表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
神に迫る異端者へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/131

インガ・エリクソン

 




 * * * * * * * * *





「驚いたぜ、イングスが全員の靴のサイズ把握してんだからさ」


「ほう、どのようにして判断したのか」


「全部の足を見たから分かる」


「見たのを思い出して、他の物と比較して割り出したんだと」


「ほう、便利だな、イングスよ」


「そうなんだね」


 ケヴィンとイングスは全員の服を調達し、急いで小川の畔まで戻った。服についてはケヴィンがそれっぽいサイズの服を手あたり次第買ってきたため、サイズが合ってない者もいた。


 コートを着ている者、厚手のセーターを着ている者、ズボンはスキニーだったりゆったりしていたり。

 だが、靴だけは皆の足にしっかり合ったサイズになっている。


 今までのイングスなら、靴を買えと言われたならサイズや見た目など関係なく、靴であるかないかで判断しただろう。

 けれど、ケヴィンが人形全員分の靴を持ってこいと伝えただけで、全員の足のサイズに合うものを持ってきた。もちろんファッションセンスなどなく、デザインも種類もバラバラ。

 それらを全部スニーカーに変更するだけで、サイズを悩まず済んだのはイングスのおかげだ。


「伯父さん、慌ただしいけどまた来るから」


「国を出た時は頼りないクソガキだったのに、もうすっかり国の為に動く立派な若者だな」


「いい国なんだよ。だから俺達が守らないと」


 騒動を聞きつけて集まった人々の理由を話せば、かつて人形が現れた事件を思い出し恐怖で数歩下がった。

 墓からかつての伝説の「死体」が蘇った事を受け入れられない者もいて、死者を蘇らせたとして禁忌だ許されない行為だとヒステリーを起こす者もいる始末。

 どんなに目の前に明らかな事実を突きつけられようと、残念ながら受け入れる能力には差がある。


 住人同士で宥め合い、もしくは諫め合いが始まり、誰かが手を出せば暴動が起こりそうな雰囲気になってしまう。その中心部で、1人の女が叫んだ。


「かつて連合軍を追い返してくれたのは誰か、その恩人の言う事を聞く気にもならないのか!」


 オルキ、イングス、ケヴィンの3人組は、前回クラクスヴィークを解放した際のメンバーだ。どんなに覚えの悪い者でもそれはしっかり理解していた。

 その場の騒めきが収まった所で、女はイングス達の目の前に出た。


「あれ、あんた……見た事あるような」


「ほう、なぜ貴様がここにいる」


「連合軍として駐屯し、あの解放騒動で仲間を売り渡した私は、撤退のその瞬間まで仲間から距離を取られていました。ハンナ上等兵曹がそう指示を出しましたから。そんな私にルダ氏が手を貸してくれたのです」


「あっ、あの時最後まで逃げてた女兵士の事を教えてくれた人か!」


「はい。インガ・エリクソンです」


 女は片側だけに松葉杖をつき、丁寧に頭を下げた。


「私は国に帰ったら裁きを受ける事になったでしょう。敵国に投降しただけでなく、協力したのですから」


「ふう。ま、連合軍として駐留していた時の態度も行為も許してはおらんがな。最後までヒトデナシであった馬鹿共よりはマシだと判断した。人として正しい事をした者が救われなければ、人は一度間違えた後、正しい方向へ戻る気持ちを失うだろう」


 厳罰主義、1度の過ちでも決して許さない姿勢のオルキと、フェイン王国という穏やかで優しいお国柄で育ったルダはやはり違うようだ。


「オルキ王も、当時インガの協力には結局礼を言ったではないですか」


「吾輩も考え方を改めたのだよ。オルキ国には連合軍にいた者も複数名移住している。人間は本当に変わる事が出来るのか、それを確かめるためにもな」


「コホン……私の事は良いでしょう。とにかく、かつて連合軍であった私でもオルキ王の言う事を信じる状況。死者を蘇らせた? まさかこの国を救ったイングスさんの存在を疑っているのですか」


 立場的にはフェイン人よりも弱いはず。だがインガは毅然とした態度で主張をし、その意見がまた強過ぎるために誰も反論しない。


「伝説として語られた事件の真相が今判明しただけです。皆さん人形に驚きますけど、連合軍の内部では機械兵作戦の構想もあったのですよ。人に似せた機械人形を投入する事で自軍の人的被害を抑えるのです」


「その作戦については吾輩も一部把握しておる。どうだ、貴様もオルキ国に来ないか」


 やはり機械人形の開発は事実だった。そう確信した事で、オルキはインガにもオルキ国民になる気がないかを訪ねた。誠実で嘘に惑わされない人間は大歓迎だ。

 しかし、インガは首を横に振り、フェイン王国に残ると宣言する。


「ルダ氏に恩を返さなければなりません。私は今、ルダ氏の後を継ぐ人形技師となるべく修行中です」


「……そうか。貴様がいるならこの町は大丈夫であろうよ。正しき民はどの国にも多ければ多い程良い」


「伝説の真相を確かめる事が出来るなんて、現在を生きている者達は幸運だと、そう思いませんか」


 インガが目を伏せながら問いかけ、不安や恐怖を訴えていた者達も落ち着きを取り戻してそう感がるとそうだと思い直す。イングスという人形を既に知っているのだから、今更他にも人形があったとして何も不思議はない。


 なぜ人形達が今の今までずっと墓の中に入っていたのか。その真相を聞いた者達は拍子抜けし、同時に笑いも起こった。

 人間であると信じて疑わないのだから、明らかに動きを止めた見知らぬ誰かの「死体」に対して命令などしない。数百年前のその時、もし誰かが命令をしていたなら、きっとフェインの未来は変わっていたのにと冗談を言う者もいる。


 伝説が本当だったところから感心している者も、人形が複数体現存する事を驚く者も、この町では概ね好意的に受け取られつつある。

 かつてのルダの悲劇が頭をよぎっても、全部の人形がそうではない事を説明され、納得したようだ。


「では、我らは首都に行かねばならぬ。墓に埋まっていたのなら誰のものでもないが、フェイン王国に合った物に違いはない。人形の持ち出しについて許しを乞わねば」


 ケヴィンが車に乗り、オルキはイングスの肩に乗る。その後を23体の人形達が規律正しく続いて歩く。

 颯爽と現れ、唖然とする暇もなく去っていく一向に、クラクスヴィークの人々はまるで夢でも見ていたかのように顔を見合わせ、しばらくしてそれぞれの生活へと戻っていく。


「そう言えば、オルキ歓迎とか、そんな言葉を掛ける暇もなかったな」


「だ、大丈夫かしら、失礼はなかった……よね?」


 住民達が心配を口にする中、ルダはインガに対し「これで良かったのか」と尋ねる。

 インガは当然と言うように頷き、ルダの歩調に合わせ歩く。

 松葉杖を手にしてはいるが、その歩みは何の問題も感じられない。


「これで良かったのです。私は戦いに身を置き、そして間違いました。その間違いをまた繰り返すべきではないですから」


「間違いは内容次第で正し、償い、挽回する事も出来る。オルキ王もその可能性を言っておっただろう」


「そうですね。しかし、私はもう戦いに身を置きません。いえ、この町の防衛については尽力しますが、自分から戦場に行くつもりはないのです」


「そうか。ま、お前さんはイングスと違い、ジャムの瓶の蓋も開けられんからな」


「私は力強さを備えた個体ではありませんから」


「己の事をオルキ王に明かさなくていいのか」


「はい。私が明かさずとも、オルキ王がギャロン帝国で実際に人形兵と対峙する時、私と同じ見た目の個体をいくつも見る事になるでしょう」


 インガは人形だった。

 ルダはそれに気づき、またインガもそれを明かした。イングスがいなかったなら、ルダはインガを息子の仇として火炙りにした事だろう。


 しかし、ルダはインガのどこか「捕まって良かった」と思っているかのような態度から、インガを認める事にした。そして、撤退する連合軍の中からインガだけを救い出した。


「私は神に捨てられたイングスさんとは違い、私の意思で神を見捨てました。私が神を捨てたのです」


 そう語ったインガを傍に置く事で、息子の死ともう一度向き合い、怒りを原動力に生きていた日々を終わらせる事ができるのではないかと考えた。


「……オルキ王、世界はきっと変わる。さあインガ。オルキ王を手伝おうではないか。神を信じない者を増やすなら、俺達が適任だ」


「はい、師匠。人間もゼロ神を捨てるべきです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ