お願い
『今確認したところ、今現在警察の強制捜査がCONEDsで行われようとしているようです。これにCONEDsの最高権限保持者である『管理者』は警察に対応するしかなく、私の理念の下でCONEDsを存続させるための最善策はあなた方の力が借りることのようです』
「強制捜査?なんで?」
『爆破事件で犯人がいるのは浜崎前代表が殺されたという状況証拠から明らかです。そこで警察は様々な方面で捜査をしていたようですね。しかし外部犯の可能性が著しく少ないことからCONEDsに内部犯がおり、さらにCONEDs が危険物を無断で貯蔵していて、それが爆発を起こしたのではないかと推察したようです』
≪アサヒ≫の説明に警察側がどう考えているのかは大体分かった。しかし聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。
「内部犯だって?」
『はい』
≪アサヒ≫の言葉に全員の顔が強張った。考えなかったわけではない。しかし心のどこかでそれはないのでは?と思っていたのだ。なのに父を殺した犯人が父の仲間の中にいる。しかも未だにそれが誰なのか日本の優秀な警察にすら手掛かりを掴ませない切れ者だ。もしくは賢い人工知能の指令通りに実行したのかもしれない。
どちらにせよ、許せるわけがなかった。
「それは本当なんですか?聞きそびれていましたが、父さんを殺した人物を≪アサヒ≫は見ていたんですよね?」
「「あっ」」
ソフィアの質問に今更ながらハヤトとエレナは気づいた。≪アサヒ≫はCONEDsの存続のために様々な方面で自由を許されているはずだ。ならば侵入者のことも考慮して監視カメラにアクセスしていたに違いない。ならば父の最後だって目撃したのではないか。
『話がずれますね。ですが、すみません。私に出来る事は容疑者を絞り出すことだけです』
「え?なんでだ?」
『見えなかったんです。機密が規定の手順もなしに開封されかけてサイレンを鳴らした後、浜崎前代表が殺されるまでの間、誰もそこにはいなかったんです。浜崎前代表が誰かに話しかけて気づけば殺されていました』
「悪い。何言ってるのか分からない」
「見えなかったってどういうこと?」
意味不明だ。本当に≪アサヒ≫が言っていることが分からない。父は見えていたのに犯人だけが見えなかったなんてあり得るのだろうか?まさか幽霊か何かに殺されたわけでもあるまいに。
「音は拾ってなかったんですか?」
ソフィアがそう尋ねるが、画面の中の≪アサヒ≫は頭を振った。
『全てノイズだらけで隣の部屋や、廊下のマイクも全てそうでした』
「なるほど。そういうことですか」
一人納得したようにソフィアだけが頷いていた。答えを求めるようにハヤトとエレナは彼女に尋ねようと口を開けるが、それより早く出鼻を挫くかのように≪アサヒ≫が声を上げた。
『すみませんが、時間がありません。この話はまた後にしましょう。これから皆さんにはCONEDs第二ビルに行ってもらいます』
「えっと、うん。でもなんで?」
「第二ビル?」
それは爆発現場となった、父の死地たる場所だ。何でもビル自体への損害がそれほど大きくなく、ほとんど問題なかったことから今では通常営業を始めており、事故現場以外は全て元通りということだった。
しかし今からそこに行く目的が見えてこない。《アサヒ》は一体自分たちになにをさせようとしているのだろうか?お願いというのはそのことなのか?
『とにかく急いでください!出ないと戦況は悪化するばかりです!』
「お、おう」
半ば強引に≪アサヒ≫に促されてハヤト達はまた彼女が呼んだタクシーに乗ることになった。こうなる事態を想定して予め呼んでいたのだろうと推測される。
因みにハルカは爆睡していたがソフィアが科学魔法も併用して担ぎ上げて、タクシーに放り込まれていた。驚くべきことにぞんざいに扱われてもハルカは眠り続けていて、ハヤト達は無意識に呆れた顔をしてしまった。普通誰かに投げられて起きないほど鈍感なヒトがいるだろうか?
ハヤト達が乗り込むと直ちに、しかし静かにタクシーは発進していった。席順は助手席にソフィア、後部座席の進行方向左がハヤトで真ん中がエレナ、右がハルカである。
そして慌ただしい空気が無くなると≪アサヒ≫がハヤトの端末から話し始めた。
『お母さん達には連絡を入れておきました。それで本題ですが、今回の強制捜査は普通と少し違うところがあります。通常の場合、私に対しては警察は爆破事件の捜査のために情報を私から引き出すまでしかしないはずです。しかし今は絶賛クラッキングを受けている状態で、大国が介入していることは明白です。恐らく人工実存と世界有数の人工知能である私の情報を求めて手を出してきているのでしょう。情報は守っていますが、ここで問題が発生します』
「問題?」
『機密はなにも私の中にあるだけではありません。浜崎前代表を殺した犯人が狙っていたデータを保存しているデヴァイスのようなものも存在するのです。その防衛のために皆さんの力が必要です』
「いや、待て。これから僕らに何させようとしているんだ?」
先程から勢いに流されて思考停止してしまっていたが、今から機密の防衛のために第二ビルに行く?
少なくともハヤトはただの高校生で簡単な護身術くらいしか知らないのにだ。もちろん≪アサヒ≫は十分そのことを理解しているはずだし、そんな自分に一体何を求めているのか甚だ疑問だ。それに訝しむことしか出来ない。
しかし≪アサヒ≫は滔々と話し続けた。
『ソフィアさんには今のところ一番戦闘能力が高くビル内のことは大体把握していると判断しましたので、機密が記録された現物の確保を。ハルカさんにはその身体能力から私の本体の防衛を頼みたいです』
その言葉にソフィアが了承した。ハルカは未だに寝ていたが、半分起きていたのか眠そうに返事を返す。たぶんOKということだろう。
「私達は?」
エレナが問えば、≪アサヒ≫が即座に返答した。
『率直に申しましてハルカさんに私の本体を任せるのは色々と不安なのでその抑えをしてもらいたいのです』
「えっと?」
『ハルカさんはグンタイアリが獲物を片っ端から猛攻するようにその時の気分で躊躇なしに何か壊す傾向があるので、私自身がその獲物になりかねないんです。ですから……助けてください』
助けてくださいと言われて無視するのはどうにも背徳感を覚えずにはいられない。ハヤトもエレナもそういう質だったから二つ返事で返した。
「わかった。なんとかしてみるよ」
「任せて」
≪アサヒ≫がハルカをグンタイアリと比喩したのはきっとそれくらい彼女が危機感を持っている証なのだろう。でも確かに今まで見てきてハルカは気分屋だ。怒ると考えなしにソフィアのあばらを砕いて屋上から突き飛ばし、暑さから解放されてアイスを頬張れば途端に満面の笑みになり、眠くなったら寝る。どちらかといえば猫のような姉だ。
そう言えばたまに父さんが猫みたいに母さんに甘えることがあったな。
咄嗟に上げる声も、にゃっ!だったし。
意外とそういう猫っぽい所が似たのかもしれない。
『ありがとうございますっ!ああ、ソフィアさん以外も科学魔法を修得していてくれてればこんな危ない選択肢は選ばなかったのですが、仕方ないですね』
「ん?」
≪アサヒ≫の発言にハヤトは首を傾げた。彼女の口ぶりからしてソフィア以外は科学魔法を使えないみたいに聞こえたのだ。でもそれは違うことをハヤトは知っている。
「エレナも科学魔法を使えるんじゃないのか?それにハルカも屋上で飛び回っていたし」
そう。エレナはハヤト達を科学魔法で助けてくれたし、ハルカは屋上から屋上に飛んで壁を蹴りつつ走り回る様はどう見ても科学魔法とかの不思議技術がないと不可能な気がしたのである。
しかしそれが少し違うことをエレナが教えてくれた。
「ああ、違うよ。私が使えるのは〈再生〉だけ。あとはからっきしなんだよ」
「そうなのか?」
それは意外だ。魔法というロマン溢れるものを修得していないなんて。誰だって一度は憧れるようなものではないのか?そういうのにエレナは興味がない?それとも何か修得できない弊害でもあるのだろうか。
エレナは自嘲気味に言葉を紡いだ。
「まあ、今じゃ後悔してるよ。ちゃんと練習してたら連れ攫われるなんてことは起きなかっただろうし。皆に迷惑をかけることもなかった。自業自得だよ。……あ、それとハルカ姉さんは全部素の力だから」
「マジかっ」
ハルカの身体能力に心底驚きながら、ハヤトは気づいた。最早日常が遠いもので、自分の人生がおかしな方向に進みつつあることを。そして不意に見上げた青空を見上げながら思った。自分はこれから何に巻き込まれて、何をしたいと考えているのか。
それはまだハヤト自身にも分からない。
ハヤトたちも世界のあり方に巻き込まれていく――。
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