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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
里面的世界編 序章 唄声 〜She got lost in this world〜
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夏休みのある日

 2051年7月6日(水) 9:48 日本国浜崎邸


 定期テストも終わり、本格的な夏が訪れたその日。日本中は稀に見る快晴と晴れに見舞われた。気温も40度に軽く達し、天気予報では熱中症対策を呼びかけるアナウンサーが笑顔を振り撒いている。


 外に視線を向ければ、思わず眼を細めてしまう程の燦々(さんさん)と降り注ぐ陽光が庭やリビングを眩しく照らし出している。今は窓を締めているから分かりづらいが、恐らく外ではアブラゼミの大合唱をメインにしたコンサートが今日も開かれているに違いない。


 約1ヶ月しか成虫でいられないのに秋まで鳴き続けるのだからその生への執念は尊敬してしまう。そして同時によくこんな季節にずっと外にいられるものだと、暑いのが苦手なハヤトは思わざるを得なかった。


「今日も暑そうだね」


 隣のソファーに座っていた白銀の髪と青銀色の瞳を持つ少女、エレナがテレビを見つつ呟いた。今日も彼女はお気に入りのハーフアップにしていてその髪が陽の光を浴びて目映(まばゆ)い。そして彼女の身につけている手作りのような、けれど綺麗な髪飾りもエレナの魅力をさらに引き上げている。


 しかしハヤトは彼女の言葉に少し気落ちしたように返した。


「そうだな。ああ、なんで夏は来るんだろ……」


「しょうがないよ。そういうもんなんだから」


「まあなぁ」


 ハヤトの本音としては夏は大嫌いだ。特にあの汗でジメジメした不快感が本当に嫌いなのである。最近はかなり改善されてきているが、今の服でも汗のせいで身体にへばりつくことはあるし、湿気が多いと幾ら特殊繊維製でもずっと湿ってしまう。

そういうものがあるから夏が好きになれない。


 それにあの目障りとしか言いようのない蚊の猛攻といったらもはや第二次ポエニ戦争のハンニバルのように予想外な場所から奇襲するのだから、これ以上ないくらいの精神攻撃だ。しかも何度も成功させるのだから質が悪い。部屋の中に一匹でもいたらそれを仕留めるまで何も集中できないし、刺されてもいないのに痒くて仕方ない。一時は地球が滅ぶとしても彼らの絶滅を願ったこともあったくらいなのである。


 嗚呼(ああ)、想像しただけで痒くなってきた。


「でも夏はアイス美味しいし、海水浴とかプールがあるじゃん?そういう楽しいことを考えれば少しは気分も良くならない?」


 エレナに言われて確かにと思った。夏にしか出来ないことといったら多岐に渡る。海水浴(しか)り、花火大会然り、祭りの屋台然り。そしてホラー映画やら、旅行やら、夏休みはもはや夏の醍醐味(だいごみ)と言っていいだろう。

そしてイベントも。


「そうだな。今年は賑やかだし、いつもとは違うんだろうな」


「皆でどこかに遊びに行きたいよね」


 父はもういないが、それでも大切な家族と一緒に過ごせるのだからそのことに感謝して楽しまなければと思う。きっと父も自分の死を引きずるよりそういうことを望んでいることだろう。父は過去より未来を見据えていた人だったし。


 二人で和んでいると天気予報は終わり、次のニュースが始まった。軍拡を進める国防軍が2年前に実戦配備を始めた純国産第七世代戦闘機についての話で、地政学的にこれから台湾に輸出する可能性もあるとかないとか話し合われている。そしてその交渉が始まるらしい。


 しかしハヤトもエレナも父ほど軍事に詳しくないからあまり関心がなかった。でも最近はかなり台湾政府と日本政府の交流が多く、国交再成立も近いとか言われいている。もしかしたら日台同盟も考えられてるとかないとか。ただ今まで国交がなかったことすらハヤトたちは知らなかったのだが。


 まあ、アメリカ、イギリスとか、オーストラリア、インドなどと軍事同盟を結んでいるから不思議なことでもない。

 フランス、カナダもあったっけ?


「あ、そういえばこの間来た”はとこ”の兄さんもこの戦闘機乗ってたんじゃなかったっけ?」


「そうなの?」


 今思い出したが、父の通夜に来た人の中にその人がいた。結構気さくな人だったのが印象に残っている。搭乗員1名の戦闘機乗りは無口だと聞いていただけに少し意外だったが、そういう人もいるのだと記憶しておいたのだ。


「ああ。それでなんか従軍しないかって誘われた」


「え?」


「まあ、断ったけど」


 きっと体力を買われたんだろうけど、どうして見てもいないのにそんな評価をしたのかは分からない。軍拡の一環として定員を増やした国防軍は今までの自衛隊より定員割れして悲惨らしいけどそんなに足りないのだろうか?


 その時、不意に端末が震える。手に取って確認してみると相手は友人の健二だった。そう言えば先月末の定期テスト以来健二たちとは連絡していないことに今気づいた。


「もしもし?どうした?健二」


『おいおい。忘れたのか?今日【Maker's(メイカーズ)】のライブだろ?忘れてるかもと思って電話してやったら本当に忘れやがって』


「え……ああっ!そうだった!ごめん!ライブは確か10時半だったっけ?」


『そうだぞ。早く来いよ?待ってるからな』


 通話を終えて、ハヤトは準備をするために立ち上がった。


 不覚だった。ここ最近で、突然父が死んでしまって、エレナが誘拐されて、テロに巻き込まれて、時間をまともに取れず定期テストでは追い詰められてすっかり忘れていた。


 自分も楽しみにしていたはずなのにどうして忘れてしまったのだろう。メモをすれば良かった話だが、《アサヒ》も教えてくれればいいのに。


「なんで教えてくれなかっただよっ。《アサヒ》」


『それくらい自分でどうにかして下さい。ハヤトさんは自分じゃ何も出来ないガキではないでしょう?』


「ガキ……。はあ……わかったよ」


 ガキと言われれば流石に文句は言えない。これはいい加減自律しろということなのだろう。最近彼女によく言われて自覚しつつある。

頑張ってみよう。


 急いで全ての準備を整えて外履きに履き替え、いざ出かけようとした時だった。背後から声が掛かった。


「私も行っていい?」


「え?エレナも?」


 振り返ればエレナが桜色のショルダーバックを手にしてハヤトの後ろに立っている。先程はスピーカーモードで健二と話していたからエレナもハヤトが何をしに出かけるのかを知っているはずだ。それでも少し意外だった。


「まあ、いいけど?」


「ありがとう!」


 ハヤトが別に許可を出すようなことでもないのに、エレナはハヤトの返事にとても嬉しそうに笑顔を咲かせた。


 その可愛らしさに、美しさに思わず心臓が高鳴る。無意識に高鳴った心臓と、エレナの不意打ちの花のような笑顔にハヤトは困惑を隠せなかった。流石に再会してからもう2週間は経って、共に一つ屋根の下に暮らすことも、傍にいることも慣れたと思っている。でもこう突然眩しい笑顔を目の前で見せられるのはまだ耐性がなかった。


「どうしたの?」


「い、いや……何でもない……っ」


 エレナはハヤトのしどろもどろになっている態度に不思議そうな顔をして見ていたが、直ぐに気を取り直してスリッパを脱いで外履きに履き替えた。


「ソフィア姉さんっ!留守番よろしくねっ!」


 エレナが室内に向かって叫ぶと2階から僅かに了承の声が聞こえてきた。空返事のように聞こえたが、たぶん大丈夫だろう。


「今日もソフィアは閉じ篭っているのか?」


「そうみたい。また犯罪をやってないと良いけど……」


 あれ以来ソフィアは食事などの必要最低限の時以外室内から出ることがない。引きこもりと言っても過言ではない頻度でしか顔を合わせていないのだ。しかしエレナの経験話によると――主に父からの伝え話らしい――昔は色々とクラッキングをしたり、人工知能を作成して大儲けをしたり、火薬を誤爆させたことがあるらしい。そして今でも株で稼いでいて彼女だけの総資産は数千万円から数億円あるとかないとか。


「花楓は……寝てるよな。そう言えばハルカはどうした?」


 夏休みに入って花楓は12時近くまで寝てることが多いから今も恐らくベッドの中だろう。しかし早起きのハルカの姿が見えないのは不思議だった。


「さあ?お母さんと出かけてるのかな?」


「母さんは仕事だろ?ハルカがついていったら会社が大変だよ」


「ああ、確かに……」


 もし仮にハルカが母の働いている会社にでも行ったら何が起きるか。たぶん身体を動かすことが大好きな彼女は退屈過ぎてサーカス並みの運動を披露して迷惑を掛けているか、社内である意味で有名になっているだろう。もしくは悪気なく振り回した腕がパソコンを何台か壊したりして騒然となっているかもしれない。


 そんなことを考えているとエレナがハヤトの手を取った。


「じゃあ、行こうっ!」


「お、おう」


 そうしてハヤトはエレナに手を引かれ、蒸し暑く五月蝿(うるさ)い、そしてひたすらに眩しく晴れ渡った世界に連れ出されるようにして出かけたのだった。


 家から最寄りのバス亭に行き、そこからバスに乗って横浜駅西口に着いた。そしてそこからライブが開かれる、駅構内に至る入口近くの方に歩いている時、常にエレナは楽しそうだった。少し鼻歌交じりで今にもスキップをしそうな程ウキウキしている。それが不思議でハヤトはそのことを(たず)ねてみた。


「そんなに楽しみか?」


「ううん。違うよ。今が楽しいんだよ」


「え?」


 それはどういうことだろう?


 今ハヤトとエレナは目的地に向かって歩いているだけだ。ここはいつもと変わらず、車の排気と発熱、そしてこの夏特有の湿気のせいでどちらかと言えば蒸し暑くて不快感しかない。それに人が多くて歩きにくいし、広告の画面がチカチカするし、その音声や電車の騒音と人の話し合う声がとても煩い。一体何が楽しいというのだろうか?

これからのライブがなければ出かけるのも億劫で嫌なのがハヤトの本音なのに。


 だからハヤトにはエレナの”今が楽しい”というのがよく分からなかった。


 そんなハヤトを見てエレナはこれまた楽しそうに目を細め、その嬉しさを言葉に溢した。


「ハヤトと一緒に出かけるのが楽しいのっ」


「ッ!?」


 予想の斜め上を行く発言にハヤトは吃驚(びっくり)してしまった。

なぜエレナはこうも無自覚にヒトをドキッとさせるのだろう。そういうことを分かっているのか?


「あっ!見えたよ!」


 しかしエレナはハヤトの反応を気にすることなく、見えてきたライブ場所を指差して少し足を速めた。どうやら自覚はないらしい。ハヤトもエレナに釣られて彼女の見やる先に視線を向かわせれば、確かにマイクやアンプなどの機材が準備されている。

そしてハヤトは彼女に遅れないようにその後を追い掛けていったのだった。

 二人はライブ会場へ――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 感想、評価、よろしくお願いします。ブックマークもぜひ。では、またまた〜。

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