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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
沖縄本島編 第二章 花火大会 〜Her fate and destiny〜
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花火大会と美枝の夢

 エレナたちと合流し、再びハヤトたちは海に来ていた。辺りは多くの人で賑わい、一割くらいが浴衣姿でこれから始まることを今か今かと待ちわびている。その海岸沿いの街には屋台が立ち並び、この来客の多さに託つけて一気に儲けようと様々な店が声を張り上げて食べ物を売り込んでいる。しかしどんなに声を張り上げてもそれをかき消してしまうほどの賑わいで、遠くからだと何か大きな声をあげているようにしか聞こえなかった。


 しかしそれらの屋台には心惹きつけるものが数多く並んでいる。食欲を唆る焼きそばやたこ焼き、かき氷、ラムネを始め、あらゆる沖縄産の品々を使った料理が店頭に並んでいるのだ。中には国際色豊かな屋台も並んでバリエーションが多い。


 どれもこれも魅惑的で美味しそうな匂いを漂わせ、歩いているだけで涎が溢れてくる。今すぐにでも何かを買いたい衝動に駆られて、財布の紐が緩んでしまわないかと不安になってしまった。

そのくらい楽しい雰囲気がそこにはあるのである。


「わあっ!美味しそう!お母さんっ!買っても良い!?」


「自分の財布と相談してね」


 花楓はこの雰囲気に呑まれているのか、色んな出店を物色しながらはしゃぎ回っている。本当に楽しそうに。


「やったーっ!ミリアお姉ちゃん、一緒に行こう?」


「With pleasure!どこ行こうか?」


「わたがし食べたい!あ、でも夕食の後の方がいいかなぁ?」


 楽しそうに浴衣姿の花楓とミリア、そして母が人混みの向こうに消えてゆく。花火大会が終わったら連絡を取り合うようにするから完全に(はぐ)れるということもないだろう。


「ほら、ハルカ。私たちは買うもの買ったら浜辺行きますよ?」


「ええ?もっとゆっくり行こうよ!というかなに買ったの、それ?」


「普通にお酒ですが?」


「いいなあっ!私の誕生日なんて半年後だって言うのにっ!」


「別に人間じゃないんですから飲めばいいじゃないですか。なんでそんな律儀なんですか?」


 ソフィアとハルカも浴衣着姿で歩いて行ってしまった。ケンカして骨を文字通り折り合う関係でもあるはずなのに、いつも二人でいることが多い。なんとも不思議な関係に見える。

それに今ハルカが少しおとなしいのも少し違和感があった。いつもならこの辺りを駆け回って問題を起こしそうなものなのに。

まあ、浴衣着ているせいだとは思うけれども。


「エレナはどこ行きたい?」


 ハヤトは隣を歩くエレナにそう問う。


「え、えっと……あっ!」


 問いかけられたエレナは、しかし慌てたように目を逸して何かを思い出したかのように声を上げた。


「そう言えばさっ!美枝っ!ハヤトに話があるんだよね!?」


 突然エレナは振り返って美枝に声を掛けた。それに美枝は最初吃驚したような顔をしたが、何かを悟ったのかどこか納得したみたいな表情を浮かべる。


「うん。ハヤト。ちょっといい?」


「え?あ、ああ……」


 そしてエレナはというとエヴェリンに声を掛けていた。


「エリー姉さん。なにしたい?」


「……。…あれ」


「射的?うわっ、あのネコのぬいぐるみ可愛いね!」


「…うん。他のも欲しい」


 エレナとエヴェリンは射的場に行くらしい。


 花火に間に合うのだろうか?

 というか僕、エレナに避けられてないか、これ?

 なにかしたっけ?

 う〜ん……。

 ……避けられるって、辛いな。


 考えてみても思い当たるものがさっぱりない。それに本当に避けられているとしたら立ち直れそうにないので、今は考えることをやめた。


 なので美枝と共に歩くことにする。


「花火って何時だっけ?」


 隣を歩く美枝がそう呟いた。ハヤトは端末の時間表示を見て返す。


「あと10分くらいかな?」


 そして少し離れたところから今度は健二の声が聞こえてきた。


「おーいっ!美枝!ハヤト!先行ってるからな!早く来いよ!?」


「え?」


 ハヤトはそれに少し戸惑う。このまま少し物色しつつ健二とかも一緒に花火大会の会場である浜辺に一緒に行くものだと思っていたからだ。しかし実際は、健二は彼の家族と一緒に先に行ってしまうらしい。それに美枝も特に気にした風もないことからこうなることを健二と話していたのかもしれない。


 何事だ?


「わかったーっ!すぐ行くから!」


 美枝も手を大きく振りつつ返事を返す。そしてハヤトに向き直った。


「ちょっとハヤトの時間貰っていい?」


「ん?なんだよ急に」


「まあまあ、ここうるさいし、話しづらいから向こう行こう?」


 急に何だとも思ったが、確かにここは五月蝿(うるさ)い。それだけ賑わっているということだが、話をするには周りの音が多すぎた。


 2人は歩を進めて祭りの中心部から離れていく。そして屋台とかがなく、祭りの賑わいからは少し離れた閑散とした場所にやってきた。ここは浜辺から離れたところにある駐車場の片隅。もうすぐ花火が始まるからもう満車状態である。出ていくヒトもいないから今来たばかりと思われる人たち以外誰もいない。


 そして半歩先を歩いていた美枝が不意に振り返った。


「ねえ、ハヤト。大事な話があるんだけど」


「大事な話?」


 突然の言葉にハヤトは困惑する。美枝とは親友だ。だから思ったことを(はばか)りなくお喋りして話してきた。なのにこんなにも改まって言われるとどうにも違和感しかない。

一体大事な話とは、なんだろうか?


 彼女はその事実を笑みと共に述べた。


「実は、私――」


 次の言葉にハヤトは驚愕した。


「――留学するの」


「え?そうなのか?」


 それは初耳だった。確かに美枝は勉強はとても出来て、英会話も普通に熟すことができる。でも海外に出るなんて本当に初めて聞いた。


「どこに行くんだ?」


「ええっとね。アメリカのバージニア州?だったかな?交換留学ってやつだよ」


 バージニア州。確か日本のように四季が存在し、温暖で自然豊かな暮らしやすいアメリカの州だったはずだ。そしてアメリカの中心地であり、国防総省本庁舎(ペンタゴン)中央情報局(ラングレー)などが有名なはず。さらにはアメリカの首都であるワシントンコロンビア特別区(DC)に隣接し、日本企業が数多く進出している場所でもある。他にも世界最長のビーチや世界最大の海軍基地であるノーフォーク海軍基地が存在する、いわゆる都会な州だ。


 そんなアメリカの重要な州にある高校に美枝が留学するなんて。

 なんだか、実感が湧かない。

 学校に行けば必ず合わせていた顔を、留学の間ほとんど見ることが叶わないのか。


 そして交換留学という言葉も学校ではチラッと聞いたことがある。それは向こうの入学時期に合わせるから――。


「ということは来月に?」


「そう。準備もあるからね。そしてとりあえず10ヶ月行ってきます!」


 美枝はおどけたように下手な敬礼をして見せた。それを見て思わずハヤトは笑ってしまった。続いて美枝も吹き出す。しかしハヤトの中で寂しさが募っていた。


 そして笑い終わってハヤトは改めて問うた。


「でも、どうして留学するんだ?大学に入ってからでも行けるのに」


 ああ、と美枝は呟いて。


「私、外国の大学に行こうと思ってるの。だからその準備みたいやつだよ」


「マジで?何学ぶんだ?」


「う〜ん。まだそれはハッキリしてないんだどね。でも今は海外に行って色んなことを学んで、いつか世界の教育水準を上げられる礎になりたい。そしたら経済的な格差もいつかなくなって、少しでも平和な世の中に出来たらなぁって思うんだ。……ちょっと欲張りだね」


 その時美枝が語ってくれた内容は知識では知っていたものだった。しかしそれをどうにかしようとする彼女の夢に感慨を覚える。それはハヤトが今までやろうとも考えてこなかったことだったから。それを為すために礎になるという美枝が眩しく見えてしまった。


 今世界には、発展途上国、先進国問わずとても貧しい人々がいて、しかし上級階級に超金持ちの人々がいるという格差社会が出来てしまっていると言う。そしてその貧困層の暮らしは日本では考えられない水準で多くの人々がそんな地域に暮らしている。


 例えば6時間も時間を掛けて水を汲みに歩いたり、生きるために身体を売ったり、常に物を略奪するような生活をしたり、そもそも文字を読めも書けもしなかったりするヒトたちが普通にいる。衣食住なんてない方が常識で、そんな暮らしをしている人間の親は賭博などで子供が儲けた金を賭け事に使ったりもする。


 ここまではハヤトでも知っている世界の貧困だ。むしろ度々日本のテレビでも問題視されるため誰でも知ってはいる。


 だが、ハヤトが美枝を尊敬したのはそこらにあるような勤労奉仕(ヴォランティア)なんて比でもない覚悟を彼女から感じ取ったからだった。


 よく知られる勤労奉仕(ヴォランティア)には、学校を作ったり、畑や井戸を作ったり、土地を豊かにするために緑化政策などで苗木が植えられたりする。あるいはほんのひと時でも苦しいことは忘れて楽しい時間を過ごしてほしいということで皆でダンスを踊ったり、美味しい食べ物を持って行ったり、寄付を募ってお金を送金することだってある。


 だが、現実は国内外で常識が違うということによって裏切られる。


 どういうことか。


 学校を作った。しかし実際に学校に通えるだけの最低水準の生活を営んでいる子供など少ない。大抵は出稼ぎに出ているし、なんなら国境を超えて隣国に親と出稼ぎに言っている子供だっている。


 さらに私立学校ともなればその運用資金を集めるだけでも大変で、募金やクラウドファンディングは長続きしない。建物を造ったはいいがリターンは少なく廃墟と化すこともある。公立とは違って国が管理をしないからだ。


 そしてそんな廃墟には教員も、造った外国人もいない。先生がいなくなれば生徒だって来ることはない。


 外国人がいなくなれば机や文房具、果ては建物の資材、石細工、鉄筋の鉄が略奪されて見るも無残な廃墟だけが残る。下手すると支柱さえもなくなってただの更地に、ということもある。全ては明日を生きる金を稼ぐために、それらを売るために全てを剥ぎ取っていくのである。


 村に畑や井戸を作った。

だが、それはたった一箇所か数箇所程度。周りには同じように貧困で苦しむ人間がおり、嫉妬心から盗みを行ったり荒らしたりして来たりすることが自然と増える。それを止めようとした村人が立ち向かって村同士の殺し合いにまで発展。その様相はまさに戦争。後に残るのは荒廃した村である。


 もしくは専門業者が調べなかったばかりにヒ素による中毒を村人に引き起こされることも過去にはあった。水質を調べないことはあまりにも無責任であったが、それがただの善意で起きたことも事実。

もし現地の人間が安全管理について多少の知識があれば、杜撰な工事を見て悲劇を回避できたかもしれない。


 緑化政策で砂漠に木の苗を植えた。

次の日同じ場所に行ってみるとそこには何もない。ただ広がるばかりの砂漠地帯。現地のヒトに何があったのかと聞けば全て薪にしたという。考える力を鍛えてこないと未来の利益なんて考えず、目の前の利益に飛びつく。そうして自主的な緑化政策は決して行われない。


 ひと時でも楽しい時間を体験できるように支援団という形でダンスや食べ物を振る舞いに行く。

しかしそんなことは何度も実施されたことであり、酷い時はその時支援団の国で流行した曲とダンスを知らずうちに複数の支援団が何度も披露することになる。


 するとどうなるか。現地の人達はまた来たという思いで、支援団に()()()()()()()()、支援団の人々を()()()()()()()()御国に()()()()()()。一時だけでも貧困を忘れさせてあげられたと満足するのは勝手な思い込みをした支援団の人間だけ。気づいた時には立場が逆になっている。


 貧困層の子どもたちのために、教育のために寄付でお金を送金する。

実はお金が届いているのは家を持ち、衣服を持ち、ちゃんと食べていけるだけのお金を持った子どもたちの許である。なぜならば、本当の貧困層ではそれを未来の投資なんかに使わない。全て博打で全て擦って消えてなくなるからだ。そんなことで消える金なら使い熟せる人間に届けるのは普通の発想であり、逆にその寄付制度を利用して富豪が寄付金を受け取って巨額の資金でさらに懐を温めるなんてことも珍しくない。


 古着を貧困で苦しんでいる人間が多い国に送る。着るものさえないと思い込み、善意でやっていることに他ならない。しかしその実服は有り余っていて古着の4割が捨てられており、地面に埋める手段が取られている。環境破壊にもなるし、コストもかかる。更には古着であるために無料で手に入ってしまうために、それを現地では数円で売っているのだから現地の衣服産業は衰退していく一方。


 しかし古着を輸出しなければ先進国で衣服の需要が減り、失業者が出てしまうなんてこともあるためにこれはなかなかに難しい問題になっている。すべては国力差による先進国の押しつけが原因。更に辿れば発展途上国の国力を生み出す人的資源の不足がこの問題の根幹にある。


 それが現実。人種差別的思想などではない。

主に日本人が無視している、理想などないと突きつけてくる、本当の不条理である。現実が押し付けてくる変わらぬ世界だ。

自分たちの常識で図ろうとすることは愚かな行為であり、中途半端な同情はただの偽善に過ぎない。


 だが、解決法がないわけではない。その一つを達成するため、美枝はその一生を捧げようというのである。一般人には到底不可能な、強い覚悟がなければ決してできないこと。


 それは教育。


 そもそもの問題、なぜ貧困層の人間が争ったり、未来への投資を考えようとしなかったり、疑問を疑問にも思わないのか。教育を受けた頭でっかちの人間にはわからないだろう。簡単な話なのに。教育を受けた自分たちの考える力は教育によって造られたものだから。考える力を育成したために貧困層の人々を理解できないし、本当の意味で支援ができない。


 常識が異なるから。


 ならば、本当に意味で支援するためならば常識を同じにしなければならない。未来を柔軟に考えられる思考を鍛えさせなければならない。それを美枝はやろうとしている。


「まあ、常識を押し付けるなんて勝手すぎるかもだけど、それで人が救われるなら絶対そっちの方がいいじゃない?」


 そう言って美枝は微笑んだ。


 教育を行き渡らせれば彼らは自分で解決して国を変えていくかもしれない。実際、フィリピンなどには自らの人生を捧げて国自体を変えていこうとしている人達もいて、美枝は彼らに憧れたのだという。だから彼女は勉学を積んだ後は世界のどこかの地域で人生の大半を費やして未来を切り開く人材を養うべく教育をし続ける。一時的ではダメなのだ。また争いが起きるから。


 しかし問題は人間一世代では達成されないということだ。それこそ平和的手段を取るならば100年、200年の歳月を掛けて国を良くしたいと思う人間を増やすしかない。つまり美枝は本当に文字通りの礎となるべく海外を目指すのである。


 それを聞いたハヤトはどこか胸に響くものがあった。

 そして、痴がましいとは思いつつも感動を覚える。

 胸が熱くなる何かを覚えた。


「すごいな。美枝は世界に向き合ってるんだな」


「そんな大袈裟なことじゃないよ。ただ私は誰かのために、世の中のために人生を謳歌したいだけ。まあ、自己満足っていったらそれまでだけど」


「そんなことない。それが凄いんじゃないか」


 世の中にはどうしようもないくらいに自分勝手な人間や、金に釣られて人間性を捨てる人間だっている。寧ろそれが世界の基準。見ず知らずの誰かを助けようなんて酔狂な人間は本当に少ない。そして美枝はそんな、未来に希望を見出そうとしている数少ない人だった。


「頑張れよ」


「うんっ!頑張るよ」


 もしかしたらこれから美枝に会う機会はほとんどなくなるかもしれない。下手すれば何年も何十年も逢えない期間が続く可能だってある。それも美枝が世界のどこかの地で暮らすようになれば、それこそ逢えなくなるだろう。応援したい気持ちで一杯だが、それでもとても寂しい。


 いっそのことこっちから逢いに行こう。

 もちろん、迷惑にならないように。


「……それで、さ。ハヤト」


「ん?」


「ええっと……ハヤトにここに来てもらった理由。もう一つあるの」

 美枝の夢は壮大で、でもまだ――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


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