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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 序章 未来の世界 〜Distopia 〜
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友人たちとの朝

 昔は日常茶飯事だったという満員電車を彷彿させるギュウギュウ詰めのバスをなんとか乗り継ぎ、ハヤトが通う『横浜珀蓮高等学校』の最寄りのバス停に着いたのは8時28分だった。ここから教室まで約3分。


 蝉の大合唱を鬱陶しく感じながら木漏れ日の下を駆けていく。すると真新しい円筒形の校舎が見えてきた。未だに築二年。四階建ての建物だ。


 学校の制度も単位制を採用しており、クラスの教養科目以外は別々の教室に向かわなければならない。そのため半大学制度なんて最近では呼ばれることもある。


そんな普通の高校がハヤトの通う高校だ。


「……っ」


 ほぼ無人の校庭を横切り、校舎に入って誰もいない廊下を駆ける。右手を望めば中庭の花壇に色とりどりの花々が咲いていた。しかしここから見てもこの暑さで花が萎れているのがよく見える。


 四つある階段の内、一番近いところを昇って上の階に踊り出る。そして円形の廊下を半周駆け抜けて勢い良く教室に飛び込んだ。


 一気にクーラーの利いた心地よい冷気が全身を包み込む。汗で濡れた特殊繊維製の制服がみるみるうちに乾いていく。さっきまでのジメジメした不快感が嘘のように消えていった。


 天国だ。


 大袈裟だが、思わずそう思ってしまった。


 息を整えながら時計を見る。《アサヒ》の予想通り8時31分だった。


いつもこれには感心してしまう。今までも彼女のナビが間違えたことはほとんど無い。かなり優秀なやつだ。


 しかし学校内での個人端末の使用は禁止されているため、ハヤトは《アサヒ》に感謝の言葉を伝えて電源を切った。


 それから窓際の使い慣れた席に着く。その場所は日差しが照りつけていたために熱くなっていた。


なので窓枠に設置されたボタンを数回押す。そうすれば絵の具を水面に薄く広げるようにガラスが黒く染まっていった。そして最終的に全く日差しが気にならない程度まで陽光が弱くなる。


 これなら授業にも集中できるだろう。

自分の席というものはないので別の場所でも良かったのだが、ハヤトはこの一番後ろの席が気に入っていた。


「おっす、ハヤト。また遅刻ギリギリだな」


 肩を叩かれ振り返ると、金に髪を染めた如何にもチャラそうな少年、岡村健二(けんじ)がそこにいた。そのまま彼はハヤトの隣の席に座る。


「おっす」


 健二はハヤトの数少ない親友で、幼稚園児の時からの付き合い()()()()


明るい性格でルックスだけなら女子に人気がある彼を簡潔に説明するなら『正義感の強いバカ』だろうか。


この間なんて不良っぽい外国人に絡まれてた老人を助けて揉め事を起こしている。今でも頬の絆創膏が外せないでいるのはそのせいだったり。


それだけ彼が他人思いであるということの証左だろう。


「そう言えば、なんでお前は遅刻してないんだ?」


「は? なんのことだよ?」


「いや、今朝ずっと電車動いてないだろ?」


健二はいつもギリギリで登校することが多い。だから遅刻して当たり前と思っていたのだが、不思議なことにハヤトより早く来ている。


 最初のうちはなんのことか本当に分かっていないようで健二は首を傾げていたが、すぐに思い当たったらしく何故か自慢げに白い歯を見せてきた。


「俺の家からは何の問題もなく行けるんだぜ。いつものバスも横浜駅辺り通らないしな」


「マジか。……羨ましい」


 ハヤトは今日いつもより料金が3倍高いルートで来たというのに。


しかも定期券とか全く無いから実質600円以上の損失だ。バイトも何もしていない高校生からしたらかなり損した気分である。だって昼食1回分だ。下手すると2食分にもなる。本当に羨ましい限りである。


 乗り継ぎとかも確かに存在するから定期券を見せれば良いのだが、バスは計画だけで頓挫していて未だにない。そもそも急いでいてそんなものは頭になかった。


 今更考えても仕方がないか。


「間に合ったろ? 良かったじゃないか」


『ハヤトさん。私を褒めても良いんですよ?』


「まあ、そうだけど。それにさっき感謝しただろう? ……ん? な……っ!?」


 視線をパネル型の机に向けてハヤトは絶句した。そりゃぁ、もう驚いた。なぜならそこに《アサヒ》の姿が映し出されていたのだから。


 普通、学校の機材というものはある程度セキュリティが施されているものだ。それは個人情報を漏らさないため、言ってしまえば学校側がもしもの時に訴えられたくないためにお金が掛かっても必死にやっておきたい保険なのである。


 しかも最近は学校の機材もデジタル化が進んでセキュリティは昔と比べものにならないくらい強固なものになっている。仮に端末からデータを送信しようにも先生がパスワードを入力しない限り普通は無効にされる。


 つまり、ちょっとやそっとではそのセキュリティを掻い潜ることなど出来ない。ましてやそこらの接続していないはずの端末一つでは。

なのに――。


「なんでお前がそこにいんだよ!? セキュリティどうした!?」


 思わず大きな声を出してしまってクラス中から注目を受けるが、そんなことなど知った風でもなく《アサヒ》は腕を組んで話し出した。


『そんなに驚くことですか? いつもやってるでしょ? ハヤトさんのパソコン起動して』


「いやいやいや、おかしいだろ! どういう理屈だ!?」


 時々彼女が何者なのか不思議に思うことがある。他とはかけ離れた感情表現、未だに人工知能(AI)が色々と問題を抱える会話を適切にエレガントに熟し、クラッキングに関しては端末一つでは考えられないスペックを持つ。


その演算能力は一体どこから得ているというのか。


「お、《アサヒ》じゃん。毎日忙しそうだな」


『はい! おはようございます、健二さん。今朝もハヤトさん起こすの大変だったんですよぉ。そうだ!

健二さんも 言ってやってください。毎日毎日ハヤトさん目覚めがホント悪くて困ってるんです!』


「そうだな。お前は遅くまでヱロゲなんてやってるから朝起きれないんだぞ?」


「やるか、そんなもん! それにこんなところでそんなこと言うな! 人聞きの悪い!」


 健二がありもしないことを言ったせいで色んな意味で見られてるじゃないか。男子はなんか生暖かい目で見てくるし、女子は引きながらもヒソヒソ話し合っているし……。


 ああ、穴があったら入りたい。

 僕のせいではないんだけどなぁ……。


 そこで天の助けか、ホームルーム(HR)のチャイムが鳴った。それに合わせて生徒みんなが教室の正面を見て担任を待つ。


いつも担任は時間通り、遅れることなくやってくることで学校内では有名だ。チャイムがなって0.1秒後には必ずドアが開くとまで言われている。

なのにその担任がやって来ない。


 その代わりに教室に飛び込んできたのはこのクラスの学級委員長、小鳥遊美枝(みえ)だった。


彼女は遅刻してくるような生徒ではない。真面目だし、几帳面。成績優秀で模試では常にトップ10に入る程の実力者である。時間にも厳しいそんな彼女が遅れてきた。


一体どうしたのだろう。いつもの彼女の登校時間なら暴動に影響されるなんてないはずなのに。


 栗色のセミロングの髪をふわりと舞い上がらせて彼女は急ぎ足でハヤトの隣の席にやってくる。そこはいつもの彼女の定位置であった。


「珍しいな。何かあったのか?」


 健二がハヤトの心を代弁するように尋ねる。


 しかし美枝は走ってきたのか、呼吸を整えているために直ぐに答えられない。暫くは大きく呼吸をして、落ち着いてくるとこちらを見て言った。


「なんでも、ない……。ちょっと、寝坊しただけ……」


「そうか。まさかあの美枝が遅れてくるとはな」


「む? あのって、どういうことよ?」


「別にぃ」


 何故か健二がちょっかいを出している。

これが所謂、反動形成と言うやつなのだろう。なぜなら健二は美枝のことが好きなのだ。一度は告白しようとまで意気込んでいたが、結局伝えられていないらしい。


それでも気持ちは変わらないようで、こうやってちょっかいを出したり、さり気なく誕生日とかに贈り物をしているみたいだ。


年頃の男子とは本当にややこしいとハヤトは思った。ハヤトもその一人ではあるのだが自分のことは棚に上げている。


 ただ自分を挟んで口喧嘩を始めるのは止めてほしい。自然と巻き込まれることになるだろうが。この場合は煽った健二がいけないのか?


でもこれはいつものことだし、それだけ仲が良いことの裏返しかもしれない。二人を見ているとじゃれ合っている猫を連想してしまう。それだけ微笑ましい光景に見えてきた。


見ているだけなら心が和む。


「ハヤトもそう思うよね!?」


「えっ? なに?」


 二人の会話をちゃんと聞いていなかったから突然美枝に話を振られて困惑してしまう。


「だーかーらっ。健二はバカで、アホで、全くデリカシーがなくて、女の子の気持ちも碌に読めない、どうしようもない馬鹿だっていう話っ!!」


「なんだとっ! それ言ったらお前は頭のお固い、ドジなお嬢様じゃないかっ」


「言っとくけど、そこまでドジじゃありませんっ」


「はっ! それはどうかな?」


 もう止めてくれ。

 流石にクラス中の注目の的だよ。

 巻き込むなよ。

 視線が痛い。

 自然とため息が漏れる。


『あっ、先生来ますよ』


 《アサヒ》の言葉に健二と美枝は言い合いを止める。しかし健二は面白そうに美枝を見て、美枝は健二を睨んでいる。


きっといつものように直ぐ仲良くなるから問題ないと思う。


たぶん……。


 そんなことを思っていると扉が開かれ、禿げた頭が印象的なほぼ白髪の老教師が入ってきた。そして左手首にある昔ながらのアナログ時計を見て言う。


「ああ、すまないね。2分と13秒の遅刻だ」


「先生は時間に厳しすぎなんですよ。もうちょっとルーズに生きましょ?」


 一人の生徒がそんなことを言うが、彼は何やら書き込んでいた手帳を閉じて当然の如く宣言した。


「私はいつも一時間前行動だからな。今度からは30分早めるぞ」


「それやりすぎぃ!」


「絶対体調崩すって」


「結構それヤバイでしょ!」


「確かにっ」


 クラスに生徒の笑い声が響き渡る。ハヤトも釣られて笑ってしまった。


 きっとこれが平和な日常なのだろう。朝起きて、家族と会話をし、学校では友達と談笑し、本当に充実している。


 そしてその日もあっという間に過ぎていった。

 いつもの日常――。

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[一言] SFチックな世界観の壮大さが 感じられました いいねしましたよ(⌒∇⌒)/
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