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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 第四章 宿命を背負う少女 ~Outrageous ~
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再び

 ハヤトは横浜の街を駆けていた。真昼から学校を飛び出し、先生の制止の声さえも無視して走っていた。


 教室を飛び出した時は流石に騒動になったようだ。それにあまりにも必死だったから廊下を歩いていた人を突き飛ばしてしまい、よく見たらそれは校長で、しかも彼がよろけた時に飾りとして置いてあった、校長お気に入りの十二支の(ひつじ)の彫刻を割ってしまった。

それでも背後から浴びせられる怒声に内心謝りながら無視する。この後、何の処罰を受けるのかヒヤヒヤしていた。

それでも心の奥底では怒りを孕みながら叫ぶ。


 どうしてまたこうなったっ!、と。



            †



 時は少し戻り、週明けの月曜日の夕暮れ。ハヤトは久しぶりの学校から帰宅の()に着いていた。

滞りなく終わった父の葬式とか色々あって四連休も取ってしまい、物凄く忙しい日々だった。そのため学校に来た時は一週間以上来ていなかったような錯覚さえ覚えてしまった。それでも事情を知っているクラスメイトや先生はいつものように接してくれて、そこまで気まずい空気は一切なかった。


「でも、疲れた〜」


 ハヤトは肩の凝りをを解すように肩回しする。


「何かあったの?」


 隣で同じく歩いていたエレナが問いかけてきた。今、エレナはハヤトとは違う学校の制服に身を包んでいる。何かとハヤトの中では彼女のイメージとなっているセーラー服だ。たまたまそういう服を最近選んでいただけらしいが。

ちなみにエレナとは横浜駅で偶然逢って、そのまま一緒に帰っているところだ。


 エレナの質問にハヤトは腕をクロスさせて肩伸ばししながら答えた。


「あぁ、今日水泳だったんだよ。腕使いすぎてしんどい……」


「大変だね」


 ハヤトも真夏の炎天下の下を歩いて「涼しい」と歓声を上げる頭がおかしい地獄のような部活として知られるバドミントン部に所属しているから、体力面では結構自信があった方なのだ。

しかし地上と水中では使う筋肉が違うのか、非常に疲れてしまった。それでも水泳の競争でクラス二位になれたことは良かったかもしれない。


「私も明後日水泳があるんだよね。ああ、なんかやだなぁ」


「やっぱり疲れるから?」


「それもあるけど、周りの視線が……ね」


 言われて改めて思う。エレナはどこから見ても美少女だ。胸はそこまで大きいとも小さいとも言えないが、バランスの良いスタイルで、顔立ちも整っている。美しい白銀の髪に、日焼けを感じさせない白い肌。柔和な微笑みは人の心を鷲掴みにしてしまう。

そんな彼女が水着を着て泳ぐ様はきっと眩しいほどに美しく、水に濡れて妖艶さも醸し出しているかもしれない。


 そんな彼女の艶めかしい姿を幻視してしまった。


「ねぇ、今変なこと考えたよね?」


「い、いや?そんなことないよ?」


「まあ、ハヤトにはいいか」


 その言葉が意図することは分からないが、ハヤトはごまかせたと捉えることにした。

その後は特に話すこともなく、静かな時間が流れる。その沈黙は気まずいものではない。落ち着いた、心地良いものだった。もう一週間近くも一緒に住んでいれば慣れてくる。最初こそどう振る舞って彼女と接すればいいか悩んだものだが、自分でも意外なほどの適応力でハヤトは彼女の存在を受け入れていた。

ただあまりにも接近されると冷静さに欠けてしまうが。


「ハヤトってさ、夢ってあるの?」


 不意にエレナが砂色の空を見ていた視線を落とし、そんな質問と好奇心の詰まった目を向けてきた。


「え?なに、突然」


「いやぁ、だってハヤトに出逢ってからずっと忙しかったじゃん?あんまり今のハヤトを知らない気がするなぁって思ったの」


「ああ。そういえばそうだな」


 確かにエレナとはランドマークタワーに行った時に色々話したが、その中に自分のことやエレナのことはそんなになかった気がする。あの時は父が死んで、花楓とどう関係を改善させれば良いのかばかり考えて、会話どころではなかったのだ。だからあの時話していたのはほとんど父由来の薀蓄(うんちく)の語り合いだった。


 今から思えばつまらないし、姉とは言え女性と二人きりでするような話題ではなかった。

仮にあれがデートならフラれていただろう。


「う〜ん。夢かぁ」


 そう言えばあまり考えたことがなかった。

父のおかげで知識はあってもこれといった特技もないし――強いて言えば少し周りより何かを習得するのが早いのが特技と言えるのかもしれない――、熱中できるものも持っていない。

だからこれがしたいと明確に思ったことがなかった。


「エレナはどうなんだ?」


 思いつかなかったため、エレナに聞き返した。逃げと言えば逃げではあるが沈黙するよりかは良いと思ったのだ。


「私?私はもう叶っちゃったからなぁ……」


「そうなのか?」


「うん。沢山あるけど、その一つは叶ったよ。ハヤトたちともう一度暮らすこと」


 本当に嬉しそうに笑顔を咲かせる彼女はその髪のせいもあってとても輝いて見えた。それを思わず見つめてしまう。本当に綺麗で、見惚れてしまった。


「で、ハヤトの夢は?」


 改めて訊かれて少し頭の中を整理するのに時間を要してしまった。見惚れたために思考が霧散してちゃんと考えていなかったのは秘密である。


「そ、そうだな……。平和でありますように、かな?」


「平和?平和かぁ……。でもそれって”お願い”じゃない?」


「そこまで変わらないだろ?」


「まあ、それもそっか。最近物騒だもんね。私もそう思うよ」


 父が死んでからというものの関係性は不明だが首都圏で事件が急増していた。その多くが実弾を使ったテロ未遂のことが多く、中には銃撃戦に発展しているところもあるらしい。そしてその規模は警察が取締を強化するほどだった。あのCONEDs爆破事件みたいなことを再び起こさせないためであろう。


 そんな時、不意にエレナが何かを思い出したように、あ、と声を漏らした。


「そうだ。明日ハヤトの学校行くんだけど、逢えるかな?」


 唐突なエレナの発言に瞠目してしまう。思わず聞き間違いかと思ってしまった程だ。


 エレナが学校に来る?

 なぜ?

 わざわざ来る理由なんてあるのか?


 ハヤトが答えないでいると、エレナは前屈みに腰を折ってハヤトの顔を下から覗き込んでくる。その顔はどこか悪戯(いたずら)を企んでいるかのようだった。


 不意の下から目線にハヤトの心臓がドクンと高鳴る。知らずうちに変な汗を掻いてしまった。流石にこういう情を掻き立ててくるような仕草には慣れていない。


「べ、別に良いけど?」


「やったっ。じゃあ、明日お昼くらいに行くから」


「お昼?」


 それには疑問を持たざるを得ない。明日も平日でエレナだって学校があるはずなのに態々昼に来る程の理由があるのだろうか?昼休みに来たとしても確か彼女の通う学校からはそれなりの距離があるから次の授業にも間に合わないだろう。


 しかしそんなハヤトの疑問に、これまた面白そうにエレナは微笑んで呟いた。


「明日着いたら連絡するね」



            †



 そして次の日の昼休み。ハヤトは持ってきた弁当箱を机に置いて校庭を見下ろしていた。窓からは夏の日差しが差し込んできてちょっと暑いのだが、それも今は気にならない。理由は昨日エレナが言ったことが気になってしまって、そればっかり考えているからだ。おかげで二時間目くらいから授業態度が疎かになって、正門のある校庭ばかりを見てしまう。

そしてこの昼食時も同じことをしているために弁当箱の中身は中々減らない。


 それを不思議そうに向かいに座った美枝がハヤトを見つめながら声を発した。


「どうしたの、ハヤト?外ばっかり見て」


 その声に我に返って、ハヤトは慌てて笑顔を浮かべる。でも急だったからきっと少し引きつっているかもしれない。


「いや、何でもないよ」


「まさか恋煩いか?」


「ハヤトが恋っ!?」


 冗談交じりに健二がそんなことを述べてくる。それを聞いて隣で美枝が絶句するもんだからハヤトは強く(かぶり)を振った。


「いやいや、違うから。ただ今日僕の姉さんがここに来るらしくて、ちょっと気になってたんだ」


「へえ、なんでまた?」


「さあ?教えてくれなかったんだよ。なぜか」


 本当になぞだ。エレナは何の用で来るのだろう?


「そういえば、ハヤトにお姉さんいたんだ?」


「ああ。同い年で、別の高校に通ってるんだ」


 そう応えてふと思った。もし分かれて暮らすようなことがなかったら、ずっと一緒にいたら、同じ高校に通うこともあったのだろうか、と。そしたら朝同じ時間に家を出て、同じ電車に乗って、もしかしたら同じクラスだったかもしれない。

そんなあったかもしれない空想を思い描いてしまった。


 まあ、そんなことはなかったわけだけれど。


 それからは他愛もない話をしたり、今度行くライブの話なんかをした。そして、昼休みが終わろうという時にハヤトの端末が震えた。


『ハヤトさんっ!。お母さんから電話ですよ!』


 机の画面に映った《アサヒ》が少し大きめの声で教えてくれる。その声の大きさに思わず周りに先生がいないか確かめてしまった。ハヤトの通う横浜珀蓮高校では端末の個人使用は禁止されているのだ。もし見つかったら生徒指導室で生徒手帳の中に記載されている”生徒の心得”という校則事項を10回紙に写すという罰がある。校則事項事態が5000字はあるはずだからもはや地獄である。


 しかし《アサヒ》がいつもより必死そうだ。なぜだろう?ハヤトも何故か急がないとと思ってしまった。


「ありがと」


 そんな学校の規則を知っているのだが、ハヤトも隠れながら電話に出た。それをさり気なく美枝と健二が身体の位置を変えて隠してくれる。実はこの学校の生徒の間では、誰かが端末を使っている時は皆で先生の監視の目から隠してやろうという一種の黙約があるのだ。これはあまりにも規制を強くしすぎた反動なのかもしれない。


 毎回誰かが端末を弄る度にアメリカの禁酒法適用下のアメリカ人の気分になるのは自分だけだろうか?当時は禁酒法のせいでマフィアが繁栄したのだから規制を掛けすぎるのは反って喜ばしくないことが起きる原因だと思う。


 まあ、端末で何か悪いことが起きるかは分からないが。


 見れば、先生が来ないか廊下を監視してくれている生徒までいる。よくよく考えたらこうやって不良学校が生まれるのかもしれないとも思ってしまった。


 端末を掛けて、母の電話に応答する。


「もしもし?」


『ハヤトッ!どうしようっ!?エレナが、エレナが――――ッ!!』


「母さん!?どうしたんだっ?エレナがどうかしたのかっ!?」


 電話越しに聞こえてくる母の声音は誰が聞いたとしても動揺しているのが分かるほどに乱れていた。そしてそれと共に鼻を啜る音が聞こえてくる。

様々な不穏な想像が脳裏を過ってハヤトも呼吸が乱れそうだった。


 例えば、交通事故、通り魔、突然の病気……。こんな嫌なことばかり思い浮かんでくる。

気づけば手を固く握りしめていた。エレナに一体何があったというのか。


 母はもう既に泣き始めており、途切れ途切れにその事実を言葉にした。


『エレナが……っ!エレナが攫われたの……っ!』

 再び事件が起きて――。


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