だよね」


「……魔獣よりははるかに短いから問題ないだろ」


「イングスは?」


 ふとソフィアがイングスに目を向けた。


「例えば機械や家、道具、その全てがいつかは朽ちるよね。実際に遺跡からは当時の面影しか残っとらん発掘品が出てくる。イングスは……いつまでこうやって動けると?」


 その問いはオルキに向けられ、またイングスにも伝わるもの。

 オルキはイングスがどのような仕組みで動いているのか知らないし、イングスもまた、自身がどのようにして存在しているのかを知らない。


「僕がいつ壊れるのかは分からないよ」


「生き物じゃなくて人形なのは本当なんよね? 体の中身、骨格こそあるけどほんと何もないけん、人間とは違うのは明らかなんやけど」


「神に問わねば分からぬな。だが、吾輩が必要とする限り、存在し続けてもらわなくては困る」


「僕は君がいなくちゃ困るけれどね」


「そうだな。吾輩がいつでもどこでも必要としてやろう。そうでなければ誰があの忌々しいドアノブとやらを回すのだ」


「ぶっ、島長、アイザスのホテルで部屋から出られなかった事をまだ気にしとると?」


「うるさい。つるつると滑る金属をどうやって左右に捻ろというのだ」


 オルキなりの照れ隠しが、オルキの人間味を帯びたエピソードに成り代わる。


 国民と言ってもたった5人だが、全員がオルキを認めはしても、過度に賞賛しない。オルキも傲慢ではあるものの、国民の声にはしっかりと耳を傾ける。

 そして何より、曲がった事、とりわけ不誠実な事が大嫌いな性格。


 外交において、これだけ分かり易く、信頼のおける国は他にないだろう。セイスフランナも誠実な国ではあるが、国防に関しては心許なく、征服され不本意に方針を変える可能性はある。


 オルキ国は、それがない。地理的に簡単には攻め込めない事もあるが、何より屈するという考えを持っていない。


「……オルキ国王、私達は本当に良い時期にあなたに巡り合えました。アイザスは世界でも人口が少ない方で、あなた方の力になるにはとても足りない国です。ですが、この国が困った時、必ず協力いたします」


「吾輩に誓いを立てるか。良いだろう、オルキ国もアイザスの危機には駆け付けよう。その時は何でも言いつけよ、全て実行しよう」


 セイスフランナと交易をするなら春まで待つことになるだろう。国際会議までの半年で、残り3か国と国交を結ばなければならない。


 どこと国交を結べばよいのか。皆がしばし考え込む。


「あたしはギタンギュに行こうっち言いたいところなんやけど、国の偉い人に伝手とかないんよね」


「どこに行くにも遠いのが悩みですね。次に近い国となるとレノン共和国でしょうか」


「レノンにはアイザスから連絡を入れましょう」


「とても助かる。ならばレノンに行くか。ケヴィン、フューサー、2人共頼めるな」


 半年などあっという間。行ったところで国交を結べるかどうかは分からないのだから、今は頼れる国を頼り、出来るだけ多くと顔を合わせる必要がある。

 オルキは迷わず行く事を決めた。


「俺とフューサーか、まあレノンの兵士だったからなあ」


「俺達の他にも船に乗っていた生き残りがいるかもしれない。いないとしたら、船がどうなったかを報告するべきか」


「問題は誰が残るか、ですね。私も出来る事なら連合軍の兵器や当時の方針などをレノンに報告したいのですが」


「それならあたし残るよ? 現実問題、島長とイングスがおらん時に攻め込まれたら、抵抗して何とかなるもんでもないけん、誰が残っても一緒」


 ソフィアは留守番すると決め、みんな行ってらっしゃいと笑う。


「ふむ、まあ、そうとも言えるが……」


「誰もおらんけんっち、勝手に他の国が占領したら困るやろ」


「そうだな。ならばアリヤ、そなたも残った方が良いだろう」


「わ、私ですか? い、一応セイスフランナの王女としての立場が使えると思うのですが」


 国交の樹立に関して、アリヤは鍵となる存在だ。だが、オルキはアリヤを連れて行くべきではないと主張する。


「アイザスは友好的であった。レノンも和平軍の味方として歓迎してくれるだろう。だが連合軍の侵攻が激化しておる中で、王女に何かがあればセイスフランナが黙ってはおれぬ」


「……ただでさえ連合軍に狙われているのに、アリヤまで巻き込まれたら必ず参戦するよな」


「ああ、争う意思の有無に関係なく、吾輩が愚かなる舞台に引きずり出す事になってしまう」


 アリヤはセイスフランナから移住したとはいえ、まだセイスフランナの者でもある。王女を危険な目に遭わせたなら、セイスフランナの民が黙っていない。


「……残った方が良いのならそうしましょう」


「女2人で残して俺達みんな出払うってのもどうなんだ」


「俺は残ってもいいぞ? まだ冬の準備は終わってないし、レノンが故郷ってわけでもない。俺とケヴィンの2人とも行く必要はないだろ」


「いやいや、それなら今度はお前が行けよ、俺はアイザスに行ったんだし」


「私が残りますよ? それこそ、私はレノンと何も関係ありませんし」


 フューサーとガーミッドは、次も留守番でいいと言い出す。そうなると向かうのはオルキとイングス、ケヴィンだけになってしまう。


「ガーミッドさんは行った方がいいんじゃないかな。連合軍の情報を提供するって言えば交渉に使えそうだし。船の操縦はできるんじゃないのか」


「船の操縦は出来ません。私は義勇兵扱いで、いわば捨て駒です。要となる仕事は与えられていませんでしたから」


「じゃあ今度はフューサーが行って来いよ、外の世界見てきたいだろ」


 人口が少なすぎるがゆえに、誰が行くべきかを決められない。そんな様子を見たアイザス軍人がスッと間に割って入った。


「これは私の独断でありますが、一時的にアイザス軍が島に駐留するのはどうでしょう」


「え?」


「国際協力、というやつです。もちろん皆さん全員が出て行ってしまうとややこしくなりますが、1、2か月の駐留であれば国に帰って叱られる程度で済むかと」


 国を空ける間の心配があるならと、軍人が協力を申し出た。総務大臣は頭を抱えるも、自身が訪島メンバーに選ばれた理由に気付く。


「ああ、そういう事だったのね……大統領はここまで先を読んでいたのかも。総務大臣は非常時、派兵を指示できる立場にいるのです」


「移住や海外旅行に制限が付くアイザス国民の中で、唯一海外に駐在出来るのが政治家と軍人です。総務大臣の命令があれば、ですが」


「防衛大臣じゃないんですか?」


「防衛大臣は防衛以外の派兵は出来ません」


「ドイル大統領が大臣を推薦したのは、これが理由だったってことだべな……」


 軍人が6名、女性議員が1名残ってくれる事になり、オルキは安心して旅立つ事ができると感謝を告げる。


「なあ島長」


 フューサーが島長に耳打ちをする。オルキは一瞬だけ顔を顰めたが、少し唸った後で「分かった」とだけ返事をした。


「どうした?」


「後で分かるさ。という事でお前が行け、ケヴィン。イングス、島長とケヴィンを頼んだぞ」


「はーい」


 アイザスから帰った当日。早くも次に向かう国が決まった。




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