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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ
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第75話:ティーターン

 

 家の裏手にある林の中。

 道すがら綺麗な花をいくつか摘ませてもらい、小川で木のバケツに水を汲んだ。

 いつ以来行っていないだろうか。

 無能と呼ばれてからは一度も行っていないから3年以上……ひどい親不孝者だ。

 2人とも怒っていないといいのだが。


 暫く歩いていなかったその道は以前よりもだいぶ荒れていた。

 かつては毎日泣きながら通った道。

 だが、いつしかそんな気力も無くなってしまい、ここを歩くこともなくなってしまった。

 そうして頭の片隅に追いやられ、2人には頭の中で恨み言すら……。


「はぁ……」


 それを思い出すと情けなくなる。

 2人とも本当に優しかった。

 俺を愛してくれていたし、俺も愛していた……いや、今でも愛している。

 2人は小さいながらも商店を営んでいた。

 その店だけはどうしても売れず、今もそのままの状態で町に置いてある。

 中はすっからかんだけどな……。


 あの日、2人はいつものようにヒストリアに買い出しに行き、結局そのまま帰ってこなかった。

 最後の言葉はいつも通り〝行ってきます〟と〝行ってくるわ〟。

 それだけ。

 それで終わり。

 もう二度と話せなくなった。

 いつだって死は突然だ。

 せめてもの救いは亡骸が帰ってきたことくらいか。

 顔は綺麗なままだったしな。


「ふぅ……久しぶり……母さん、父さん」


 林の中にある少し開けた場所に着く。

 俺の目の前に2つの小さな暮石が並んでいた。

 この下に俺の両親が眠っている。


「あー……やっぱり汚れが酷いな……ごめん」


 謝りながら持ってきた布で暮石を磨く。

 川で汲んだ水をかけて一生懸命擦った。


「あ、よかった。擦れば落ちる」


 俺はせっせと墓を磨く。

 ふと、生命魔法が頭に浮かんだ。

 生命魔法は死んだ人を生き返らせることは出来ない。

 そんなことは分かっている。

 分かってはいるが……。


「ダメだよな……」


 やったところで何になる。

 精々骨が動くだけだろう。

 悲しいだけだ。

 それに、思い出は生きている。

 それでいいじゃないか。

 忘れなければその人は死なない。

 まぁ忘れてたけど……思い出したから生き返ったことにしよう。


 墓の掃除が終わり、摘ませてもらった花を添える。

 うん……綺麗になった。

 俺はその場に跪き手を合わせる。


「母さん……父さん……暫くこないでごめん。色々あってさ。大変だったんだよ……死のうかと思った。というか死のうとした。けどね、今は幸せなんだ。だから……頑張るよ俺。見守っていてくれ。あの世で自慢出来る息子になるからさ……じゃ、また来るよ」


 俺は立ち上がり、膝についた土を払う。

 よし、行くか。

 そうして振り返ると……そこに3人が立っていた。


「あ……」


「ごめんロード……」


「気になってついてきてしまいました……」


「ロード様……申し訳ありません……」


 みんな泣いていた。

 恥ずかしいから1人で来たかったのに……。

 全部聞かれたんだな……まぁいいか。


「ったく……じゃあ、せっかくだから両親に紹介させてよ。みんなこっち来て」


 俺の紹介する姿に暮石が照れているような……そんな気がした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ロード! よく帰ってきた!」


「ロードさんおかえりなさい! レヴィさんも!」


「ガガンさん、エリーさん、お久しぶりです」


「ご無沙汰致しております」


「アスナ……無事でよかった。ここなら心配いらねぇ。俺達が守るからよ」


「ありがとうガガンさん……」


 墓参りを終えた俺達はギルドに顔を出しに来ていた。

 ギルドには何人かの冒険者がおり、皆昼間から酒を飲んでいる。

 今日はあまり依頼がないのだろう。

 まぁ元々イストは比較的平和な地域だし、昔からこんなもんだったけど。

 あれ……? あの後ろ姿……なんか見覚えが……。


「ロード! こっちだこっち」


「あ、はい!」


 俺はガガンさんに促されるままにギルドの奥へと入っていった。

 一旦通信部屋に入って魔石をリンクさせた後、ギルドマスターの部屋へと案内される。

 部屋はきちんと整頓され、無駄な物のないシンプルな部屋だった。

 ガガンさんは見た目によらず結構綺麗好きらしい。


「さ、ゆっくり聞かせてくれ。今世界で……何が起きているのかを」


「はい、分かりました」


 俺はこれまでのことを話す。

 といってもガガンさんには大体説明していたので、細かいところを話すだけで済んだ。

 なので今度は逆に俺が聞きたいことを聞いてみた。


「後はお伝えしている通りですね。で、こっちでは何か異常ありましたか?」


「そうだな……別段変わらないな。強いて言えば魔物の数が減ったくらいか」


「魔物の数が……急にですか?」


 また何か異常が……。


「いや……なんていうか……ティアがね」


「え?」


「ティアが魔物を狩りまくってて、それで魔物がいなくなってきたんだ……マジで」


「ええ!?」


 そ、そうだったのか。

 てっきりまた何か魔族の思惑でもあるのかと思っていたが……。


「ティア凄いな……そんなに強くなったのか」


「えへへ……まぁ、一応……」


「今じゃBランク冒険者で、うちのギルドじゃ最強だぜ? この間なんかティアが町を救ったし、流れの冒険者を助けたのも最近だったよな?」


「そんなこともありましたねぇ……」


 腕を組んで目を瞑るティア。

 ちょっと会わない間にそんなことが……。

 強くなったんだな。


「最初は魔物見ただけでぎゃーぎゃー泣いてたのにな」


「ちょっ! ガガンさんそれは内緒って言ったじゃないですかっ!」


「そうだっけ? 忘れちまったよ! がはは!」


 きっと今ティアが笑っていられるのはガガンさんを始めとした町のみんなのおかげだろう。

 アスナもこれなら安心だ。


「で、ロードとレヴィはまた旅に出る訳か」


「ええ、まぁ……次は北に向かってみようかと」


「北っていうと……ティーターン付近か? あそこはモンスターも少ないし、今じゃ5大国家と呼べるか怪しいとまで言われる始末……治安は最悪だぞ。つーか、いつ戦争が始まってもおかしくない状態だ」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ティーターン。


 北の大地ほぼ全てを領土とする大国であり、5大国家の1つ。

 かつてはオリンポスに匹敵する強国であったが、モンスターが少ないせいで逆に衰退していった国である。

 魔物やドラゴンにとって人間が貴重なエネルギーであるように、人間にとってもそれらは貴重な資源。

 皮肉な話だが、モンスターがもたらす経済効果は決して少なくなかった。

 それはモンスターがいる地には必然冒険者が流れてくるということに他ならない。


 例えばケルトではモンスターの資源に加え、冒険者が宿に泊まったり、飲み食いしたり、そこに永住したりといった様々な恩恵を冒険者から得ている。

 今ではオリンポスに次ぐ第2の国としての地位を確立しているのは、〝ケルトで名を上げた者は大成する〟といった格言が生まれる程に冒険者に愛され、冒険者経済の頂点にいるからだと言えるだろう。


 ティーターンはモンスターがあまり狩れない分、鉱石や魔石といった所謂いわゆる地下資源で国の財政を支えていた。

 しかしそれらが枯渇し始めたことにより、国は一気に衰退へと傾いていくこととなる。

 ティーターンからの資源が世界に回らなくなったことで、今までティーターンから資源を購入していた国々が、次々と自国での資源調達に力を入れ始めたのだ。

 初期投資や維持費、また、広大な土地を持つティーターンほどの埋蔵量が無いことから敬遠されていたが、回ってこないのならば仕方がないとほとんどの国でそれらが始まった。

 結果、以前ほどの産出量は無いにしても売れていた資源が一切売れなくなり、自国でそれを生かす技術を持ってこなかったティーターンに加え、そのあおりを受けた属国も含めたティーターン領は一気に財政難に陥ることとなる。

 また、これまで高圧的な態度で各国に接していたことや、冒険者に対する優遇措置などを一切行ってこなかったこともあり、助けを得ることの出来ないティーターンは一切身動きが取れなくなっていった。


 それを救ったのが北の大地でティーターンの属国に加わっていなかった中堅国家レアである。

 ティーターンがいずれこうなるであろうことを察していたレアは、密かに大量の資金を蓄えており、資源を大量に購入することでティーターンの窮地を見事救ったのだ。

 というのはもちろん表向きの話であり、実際は全く違う。


 レアは資源を買い取る際、ティーターンにいくつかの密約を結ばせた。

 資源を通常より安くすることや領土拡大などの条件がいくつか並べられたが、もっと無茶な要求をしてくると踏んでいたティーターンはそれを喜んで吞む。

 しかしその密約によって、北の大地は人間同士の醜い争いへと発展していくのであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ええ、それは分かっているんですけどね……その戦争をなんとか……」


「おま……また無茶なことを……今じゃレアはティーターンの属国の半数を味方に引き入れ、大国対大国の大戦争になる可能性だってあるんだぞ? オリンポスやケルトも介入して止めようとしているが……それでも止まらないものをどうやって止める気だよ?」


「それは分からないですけど……人間同士で争っている場合じゃないんですよ。だから……止めないと」


「うぅむ……」


 無茶なことは分かってる。

 けど、可能性がゼロじゃないなら……やるべきだ。


「まぁいい……好きにしろ。ただ、気を付けろよ? 戦争に巻き込まれたら……地獄を見るぞ」


「はい……覚悟はあります」


「はぁ……まぁ、その話は置いといて……何日くらいイストにいられるんだ?」


「そうですね……2、3日はゆっくりしようかと」


 移動移動の繰り返しで、俺もレヴィも疲れが溜まっている。

 少し身体を休めてから万全の状態で旅立つ予定だ。


「そっかそっか。束の間の休日って訳だ。存分に羽を伸ばしてくれや!」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
[一言] 個人の力が国家を超えてしまう場合、戦争を止めるとか言い出すこのキャラをギルドとして止めないとまずいのでは?自惚れている感がする。これを認めると、いろんな理由や正義として双方の国がsssの力を…
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