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Futuristic Memory ――この世界に届けられた物語――  作者: 破月
未来の魔法編 第二章 科学魔法 〜Next stage 〜
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変人という名の狂人

「では、ハヤト君。私は仕事があるので戻りますね」


 ノアがそう言って軽く会釈する。慌ててハヤトも頭を下げた。


「あ、はい。案内ありがとうございました」


 ノアが部屋から出ていき、ハヤトは白井に連れられて奥の部屋に足を踏み入れた。予想外にもそこにはパソコンとベッドとソファーが置いてあり、テレビや清楚な家具が置いてある。実験室ではなく生活感のある私室であった。さらなる怪しい実験室を想像していたが少し拍子抜けだ。


 白井がパソコンの前の椅子に座り、ハヤトは白いソファーに腰掛ける。


「やっぱり驚いた?」


 白井がどこか自慢気に語りかけてくる。恐らく先程の生き物達のことを言っているのだろう。


「はい。でも、あれはなんですか?」


「あれはねぇ、私の作品なのですっ!」


 どこか誇らしげに、高揚したように捲し立て始めた。


「生物って凄いんですよっ!まず、四つの塩基の順番だけでちゃんと決まった身体ができる事、そしてそれがちゃんと受け継がれていくんですから興味が沸かない訳がありませんっ!そこで思ったんです。遺伝子のその順番を変えたら生物を思いのままに形を変えられるんじゃ無いかって!粘土細工のように変えられたらきっと凄いことができますっ!もちろん情報が膨大すぎて《アリア》の演算能力なしでは出来なかったんですけど、ついに神の領域に手が届き始めたんですっ!それからは実験の日々っ!凄く充実してますよ!」


 最後は両手(もろて)を上げてどこか光悦とした表情をしていた。彼女の話からするに、それで生まれた生物たちが、あれらなのだろう。道理で見たこともない生き物ばかりだと思った。


 早口過ぎて正直理解が追いつかなかったが、ハヤトは彼女から軽く狂気を感じ取った。自分はとやかく言える立場ではないが、もし自分たちに危険があるなら止めてもらいたい。

バイオハザードは絶対イヤだ。というかやりかねない。

でも、父が許可を出していたのなら大丈夫なのだろう。だから苦笑いしか出てこなかった。


 これが所謂、マッドサイエンティストか。


「ああ、やっぱりわかりませんか?…………そうですよね。それが普通ですよね」


 ハヤトの反応を見てどこか残念そうに彼女は俯いた。


「私の研究ってなんか理解されないんですよね。こんなにおもしろいのに。おかげでどこに行っても雇ってくれなかったんですよ。だからちゃんと話を聞いてくれて議論し合って雇ってくれたあなたのお父さんには感謝してます」


 その笑顔は寂しげで、過ぎ去った時間を思い返しているようだった、ハヤトも返す言葉が思いつかず、ありがとうございますとしか言えなかった。


 どうやら父はこの人に慕われていたようだ。それは嬉しくもあり、同時に悲しかった。本当ならここに父もいて、色んなことを教えてくれただろうに。

理解が及ばなくとも凄いと思えるようなことを語る父が好きだった。自分のことではないけれど、他人には出来ないことをやってのける父が誇らしかった。自慢の父だ。

しかし、もうそれは叶わないのだ。

もう二度と、逢えないのだから。


「あ、そう言えば治療の話でしたねっ。どこを怪我したんですか?診せて下さい」


 しんみりとした雰囲気を紛らわすように白井は笑顔で話を変えてきた。

エレナに事前に聞いていた通り、(うなじ)の辺りとその下の骨や神経系だと答えると、後ろ向きになるように言われた。  


「じゃあ、失礼しますね」


 ひやりとした金属の感触が首筋に当たり、咄嗟に身構えてしまう。


「身体を楽にしてね」


 白井は首に当てた計測機械のようなものを当てながらパソコンをいじり始める。そしてそれをずらすたびにパソコンで何かをチェックしていった。

暫く無言が続き、気になっていたことをハヤトは彼女に問いかけた。科学魔法のことである。


「エレナが、魔法とか言ってたんですけど、聞いても良いですか?」


「誰にも言わないなら、話してもいいよ。ちょうど、昨日の会議でハヤトくんの口封じをするってなってたし」


「口封じっ!?」


 それはアレだろうか。よく映画とかである、情報が洩れないために人知れず葬るという、あれ。

 え?

 殺される?

 まさか今ここで――――!?


「でも()()って使った後が面倒なんですよね。血が付着した時に簡単に洗える液剤がほしいです。今備蓄ないですから」


 恐怖を覚えて、さらに身を固くする。

警戒気味に白井を見つめていると彼女から笑声が溢れた。


「あははっ!そんなに怖がらなくてもいいですよ。殺すわけじゃないですから。まあ、でも話すとそれなりの処分が必要かなぁ」


「えっと……」


「話さなければいいってことです」


「じゃあ、血ってのは?」


「普通に血液検査のことですよ?私、たまに血を数滴服とか床に落とすんです。洗うのが面倒で」


 言い回しがあれだったから本当に本気にしてしまった。紛らわしいにもほどがある。処分が何なのかはかなり気になってしまうが、他人に話さなければいいのか。


「誰にも言いません」


「うん。まあ、結局教えることになることですし、教えてあげますよ」


 そして白井はハヤトの検査をしながら科学魔法について概要を教えてくれた。


「あなたのお父さんである浜崎代表は、あれを科学魔法と呼んでましたね。簡単に言うと科学魔法は(ちまた)で言うところの集合的無意識、深層意識、そして表層の、つまり普通にイメージした物の形を具現化するシステムなんです。簡単に言えば、考えたことをそのまま形として生み出せる技術ですね」


「イメージを具現化?」


 イメージしたものを形にできる。それは革命的な発明ではなかろうか。

人に言葉で何かを伝えることは中々難しいことだが、それがあれば自分が何を考えているのか簡単に伝達できるに違いない。


 ただ、理屈とかはさっぱり思いつかない。そもそも世界のどこの研究機関も脳の情報を正確に取り出せなくて行き詰まっているはずなのに、どうしてそんなことがこの会社は出来たのか。


 天才と変人の集まりだからなのだと思うことしよう。凡人には分からない。


 白井はそのまま説明を続ける。


「科学魔法はマナリウムと名付けたナノマシンを使って形を作るんです。まあ、実際の所ナノサイズまでまだ作れてないですけど……。で、それが組み合わさったり、霧散したりして形を作るんです。ほんとに形だけで本物を作れるわけではないです。でも、いつしかは空間そのものに干渉してみたいですねっ。数世紀

くらい掛けて」


 そこまで聞いて、素直に感心してしまった。これだけでも凄いのにまだその先を考えている。飽くなき探究心というのか。

きっと人類が進歩してきたのはこういう人たちのおかげなのかもしれない。


 自分もそういう没頭できる何かがあればいいのに。


 しかしハヤトは一つ疑問に思った。昨日、エレナが怪我を直したのも科学魔法というのなら、彼女が自らの血を使った時点でその中にマナリウムというナノマシンらしきものがあることは推測できる。しかしそんなナノマシンで人体を維持できるのだろうか?形だけでは細胞の機能は全く果たせないはず。

それは伐採した木をコンクリートでもう一度つなぎ合わせても上部は生きられないというのと同じ状態だ。


 だから素直な疑問を投げかけてみた。


「でも、そのナノマシンは形を生み出すのであって、細胞は作れないですよね?僕はなんで生きているんですか?」


 しかし白井はこともなげに答えた。


「それは簡単な話ですよ。そもそもこのマナリウムは動物の神経細胞を模してあるので、脊髄を接続して、強度も十分なので血管や骨の役割を形だけ一時的に担うことができるんです。時間が経ちすぎると劣化して拒絶反応とかが起きたり、マナリウムの結合が切れて崩れちゃいますけど……。だから応急処置です」


 検査が一通り済んだのか、首筋から金属の感触が消える。そして白井はハヤトのそばから離れた。


「はい。検査は終わりですね。結果だけを言うとかなりぎりぎりでした。あそこにエレナちゃんが居なかったら本当に死んでたかも。生きてるのが奇跡ですよ」


 パソコンをチェックしながら彼女はさらっと怖いことを言った。

正直淡々とそんなことを言わないでほしい。まさかあの場所で自分も死んでいたかもなんて絶対ごめんだ。実際死を覚悟したからその分怖いし、想像したくもない。

でも、同時に再びエレナに対して感謝の気持ちを抱いていた。

     

「うーん……。これ、治療できるのかなぁ……?」


「え?」


 唐突にパソコンを睨みながら言う彼女の発言に、とてつもなく不穏な気配を感じとってしまう。彼女の纏う雰囲気が先程と違って見えた。


 大丈夫、何だろうか?

 僕は死なないよな?


「あの……治療、できるんですよね?」


 恐る恐る尋ねると、白井は首を捻りながら考え込むように答えた。


「まあ……出来ないことは、ないですよ。ただ、ここまで損傷が酷いと、早くても全治六ヶ月ですかね?下手すると首から腐って首がもげるかも?」


「えっ!?」


 思わず首を手で押さえてしまった。

恐怖に飲まれたのが自分でも分かる。どうやらヒトは死の宣告よりも、その具体的な死に方を告げられる方がよっぽど恐怖するようだ。

自分の首が腐って落ちるシーンを想像してしまって、身震いしてしまう。冷や汗が背中を垂れて気持ち悪い。


 しかし白井はそんなハヤトを見て吹き出していた。


「あははっ。冗談ですっ。冗談っ。絶対にそんなことはさせませんから安心して」


 本当に冗談であってくれ……っ。


「それと、今は治療の準備が出来てないですから、明日また来てくれます?ハヤト君の予定には合わせるけど、今月は毎日治療しに来てほしいです」


「学校があるので、平日はできれば夜が良いんですけど」


「問題ないですよ。ここ、私の家なので」


 どうやら白井は研究室という名で表札を出しているにも関わらず自分の家にしているようだ。けれど好きな時に起きて、好きな研究をして、ほとんどをこの部屋で完結出来る暮らしはどこか魅力的だ。

今ハヤトが実践したら、ニートとか引きこもりだとか言われそうだが好きなことでお金を稼げるのならそれでいいと思う。


 父もほとんど外に出ることなんてなくて、会社に行かなければいけない日以外は家で猫のように余暇を過ごしていたし。それで家に帰った後はよくアニメを一緒に見たものだ。ついこの間のことなのになぜかとても懐かしい。


「あっ!そうです。ハヤトくんに渡すものがあるんです」


 少し待っててね、と言って白井は部屋を後にしていく。それに首を傾げてしまったが、数分の後に白井は戻ってきた。手に手帳を持って。


「これです」


「なんですか、これ?」


 それは分厚い表紙の頑丈な手帳だった。特に装飾も何もない。とりあえず気になって開けてみて、そこにあった文字を認めてハヤトは目を見開いた。


「これって……」


「はい。あなたのお父さんの手帳です。会議室に忘れてあったので、返しますね」


 表紙を開いたそこに父の名前が記されていた。間違いなく父の筆記だ。そしてもう一枚捲った時、またハヤトは驚いた。そこに書かれていたものとは、父からのハヤトに向けたメッセージだったのだ。


『ハヤト。これを読んでるってことは私がお前に口頭では言えない状況になっているということなんだろうね。もしかして死んでるのかな?さて、私がここにこれを記した理由だけど、お前の記憶についてだ』


 記憶?六年前に失った記憶だろうか?


『お前の記憶は戻らない。だが、失った経緯をお前は絶対知る必要があると思う。本当ならお父さんと、そして家族全員でその場所に一緒に行って、家族全員でその時のことを語った方がよかったんだけどな。ハヤトが大人になる前にこうなってしまったらどうしようもない。その内容はハッキリ言って残酷だし、知らない方が身のためだろう。それでもあの時何があったのか知るべきだと思う。だからそれをこの手帳に記す』


 でも、と続いて。


『これはお前だけの問題じゃない。家族全員の問題だ。だから家族全員の了承の上でその出来事を開示しようと思う。実は科学魔法という物を開発したんだが、それで作ったデータにその情報を入れておく。了承を確認する方法は最後のページにある魔法陣に家族全員が魔法で調印することだ。それを使えばそのデータは取り出せる。やり方諸々も一緒に書いておくから。まあ、誰かが教えてしまって意味がなくなるかもしれないが、面白そうだから作ってみた。知りたかったら皆を説得しなさい』


 面白かった、って……。

残酷とか、身のためとか言っておきながらその言い回しはなんだ?でも、父らしいと言えば父らしい。魔法陣のあるページを見てみると確かにそこにはファンタジーっぽい魔法陣が書いてある。けれど、アニメにある適当なそれとは違って文字の書き方がどこかで見覚えがある気がした。


 暫く考えてようやくそれに気づく。


 これ、プログラミングだ。


 そう。プログラミングのソースコードを絵画のように仕立て上げて魔法陣にしているのだ。たぶんだけどわざわざこの形にしたのはただ面白そうだったからだろう。父ならやりかねない。

しかしそれに気づいてしまえばソースコードがなんとなく読めてくる。でも学校で習うどのプログラミング言語とも全然違うから全部は分からなかった。


「どうするんですか?」


 白井はニコニコと笑って問うてくる。たぶんこの内容についてのことだろう。


「考えておきます」


 とりあえず最初にエレナに相談しようかと思った。あまり過去に触れてほしくはなさそうだったけど、これの存在だけでも伝えるべきだろう。

これは父の形見だから。


 そうしてその後、ハヤトは白井とこれからの予定について話し合っていったのだった。

 父の形見を手にし、彼は何を目指すのか――。


 さて、今回のサブタイトルは”変人という名の狂人”でしたが、これについて一言。世の中には凡人という者がいる。そして人類の中には天才と呼ばれる凡人とは隔絶とした能力を持つ者も存在する。そして彼らは一般常識を大事にしてそれを尊重するらしいです。しかし世の中には一般常識を無視したような、例えば極端な例ではマッドサイエンティストのような狂人がいます。で、その狂人について考察していくと彼らは凡人にはない才能を持っていますが、天才には程遠い才能しか持っていないそうです。

つまり、凡人と天才の狭間に位置しているというのです。私としては変人と呼ばせていただきます。


 マナリウムという科学魔法の根幹らしきものの説明がありました。イメージを具現化するものなのですが、これってよくよく考えたら相当危険な代物ですよね?下手したら放射能以上に厄介です。この先このマナリウムがどのように影響を及ぼしていくのか。お楽しみに。


 世界的に脳の情報を取り出す技術がないのにこの会社だけそれが出来る理由の一つはそれが倫理観度外視の技術だからです。侵入型の神経とダイレクトコネクトしたシステムなのです。危ないようにも思われますが、そういうことを普通にしてしまうヒト達なので、長く研究するためにも安全性は高いのでしょう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] えっ!?「口封じ=殺す」ではない??? どういうことなんだろう(;´・ω・) 6年前にいったい何があったのか……き、気になるーっ!
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