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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 第二章 天才と人工知能の推理 ~Difficult to understand ~
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新しい所有者

 そしてソフィアから一部始終を聞かされたハヤトは、エレナと同様に深刻な顔をしていた。機密が既に奪われていたなんて、それは完全にマズい。というよりむしろもう終わりではないかとさえ思える。


「早く追いかけなきゃいけないじゃないか!?ここにいても仕方ないだろうっ!?」


「そうだね。場所は≪アサヒ≫が誘導してくれるから良いけど、急がないと手が出さなくなっちゃう!」


「ちょっと待ってください」


 地下から脱出しようと一歩進んだところでソフィアが制止した。それにハヤトは少しの不快感と焦りを覚えながら振り向く。


「なんだよ?」


「二人とも。目的を忘れてませんか?」


「えっと……?」


 ちょっと何を言っているのか分からなかった。ここに来たのはCONEDsの機密を守るためであって――。

 あれ?


「「あっ!」」


「気づきましたか?私達の目的は≪アサヒ≫に私達が狙われない環境を作らせることです。実際まだ命令を出してはいません」


「「ああっ!!」」


 咄嗟に画面に映る≪アサヒ≫をハヤトとエレナは睨みつけていた。それに対して≪アサヒ≫はあからさまにギクッと擬音が鳴りそうなほどわざとらしい仕草をしてみせる。


 二人が何に気づいたか。それは≪アサヒ≫が行ったヒトの誘導、アナログハックである。最初、ハヤト達は確かに≪アサヒ≫の力を借りようと考えて行動するつもりだった。しかし実際は≪アサヒ≫が上手く言葉を尽くしてその命令を出させないようにしていたのである。そしてCONEDsの機密の保全のためにハヤト達をまるでその行動が第一優先であるように思わせていたのだ。


 思い返してみれば、自分自身がどのような人工知能であるかを語って興味を持たせ、お願いから始まり、内部犯のことを話題に上げて完全にハヤト達の思考を別の物に変え、急かすようにして機密を守らなければ良くないこと――具体的なことは≪アサヒ≫は一言も言っていない――が起こると言った。そして最後にはハルカから本体を守ってほしいと泣き落すようにしてハヤト達の良心を利用した。その後は適当に言葉を尽くして今まで気づかせなかったのだ。


 本当に合理的で目的達成のために躊躇が全くない。まさに人工知能らしい行動だ。


「はぁ~……。分かってたよ。うん。分かってた。お前はそういうやつだった」


「うん。≪アサヒ≫はちょっと自己中だね」


『お、お褒め戴き感謝いたします』


「「褒めてないわっ!!」」


 思わずハヤトとエレナは激しいツッコミを入れたが、笑える要素が一つもなかった。あのままソフィアの言葉が無ければ≪アサヒ≫の言う通りに行動し、気づかない内に全てが終わっていたかもしれない。それで絶大な信用を≪アサヒ≫に抱いて何の疑問も抱かなかっただろう。そしてそういう彼女の言葉を信用し続けて何時しか彼女の思い通りに動かされる。

そこまで行くとハッキリ言って洗脳の類だ。


 まあ、こうして暴いたとしてもそれもまた≪アサヒ≫の計画の内であることは否めない。彼女はそういう存在だ。もしくは既にもう戻れない所にいるのかもしれない。


「考えても仕方ないか……」


『えっと、ごめんなさい。実は機密が盗まれているのはほぼ確定事項だったんですが、どうしても≪アサギリ≫の追跡プログラムが必要でして……その、すみませんでした』


「いや、別にもういいよ。もうしないなら。なあ、エレナ?」


「うん。もうしないなら私も構わないよ。本当なら私達もソフィア姉さんみたいに考えられればいいんだけどね」


 二人は≪アサヒ≫を許した。それに≪アサヒ≫も嬉しそうに笑顔を返した。

しかしソフィアは未だに呆れを含んだ鋭い眼差しを≪アサヒ≫とハヤトたちに向けていた。その目はどこか責めているようにも見える。そしてもう疲れたと言わんばかりに溜息を一つ吐いた。


「どうしたの?ソフィア姉さん?」


「いや、何でもないです。私はそろそろ疲れました。それと≪アサヒ≫には命令できませんよ?」


「「えっ?」」


 ソフィアはそう言うが≪アサヒ≫は家で出来ると言わなかっただろうか?すこし記憶が曖昧になっていて少し思い出せない。それでもそういうことだったと思ったのだが……。


「≪アサヒ≫は私達が命令を出せるかと聞いた時、”しっかりと聞く”としか言ってませんよ?つまり聞くだけで行動するわけではありません」


「なんだよそれ。ただの屁理屈じゃないか!」


「そういうことを言うのはヒトがバカな証拠です」


「ソフィア姉さん……」


 確かにヒトは人工知能と比較して正確性はあまり高くない。だから細かな言葉一つ一つを完璧に把握して会話するなど実際無理だ。けれどだからといってヒトがバカだというのも納得がいかない。自分もバカにされているようで少し不快だ。


 対してエレナは思ったことをそのまま言ってしまう姉を心配してしまった。そういう所は父に似てしまったが、このような誰かを蔑む批判的な意見というのは社会では受け入れられることはまずない。だから社会の中で姉が生きていけないような気がして彼女の未来を憂いてしまったのだ。

もしかすると賢い姉は一人でも生きていけるかもしれないが。


 そしてソフィアは画面の前に立ち、≪アサヒ≫の姿を真っ直ぐに見据えながら言った。


「≪アサヒ≫。正直に答えてください。でないとこの会社の未来に関わりますよ?」


『えっと、なんですか?』


「本当に父さんを殺した人物が誰なのか知らないのですか?」


『知りません』


 なぜ突然その話を持ち出したのかさっぱり分からない。≪アサヒ≫に命令できないという問題が見えたところだったのに。全く関係ないように見える。


 置いてけぼりにされるハヤト達を余所にソフィアは続けた。


「犯人は内部にいる可能性がある。そしてそれは『管理者』の中にいるかもしれない。ならば犯人が分からない以上、CONEDsの運営はこのままではリスクが高いのではありませせんか?」


『確かにそうです』


「なら犯人ではない私達の中から所有者候補を選べば良いんじゃないですか?」


 そこで何となくハヤトにも見えてきた。人工知能に命令できるのはその所有者のみ。ならば今の所有者は彼女の目的を達成するのに不適切であるなら今ここでまだ信頼できる新しい所有者を選ばせれば良い。


 ややこしい。

 もう少し融通が利かないものなのか?

 いつもはもっと柔軟に対応してくれるのに。


 何だか≪アサヒ≫の本当の姿を垣間見た気がした。


『……』


「……」


 妙な沈黙が流れる。二人は画面を通して見つめ合っている。いや、相手の出方を観察している侍のような緊張感がある。見ているこちらも何も言えなくなっていた。


 そして暫くして≪アサヒ≫が答える。


『では、ハヤトさんを私の所有者として一時的に決めましょう』


「はあっ!!?」


 自分の名前が出てきて思わず叫んでいたが、その内容を理解するのに少々時間を要してしまった。


 訳が分からない。

 どうして、僕が!?


『ハヤトさんを選出した理由ですが、唯一の人間だからです。差別する気は一切ありませんが、この社会では、ソフィアさんたち人工実存(AE)はいてはならない存在です。もしそれがバレた時のリスクを考えてハヤトさんを選びました。少しくらい教育すれば所有者らしくなる資質はありますし。それにソフィアさんとハルカさんの動向は南鳥島に行っていたこともあって全部把握できてないので任せられません』


 ここでソフィアを除いてハヤトたちは、《アサヒ》がソフィアとハルカを完全に信用していないということに気づいていない。それは浜崎前代表が死んだ時にソフィアたちがインターネットに繋げることが難しい場所にいたために()()()()可能性として考慮しているのである。

もしかすれば前代表は彼女たちによって……といった具合に。


 ソフィアも《アサヒ》の言葉でそのことに気づいたが、仕方ないので放っておくことにした。悪魔の証明ほど関わるべきものはないのだから。

それにハヤトなら問題ないだろう。


「いやいや!だからっていきなり――」


 対してハヤトは困惑していた。言われたことを完全に理解するのに時間を要したほどである。絶対、《アサヒ》のことをよく理解しているであろうソフィアが選ばれると思っていたのに。


 しかし言葉を重ねるようにソフィアが呟いた。


「でないと私達は常に狙われ続ける運命(さだめ)です」


「……」


 それにハヤトは黙ることしか出来ない。


 ≪アサヒ≫のような人工知能(AI)の所有者になるのは正直自信が無い。彼女が信じらない訳ではないが、彼女の行動に付いて行ける気が全くないのだ。それにどう使えばいいのか見当もつかない。ハヤトはソフィアのように頭が切れるわけでもなく、父のように博識でもない。ただの普通の高校生だ。彼女のスペックからして核兵器のようなものだと考えれば、その無理難題がどれ程のものか理解出来よう。


 しかしそれを了承しなければ≪アサヒ≫が使えない。そしてエレナ達は常に狙われ、表社会では生きていけなくなる。そんなことは許せない!


「分かった。どこまで出来るか分からないけど、やってみるよ」


『あくまで一時的です。CONEDs内部の犯人を特定次第ハヤトさんの所有権は無くなります』


「大丈夫だ」


『それと条件があります。ハヤトさんが命令できるのは3つだけと約束してください。これが呑めなければ所有権を与えられません』


 きっと何も知らないハヤトが≪アサヒ≫をとんでもないことに使うことを恐れたのだろう。ハヤトもそんなことをする気は全くなかったが、気づかない内にやらかしてしまう可能性だってある。だから彼女の条件を呑んだ。それから機密の奪還も条件に加えられて命令の後ハヤト達は奪われた機密を追いかけることとなった。ただし可能な限りの話であって絶対ではなかった。


 そしてついにハヤトはソフィアの助力もあって命令文を伝える。


「≪アサヒ≫。僕たち家族が何者にも害されない生活ができるような環境を作れ。具体的には今エレナ達やお前を攻撃している組織とそれに準じる組織を介入させるな」


『了解しました。ハヤトさんの命令通り実行を開始します。しかし曖昧な部分がありますのでその都度調整の必要があります』


「ああ。それでいい。やってくれ」


 そうして≪アサヒ≫による眼には見えない反撃が始まった。


「ん?そう言えばハルカはどこですか?」


 不意にソフィアが辺りを見渡して疑問を口にした。それにエレナが少し苦笑気味に返す。


「なんか≪アサヒ≫とのゲームに負けていじけちゃったよ。それでなぜかそこに」


 エレナが指さすところ――デスクの下――をソフィアが覗き込むと膝を抱えて頬を膨らませたハルカの姿があった。

ハヤトも思い出したように彼女を覗き込んでみる。


「ハルカ姉さん。そろそろ機嫌直して?何怒ってるの?」


 エレナがそう声を掛ければハルカはこちらをチラッと見て、そっぽを向いてしまった。


「だって退屈なんだもん。難しい話ばっかだし、意味わかんないし、聞いててつまんないし。もっと楽しいことがしたいのっ!そういうの期待させてくれないの?」


「あぁ……なんか、ごめんな?」


 真剣な話から一転して子供の相手をする親の気分を味わった気がする。同時に申し訳ない気持ちとずっと退屈で嫌だっただろうなという憐れみを感じた。咄嗟に謝ることしか出来なかったが、これからはもう少しハルカのことも気にしようと3人は思ったのだった。


 しかし、確かにハヤトにとっても今までの話は8割くらいしか理解できていないのだから適当に聞いていたら少しも分からなかったことだろう。

 そして彼は強大な力を手にしてしまった――。


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。最近アクセス数が増えてきてとても嬉しい毎日です。本当に読者の皆様ありがとうございます!


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