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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-ようこそ、ここは魔獣の国。最後の秘境、そして最初の楽園。  作者: 桜良 壽ノ丞
神に迫る異端者へ

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目覚めし神の遺産

 


 墓を掘り起こす。

 常識がある者であれば、そんな冒涜を許さないし、発言もしない。


 ただ、人としての感覚を持ち合わせていないイングスは違った。

 分からなければ実際に人形かどうかを確かめたらいいだけと、とても簡単な問題として考えていた。

 物理的に無理な事は1つもない。人間はそれを手段として考えもしていなかっただけの事だ。


「掘り起こす……そんな罰当たりな事、いくら神を信仰していないとしても別問題だ」


「あるものを掘り返す事が何故駄目なのか」


「島長、そういうのは故人の冒涜になるんだ。死者には一定の敬意を払うというのが前提になる」


「僕が掘り起こすのは人形だよ」


「でも、いったんは人として埋葬されたんだ。だから墓を掘り起こすという行為になる。ただ、これを確認させてもらえるかどうかが重要になるんだ。おじさん、その墓地はどこにある?」


 墓を掘り起こしに行くと知り、ルダはしばらく悩んでいた。

 神に恨みはあるが、故人の尊厳まで冒涜するのは違うのではないかという葛藤のせいだ。


「伯父さん、神が本当に今もギャロンで何かをしようとしているなら、昔の事件が本当に神のせいだったなら、この世界は変わらなくちゃいけないんだ」


「……もし掘り起こして、本当に亡くなった人間であったらどうする。どう言い訳する。許されるとは思えない」


「掘り起こす理由を伝えて、もし人間だったら謝ればよかろう。掘り起こす意図を伝え、決して故人の眠りを妨げる意図ではないと説明すれば理解はするはずだ」


「誰が許すのかい」


「それは亡くなった故人や、世の人々だ」


「死んだ人に許すか許さないかを聞けるのかい」


「死して墓を暴かれたい者なんかいないんだ、人形であってもその感覚が持っていて欲しい。墓暴きは許されないんだよ」


「誰か死んだ後に墓を掘り起こされて怒ったのかい」


「……」


「許されなくちゃいけないのかい」


 イングスの問いは純粋無垢で、それでいてとても真っすぐだ。非人間的、非人道的でも、人形にとってはだから何? としか思わない。

 許すか許さないかを、今いない人間が決めて良いのか。埋葬されている本人から聞いたのか。

 それはルダにも分からない。


「貴様が掘り起こせとは言わぬ、吾輩とイングスで確認する」


「掘らなければ誰も何も言わないよね」


「掘らない?」


「うん」


「……分かった、墓地の管理者に話をしよう」


 ルダは根負けし、イングス達を墓地へと案内するため外套と帽子を手に取った。





 * * * * * * * * *





「墓地を、掘り起こさせてくれだと?」


「俺の息子を殺った人形を覚えているか。あれと同じ物が埋められているかもしれんのだ」


「何だって? あの殺人人形が?」


 ルダの息子の悲劇は、多くの者が知っている。墓守は考え込み、そういう事情ならやむを得ないとして許可を出した。

 元々、どこの誰かも分からず遺族の了解を取るものでもない。墓守が許可をすればそれで終わりだ。

 イングス達は墓守の案内を受け、当時の遺体を埋めたという一角に通された。


「この辺りだ」


 数百年も前の身元不明の死体だからか、特に管理が行き届いている訳でもなく、もう半分は芝に覆われていた。

 墓地と言われなければ分からないくらいに荒廃しているのは、どこの誰かもわからないため誰も墓参りに来ないという事だろう。墓地の囲いの外に、低く半分以上が土に埋まった部分があり、そこが当時の墓地だという。


「どの辺りかはもう分からないが、何か所か掘り返せば分かるだろう」


「掘らなくても分かるよ」


 イングスはそう言って墓地の中心に立つと、大きな声で土の中に呼びかけた。


「人形、君達が役に立つ時だよ。起き上がって僕の言う事を聞くんだよ」


 イングスがそう言った暫く後。


「起き上がれって、まさか土の中から起き上が……」


 呼びかけて1分も経っていない頃から、数か所の土がボコボコと盛り上がり始めた。

 1メータ以上掘って埋められているはずで、少々暴れたくらいで地面が動く事はない。


「あ、見ろ、あれ!」


 ある1か所でとうとう地面から1本の手がにょきっと出て来た。それに続いて幾つもの場所で同様に手が土を突き破って続々と現れる。

 その様子を見た墓守もルダも、まるで恐怖劇のような状況に腰を抜かし、その場に座り込んでいる。


「こ、怖っ……これ、マジで人形って事か」


 1体の人形がついに顔を出した。両手で地面を押して体を抜き、ついに土の上に立つ。

 その服はさすがにボロボロで、破れた布切れが体に引っかかっている程度の状態になっている。しかし、そこに立つ人形の本体は土まみれでかび臭いが、それほど外傷も見られない。

 土の中で横たわったまま、乞われもせずじっと誰かに呼びかけられ、指示されるのを待っていたのだ。


 目の前に立ったのは、イングスやニーマンと同じ歳か、前後2,3歳以内の見た目をした男女23体。

 どの個体もニーマンのように肌も髪も色素が薄い。

 伝説ではもっと多いように書かれていたが、案外少ない。

 数百年前には住民数百人だったクラクスヴィークで、その10分の1にも届きそうな人数が流れ着いたなら、誇張して伝わるのも仕方がなかったのかもしれない。


「君達がここに埋められた時、まだ他にも人形があったかい」


「他にはありません」


 イングスの問いかけに、1体の人形が返事をした。やはりこれで全てとの事、そして当時の人形が全部活動できる状態で残されていたという事になる。


「君達はオルキ国で役割が与えられる」


「御意に」


 イングスと会話をしたのは、最初に地上に現れた1体だ。23体の人形は気温5度の中、寒々しい景色の中で痛々しくも見えるが、何を気にしている様子もない。

 イングスとの少ない言葉のやり取りでは、どこまで何が伝わっているのかも分からない。

 ただ、命令がなければ動かない姿勢はイングスやニーマンの頃と一緒であり、興味本位で動いて人間を傷付ける事はなさそうだ。


「オルキの言う事も良く聞くんだよ。オルキが認めた人間と人形の言う事もよく聞くんだ」


「御意に」


「オルキ、これからどうすればいいのかな」


 イングスが主体的に出来るのはこの辺りが限界だろう。イングスの後を引き継いだオルキは、イングスの肩に乗って人形に語り掛けていく。


「吾輩はオルキ国の王、オルキである。皆は吾輩の国に連れて行く。何百年も指示命令を受ける事が出来なかった貴様らも、ついに役に立てる時が来た」


「はい」


「フェイン王国に事情は伝える。場合によっては数体をフェイン王国に置く可能性もあるが、貴様らは所属する国の民を守り、所属する国と協力関係にある国の民を守り、国のため働くのだ」


「はい」


 イングスだけでなく、オルキの指示にも従っている。生憎乗って来た車に全員で乗る事は出来ないため、ここからの移動は徒歩だ。そうなるとどうにも目立ってしまう。

 特にこのボロ布を纏ったような服と、土だらけカビだらけの見た目では、どんな勘違いをされるか分からない。


 死者が蘇ったなどと噂されてしまえば、今後の倫理観、秩序、命に対する価値観を変えかねない。


「墓守、これらは連れて行く。良いか」


「よ、良いかと問われても……」


「ルダよ、この人形の所有権はどうなる」


「わ、分からん、役所に聞いても無駄だろうから、国に尋ねなければ」


「ならばこれから首都のトシャに行かなければならぬな。行くぞ」


 オルキの号令で人形達が近寄り、イングスに続いて歩き始める。こんな状態のまま歩かせたら、前述のような懸念がそのまま実現しかねない。


「ちょっと待った! とりあえず体を洗って、ちゃんとした服に着替えねえとまずいって」


「オルキは人形を食べないよ」


「いや、その不味いじゃなくてさ。汚れを落として綺麗な服に着替えさせようぜ」


「ふむ、それもそうだな。ではイングス、ケヴィン、金を渡そう。服を買って来てくれ」


「はーい」


「体はどうすんだ?」


「そこに川がある」


「ひっ……冬の清流に浸かるなんて、人間じゃ考えられねえよ」


 オルキが23体を川に連れて行き、イングスとオルキは町の服屋へと走る。


「どう、なんているんだ?」


「俺も頭が追いつかん。だが、世界が変わろうとしている事は分かる。そして神の野郎の野望を阻止できるのは、あいつらだけだという事もなんとなく理解出来た」


 呆然と立ち尽くす老人2人だけが残され、墓地には静けさが戻った。


 だがて裸同然の人間が冬の川で水浴びをしていると、当然ながら大騒ぎになってしまう。

 ルダと墓守は大慌てで現場に向かい、説明をする羽目になってしまった。

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