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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 序章 唄声 〜She got lost in this world〜
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未だ有効な命令

 困惑していたハヤトはエレナに問いかけた。


「ど、どうするんだよ……っ」


「どうするって?やっぱり話しかけた方が良いかな?」


「いや……でもさ――」


 一瞬クルーズ船で出会った彼女を思い出して、言葉が詰まる。あの腕に付着した紅い血の臭いが鼻の奥に蘇った気がした。


 話しかけて大丈夫だろうか?流石にこんな場所で切りつけられたりはしないだろうけど、あの時のエヴェリンを思い出してしまうと言い知れない恐怖が湧いてきて尻込みしてしまう。だから話しかけるのは躊躇われるのだ。


 しかし同時に彼女のことも知りたいとも思っている自分がいる。あのテロもきっと彼女、もしくは彼女の所属する組織の仕業だ。なら、どうしてあんなことをしてまで機密を奪いに行ったのか。どうしてヒトを傷つけるような世界に身を投じているのか、家族として知りたいと思ったのだ。


 それに父もエヴェリンが何をしているのか、ソフィアによれば知っていたらしい。だから優しくて人道に沿った生き方をしていた――少なくともハヤトからはそう見えた――父がそんなエヴェリンを自由にしていた理由も知りたかったのである。なぜエヴェリンがそんな世界に行き、父がヒトを傷つけることを容認したのか。


 ただ知らなかっただけかもしれない。しかし《アサヒ》をハヤトの傍に置くほど彼女を自由に扱える父が知らないとは思えなかった。《アサヒ》の諜報機関を黙らせたスペックを考えれば、エヴェリンの動向を探るのは容易かったはずだ。


「やっぱり、一言声掛けておくか」


 そう思って一歩踏み出そうとした時だった。ハヤトとエレナの会話を聞いていた美枝が驚きつつよくわからないといった顔で訊ねてきたのである。


「姉さん?ハヤト。どういうこと?」


 それにハヤトは少し困ったように、どう答えたものかと逡巡した後、隠す必要はないと断じて答えた。


「ええっと……たぶん、アカリは僕の姉さんだと、思う」


「「………………え?」」


 美枝は健二と目を見合わせ、今聞いたことを確認するように目だけで会話している。そして暫くしてから2人はハヤトとエレナの嘘を吐いていない瞳を確認して、それが事実であることを悟り、息を呑んだ後、絶叫した。


「「ええぇぇぇぇぇぇ――――っ!!?」」


 まさに信じられないといった表情で美枝と健二の叫び声が響き渡った。それも仕方ないだろう。大好きなバンドのボーカルがいきなり友達の姉だと聞けばそうなるのも頷ける。そしてハヤトに詰め寄る美枝と健二に対して数多の通行人は奇異の視線を向けていた。しかし2人はそんなことなど気にした風もなく、捲し立てる。


「それは本当なのか!?嘘じゃないよな!?はっ!もしかしてお前の都合の良い妄想か!!ご都合主義満載だな、おいっ!」


「いやいや!でも、仮にハヤトの言っていることが事実だとして、なんで 今まで教えてくれなかったの!!?なんで今になってこんな爆弾を投げかけてくるのさ!?」


「ちょ、待て待て!悪かったって。でも、僕だってエレナに言われるまで気づかなかったんだよ!」


 ハヤトの返事に美枝と健二がさらに食い下がろうとするが、不意に美枝が疑問が湧いたように眉を潜めた。


「なんでハヤトの知らないことをハヤトの彼女が知ってるの?」


「まだそんな設定があったのか……」


 確かに美枝と健二にはちゃんと説明していなかった気がする。終始エレナが彼女だと勘違いされて誤解を解こうにもライブが始まってしまって有耶無耶になったのだった。


「あのな、言っておくけどエレナは彼女じゃなくて、僕の姉だよ?」


「「は?」」


「だから僕の姉さんなの」


「「はあぁぁぁぁぁぁ――――っ!!?」」


 再び美枝と健二の大きな声が木霊した。


 なぜだろう。だんだん驚かれるのに慣れてきてしまった。たぶん物凄く特徴的な姉たちを紹介する度にこういう反応をされる予感がある。そして周りからこんな変な視線を向けられるのだ。

何か諦観めいたものを感じてしまう自分がいた。


 そして2人の視線はエレナに向き、今度は彼女が()かれた。


「本当ですか!?」


「はい。ハヤトの姉です」


「でも、今までそんな話聞かなかったし……」


 そこでエレナは2人にハヤトとつい最近再会したことを話した。もちろん科学魔法とか人工実存(AE)のことは省いての話だったからハヤトにとっては物足りなさがあったものの、美枝と健二にはハヤトが記憶を失う前に最後に出逢っていたことを理解したようだった。そして記憶がないせいでほぼはじめましての状態だったことも。


「ハヤト」


 急に声のトーンを落として健二がハヤトの両肩を掴んだ。そして落としていた目線を合わせてくる。しかもなぜかそれは真剣な眼差しで。


「?」


 そして健二は呟いた。


「羨ましいぞ……」


 前言撤回。

 全然真剣ではなかった。

 何を言っているんだ?

 こいつは。


「なに馬鹿なこと言ってんの。あんた」


 美枝も呆れたようにそんな言葉であしらって軽く健二の後頭部を(はた)いた。それにエレナも苦笑しながら微妙な表情をしていた。そしてハヤトは腕を持ち上げて。


「いてッ」


 健二にデコピンを食らわせて呆れたように口を開く。


「別に羨ましいことじゃないだろ。そういうもんなんだから」


「なんだよそりゃ!普通に羨ましいだろ!?めっちゃ美人じゃんか!」


「まあ、綺麗だけど……」


 それからなぜか健二は悔しそうに愚痴を叫んでいたが、それを無視して美枝が、そう言えばと呟く。


「ハヤトの家って結構人数多いね」


「そうだな」


「楽しそうだけど、色々大変そうだね」


 今ではこの生活にも慣れてきたが、実際この日本に()いて家族が6人以上いたら本当に珍しい大家族だ。少子高齢化はなかなか歯止めが掛からなくなっているから平均して3人か、多くて4人家族が一般的なのである。その一因に子育てに掛かる費用が頭がおかしいのではないかと疑うくらいくらい――高校生の金銭感覚的に――の多さなのである。その値段を聞いた時は少子化になるのも頷けてしまった。本当に日本の家族を養う親たちはその金額のために子供を作ろうとは考えないらしい。中には結婚しても子供を作らない選択をした人たちもいるそうだ。


 それに対して(うち)は9人家族。しかも姉たちは人間ではないから父がお金を出して独自に健康診断をしていたに違いない。食費や衣服などの生活必需品の費用、そして教育のための費用も掛かるからとんでもない金額だっただろうに。しかもこれから大学の学費も考えなくてはならない。もしかすると大学受験に向けての塾の費用も。さらに理系の場合、文系の何倍かかることやら……。私立なら更に大変なことになるし。


 会社代表とはそんなに儲かるものなのだろうか?

 まあ、株かなんかで儲けたのかな?

 でもそんな簡単に儲かるものなのだろうか?


 (ちな)みに父に少子高齢化を止めるにはどうしたら良いだろうかと雑談で提示してみたら、日本が戦争して人間の子孫を残すという本能を目覚めさせて老人が戦果で死ねば解決だろうとか言われて戦慄したのを憶えている。また同時に父はそれは合理的だがやらない方がマシだとも言っていた。


 本当に冗談でも恐いからやめてほしい。

 正直その時は父の感性を疑ってしまった。

 まあ、冗談だったらしいが。


 閑話休題。


「じゃあ、ちょっと声掛けてこようかな。……あれ?」


 ハヤトは辺りを見渡して既にMaker's(メイカーズ)がいないことに気づいた。驚くほど撤収が早いものだ。そう言えばライブの準備も5分か10分でいつも終えていた気がする。兎に角Maker'sは準備も後片付けも異様に早い印象があった。


「どこ行ったんだ?」


「あっ、あれじゃない?」


 エレナが指差す先、そこに楽器ケースなどを車に積み込む4、5人のヒトがいるのが見えた。そしてその中にアカリもいる。もう出発寸前のようだ。


「ちょっと行ってくる」


 そう言ってハヤトは駆け足で人混みの間をすり抜けていく。もう慣れたものだから苦労することなく、進めた。そして声が聞こえそうなところで息を吸って。


「エヴェリン!」


 声を掛ければちょうど乗り込もうとしたアカリが止まった気がした。そして目だけでこちらを見てくる。


「ちょっと待って!」


 しかし彼女は直ぐに目線を外してそのまま車に乗り込んでしまった。車も直ぐに発進し、横浜駅前の大通りに入ってしまう。暫くしてその車も見えなくなってしまった。


「んん?」


 確かに彼女はエヴェリンという名前に反応した気がした。

 けれど直ぐに行ってしまったから気の所為(せい)


 結局その時のハヤトは彼女がエヴェリンであると確信を持てなかった。


「《アサヒ》。あれは本当にエヴェリンだったのか?」


 とりあえず《アサヒ》に確認しようと声を掛けた。しかし《アサヒ》から返ってきた返答は意外なものだった。


『さあ、知りません。それにもし仮にエヴェリンさんだとしたら、それこそ教えられません』


「え?なんで?」


『浜崎先生の命令が未だ有効ですので。すみません』


 父の命令でエヴェリンの情報を教えることが出来ない?

 一体どうして?


 父が姉たちを世間のカメラから守っているのはよ〜く知っていたが、それにしてもエヴェリンに対しての態度は異常な気がする。家族にさえ教えることが出来ないなんて絶対おかしい。


「どういうことだよ」


『答えられません』


 返ってきた《アサヒ》の言葉は突き放すようなものだった。しかしそう言われてもハヤトは《アサヒ》に食い下がろうとした。それでもだからと言ってハヤトにはできることはなく、諦めてしぶしぶエレナたちと合流するのだった。

 その命令とは――?


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます!


 じゃあ、今日ここまで。感想、評価、質問をして下さるととても嬉しい限りです。ブックマークもぜひお願いします。またまた〜!

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