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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 第四章 破壊神 〜She can never forgive them〜
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悔恨と声援

 エヴェリンはずっと閉じていた目をゆっくりと開いた。辺りは混沌。キラキラ輝くマナリウムはまるで悪魔の火のような、硫黄の燃え立つ火のような毒々しいものに見えてしまう。事実彼女にとってここは、この世界は地獄(ゲヘナ)だった。


 今までは涙で歪むこの景色を見たくなくて、これ以上周りをを壊したくなくて、それでも自ら命を絶つことが怖くて、本能は生きることを諦めてくれなくて、どうすることも出来ない自分に嫌気をさしながらも強く目を瞑っていたのだ。

実際、彼女は必至で自分を抑え込もうとしてそのイメージが具現化されていた。具体的には卵の殻のような形をしたマナリウムが彼女の周りを覆ってしまっている。


 目を瞑っていれば目に映ったものを壊すことはない。最初はそうだった。だけど最早それすらも意味を為さない程に辺りは荒れ果ててしまっている。目を閉じていようが、開けていようがどちらも変わらない状態になってしまっていた。


 身体の8割がもう結晶によってズタズタになっている。(コア)が無事なのが不思議なくらいに。しかしあと少しで心臓も止まり、血管は全て塞がって、この命の灯火は消える。自分という存在がこのマナリウムによって細切れにされ、喰われ、消える。マナリウムに吸収されない骨格なども脳が消える前に元の形がわからないほどに破壊しつくされるだろう。


 つまり、この世から文字通り消える。


 ああ。

 なんて、惨めな人生だったんだろう。

 何も出来なかった。

 何も成し遂げられなかった。

 ただ自分の寿命を縮めて、たくさんの人を殺して、色んな人を傷つけて……。

 そんなことをして、この世界は変わっただろうか。

 変わったはずがない。

 何をしても何も変わらなかった。


 まるで海の水をバケツで掬い上げても海自体に変化がないように、何も変わらずにこの世界は巡る。


 エヴェリンは胸に痛みをずっと覚えていた。ずっとずっと今まで生きてきて消えることのなかった痛み。そしてそれが悲しいという感情だと理性では分かっている。けれど、命を奪った自分がそんな感情を覚えるのはあまりにも(おこ)がましくて、自分が許せない……っ!


 私はいちゃいけなかった。

 生まれちゃいけなかった。

 ほんとに無意味。

 わたしは、なんて醜いんだ。


 諦観を覚えながら、エヴェリンはその時を待つ。結晶は幻想的に煌めきながらも残酷にエヴェリンとその周りの世界を破壊していく。卵の殻から伸びた結晶の刃が次々に彼女に突き刺さり、手足を切断し、身体に根を張る。そして最後に見る景色が最悪なものだと想いながらエヴェリンは願った。


 消えたい、と。もうこれ以上誰も傷つけたくないと。

もう限界だった。


 しかし突如彼女の思考が別のものへと変わった。視界に今までとは違うものが映ったのである。誰かが視界に入ったのだ。ずっと遠くだけど科学魔法の影響が届いてしまうその距離に。簡単に壊れるその場所に。


「…っ!…だ、め……」


 しかし現実は非情だった。彼女はそのヒトを殺したくないと願った。だけどそれと同時に彼女は無意識に思ってしまう。自分がそのヒトをこの力で殺してしまうと。絶対嫌なのに、必ず起きてしまうと確信めいた想像をしてしまう。


 そしてマナリウムはエヴェリンの想像を忠実に具現化するようにそのヒトを襲った。一部はそれを阻むように立ち振る舞うが、それでも届いてしまう。

制御不能な、圧倒的なこの力が必ず殺すと信じてしまっているから。望むものも望まないものも全てが非情に実現される。


「…ぃや……っ」


 エヴェリンは強く目を瞑った。そして強く願った。


 殺したくないっ!

 現実なんか見たくないっ!

 こんなことあってほしくないっ!


 その時だった。


「エリーっ!諦めるなぁっ!今助けるからぁっ!」


 思わず目を開けてしまった。そしてその人物をその浅黄色の瞳で捉えて、エヴェリンはそれが誰かを認識する。驚いて目が見開いた。


 声を張り上げた彼女は自身に襲いかかる大量のマナリウムをギリギリのところでどうにか制御しながら避け続けている。時には倉庫の壁を駆け上がるようにして上り、超人的な身体能力で宙返りや側転、バク転を決めていく。まるで華麗なダンスを踊るようにして、いくつもの複雑な魔法陣をドレスのように着飾って。


 燃えるような紅い髪を止めていた緑の組紐が解けて髪が花が咲くように広がった。しかし彼女はその組紐を宙で拾い上げるほどの余裕を残したまま機動的な急駛(きゅうし)を続けていく。


 本当に美しい。


 そんなことができるのはエヴェリンが知る限り一人だけ。そう、ハルカである。彼女はエヴェリンが想像してしまうそのマナリウムの動きを持てる力全てを使って捻じ曲げている。しかし【プロトタイプ】に抗えるのはその原理上僅かでしかない。だから必死で身体全体を使ってマナリウムの間隙を縫うようにして避け続けているのだ。少しでもミスをすれば彼女でも死ぬというのに。


 そしてその超人的なことを敢行しながらも彼女は必死に叫んでいる。


「あと少しだからっ!がんばれぇっ!」


 それを聞いたエヴェリンはさらに悲しくなった。だって、こんな自分にそんな命がけなことをしてほしくない。もう助からないのに、どうしてそんな無駄なことをするのか理解できない。

何も出来なかったこんな価値のない自分に何をしているんだ。そんな感情が湧き上がってくる。


 こんなことで死んでほしくないっ!

 こんなことになるから関係を持ちたくなかった。

 きっと間違えたのだ。

 あの時家に帰らなければ――。

 いや、あの時、横浜駅で歌わなければ――。

 ううん。

 もっと以前から家族と本当に絶縁していれば――。

 6年前のあの日に全てを捨てていれば――。

 殺さずにすんだのに……っ!


「エリー姉さぁんっ!がんばれぇーっ!がんばれぇーっ!」


 また声が聞こえた。今度は違う声。けれど聞き覚えのある家族の声。ずっと先、エレナがこの敷地の外の車の上に立って叫んでいる。彼女の性格からはこんな大胆なことをするなんて予想だにしなかった。けれど、ここからでも見えるその白銀の髪は確かにエレナのものだった。


 いや、それだけじゃない。沢山のヒトがこちらに向かって叫んでいるのが見える。それらは全て声援だった。


「がんばれぇっ!エリーさーんっ!」


「リーダーッ!帰ってきてくださいっ!俺達にはあんたが必要なんだぁっ!」


「諦めるなぁっ!頑張れぇっ!」


「がんばれぇーっ!」


「がんばれぇーっ!」


「がんばれぇーっ!」


 彼らはエヴェリンの部下たちだ。いや、もしかしたらここにいるコンコルディアのメンバー全員かもしれない。


 彼らには科学魔法の力は届かない。いや、まだ届いていないと言った方が正しい。マナリウムがエヴェリンの無意識を具現化すべく、彼らに向かっていく。しかし必ずハルカが彼女の視界に入ってマナリウムを誘導していた。だからエレナたちにはまだマナリウムが届かない。幸運にもまた誰かが死ぬなんてことは起きていない。


 また、涙が溢れた。そしてなぜ、と思う。


 ただわたしは大切な家族を守るために、彼女を見つけ出すために、自分の勝手な願いのために、この組織を作ったのに。

 彼らを使い潰すように命令したこともあったし、彼らの過ごすはずだった日常を奪ったことも見方によっては事実なのに。

 見ず知らずのヒトの命すらも奪ってしまったのに。

 そこまでしても世界は何も変わらなかったというのにっ!

 どうしてそんなにわたしを呼ぶの?

 どうして、わたしにそんな言葉を掛けてくれるの?

 わからない

 わからないっ!

 わかりたくないっ!

 あなた達が求めるほどわたしは善人じゃない!

 ただの偽善者なんだよ……。


 とうとう視界が暗くなっていく。目の機能すらも結晶で損なわれつつあるのだ。耳も遠くなってきた。肌で感じるものもなくなっていく。五感全てが薄れて、消えていく。そろそろ終わりのようだった。命の灯火は今ここで――。


 しかし不意に何かが降ってきた気がした。

 悔やむ少女は救われるのか――?


 本日も本小説をお読みくださりありがとうございます。


 ゲヘナという言葉を使いましたが、これは地獄と同義語として扱われる言葉で、ヨハネの黙示録では火と硫黄の池なのかな?兎に角救われることのない罪人の永遠の滅びの場所なのだとか。聖書的にはきっと審判の日にも復活できず、救われない者が行く場所なのかな?間違っていたらすみません。


 感想、評価、質問、お待ちしております。ブックマークもぜひ!またまた〜。

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