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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
生存戦略編 第二章 天才と人工知能の推理 ~Difficult to understand ~
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地下へ

 燦々(さんさん)と灼熱の太陽が照り付けている道路も、もうすぐ本日最高気温を更新しようとしている。高度に成長した都市部の関係からか、それとも最早疑問視されて久しい地球温暖化のせいか、横浜の気温は例年の8月に劣らない高さまで上昇していた。その気温は最も高い場所で40度を超えており、アスファルトの融解まで確認されたとのデマがネット上には流れていた。


 日本で使われているアスファルトが140℃~160℃の温度で溶けると知っていればすぐにでもデマと分かる話だ。しかし中国やインドの本当に溶けたニュースを聞いた人の中には信じてしまう者もいるらしい。

しかし溶けないにしても触れる事すら憚れる温度になっていることは否めなかった。


 そんな横浜の一角。横浜駅からほど近い場所にあるCONEDs第二ビルの正面前に一つのタクシーが止まった。珍しい訳でもないので、暑さをものともせぬ猛者か、仕事の関係上仕方なく歩いている人たちなどは気にした様子もなく通り過ぎていく。この気持ち悪い汗を掻かざるを得ない蒸し暑さ、そして耳を塞ぎたくなるような都会の騒音と人間の事情など一笑に付す蝉の大合唱に曝されて、ほとんどの者はそれに耐えかねて用もなくコンビニに寄ったりすることもなく、少々急ぎ足に歩を進ませていたりしていた。確かにこれでは熱中症になってもおかしくない。既に今月だけで301人が県内で病院に搬送されているのだ。

だから、ただただ体力と水分と気力が削がれる外界から誰もが解き放たれたいと願って屋内に閉じこもるのである。


 しかしその時の、CONEDs第二ビル前だけは少し違った。


嗚呼(ああ)、本当に暑いですね。早く中に入りましょ」


 最初にタクシーから出て来た、雪のように白い肌と透き通った海の青を彷彿させる髪を併せ持つ美少女の登場にそこに偶々いた歩行者たちは思わず足を止めた。そして現代人らしくすぐさま、反射的と言ってもいいほどの速さで彼らの手は自らの端末に伸びいていた。まあ、実際に手にしたのはごく僅かだったが。

たぶん髪の色が珍しいのだろう。


「あづ~っ!なんで来たの?家にいれば良かったじゃん」


「ハルカ。あなたヒトの話をちゃんと聞いてました?」


 次に現れた思わず目を向けてしまうような美しい肢体と夕日のような紅い髪の少女の姿に足を止めていた人たちは知らずうちに唖然としていた。そして中にはこれはドラマか、生放送の撮影だと勘違いして辺りを見渡す者もいた。もちろん監視カメラと端末のカメラ以外周囲にはそれらしいカメラはない。


「ハルカ姉さん……。もう少し色々と考えてよ。それとこれからは大人しくしてね?」


「ええ~っ?そういう時っていつもつまんないじゃん。もっとさ、面白いことないの?」


「はぁ~。大丈夫かなぁ?」


 そして三人目に白銀の髪と青銀色の色彩を持つ少女が現れた頃には、足を止めた人たちで少ないながらも人だかりができていた。ここまで来てしまうと誰もが端末を掲げて面白半分に写真を撮ったり、動画を撮影してたりする。


 しかしソフィアも、ハルカも、エレナも全く意に介さず歩き出した。その様はまるでドラマの女優が取材陣の中を掻き分けて進んでいくシーンのようにも思えた。逆にその後を緊張した面持ちで追うハヤトは周りの視線が気になって仕方なかった。ポジション的にマネージャーだろうか?ハヤトも普通よりかは幾分かっこいい顔立ちをしているのだが、彼女たちの前ではどうにも霞んでしまう。そしてハヤトは周りからの奇異な視線と、嫉妬を含んだ視線に晒されて、それが自分に刺さるたびに肩身が狭くなっていく気がしてならない。


「大丈夫?」


 そこでエレナがハヤトのことを気遣って声を掛けてきた。それにハヤトは周りを伺いながらも返す。


「よく平気だな。すんごい居心地が悪いんだけど……」


「そういうことなら大丈夫だよ。私達のことはあの人たちの記憶の中にしか残らないから」


「それはどういう――」


 尋ねようとしてハヤトは周りの野次馬の様子が少しおかしいことに気づいた。というのも皆端末を覗き込んで首を傾げたり、こちらを写真に収めては眉を顰めて何度も写真を撮っていたりするのである。まるで端末に不具合が起きた時のような反応だった。


「≪アサヒ≫って本当にすごいですよね。私でもこんな人数を一度に相手したら一時間は掛かってしまいますよ」


「まさか……!」


 ソフィアの言葉を聞いてハヤトの脳裏のあることが思い浮かんだ。そしてこれまでの情報を加味してもあり得なくはないという結論に行き着いてしまった。もう驚くより呆れる他ない。


 それは≪アサヒ≫がここにいる人達の端末に片っ端からクラッキングして写真や動画のデータを消して回っているということだ。とんでもない演算能力を持ち、外界に自由に出られる彼女なら出来なくはない気がしてくる。リスクが高い行動ではあるが、画像がインターネットに流出して騒ぎになる方がきっと≪アサヒ≫にとって避けたいことなのだろう。もしくはそういう命令があってそれを実行してるだけかもしれない。


 実際、携帯端末は容易にクラッキングを受けるものだから彼女にとっては朝飯前のことなのだろう。


 兎に角(とにかく)≪アサヒ≫のおかげでネット上で変な噂は立たなそうなことは喜ばしかった。


 そして野次馬を完全に無視してハヤト達はCONEDs第二ビル内に侵入した。侵入したといっても別に悪いことをしているわけではないし、ハヤト達を狙う誰かがいるという分けでもない。ただ自然に、親の仕事場に来た時の気楽ささえ持っていればいいのである。


 しかしハヤト達にはもう父はいない。だからか、ハヤトとエレナはここで父の最後の姿を見たせいで胸が締め付けられたように苦しくなるのを感じていた。


「くあぁぁああっ!涼しぃぃいいっ!!」


 しかしそれとは正反対の歓喜の声がビル内に響き渡った。


 中は思ったより冷気で満たされていた。二重扉のために空気の出入りが制限されて温くなることもなく、上手く日光を屋根で遮っているからそれで気温が上がることもない。そういう造りのためにここは涼しいのだろう。そしてハルカが一番嬉しそうにそのホールの中を駆けまわっていた。まあ、タクシーの中が思ったより冷えていなくて少し暑かったのだから当然の反応と言えるかもしれない。


 でも、本当に幼児みたいだ。

 精神年齢が低いというかなんというか。

 気楽でほんと羨ましい。


 しかし涼しいと実感しているのはハヤト達も同じで、少しの間とはいえ暑い空気に曝されて正直気分が悪くなっていた。だからこの冷房はとてもありがたい。


「じゃあ、ここから別行動ですね。≪アサヒ≫の言う通りに進めば目的地に行けるはずなので、頑張ってくださいね」


「ああ。そっちも気を付けろよ?」


「そちらも、気を付けてください」


 ここからソフィアとは別行動だ。彼女は機密のデータが保存されているものを押さえるために8階へ。ハヤト達は≪アサヒ≫の本体がある地下1階に行くことをタクシーの中で聞かされていた。


 強制捜査のためにやって来る警察は未だに姿を見せないが、それも時間の問題だろう。急いで機密を確保しなければならない。


『では、行きましょう』


 ソフィアを見送った後、ハヤト達は≪アサヒ≫の誘導の(もと)歩き出した。≪アサヒ≫の本体があるのはこのビルの地下二階だ。しかしそこには本来彼女の所有者(オーナー)しか行けないようになっているらしく、厳しい生体検査によって管理されているそうだ。そして直接彼女を操作するのもそこでしか出来ないらしい。だから≪アサヒ≫と会話するためだけの地下一階にある地下二階へと続く扉さえ確保していれば不審な行動をしようにも出来ないというわけだ。それで《アサヒ》の本体は守れる。


『ではエレベータに乗ってください』


 このビルには一つだけエレベータが存在する。それは一階のフロアを過ぎた少し先にあって、二階に上がるための階段の影になっているためにあまり目立っていなかった。

とはいっても普通に顧客や社員が使える物で先程もスーツを着た誰かが使っていた。


「ハルカ姉さんっ!置いてくよ!?」


「え?あ、待って!」


 涼しさで舞い上がったハルカを迷子にならないようにエレナが呼ぶ一幕があったが、全員がそこに乗り込んだ。これではどちらが姉か分からなくなってしまいそうである。

そして≪アサヒ≫は全員が乗ったのを確かめると再び話し出した。


『まずは普通に地下に向かうボタンを押してください。地下二階のボタンがありますが、そのボタンは死んでいるので気にしないでください。普段はある手順でボタンを押さないと地下に行けないのですが、まあ、そこは私がちょちょいっとやるのでご心配なく。元々ここが計画と建築だけで終わった小さなマンションの名残で、地下に駐車場用の空間があったようです』


「へえ、そういう所だったのか」


 この日本で計画性皆無の建築が為されるとは思えないので他に理由があるのだろう。もしかしたらそういう過程もあって比較的安く売り出されていたのをCONEDsが買い取ったという話もありそうな気がした。

まあ、ハヤトには土地の売買の知識はあまり持っていないので分からないが。


 地下に降りて扉が開くとそこには四畳ほどの直方体の空間があった。天井が有機照明で覆われており、壁や床も白いために非常に眩しく見える。しかしそれは錯覚のようだ。


「狭いねえ?」


「そうだな」


 ハルカの呑気な感想にハヤトも同意するように呟いた。壁に手を触れてみるが至って普通の樹脂で出来た壁だった。恐らく不燃性だろう。

そこに足を踏み出せば≪アサヒ≫が解説するように語り出した。


『ここは自由に出入りさせないようにするための検問室です。まあ、ただ単にどういう人かを識別するだけで社員の同意があれば簡単に一般人でも入れてしまうのですけどね。で、今回は私が通行を許可します』


 そう言うと目の前の何もなかったように見えた壁が扉となって開かれた。

 上手く行くのでしょうか――?


 本日も本小説をお読み下さりありがとうございます。


 それとスマホはクラッキングを受けやすいのは事実です。あのアプリとか、共有ワイファイとか。もしかするとその端末の中身全部がコピーされているかもしれませんよ?中には入国しただけで中身全部取られて、色々弄られて友達とか家族にも伝染するたぐいのものがあったり。

最悪、それが脅しに使われたりね。実際日本人が絶対知っているであろうあのチャットと電話ができるあれも変な噂がありますし(事実かどうかは知りません。普通に便利ですし)。

もしクラッキングされると簡単に顔写真は取られ、指紋情報も取られるので気をつけて下さい。それが取られると他の電子機器もその情報を元に簡単にクラッキングされます。


 地下に行く手順ですが、実は『管理者』、特に浜崎代表の遊び心が反映されていまして、その内容だけで一話書けるんですよね。番外編でいつか書きたいものです。


 感想、評価、質問お待ちしております。ブックマークもよろしくお願いします。


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