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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 第三章 在処 〜Plot of the one ~
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花火みたいなそれ

 花火とやらはセットできたらしい。ソフィアが行って戻ってきたのを見ただけだが、何か爆弾か彼女の言う通りの花火を持って行ったとは思えない。近くにいたハヤトからしても何をセットしに行ったのか分からないのだ。彼女の持ち物からしてこの場を混乱させる規模の火薬は持っていなかったはずである。


 流石に数グラムで核爆弾並みのエネルギーを持っている反物質は持っていないだろうから恐らく科学魔法の何かを使うのだろう。そんなことが可能かは知らないが。


「確認していいか?」


 ハヤトは夕陽に染まっていく白いクルーズ船を見上げながらソフィアに声を掛ける。


「ん?なにか?」


「花火って……安全だよな?」


「まぁ……安全なんじゃないですか?」


「なんだよ。その間……」


 ソフィアの言葉はなんとも歯切れが悪かった。どうしようもない不安に駆られていると今度はエレナが訊ねた。


「というか安全な花火って普通の花火じゃない?鑑賞することはあっても混乱はしないんじゃ?」


「……そう、ですね」


「お姉ちゃんって論理的なのにウソは下手だよね」


 ハルカの言う通り今のソフィアはしどろもどろになっている。顔に出さないようにしているようだが、あからさまに微妙な面持ちになっていた。

これは言葉にしなくてもそういうことなのだろう。


 ハヤトたちがじっと白い目でソフィアを見つめながら彼女の弁明を待っていると、彼女は嫌そうな顔をして思いっきり溜息を吐いた。


「ほんと、なんで父さんはこんな身体に創ったんでしょう。いや、設計図がおかしいんですかね?ほんと必要性がわかりません」


「いや、お前が言ってることがわからないよ」


「ソフィア姉さん。誤魔化さないで」


 しばし何か言いたげな顔をしていたソフィアだったが、ポツリと自白した。


「けが人は出ると思います。むしろそうしないと混乱しないでしょう?もちろん誰も死なないように配慮したつもりですが……」


 その言葉にハヤトは微妙な顔を返さざるを得ない。出来得ることなら誰も傷つかないでほしいというのがハヤトの本心なのだ。だから誰かが死ななくとも怪我をするのを許容することに戸惑いを覚えた。


「なあ、《アサヒ》は協力する絶対条件に機密の回収を入れなかったよな?そこまでする必要があるのか?」


 それを聞いたソフィアは横目でハヤトを見た後、まっすぐ目の前の巨船にその新緑の瞳を向けて言った。


「確かにここまでする必要はないかもしれませんね。ハッキリ言って何が待ち受けているのか私にもわかりません。だから嫌なら帰ってもいいですよ。でも、私は、私一人でもやります」


「なんでそこまでするんだ?今更だけど、危ないだろ」


 そうだ。ハヤトたちにこんなことをする理由はない。《アサヒ》を使って自分たちの日常を守ればそれで良かったはずだ。それに機密を奪ったのは大国の諜報機関だという。ならこの先に今まで経験したこともないような危険が待ち受けている可能性を捨て切れない。そんなところに彼女たちと行くなど本当に今更ながら無謀に思えた。


 もしかしたら姉の内誰かを犠牲にしてしまうかもしれない。

 或いは自分か。

 そして、どちらにしろ残った家族全員が被る悲しみと社会の目と運命が襲い来るであろうことを受け入れられるわけがない。

 自分より頭の良い彼女なら分かっているはずだ。

 なのに、どうして?


 ソフィアはどこか遠い目をして呟いた。


「あれは父さんが命がけで守ろうとしたもの。……それだけの理由ですよ」


「!」


 何も言えなかった。つまりあれが奪われることは父の望みではなかったのだ。寧ろ避けたかったことだったのだ。


 考えてみれば簡単だ。科学魔法という技術を持っていて、開発者の一人である父ならば簡単に生き残ることが出来たに違いない。実際父以外の社員とエレナ――もちろん誰もまともに科学魔法を使えもせず、または知らない――が多少の怪我はしても助かっている。生きようと思えば生きられた。それをしなかったのは――。


「父さんは私達のために生きているようなヒトでした。なぜかは知りませんがそればかりを願っていて自分の望みを忘れたようなヒトだった。そんな父さんが文字通り命がけで守ろうとしたんです。なら父さんの娘である私が何もしないわけにはいかないじゃないですか」


 ソフィアの言葉を聞いてハヤトは確かにそうだと思った。父は自分の誕生日の時も、どんな祝い事の時でも自らの望みを言ったことがなかった。いくら訊ねても困った顔をするばかりで何を考えているのか口にしなかった。なのにハヤト達、家族に対してはよく気遣ってくれていて出来る範囲で何かをくれたし、分からないことは導いてくれた。


 優しく話を聞いてくれたし、ハヤトたちが喜ぶと本当に嬉しそうに笑顔になっていた。まるでそれが生きがいのように。


 そんな父が命を懸けた。奪われてはならない大きな理由があったに違いない。恩返しとは少し違う気がするが、ソフィアの言う通りやらないわけにはいかないと思えた。


 そしてまた、知りたいとも思った。父が何を見て、何を知っていたのか。どうして家族を誰よりも想っていた父が逃げることより死を選んだのか。それを知る義務が自分にある気がするのだ。そしてきっとその一つがあの機密なのだろう。


「……そうだな。わかった。最初のところはお前に任せるよ」


「あれ?逃げないんですか?」


「そんなの、かっこ悪いだろ?」


 その時ハヤトの腕が掴まれた。そちらの方に目を向けるとエレナが不安そうな表情で何か言おうとしていた。しかしなぜか言葉にならないようで直ぐに押し黙ってしまう。だからハヤトから訊いた。


「どうした?」


「えっと、あのね、こんなこと言っちゃいけないって分かってるんだけど……でも、やっぱり、ハヤトには残っててほしい。自分勝手だって分かってるけど……もうハヤトが傷つくのを見たくないの」


 その俯きがちの目が何かに気付いたように上を向いてハヤトと目が合う。


「……あ、ごめんね。私も今更だよね。今の忘れて。私、どうかしてるみたい」


 ハヤトの目に彼女の弱々しい笑みが映る。


 それは悲痛な、しかしハヤトの気持ちも尊重したい気持ちで葛藤しながらの願いだった。エレナはハヤトがこの機密の回収に疑問を呈した時、安堵さえ感じていた。なぜならここで逃げれば少なくともハヤトたちが危険に晒されることはなくなるからだ。そしてそれが望ましいとさえ思った。けれどそれはハヤトやソフィアの気持ちを完全に無視した自分勝手なものだった。

だから彼女は再び押し黙ることしか出来なかったのである。


 そしてハヤトには気丈に振る舞い、辛そうな笑顔を作るエレナをどう見たら、どんな言葉を掛ければ良いのか分からない。安易な言葉ではエレナを安堵させることは叶わないとなんとなく感じたからだ。


 もう失いたくない。

 大切なヒト達が消えていくのを見たくない。

 ずっとそばにいてほしい。

 そんな感情がエレナからありありと伝わってきたから。


 それは自分も抱いていた感情だった。


 不意に紅い髪が揺れた。


「むぎゅ〜〜〜〜っ!!」


「ハ、ハルカ姉さんっ!?」


 ハルカが思いっきり――たぶん全力ではない――エレナを抱き締めた。ついでに首を横に振ってエレナに頬ずりをしている。


 そのあまりの唐突さにエレナは混乱を隠しきれずに目を白黒させた。


「パパがね。こうやって身体を触れ合わせると安心するって言ってた。だからハルカがハグしてあげる」


「ええっ??」


「大丈夫だから」


 ハルカはエレナを抱き締めながら断言する。


()()()、ハルカが絶対ハヤトとエレナ、二人を守るから。ぜ〜ったいっ、大丈夫だから」


「ハルカ姉さん……」


 ハルカは身体を離すとエレナの肩をしっかり掴んで、まっすぐエレナと目を合わせながら言った。


「だから安心して?これでもまあまあ強いお姉ちゃんなんだからっ!」


「……うん。ありがとうっ」


 ほんの少し安心したエレナは次にハヤトの目を見た。それに対し、ハヤトは思わず言葉を掛けていた。


「ごめん。僕だって自分勝手だ。でも、今は行かなきゃって思うんだ」


「分かってるよ。だから、頑張ろう」


「そうだな。ありがとう」


そんな二人を見てソフィアは言った。


「では始めましょうか」


 ソフィアは端末を取り出し、もう片方の掌の上に魔法陣を描いた。もちろんそれは周りからは死角の位置になっている。よく見ればその魔法陣と端末は初めて見るアダプターを介して接続されており、複雑に絡まっているようにも見えた。


 これは精密さが求められている場合に使われる方法で、今回ソフィアは爆発の位置と規模を正確にするためにコンピュータ制御に頼った。あと、これから慎重な作業をするためという理由もある。


 普通の爆弾の起爆との違いが分かりにくいかもしれないが、ここでソフィアがイメージしているのは離れた場所での爆薬の合成であった。この社会に置いて爆弾なんか造ったら普通に逮捕なのでイメージによって即席の爆弾をここに製造したのだ。

例え怪しまれても科学魔法を知らない警察にはアリバイが完全に成立する。


 (ちな)みに爆薬は学校の科学実験室で普通に手に入る――市販でも――物を使って造り上げていた。大体5種類で造れる、実際のテロに使われている爆薬なので本当に細心の注意が必要なのである。しかも非常に敏感なので手元で合成するなど自殺行為に他ならないため、こうして非常に離れた位置で合成している。


 そして暫くするとどうにか合成出来た。


 そしてソフィアの指が端末に触れようとした。桟橋の突端。その場所で起爆させる。

完全にテロだが、それは承知の上だ。


「いきます」


 その声の直後、爆発が桟橋の()()()()()()()()で生じた。


「「「「ッ!?」」」」


 突然の熱線と爆風が髪を暴力的に乱す。反射的にハヤト達四人は背後に振り返った。そこには黒煙が今まさに空に立ち上ろうとしているところだった。


 人々の悲鳴が耳を劈き、驚いたように皆が振り返った。何が起きたのか理解できず呆然とする者、必死に船へと逃げる者、ただ泣き叫ぶことしか出来ない子供たち、怪我する者、海へと飛び込む者、誰かを助けようとする者……etc。全てのヒトが混乱の渦に呑み込まれ、冷静でいられる者などそこにはいなかった。


 それはハヤトたちも例外ではない。爆発が生じると分かっていたもののその場所がまさか全くの反対方向で起こるなど思いもよらなかったのだ。

予想外の何かが起きて――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます


 感想、評価、質問、お待ちしております。ブックマークもよろしくお願いします。ー。誤字脱字報告もどうかよろしくお願いします。

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