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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ
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第81話:プリトウェン

 

 銀色の光が輝くと同時に、魔法の盾は一瞬で鎧を纏った騎士へと姿を変える。

 髪に瞳、鎧も全て銀色で統一された彼は、その場に跪き俺に対しこうべを垂れる。


「お初にお目にかかります我が主人あるじよ……なんなりと……ご命令を……」


「あ、ああ……よろしくプリトウェン」


 彫りの深い顔からはとても力強い印象を受け、身体も大きく非常に頼り甲斐がありそうなのだが、その見た目とは裏腹に声がすごく小さい。

 自信が無さげ……と言えばいいのだろうか。


「冷たいだろうからもう大丈夫だよ。で、早速で悪いんだけど、君の力が……船が必要なんだ」


「ああ……なるほど……雪の上を走れと……」


 少し悲しそうな目をするプリトウェン。

 ゆっくりと立ち上がった彼はやはり背が高く、猫背であるにも拘らず俺より頭1つ分は大きい。

 そんな彼は1つため息をついた後、やはり自信無さげに呟いた。


「私……アーサー様に盾としてまともに使って貰ったことないんですよね……結構頑丈なのに……っていうかエクスカリバーさんが強過ぎるんだよなぁ……あの人ずるいんですよ? 敵の攻撃だって巻き戻しちゃうんだから……盾意味ないじゃんっ……て感じですよホント……ああ、別に嫌いじゃないんです。ただずるいなって……あ、すいません関係ない話をして……」


 な、なるほど……こういうタイプの人だったのか。

 どうやら盾としての自信をエクスカリバーに奪われたみたいだな……って、前にもこんな話を聞いた気がする。

 なんとか彼の自信を取り戻さないと……よし。


「プリトウェン……驚いたよ」


「え……? な、なにがですか?」


「いや……さっき君を持った時、本当にいい盾だなと思ってさ。君を持って戦いたいと……そう思わせる何かがあった」


「そっ……それっ! ほ、本当ですか!?」


 一気に食いついてくるプリトウェン。

 実際いい盾なのは間違いない。

 恐らく彼なら大抵の攻撃を防げる筈だ。


「本当さ。だけど、まずは移動しなければ敵と戦うことも出来ない……だから君の力を借りたいんだよ。それになプリトウェン……盾だろうが船だろうが君が優秀なことには変わりない。確かに君は盾だが……魔法の船になれる盾なんて君以外にいない。君はこの世に唯一無二の存在なんだ。だから、自信を持っていいんじゃないかな?」


「わ、我が主人あるじよ……」


 プリトウェンは大きな身体を震わせて涙ぐむ。

 目に光るそれを拭うと、さっきまでの表情とは違う、力強い瞳で俺を見た。


「分かりました……! 少々お下がりください!」


 彼はそう言うと、自身である銀色の盾を雪上に置いた。

 そうして彼が盾に手をかざした途端、盾は見る見るうちに船へと姿を変えていく。

 いや、船なのかこれは……?


「とりあえず5人が乗れるサイズにしておきました! さ、どうぞ皆様お乗りください!」


 現れたそれは普通の船とは違い、大きな銀の盾を2つ重ね合わせた様な形をしていた。

 盾によって全てが覆われている為、外部からの攻撃を防ぎながら移動できるようになっているらしい。

 大英雄アーサーの窮地を何度も救ったというのも頷ける。


「ほう、船でありながら盾という訳か……素晴らしいぞプリトウェン」


「お、中はあったけーじゃねぇか……やるなお前」


「これなら魔力を温存できますねぇ……すごいですプリトウェンさん!」


 みんなに褒められた彼は、身を震わせ喜びを噛み締めていた。

 少し猫背気味だった背中を真っ直ぐ伸ばし、彼は胸を張って声を張り上げる。


「我が名はプリトウェン! 我が主人あるじの旅路を護り抜く聖なる盾なり! あらゆる害を防ぎ切る我が箱舟に……乗り越えられぬ道は無し! いざゆかん……我が主人あるじの大切なものを取り戻しに!!」


 すっかり元気になった彼は力強くそう言ってくれた。


「ありがとうプリトウェン。道案内は俺がする。力を貸してくれ……リッヒヴェーク!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 リッヒヴェーク 聖杖


 女神が創り出した聖なる杖。

 非常に美しい杖で、古くから信仰の対象として崇められている。


 邪を除ける効果があり、持ち主に正しき道を指し示す力を持つ。

 頭の中で見える黒い光に触れない限り、持ち主は災いからその身を防ぐことが出来る。


 武器ランク:【SS】

 能力ランク:【S】



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺の呼び掛けに応え、手帳から美しい杖が姿を現した。

 透明な水晶の様なもので出来たその細身の杖に魔力を流し込むと、頭の中にいくつかの黒い光が浮かび上がる。

 それは俺に仇なすものを指し、その黒い光を避けることで脅威を避けることが出来るという訳だ。

 この吹雪の中にいる魔物がどれだけ魔族の為に行動するかは分からないが、見つかれば知らされる可能性もあるし、その度に魔物をいちいち倒している暇もない。

 リッヒヴェークの力なら無駄な戦闘を避けることが出来る。


「よし、プリトウェン……出発しよう」


「お任せあれ! では行きますよ!」


 彼が両手を床に広げ魔力を込めると、雪の上をすべる様に盾船は静かに動き出した。

 内部からは外の様子が薄っすら見える様になっており、周りに注意して移動することが出来る。

 これ本当に便利だな……寒さもほとんど感じないし、しかも速い。


主人あるじよ。必ずあなたを無事に運び切ってみせます」


 最早最初に見た彼とは違い、その姿は自信に満ち溢れていた。

 そんな頼もしい笑顔を見せる彼に笑顔で返し、俺は強く拳を握り締めた。

 流れて行く景色に胸が高鳴る。

 冷静に……気を落ち着けろ……。

 その瞬間に全てをぶつけてやる。

 レヴィ……今度は俺の番だから。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 四眷属。

 それは、魔王配下最強の4人を表す総称。

 歴代最強と謳われる魔王ゼノの陰に隠れてはいるが、それぞれが突出した戦闘力を持っている。

 その実力は、仮にSSSランクが相手でも引けを取らないと言われていた。


 燃え盛る激情のカルラ。

 飄々と残虐なベルシュタイン。

 幼げで邪悪なアミィ。

 そして、四眷族最強のハドラス。


 それぞれが特異な魔術を持っており、魔王からの信頼も厚い。

 そして彼らもまた、その強さ故に魔王を心から慕っていた。

 四眷族は基本的に自由な行動を許されている。

 ハドラスとアミィは気が合うのか、昔から2人でヴァルハラに赴いては人間の動向を探っていた。

 カルラは多数の配下を持つ軍団長であり、日夜兵達の鍛錬に余念がない。

 ベルシュタインは単独行動を好み、強い者と戦うことが趣味である。


 以前に町を二つ名持ちの魔物に襲わせたのが彼らであり、人間世界の様々な情報収集も合わせて行ってきた。

 彼らにはそれぞれ配下の魔族もいたのだが、インヘルムで報告を待つだけというのが性に合わず、自ら度々ヴァルハラへと足を運んでいる。

 そのおかげでレヴィを発見するに至り、ヴァルハラ侵攻が本当に手の届くところにまで近付いたのだった。


 ハドラスとアミィがエアルを使い、ニーベルグ闘技大会で盗ませたのは闘技大会の参加者リスト。

 それはもちろんレヴィの名前を確認する為であると同時に、その同行者であるロードがどの町の出身でどんな人間なのかを探る為であった。

 そうして配下の魔族が使う追跡能力でロード達の位置をある程度把握していたのだ。


 ケルトを出た後の足取りから、彼らがイストに向かっているだろうと踏んだハドラスは、彼らと顔見知りになっていたエアルを再び金で雇う。

 油断し切ったところで彼女にロード達を襲わせ、無傷でレヴィを捕らえることに成功した。

 その際、最早用済みとなったエアルはアミィに喰われてこの世から消えてしまったが、それは魔族と知りながら、金に目が眩んで協力してしまった彼女の自業自得と言えるだろう。


 そうしてレヴィを捕らえたことで、ヴァルハラでの仕上げを終えた4人全員がインヘルムへと戻ってきていた。

 4人が一堂に会するのは、基本的に魔王との謁見時のみ。

 故に言葉を交わすことはほとんどなく、謁見時以外で集まったことなど最早何百年前かも分からなかった。


「久し振りだねぇ。こうして机を囲むのも」


 ハドラスはニコニコしながらそう口を開く。

 魔族にしては物腰が柔らかく、とても魔王に次ぐ実力を持つ者には見えない。

 しかし、戦闘面での優秀さは誰もが認めていた。


「あたしはあんたの顔見飽きてるけどね」


「ふっ……お前らの夫婦漫才が懐かしいわ」


 そう言いながら笑ったのはベルシュタイン。

 名のある冒険者を何人も屠り、人間の弱体化を進めてきた彼はヴァルハラで〝二つ名狩り〟と言われ、人間に恐れられている。


「誰が夫婦よ! ふざけたこと言わないでくれる!?」


「相変わらずだな貴様らは。腕は落ちていないようだが……もう少し緊張感を持て」


 呆れたように語るのはカルラ。

 美しい見た目とは裏腹に苛烈を極めるその戦い振りは、人間だけではなく魔族すら震え上がる。


「君も相変わらずお堅いねカルラ。すぐキレちゃうのも変わってないのかな? 兵が君を見る度怯えていたね」


「ちっ……! あの軟弱者ども……!」


「ははっ! おっと、そんな話をする為に集まった訳じゃなかったね。レベッカの再教育は順調……とは言えないけど進んではいる。そろそろ計画を纏めておこう」


「馬鹿な女よねぇ。逃げ出した挙句捕まって、自分じゃないものに変えられる……今までの生きた証が全部消えちゃうんだから」


「魔族としてはクズ同然よ。魔王様のお気に入りでなければ斬って捨てたものを……」


「まぁよいさ。これからは魔王様の操り人形として、自分が愛した人間を殺す魔物となるのだからな。逃げ出した罰には十分だろう」


「そうだね。結局誰も運命からは逃れられない。魔族はどこでどう生きようが魔族。まぁ、彼女が生きていてよかったじゃないか。だって、おかげで人間を滅ぼせるんだから。ありがとうレベッカ。君は人間を殺す希望の光……いや、闇か」


 4人はそれぞれ歪んだ笑顔を浮かべる。

 レヴィがどうなるかなど、彼らにとってはどうでもよかった。

 単純に人間を殺す道具が手に入ったという、ただそれだけの感情。

 タイムリミットは、もうすぐそこまで迫っていた。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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