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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 序章 唄声 〜She got lost in this world〜
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勘違い

 横浜駅西口にある地下街へと続く階段。それを覆う屋根でできた壁を背にMaker'sのライブの準備は進められていた。まだチューニングやらをしていて始まる気配はない。けれど時間通りには始められそうではあった。


 そのすぐ傍の道端で人通りの邪魔にならないように美枝と健二はハヤトを待っていた。いつもなら10分前には来ている彼が来ていないことを意外に思いながら、二人は端末の時計に目を向けている。本当に珍しいこともあるものだ。


「あいつ遅いな」


「まあ、でも直ぐ来るでしょ。ハヤトは約束守るし」


「でも忘れてたぞ?彼女でもできて忘れてたんじゃないか?」


「は?えっ!?いや、そりゃないでしょっ!」


 健二の冗談に美枝は苦笑しながらそれを否定する。ハヤトに恋人が出来た試しは一度としてないし、実際彼は奥手な方であるから的確な意見ではあった。家族と美枝以外の女子とは本当に誰とも話さないし、色恋沙汰なんて聴いたことがない。つまり、かなり彼女ができる可能性が低いということだ。


 しかし二人はさり気なくハヤトに彼女ができるわけないと断定しているようだが、この二人だってそういう経験は皆無だったりする。一度たりとてない。

まあ、だからこそ彼氏彼女が出来ない人間の空気というものをなんとなく察しているというのもあるわけだが。


 それに恋愛だけが青春ではないのだ!

 充実していればそれでいい!

 それで、良いのだ。

 本当に、それで……。


 そんな感じで心の中で宣言していけばいく程虚しくなるというのを二人は身を持って知っているのであった。


「Excuse me」


 不意に流暢(りゅうちょう)な英語が聞こえて二人はそちらに振り向いた。そこには観光客らしい白人の男性と女性がいる。どちらもサングラスを掛けていて一般的な日本人より背が高く体格が良いからか二人からすると少し威圧感があった。


「Yes?」


 健二は少し困惑して口をパクパクさせて、あーとかうーとか呻いていたので仕方なく美枝が答えることにした。そして返事をするとその白人男性が口を開いた。

もちろん美枝が英語で答えたから彼も英語で話し始める。


「We wanna go to Sea paradise.How should we go to there?」


「Aww.You should go to Kanazawahakkei by Keikyu line.And go to Hakkeijima by Seaside line」


「Uh-Huh」


 男性が美枝の言葉に相槌を打つ。それを確認して美枝は続けた。


「Then you can walk from there」


「Where is Keikyu line?」


「You should go there」


「Oh!Thank you!」


 その二人は美枝の指差す方向と答えを聞いて笑顔になると意気揚々と立ち去っていった。途中女性が笑顔で手を振ってきて、美枝も嬉しそうにそれに返した。


「なんか、良いことした感じ」


 小さな満足感でしかないだろうけど、誰かの力になれたという事実が美枝にとって嬉しいことであった。


 しかし健二はと言うと疑問をその顔に貼り付けていた。


「なに話してたんだ?」


 その言葉を聞いて美枝は思わず目を見張った。


「は?あれくらいの英語分かるでしょ?中学生でも喋れて当然じゃない?」


「そんなの知らねえよ。英語なんて俺には関係ねぇし」


「いつかあんたが後悔する未来が見えた気がする……」


 一応解説しておくとあの二人の外国人は横浜・八景島シーパラダイスへの行き方が分からなくて英語ができる世代である美枝たちに声を掛けたようだ。だから美枝は私鉄で行く方法を教えてあげたのである。彼らが向かったのは横浜駅構内であるからこの後も問題はないだろう。


 しかし健二の学力は予想以上に悪いらしい。あれくらいの対応は本当に頭が悪くても中学生なら簡単に対応できるはずなのである。下手すれば小学生でも行き方が分かれば教えられるくらいに。


 まあ、健二の努力の方向性は本当に将来やりたいことに偏っているから学校の必須カリキュラムである英会話もサボりにサボりまくったに違いない。しかし、本当にそれで大丈夫だろうか?

美枝からすると本当にこの事実は信じられない。


 そして美枝が少し健二の学力に心配を抱いていると少々離れたところに見知った顔が視界に入って来た。それを確認して美枝は呼びかけるように手を上げる。


「あっ、ハヤト!こっち――――ぃいっ!?」


「どうした――――ぁあっ!?」


 しかし美枝のハヤトを呼びかける声は最後が上ずって奇声になり、それに気づいた健二もハヤトを見つけて同じように声の抑揚がおかしくなって仰天した。


 もう、何と言えば良いのか。冗談を言ってそれが本当に起きてしまうという全く思いもよらない出来事に美枝と健二は目を丸くするしかない。その光景が信じられずに幻覚でも見ている気がしてならなかった。寧ろハヤトの隣にいる存在が非現実的に可愛らしく美しい容姿のために本当に自分がおかしくなったと思い込んでしまいそうだったくらいに。いや、最初こそ自分の正気を疑った。


 だって、()()ハヤトにである。

彼女ができる要因なんて友達視点からだとなかったはずだ。


 ハヤトの隣にいたのは今までに見たこともない、綺羅星か天頂に輝く月のような輝きを放つ白銀の髪、深く澄み渡った深海のような青銀色の色彩を持つ異様に美しい少女だった。その普通の人間とは一線を画す美しさに自然と視線が行ってしまう。そこには女性も男性もなく、辺りからの視線が彼女に集まり、しかし本人は気にした風もなく受け流していた。寧ろ隣のハヤトととても楽しそうに話していて周りの有象無象など彼女の視界には入ってなさそうである。


 対してハヤトも自然な振る舞いでその少女と接しており、本当に楽しそうに語り合っている。そして端から見るに2人の距離はちょっと近い。しかしそれが当たり前のように並んでこちらに歩いて来ている。

そして途中から少し急かすようにその少女がハヤトの手を取ったのだが、それを美枝と健二は普通に手を繋いだように見て取った。


 つまり、美枝と健二にはその2人が恋人同士にしか見えなかったのである。


 それから美枝と健二が驚きのあまり固まっていると暫くしてやっとハヤトが2人を見つけた。


「あ、美枝。健二。遅れてごめん」


 そのいつもと変わらない、普通のハヤトの発言に、意識せずに美枝はカチンと来るものがあった。そして隣にいた健二も同じなのか不機嫌そうな息遣いが聞こえた。


 何を思ったかと言うと、簡単な話だ。まるで恋人がいるのが当たり前だと言わんばかりの態度が自分たちへの当て付けのようで言い知れない怒りが込み上がってきたのである。

まるで自慢されているかのように。


「いやいや。なに普通に来てんだよっ!?」


「よくそんな普通にしてられるよねっ!?」


 そんなハヤトに美枝と健二は悲鳴じみた怒声で声を荒げたのだった。




 そう言われて初めにハヤトが思ったことは美枝と健二が思っていたこととはかなり的を外れたものだった。


 というのも――。


 そんなに遅刻したか? 


 友人たちの予想外の怒りの声に思わずハヤトはたじろぎ、確認するように西口広場の時計に視線を向けた。時間は……ライブ開始の2分前。


 ギリギリ間に合ってるはずだが……。


 ちらりと端末を見ても時間がずれているわけでもない。


 少々動揺してしまったハヤトだったが、約束を忘れていたのはハヤトだからもう一度謝ることにした。こういうことは何度でも丁寧に謝るのが常識だろう。変に言い争っても悪いのは変わらないのだし。


「いや、ほんとーっに、遅れてごめん」


「「ちっがーう!!」」


 盛大に突っ込まれた。


 え?

 どういうこと?

 本当に二人が何を怒っているのか分からない。

 でもよく見れば二人は怒っているというより動転してる?

 なんで?


「いつからいたんだよ!つれないぞっ!?」


「まさかハヤトがそんな見せびらかす悪趣味持ってたなんて!信じられない!」


「ちょっと待て!2人共何言ってんだ?」


 分からな過ぎてエレナに助けを求める視線をハヤトは向けた。しかし案の定エレナもさっぱり理解できないというように眉をハの字に歪めて困ったように笑顔を浮かべている。


 それを見てもどかしく思ったのか、ついに美枝がエレナに迫った。


「ハヤトの彼女さんですか!?ですよね!?」


「「はいっ!?」」


 今度はハヤトとエレナが声を荒げた。


 吃驚(びっくり)して、いや吃驚し過ぎて思考が停止する。状況が読み込めずに互いに助けを求めるようにハヤトとエレナはお互いを見やった。しかしだからといって何かがあるわけでもない。ただ美枝と健二が何を言っているのかだけは理解できた。


「いや、一緒に住んでるけど、そんな――」


「「はあっ!!?」」


 ハヤトはそう言った途端思いっきり叫ばれた。その周りを気にすることのない声量に思わず耳を塞ぎたくなってしまった。もう目の前にいる2人はかなり動転して混乱してしまっているようだ。


 というか周りの注目する視線が痛い。

 なんとかしないとっ。

 お、落ち着かせないと……っ!

 でも、どうすれば?


 そして何を言えば分からず、沈黙が僅かに流れる。しかし今度は健二が口を開いた。ただそれはハヤトに対する耳打ちに近い声音だった。


「なあ、どうやったらそんな親密な彼女できるんだよ。別嬪な彼女直ぐに作れるなんてどんなことしたんだ?テクでもあるのか?しかも一緒に住んでるって一体どこまで――」


「健二は黙って!今は事実確認が先でしょ!?」


 健二のそういう態度に呆れたのか、美枝は彼の言葉を遮るように叱責してもう一度エレナに顔を向ける。この時、ハヤトはエレナの横顔を見て、そういう想像を巡らせてしまい、恥ずかしくなってそっぽを向いてしまった。意識しないようにしていたのに不意打ちとも言える友人たちの言葉にハヤトは動揺を隠せない。それはエレナも同じなのか、チラッと見やった彼女は頬を朱に染めてたじろいでいる。

それを見てハヤトの心臓が跳ねた。慌てて目線を逸らす。


 一体今日はどんなだけ心臓が跳ねるんだ。

 ある意味、心臓に悪い。


 そんな彼女に美枝はいかにも気になるといった感じで真剣な眼差しをエレナに向けていた。


「で、彼女さんなんですか?」


 美枝のその言葉は単刀直入()つ真っ直ぐに向けられたものであるから、彼女の態度は絶対に相手を逃さないと語っているようで、一種の威圧感を帯びている。


 そしてエレナはその空気に呑まれてさらにしどろもどろになり、目を逸らすことができないようだった。しかしどうにか言葉を溢して。


「え、いや……違う?と、思う……けど……」


 そこで再びエレナと目が合う。しかし今度は目が離せなかった。なぜかは分からないがどうしても視線をこの時だけは逸したくなかった。


 そしてまたハヤトは気づいてしまった。エレナの言葉を聞いて胸が痛む自分がいることに。どうしてそんなことになっているのか全然分からない。ただ先程のエレナの言葉を思い出す度に胸が痛い。


 その度に何かを彼女に求めてしまうのだ。それが何なのかもハヤトは自覚していない。それでもエレナに期待するような、求めているような視線を送る。




 それに対してエレナも困ったような、少し寂しげな顔を返していた。それはなぜかと言うと、ハヤトが悲しそうな顔をしていたからだ。しかしそれはほんの僅かな変化で一緒に暮らしているから見える心の変化でもあった。


 しかしきっとハヤトは自分がどんな顔をしているのか分かっていない。その表情になる理由も恐らく。


 でも、それで良いのだ。

 ハヤトのためにも。




 そんな妙な間が流れ、美枝と健二は顔を見合わせた。どうもこれ以上追求してはならない気がしてならない。そういう空気を感じ取ったのだ。


 まあ、皆いろいろな事情を抱えているものである。それにズカズカと押し入るのも不躾だろう。だからこれ以上の追求は止めることにした。


「お、始まるぞ」


 不意に止んだチューニングと健二の言葉にハヤトたち3人はMaker'sの方に注目した。

 そしてライブが始まる――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 さて、今回の解説です。美枝が流暢に英語で話すシーンを描きました。未来の子供たちはほとんどが普通に話せます。私の英語力ではあの程度なので、違和感があったら教えてくださると嬉しいです。まあ、教育の仕方というのも教室で先生の話を聞いてノートを取るなんて言う古臭いやり方は未来ではかなり減っています。他にどんなものがあるかと言えばプレゼンです。兎に角自分で考えたことを発表して誰かに説明することで理解を深めるのです。

まあ、これによって教師も知識だけでなく人間性を見られるようになるのですが(優しいとか面白いとか)、あとは教師の講習が全国規模で行われるとか。2020年時点では塾で採用されて注目されていますね。海外ではもっとそういう傾向にあるようですが。でも、古臭い教育って国家としてまとまるためには絶対必要な気がするのは気のせいかな?


 じゃあ、今日はここまで。感想、評価、質問、お待ちしております。ブックマークもぜひ。またまた〜。

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