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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 第二章 平和の神 〜Unknowledge〜
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無茶な要求

 内心エヴェリンは憂愁(ゆうしゅう)の念を抱かざるを得なかった。しかしとりあえずこの3人は今すぐには返さない。返したとしてまた来てしまうだろうから。


「…わたしが帰るまでハルカは監禁、この2人は軟禁しておきなさい」


「分かりました」


 態々実家に赴いて関わるなと言ったそばからこれだ。話だけではどうにも通じないらしい。リスクを背負って行った意味がない。溜息が出てしまう。しかし説明不足であったことは認めるとして、その日の内に会いに来る行動力があるとは流石のエヴェリンも思わなかった。


 まあ、今は別のことを進めないと。


「…サヤ。アポは取れてる?」


 エヴェリンは運ばれていくハヤトとエレナ、そして騒がしく抵抗するハルカを尻目に、右後ろに控えていたまだ20歳くらいの女性にほとんど振り返ることなく尋ねる。その夜の帳がすぐに迫りそうな西空を彷彿させる浅黄色の色彩はハヤトたちを少し悲しそうに見つめていた。


「はい。本日18時にアポイントメントは取れてます。それと、先程向こうの要望で、第二ビルの元サブコントロール室で行いたいと言ってきました。よろしいでしょうか?」


「…爆発現場、か」


 CONEDsの元サブコントロール室は第二ビルの爆発事件の現場だ。そしてCONEDsの代表だった、エヴェリンの父でもある浜崎代表が命を落とした現場でもある。そんなところを選ぶ理由はただ一つだろう。


「質が悪いですなぁ。リーダーへの嫌がらせとしか思えん」


 背が190近くある筋肉質な壮年男性がサヤと呼ばれた女性の報告に眉を潜めて機嫌悪そうにぼやく。


「…そんなものは気にしない。気にすることでもない」


「「……」」


 エヴェリンの言葉に無言で返す2人に、しかし彼女は気にすることなく歩み出した。


「…最終準備をしておこう。それぞれ準備しておきなさい」


「「はい」」


 そのままエヴェリンは上階に上がる。自分の準備のために。




 そんな彼女をサヤは黙って見送る。そしてそのサヤに隣に立つ壮年、ヴィルが憂うように口火を切った。


「リーダーは、あのままで良いのだろうか?」


 それにサヤは睨むように目を向ける。


「それはリーダーの意志を否定する言葉か?」


「お前の忠誠心は尊重するが、そんなつもりは一切ない。…………が、見ていると俺も辛くなる」


「それは……そう、だな」


 サヤもまた同意せざるを得ない。リーダーは少し仕事をし過ぎている。気も立っていて、触れたらすぐにも細い何かが切れてしまいそうで。彼らの部下の何人もがリーダーの怒りを買うことが多くなった。理不尽なことは何もないが、それでも些細なことに敏感になっている気がしてならない。

しかしそれよりも――。


「だが、私たちはリーダーの意志を実現するだけだ。……私達は、それだけの存在だ」


「そうだったな。失言が過ぎたようだ」


 押し殺したようなサヤの言葉にヴィルもこれ以上話すことでもないと断じ、踵を返す。そして二人は別れて各々の準備をしに行くのだった。



            †



 午後18時5分前。事件以前までCONEDsの機密が置かれていた元サブコントロール室。今では警察の捜査も終了して改修を終了させたそこは何もないが部屋としては使える程度にまでは戻っていた。だがまだ《アサギリ》が置いてある部屋を当分サブコントロール室として使うことが決まっているから使い道と言ったら今回のような会談くらいであろう。そしてその時間になって(ようや)く科学魔法の『管理者』であり、会社を取り纏めている全員が揃った。最後にやってきたのは桑原ミカエ現代表である。


「遅かったね。彼らとの会談の4分35秒前ではないか。こちらは最終準備も碌に出来ていないというのに」


 完璧主義者の優しげな言動をする千藤司がそう桑原を(たしな)める。しかし彼の発言は一般人相手なら細かいことと断じられ、加えて面倒臭いヒトとして認識されてしまうだろう。どんなに優秀でもほとんどのヒトはついていけない。


 しかしそこは会社を纏める代表である桑原。すました顔で、しかしやはり睨んだような鋭い眼差しで返した。


「別に4分もあれば確認くらいできるだろう。既にあらかた準備は出来ているんだからな」


「せやな。あとは確認だけや。無駄話は後にしましょ」


 五十嵐伽奈が髪を弄りながらそう言えばその場の全員がそれに賛同し、桑原は臨時的に設けられたマナリウムで形成した椅子に腰を下ろす。するとそれまで黙っていた白井真里奈が話し始めた。


「確か相手は浜崎さんの娘の、エヴェリンちゃんですよね?何度か話したことがあるんですけど、こんなことをするのは正直信じられないです」


「雛のように浜崎さんの後にいましたよね。前は」


「話しかけても返事がなかったのが懐かしいわ」


「伽奈さん。それはただ警戒されてただけではないのかね?」


 神崎哲也と五十嵐、そして千藤も同意の言葉、もしくはツッコミを入れる。


 彼らの認識でもエヴェリンはこんな大胆な行動を取れるヒトではなかった。いつも自信なさげで、浜崎代表の後ろにいることが多く、内気な少女という認識だったのである。


「まぁ、ヒトは変わるものだからねぇ。それは人工実存(AE)も変わらないと僕は思うよぉ?」


 その佐倉直人の間延びした言葉で『管理者』たちは自分たちの思考の愚昧さに気づく。自分たちは無意識に6年前のエヴェリンの印象だけで話していたのだ。現実ではそんなことがあるわけもなく、今では別人になっている可能性も考えられる。

あるいは別人にならざるを得なかった可能性も。


「だが、我々がやることに変わりはない。話し合いの余地がある限り、最善を尽くすだけだ」


 桑原がそう纏め、最終的な話し合いを終えたところでちょうど18時になった。それと共に元サブコントロール室の扉がノックされる。


「ノアです。言われた通り案内してきました」


「通せ」


 桑原の返答とともに扉が開かれた。




 扉を開いた先、そこは窓のない異質な部屋だった。白い光を放つ天井と壁面。部屋の真ん中の、向かい合うように設置された青い石のテーブルと椅子、『管理者』以外何もない誰もいない。ただ白い部屋がそこにはあった。


 だがエヴェリンは知っている。ここが完全に管理され、如何(いか)にどんな組織であろうとも盗聴器一つも置けない場所であることを。サブコントロール室の場所が移ってもこの部屋を管理できる人工知能(AI)《アサギリ》がマナリウムを使って異物を全て排除してしまうためだ。例え空中に浮いていたとしても目視できないマナリウムの網がそれを捉えて破壊、出来なかったとしても部屋の外に追い出してしまう。

だから注意してさえいればここの会話が外部に洩れることは少ない。


 そして中に通されたエヴェリンはまず礼儀を持って頭を下げる。


「…この度は貴重な時間を用意して頂きありがとうございます」


 そして彼女と共にやってきたサヤ、ヴィル、そしてハルカに気絶させられた後に回復したカヤがそれに続いた。


「ああ、そんな形式的なことはいい。早速本題に入ろう」


「ッ!!」


 背後でサヤが怒りを爆発させそうになっているのをエヴェリンは感じ取る。サヤとしては尊敬し、忠誠を捧げているエヴェリンに頭を下げさせたにも関わらず無礼な態度を取った『管理者』が許せなかったのであろう。絶対の信頼は置けるが、こういうことは少々難点である。


「…サヤ。落ち着きなさい」


「……はい」


 彼女を嗜めた後は、普通に用意された席に4人は腰を下ろす。そうすればすぐさまエヴェリンの正面に座っていた現代表、桑原ミカエが口火を切った。


「要件は我々の機密についてのようだが、何を目的に来たんだ?」


「それは私から話しましょう」


 左端に座っていたヴィルが手元から資料を取り出し、その中身を語る。


「私達が求めることを述べさせていただきます。まず第一に科学魔法の技術提供。第二に人工実存(AE)人工知能(AI)の情報開示。そして第三にCONEDsのフロント企業化です」


「ほう?まずはその説明を訊こうか」


 桑原は急に目を細めて射抜かんばかりにエヴェリンたちを睨めつけ、両肘をテーブルに着いて顔の前で手を組む。他の『管理者』も大なり小なり不機嫌そうに目を細めた。


 それも当然だろう。実はかなり無茶な要求をエヴェリンたちは出している。第一、第二の要求はこの20年間隠し通してきたことでもあるから当然簡単には呑めない要求である。しかしもっと問題なのは第三の要求だ。そもそもフロント企業とは暴力団組織が設立し経営に関与している、もしくは暴力団に親交のある者が経営し暴力団に資金提供をするなどして組織の維持、運営に協力、関与する企業のことを言うのだ。

つまり、機密はこっちが握っているから言うこと聞いてね、ということである。


 そして暗にエヴェリンの組織が暴力団、もしくはそれに準ずる組織であることも示していた。


 しかしそれでも『管理者』たちに大袈裟に動揺する気配はない。そもそも会社の交渉で要求をぶつけ合う時、まず相手が呑めない要求を彼らはを突きつける――少なくとも彼らはそうしている――のだ。そしてそれは相手がどうしても交渉の座につかなければならない内容であり、交渉しながらその要求のハードルを下げて本来欲していた内容を呑ませる。そこでどれだけ元々欲していた利益に色をつけられるかが経営者としての腕の見せ所でもある。


 それは外交官にも通じるところがあり、そうでなければならない。特にかつての日本の外交は五分と五分の提案を出して、十分と零分を要求してくる国に負けて二割五分しか手に入れられなかったとか。結果としてその間の数字である四分の三を外国に取られていたらしい。


 悲しいかな。日本人の気質ではなかなかに理解が難しい世界である。


 閑話休題。


 ヴィルは詳しい説明を始める。


「失礼なことは承知しております。ですが、まずは聞いていただきたい。第一の要求ですが、科学魔法の技術提供について。私達は機密の解析が今の所出来ておりません。そこでその中身全てを要求いたします。第二についても同様です。そして第三の要求についてですが――」


 そこでひと呼吸吐いてからヴィルは続ける。


「――私達は貴方方に科学魔法に必要不可欠であるマナリウムの定期的な供給を要求をいたします」


「…………なるほど。その見返りに我々に何を提供するのだ?」


 こんな無茶苦茶な要求をするからにはそれ相応の見返りが必要だ。科学魔法に秘められた未来への可能性は計り知れない。かつて第二次世界大戦以前には発見されて放射線という新しい電磁波を発するだけ物質だった放射性物質が強大凶悪の核兵器になったように、ヒトの意識を具現化するその機構は核爆弾並み、いやそれ以上の災厄を招くものになる。


 それを『管理者』たちは理解し、情報を漏らさないように取り決めた。しかしそこは科学者、しかもマッドサイエンティストの気質のある彼らはなかったことにするのではなく改良発展を繰り返していた。今ではファンタジーにある魔法のほとんどを見かけでは再現できるまでになっている。


 そんなものを渡すにはそれなりの理由が必要だ。


 そして桑原の問いにはエヴェリンが答えた。


「…わたし達が提供するのはCONEDsの研究に必要な金銭。そして貴方方と機密を守る武力、リスクある情報収集です。…もちろん、機密はここの安全が確認されしだいお返しいたします」


 エヴェリンが部下たちに調べさせた限り『管理者』のほとんどは純粋な理系の研究者だ。その研究に必要な資金はどんなにあっても足りない。加えて機密とするような分野の研究費は監査で引っかからないように彼らの給料から差し引かれている状態らしい。

彼らの生き方は生活か、研究かの二択のやりくりで余裕はない。だからそこに交渉の余地を見出そうとしている。それにこちらの資金は正当なそれで支払うから警察は気づきもしない。


 また武力と情報収集に関しては一企業である彼らが必然と欲するだろうと思い、この提案を出した。まさに2週間前に会社が爆破され、機密は大国の諜報機関に持ち去られかけた。もしエヴェリンたちが奴らを妨害し、ソフィアたちのような素人でさえ奪える状況にまで追い込んでいなかったら今頃機密は対岸の大陸にあっただろう。

情報収集もそれを避けるための準備材料だ。


 つまりCONEDsには莫大な利益が生まれるというわけである。


 それを聞いた桑原は溜息を吐き、背を伸ばす。その面持ちはどこか冷めたものだった。


「こちらの方が損する内容だな。話しにならん」

 交渉は続く――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 さて今回の解説です。まずは言葉の説明ですが、監禁と軟禁。前者は拘束して自由を奪うこと。後者はただ単に自由を奪うことです。つまり軟禁のほうが優しいです。まあ、ハルカの身体能力を考えればハヤトとエレナと違って監禁されるのは必然なのではないでしょうか?怪我しますし。


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