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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 第三章 残された家族 〜Reconciliation 〜
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後悔と儚い勇気

 花楓がそのまま立ち去った後もハヤトは呆然としていた。

気づかなかったわけではない。けれど花楓に言われて自分が本当に悲しんでいるのか疑問に思ってしまった。


 悲しいのなら普通は泣いているはずではないのか。

 胸が痛くならないのは、どうしてなのか。

 分からない。

 僕は、何を考えているのだろう。


 とりあえず花楓が残していった食器を洗うことにした。彼女はあの後涙を流しながらどこかへ行ってしまった。流石に追いかけることは出来ず、ここに残るほかなかったのである。


 喉の乾きなど忘れていた。ただ、今の自分が何を考えているのか知るのが怖くて、黙々と作業が出来る食器洗いに手を付ける。()えて機械には頼らず、自分の手で磨いていく。一枚一枚確実に綺麗になっていった。しかしハヤトの悩みは一向に拭えない。


 そんなところへやってくる軽快な足音が聞こえてきた。

顔を上げればこちらの様子を伺うように台所を覗く青銀色の色彩がある。


「大丈夫?その……大きな声が聞こえたけど」


 エレナが心配そうに問いかけるが、目を合わせることが出来なくてハヤトは俯いてしまった。


「何でもないよ。ちょっと……花楓とケンカしただけ」


 その応えにどう返して良いのか分からないエレナは少しの間沈黙した。そこにハヤトが問いかける。自然と食器を洗っていた手が止まっていた。


「なあ、エレナ」


「なに?」


「僕は、悲しくないのかな?」


 こんなこと、彼女に聞いてもなんにもならないことは分かっている。他人の気持ちなんて誰にも分かるはずがないのに。それでもこの不安を一人で抱えるのが怖くて、言葉にしていたのだ。


 対してエレナは悲しげな目を向けてくる。そしてハヤトの傍らに歩み寄ってきた。


「ハヤト。明日時間取れる?」


「ん?まあ、取れなくはないけど……」


「じゃあ、一緒に出かけよう?」


「え?」


 突然そんな提案をしてくるものだから、彼女の意図が全く読めない。けれど断る理由もなかった。午後の火葬と、白井研究室に行くこと以外予定は何もない。午前中なら白井研究室での治療の後、数時間は取れるだろう。

だからハヤトは了承するように頷いた。


「ハヤトの治療が終わったら行こうね」



            †



 次の日の朝。時計の短針が8を過ぎても花楓はベッドに埋まったまま起き上がろうともしなかった。学校も葬式があるからないけれど、現実逃避をするように目を瞑っている。時折下階から声が聞こえてくるが、それを聞きたくなくて、さらに布団を被った。

そして昨日兄に言ってしまったことが何度も何度も頭を(よぎ)る。


 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

 本当はそんなこと思ってないのに。

 皆笑って過ごせる日常があれば良かったのに。

 嗚呼(ああ)、私最低だ。

 もう顔を合わせられないよ。

 特にお兄ちゃんには。

 もう生きてけないよぉ……。


 しかし昨日は早く寝てしまったせいでいつもは眠いこの時間でも目が冴えている。どんなに必死に目を瞑っても横になりっぱなしの身体からは、早く起きろ!の信号が絶えず鳴り響く。それを無視し続けていたらとうとう気持ち悪くなってきた。全身の筋肉が硬直してしまい、何度も寝返りを打つ。

そして。


「ンンンん。んんんんぅ。ぁぁああああっ、もうっ!!」


 掛布団を両足で吹き飛ばし、その勢いで上体を起こした。


 流石に限界だった。気持ち悪さでいっぱいの全身を柔軟の要領で解していく。そうでもしないと吐き気が出てきそうになった。

下手したらそのまま病気になりそうなほどに。


『お、おはようございます。大丈夫ですか?』


 声のする方を手をぶらぶらさせながら睨むように向く。すると睨まれた彼女――また勝手にパソコンを起動させた《アサヒ》――は視線に怯えたようにオロオロした仕草をして声を発した。

それだけ涙で目元が腫れて怖い顔になっていることを暗に伝えているのだろう。しかしそんな思惑など花楓は気づきもしなかった。


『え、えっと、気分でも悪いのかなぁ、って……』


 誤解なきように言っておくと、《アサヒ》は別にハヤトのものではない。浜崎家全員が共有するサポート人工知能(AI)だ。これはあまりにも《アサヒ》が便利だったためにハヤトたちの父が共有しようと言ったためだ。だからどこに居ても別に気にすることはないのだが、ハッキリ言ってしまうと彼女に対してはプライバシーなんて通用しない。日常生活もネットの検索履歴も全部見られ放題なのだから。


 まあ、彼女が人工知能(AI)で、誰にもそのことを言わないことは分かっている。情報漏洩もしないからやはり気にすることではないが。


 因みに言っておけばこの家の誰のものでもないのだが、今は関係ない話である。


 花楓はそんな人間臭い人工知能(AI)を見て睨んでいたことに気づき、ため息を漏らした。


「ごめん。なんでもない」


『昨日のことでしたら、少しは力になれますよ?』


 なんでもないと言ったはずなのに首をツッコんでくる《アサヒ》。しかし花楓は自分から話を切り出すのが怖かったので、逆に安心していた。

内心誰かに話を聞いてほしかったのだ。


『何があったんですか?』


「見てたんなら知ってるでしょ?」


『ちゃんと口で言って下さい。少しは楽になるかもしれませんよ?』


 確かにそんな話を聞いたことがある。利点があるとすれば自分で言葉にすることで、頭の中でこんがらがった考えを整理できることだろう。気持ちと望みと現実を整理できるのは結局自分だけなのだから。


 それからぽつりぽつりと昨日起きたことを話していく。話しているうちに少しずつほんの少しだけ不安が減っていっていくような気がした。バラバラになっていた感情という紙が本に纏まって、その本が本棚に仕舞われていくようなそんな感覚だ。《アサヒ》は静かに聞き、時折相槌を打って巧みに話を引き出してくれる。


 謝れば良いのだと離している内に思い至った。しかし謝り行こうとは思ってもやっぱり勇気が出てこない。あんなことを言ってしまったのだ。話も聞いてもらえないかもしれない。

それにどんな態度を取られるのか、とても怖かった。


「これからどうしよう……」


『勇気を出して謝ればきっと許してくれますよ!だって、家族なんですから』


「そうかなぁ?」


『そうですよ!』


 ≪アサヒ≫がそれが当然とばかりに真剣な眼差しで強くそう言うものだから、花楓の中でも何となくそんな気がしてきた。また、これも何となくこれから上手くいくような予感がしてきた。

それはたぶん目の前の濡れ羽色の髪の少女の目が自信に溢れ、自分の言葉を信じて止まないという顔をしていたからだろう。

無意識に花楓もそれに釣られ、誘導されたのだ。


 そして花楓は勇気を出すために両の拳を握り、よしっ!と一言呟く。


 ≪アサヒ≫がやったのはAI がよくやる人間の誘導――アナログハック――の初歩なのだが、花楓は父の影響か≪アサヒ≫を信用していた。誘導されてもそれはきっと花楓のためになることだと確信しているから《アサヒ》を信じているのだ。信じているからこそ勇気が出てきた。


「わかったっ!これから謝って来るっ!」


 そして花楓は自分の部屋を飛び出し、リビングまで駆けると勢いよく扉を開け放った。扉が壁に叩きつけられて騒音が家内に響く。花楓がよくやることだからドアの立て付けが悪くなってきているのは別の話。


「お兄ちゃんっ!いるっ!?」


 しかし目当ての兄の姿はどこにもなく、テレビの無意味な音声だけが聞こえてくるばかりだった。


「ハヤトならエレナと出かけたよ?」


 台所から母が教えてくれる。それを聞いて、花楓は出鼻を挫かれたような気がして、高まっていた自信が一気に萎えてしまった。さっきまでの勢いだったらすぐにでも兄に謝れたであろうが、いないとなってしまっては謝りようもない。

しかも電話なんて失礼だし、誠意が伝わらないから論外だろう。


 気が抜けて嘆息を吐き、花楓は力が抜けてふらふらとソファーに倒れ込んだ。


「どうかしたの?」


「ううん。何でもない」


 母が昨日のことを知っているのかは分からないが、それを語る元気も気力も失せてしまったのでテレビを見ることにする。クッションに埋もれた顔を横に向ければまたよくわからない国際情勢の話をしている。なんか隣の半島国家の領空侵犯してきた戦闘機を国防軍が撃墜して大変だと騒いでいるようである。


 だが、今はそんなことはどうでも良い。


 謝りたい。

 けど、お兄ちゃんは私に会いたくないのかな?

 だから出かけちゃったのかな?

 仕方ないのかな?

 もう、ダメなのかな?


 そしてこれからどうするか頭の中で考えながら、後悔の念と共に無意味な番組をだらだらと見ていくのだった。

 彼女の儚い勇気は消え、後悔だけが残る――。


 ちなみにここに出てきたアナログハックとは、「人間のかたちをしたもの(人間そのものとは限らない)」に人間がさまざまな感情を持ってしまう性質を利用して、人間の意識に直接ハッキング(解析・改変)を仕掛けることです。これは作家である長谷敏司さんの作品である『BEATLESS』に出てきた用語です。私にとってとても衝撃的な小説だったので、アニメと共に全部見ました。おすすめです。

あ、この用語はオープンリソースらしいので著作権とかの問題はないと思います。……たぶん。


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