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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 第二章 平和の神 〜Unknowledge〜
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逢うために、話すために、知るために

 銃声が響く。引き金を引くとともに長い銃身内で火薬が炸裂し、その高圧のガスによって押し出され加速された弾丸は音速の3倍近くまでの領域に達する。そしてその弾丸は緩い放物線を描き、その線上の的を見事に撃ち抜いた。的はダーツのそれのように円形の線が連なっていて薄っすらとヒト型が描かれている。顔を上げてみればちょうど鼻の位置に命中していることがモニターで確認できた。


「やっぱり覚えるのが早いですね。身体を使うのは得意なんですか?」


 ソフィアが問えば、ハヤトは微妙そうな顔で返した。


「別にそこまでじゃないよ。父さんみたいにネットの動画だけで戦闘術を身に着けられないし、僕の場合どっちかと言うと頭使う方が好きだな」


「それも普通より良いくらいですけどね」


「うっさい」


 ハヤトは立ち上がり、手にしていたその狙撃銃をソフィアに返した。今ハヤトはソフィアから何故か狙撃の練習をさせられているのである。


 いや、本当になぜ?


 もちろんこの日本に於いて射撃場なんて国防軍の演習場くらいしかないから実際には撃っていない。ではどんな風に練習をしているのかというと、ソフィアがプログラムした仮想現実(バーチャルリアリティ)と組み合わせた魔法を使っているのである。引き金を引いた時の反動や銃声などの物理的なことを科学魔法で再現し、本当に撃った時に当たるであろう予測地点の疑似映像をコンピュータを内蔵したコンタクトレンズに投影させている。

だからハヤトが窓の外に向かって数百m離れた地点を撃ってもリアルに見えるだけで、撃ち抜かれたそれはただの幻影だ。


 因みに言えばここは家であり、ソフィアの部屋である。そして銃声も近所迷惑になるからハヤトの耳元にしか聞こえないくらい小さい。


「というかこれやる意味あるのか?」


「さあ?」


「さあ?って。意味ないのかよ……」


 しかしソフィアは曖昧な返事を返しながらも話を続けた。


「でも、世の中何が必要になるかわからないものですよ?実際ハヤトが憶えていた消防士(ファイヤーマンズ)搬送(キャリー)のおかげで(さら)われたエレナを迅速に助けられましたし」


「それはそうだけど……」


 確かに父があれを教えてくれた時は何に使えるか全く分からなかったが、憶えていたおかげで助けることができた。ソフィアの言う通り何が役に立つかはその時にならないとわからないものなのである。

しかし、それでも。


「流石に狙撃はないと思うけど?」


 この日本では銃を撃った時点で犯罪だ。それをしなければならない状況など絶対まともじゃない。そんなことは起きないでほしいものだ。


「良いじゃないですか。ちょうど教えられるものがこれだったわけですし。それに10発撃って3発中央に当てられたなら(おん)の字です。他も全部的に当たっていますし」


「魔法の方が良いんだけどなぁ」


 魔法の方が正直魅力的だし、普通は出来ないことが出来て楽しいというのもある。しかしそれ以上に花楓に実力で負けているという状況がかなり悔しい。妹と同じくらいの時期に始めたのに、圧倒的な差が二人の間に出来てしまっているのが本当に嫌なのだ。


 負けたくないのに。


「帰ってきたらちゃんと教えてあげますよ。えっと、そろそろ出かけますよね?」


 ソフィアが時計を見て言う。ハヤトもそちらを見て確かにそうだと思った。今から行かないと夜になってしまいそうな時間である。


「骨は拾えないかもしれませんけど、気をつけてくださいね」


「全然安心できない!」


 そんなことを言いつつもハヤトは出かける準備をしたのだった。



            †



 陽炎(かげろう)が道の向こう側をゆらゆらと揺らして、蜃気楼(しんきろう)を怪しく浮かび上がらせている。黒いアスファルトは太陽の熱を溜め込み、それを身体の下から猛烈に容赦なく放出してくる。まるで炭火でもされているような気分だ。それが今にも靴裏のゴムさえも溶かし始めそうで、既に焦げる臭いがしている気さえする。

本当に夕方なのか疑わしい。


 遠くの空を見上げればもう既に見慣れた入道雲がとても遠くに(そび)え立っているのが見える。いつも近くにあることが当たり前になりつつあるのに、それが小さくてあまり自己主張して来ないのは少し寂しい。それでも蒼空の入道雲というのは目立っていて夏の代名詞に変わりないのだが。


 でも。

 早く冷房の利いた部屋に駆け込みたい。

 できればアイスも食べて寝転びたい。

 ついでにテレビもあれば最高なのに。


 しかしそんなしょうもない小さな欲望は置いといて、今はやらなければならないことがある。だからここまで来たのだ。

ハヤトは空から視線を外して正面に目を向けた。


「ここで良いんだよな?」


 暑さで少々息を上げながら汗を拭いつつ、ハヤトは目の前の建物を見上げて隣のエレナに訊ねた。いつもなら《アサヒ》に問うところだが、頑なに協力してくれない彼女は放って置くことにしたのだ。たぶん今は家で家族のサポートをしているか、CONEDsで働いていることだろう。彼女は汎用人工知能(AI)であるから使い道は多岐に渡る。


 今ハヤトたちがいるのは最寄り駅から数個駅を越えた先にある住宅街。その一角のオフィスが一つある小さな2階建ての建物の目の前だった。しかしまだ日が昇っているせいなのか辺りにはヒトの気配が全くない。きっと大人たちは皆仕事に勤しんでいるのだろう。高校生は夏休みなのにご苦労なことである。


 そしてその建物だが、壁は自己再生コンクリートを用いていて、ほとんどペンキで塗られた形跡がなく、看板も何もないからここがどういう場所かも見当がつかない。住宅街の中にポツンとあるのもよく考えれば不自然だった。


 ただ、ここにエヴェリンがいるらしい。ハヤトたちは彼女に逢うためにここにいる。

ちゃんと話し合うために。そして彼女の目的をしっかり理解するために。


「ソフィア姉さんが言うにはここらしいけど……」


 ハヤトの言葉にエレナは自信なく答える。その理由としては外から見てヒトがいる気配がしなかったからだ。都市部からも外れていて人通りも少なく、蝉の合唱と遠くの喧騒以外ほとんど聞こえない。閑散と言えばわかりやすいだろう。それだけ動く陰がなかった。


 まあ、防音措置を施しているから何も聞こえないのだと納得することにした。実際ハヤトの家もそうなっているし。


「でも確かに車のナンバーは一致してるよな?」


「うん。そうだね」


 建物の隣に広がる駐車場に置かれた車のナンバーとソフィアがメモしてくれたナンバーを二人は見比べる。それは地名もひらがなも完全に一致していた。


 ソフィアがエヴェリンの居場所を見つけた方法は至極簡単な話だ。単純にエヴェリンが来た時にその車のナンバーを記憶していただけなのである。そして同じナンバーの車を監視カメラで彼女自作の人工知能(AI)に追跡させて――《アサヒ》はそれもエヴェリンの情報だと言って探してくれなかった――居場所を特定した。そして今に至るというわけである。もちろんロンドンのように密集した監視カメラがあるわけではないからそれだけでは大雑把な場所しかわからない。


 しかし大体の行き先は予測できるから時間を掛けてその周辺を探せばいい。ただ時間が掛かり過ぎてしまったようで特定した時にはもう5時になろうとしていた。


「入りづらいな」


「うん」


 不思議とその建物はただ人気がないと言うだけで入りづらい雰囲気を帯びていた。これも日本人の性なのかもしれないが、誰もいないところに勝手に入るのは躊躇われるのである。


 しかしそこでつかつかと迷う素振りもなく前に進む人影があった。


「もう暑いからさ。早く入ろうよ。ほら、早く!」


 なんと一緒に来ていたハルカはそんな雰囲気などものともせずにどんどんとその建物に向かって歩いていってしまった。流石にハヤトとエレナは慌ててハルカの後を追いかける。


「ちょっと、ハルカ姉さん。勝手に入って大丈夫?」


「大丈夫なんじゃない?入り口開いてるし」


「留守だったらどうするんだよ!」


「待ってれば良いんじゃない?」


 軽挙妄動とはまさにこのことだろう。自分勝手な理屈を押し通すハルカをハヤトとエレナは物理的に止める手段がない。二人がかりで力づく止めようとしてもハルカの進行は身体能力の圧倒的格差のせいで阻止できないだろう。彼女の受け答えからして正論を言っても通じないし。


 そして結局、3人はその建物の中に足を踏み入れた。もちろんハヤトとエレナは戦々恐々としていた。だって、どう見ても不法侵入なのだから。


 因みにハルカがここにいる理由はソフィアが遣わせた用心棒という保険のためらしい。給料はショートケーキ風プリンだそうだ。用心棒にしては安すぎる対価な気がするがハルカが良いのならそれでも良いのかもしれない。それに彼女の身体能力からして用心棒にはなり得るだろう。


 入って直ぐ辺りを見回してとりあえず郵便受けを見やる。そこに書かれていたのは1階部分が倉庫、2階が事務所だということが書かれた粘着テープだった。名前は特に記されていないから一体何の事務所なのか全く見当がつかない。

だが、普通じゃないことは確かだ。警戒は怠らない方がいい。


 それからどうしようかと考えを巡らせたハヤトとエレナだったが、ハルカがそのまま真っ直ぐ2階に上がる階段を登り始めたのを認めて吃驚(びっくり)した。流石に彼女の腕を掴んで止める。


「ハルカ。流石に勝手に上がるのはヤバイって!」


「どこかにチャイムないの?それ押してからでも!」


 しかしハルカはキョトンとした表情で振り返った。


「どうせこっちから行かないと出てこないよ?エリーは恥ずかしがり屋だし」


「恥ずかしがり?」


 思わずハヤトは疑問符を頭の上に浮かばせ、エレナはどこか納得したようなしていないような微妙な表情になった。


 ハヤトは記憶を辿ってもエヴェリンが恥ずかしがり屋のような素振りを見せたところなど一つも思い出せなかった。ただ何を考えてるか分からない表情で、泰然(たいぜん)たる態度でハヤトの目の前にいつも現れてきたのだから。一体どこにそんな面影があっただろうか。


 それとも本来の彼女が恥ずかしがりなのかな?


「誰だ」


 その時上階から男性の声がして、降りてくる靴の音が聞こえてきた。

 降りてきたのは――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 さて、解説です。というかいきなり狙撃なんて唐突すぎる気がします。でもソフィアがハヤトに教えるのには理由があって、やっぱり時間がないからでしょう。ハヤトたちは《アサヒ》のおかげで平和な日常に戻ることができましたが、前にも書いた通り何もしなければ猶予時間は一年です。例え対策を続けて数年でしょう。《アサヒ》が誰にも害されない環境を構築してもそれは短い期間のことなのです。つまり今の内にソフィアはハヤトやエレナ、その他家族全員に力を付けさせるためにこんなことをしているのです。何が待ち構えているのかわからないので。

ただ、あれなんですよね。それは計画通りに行けば問題ないのですが、例外がないものなどこの世界にはほとんどないので――。


 感想、評価、質問、お待ちしています。ブックマークもぜひ。またまた〜。

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