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【オルキ国】ー神に捨てられた魔獣と孤島開拓-  作者: 桜良 壽ノ丞
発展の妨げとなる者たち

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交戦

 


 * * * * * * * * *




「空から撃ちよるのちゃきいっち思わん!? 降りて正々堂々戦えちゃ!」


「ソフィアちゃん、ごめん何言ってるか分からないわ」


「はがいいけん、飛行艇降りて戦えっち言いよると!」


「……ん? ごめん、やっぱり分からないわ」


「もう弾のセットはいい! 港との通信行ってくれ!」


「おらばんでも聞こえとる! ドルガさん、後は任せたわ」



 オルキ諸島は攻撃を受け、防戦の真っ只中にあった。

 曇り空の下、機銃掃射の音が鳴り響き、せっかく耕した畑の土が吹き飛ぶ。


 皆が武器を持ち、砲台を操作し、必死に抵抗を見せてはいるが、飛行艇は家々を撃ち壊し、爆撃で燃やしてしまう。前回連合軍はレノンの戦艦を攻めにやってきたのであって、オルキ諸島にはほぼ被害がなかった。

 だが今回の目標は明らかにオルキ国。小さな島を3隻の戦艦と複数の飛行艇が襲う様子は、蹂躙と呼ぶに相応しい様相だ。


 国民は落ち着いていて、戦艦のスピーカーから流れる降伏要求に応じる様子もない。家は破壊されてもまだ諦めてはいなかった。


「あれ、どっちの戦闘艇?」


「オルキ国のだと思います、やっと飛んだんですね」


「港、準備できたみたい!」


「よし、抵抗は終わり、反撃だ! 砲台全員用意! ……撃て!」


 オルキ国の内海から、1機の飛行艇が飛び立った。短い甲板からフルスロットル、綺麗に空へと発進した機体が真っすぐに連合軍艦隊へと向かっていく。

 それを追って出航したのはオルキ国の大型戦闘艇。


「ケヴィン! 行け―! ねえ、ケヴィン以外に誰が乗っとると?」


「え、分かりません……ガーミッドさんはそこにいるし、アドバン君は砲台に行ったし」


「先生とミニーちゃんと、あと7人くらい行ったと思います!」


 連合軍の飛行艇は、オルキ国側から飛行艇が飛び立った事に驚き、爆撃と機銃掃射の手が止まっていた。

 その隙に砲撃が集中攻撃を浴びせた。

 連合軍側の1機が火だるまとなり、黒い煙を軌跡として海面に激突し姿を消した。


 その間にオルキ国の南部に配置されていた砲台10基が一斉に沖合の戦艦めがけて射撃を開始する。


 たかが小国の武器と侮る事なかれ。全て連合軍の座礁した戦艦から取り外された艦砲だ。

 127mm艦砲の射程距離は実に30km。海上で揺れる戦艦の砲台より、よほど正確に命中させられる。


「2機目が落ちた! 戦艦へのダメージは!」


「気にしてられるか! 来るぞ!」


 攻めていられるばかりではない。戦艦からの砲撃もあり、1撃が飛んでくる毎に地面が揺れ、島の崖の淵が抉れる。伏せろという怒声の後、砲台の1つが台座ごと吹き飛んだ。


「大丈夫ですか! あくまでも時間稼ぎです、皆さんが命を落とせばオルキさんがこの世界を滅ぼしかねません!」


「だ、大丈夫すね、ケガはないす」


「もう少し、もう少しだけ時間を稼げたら……」


「イングス達、どうなった!?」


「見ろ、突っ込むぞ!」


 オルキ国側から飛び立った飛行艇には、イングス達が乗っている。その飛行艇が躊躇いなく空母艦の艦橋に突っ込んだ。


「よし、やった!」


 戦闘機1機を躊躇いなくミサイル代わりに使用する豪快さ。勿論これは墜落ではなく作戦。

 衝突の直前、2人の人物が飛行艇から飛び降りて敵空母の甲板に着地した。


「さてイングス、とにかく連合軍の船を破壊して、1人も逃がさない事を心掛けましょう」


「僕に心はないから掛けられないね」


「そうでした、そういえば君も人形でしたね。では、1人も逃がさない事」


「はーい」


 甲板に降り立った2人が、ものの数秒で破壊活動を始めた。降り注いだ艦橋の瓦礫を武器とし、片手に分厚い鋼鈑、もう片手に剝き出しの長い山形鋼を持って全てを殴り始める。


「う、撃て、撃て!」


「そえだばまねだ! 見ろあのわらはんど、船ばぶかしてむせつらして歩いでらじゃ」


「もじらいねふただでば、もへらっとたづな! ばがこの、もわんかぴっとさなが! 行ぐぞ!」


「ニーマン、君は全員死に者にするといい。僕はあっちの戦艦を壊してくる」


「そうですか。では俺が投げ飛ばしますから」


「はーい」


 イングスともう1名はニーマンだった。フェイン王国にいたはずの彼だが、定期船に乗り、オルキ達と行き違いになる形で島にやってきたのだ。


 そこから1日と間を空けずに戦闘開始。くたびれた事のないニーマンは嫌事1つ言わず、むしろ率先して戦術を敷き、こうして今は最前線に出ている。


 ニーマンの怪力がイングスを数百メータ離れた別の艦へと投げ飛ばした。

 戦艦は慌ててイングスに照準を当てようとするも、ミサイルを打ち落とす程の腕がなければ掠りもしない。


「ひ、人が降って来た!」


「人じゃないよ」


 手ぶらで跳んできた普段着の青年を前に、集まった連合軍の兵士達は銃を構えて様子を伺う。


「君達は何をしに来たんだい」


「あ?」


 ズシム語で喋る青年に伝わるようにと、兵士達の背後から偉そうな男が現れてイングスの問いに答えた。


「つい先月だったか。我々の戦艦がずいぶんとやられてしまってね」


「そうなんだね。それで、僕は何をしに来たのかを聞いたのだけれど」


「……聞けばオルキ国が殆どの艦を沈めたというじゃないか」


「そうなんだね。僕は何をしに来たのかを聞いたのだけれど、お喋りは僕以外の人間とすればいいよ」


 察するなどという素振りも見せず、穏やかで、しかし今にも牙を剥きだしそうな表情のイングスを前に、兵士達は只者ではないと気付いた。


 オルキ国には単身戦艦に乗り込んで、大勢の兵士が何をしても敵わないバケモノのような少年がいるという。


 その噂の人物が今、目の前にいると察したのだ。


「……チッ、国王と行動していると聞いたから、てっきり護衛か側近だと思っていたのに。まさか島に残っていたとは誤算だった」


 男が忌々しそうにイングスを睨み、至近距離で自動小銃を構える。

 その引き金に掛けた手が僅か震えた瞬間、イングスはもう男の手首を掴んでいた。


「答える気がないのなら、僕はただ排除するだけ」


 イングスの言葉でようやく兵士達がハッと我に返り、一斉にイングスへと銃を構えた。

 その間にイングスは男を海へと投げ飛ばし、もう2、3人を放り投げた所だった。


「う、うわああああ!」


 人間が安全に着水出来る高さは、せいぜい7,8m。少なくともそれ以上の高さがある甲板から、不安定な姿勢で投げ落とされたなら脊椎や頸椎の損傷、内臓の破裂もあり得る。


 つまり、無事では済まないという事。


 イングスは動作を止めることなく次から次へと兵士を海へと投げ飛ばしていく。

 逃げ回る兵士をワイヤーロープで転倒させ、手すりをもぎ取って振り回し砲身を歪ませ、それに気付かず射撃を試みた艦砲がことごとく筒発で自爆。


 お次は救命ボートを片っ端から叩き壊しにかかり、乗員数百名に対し、既に無事なものは僅か数隻。


 とうとうイングスを撃ち殺そうとする者が現れ、銃弾の嵐が襲う中でもイングスは止まらなかった。

 引きちぎった扉を盾に、片腕には腰を抜かした兵士を抱え、突進を繰り返す。


「な、なのほうずさ行った!」


「ま、まねじゃ! もうどうもなね!」


「はい」


 イングスは機会を伺おうと構える兵士達に、ポケットから出したものを放り投げる。


「なんだんず? ば、爆弾!」


「ば、ばかでねな!?」


 それは数個の手榴弾だった。兵士達は散り散りに逃げて無事だったものの、どんな威力をしているのか甲板の一部が吹き飛び、その下にあった配線に引火し火災が発生してしまった。


「これでちゃんと逃げられなくなったね」


 イングスは兵士達を手にかけずとももう全員「ちゃんと」助からないと判断し、次は艦橋へと向かった。

 らせん状の階段のステージから狙撃されても扉を盾にして防ぎ、引きずりまわしていた捕虜を高く掲げ攻撃の手を止めさせる。

 鍵をかけていた環境の扉を難なく破壊したイングスは、扉と捕虜、2つの盾で攻撃を制止し、とうとう操舵室に辿り着いた。


「ごめんください」


 行動に全く合わない穏やかな呼びかけと共に、操舵室の扉が吹き飛んだ。

 その扉が操舵室の機器に当たってしまい、艦内には緊急事態のアナウンスが響き始める。


「……」


「君達は、何をしに来たんだい」


 イングスの問いかけに、白いキャップを被り白い制服を来た男が1歩前に出て口を開く。


「……先に、君の事を聞こう」


「僕はイングス・クラクスヴィークだよ」


 イングスは特に躊躇う事なく答えた。問われたなら名乗るのが礼儀。そう教えられたからだ。


「オルキ国の者か」


「そうだね」


「君は、何をしに来たのか」


「君たち次第だよ。君達は何をしに来たんだい」


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