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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第3章:命を懸けなければ
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第68話:うねり


「な、なんか落ち着かないな……」


「む、そうですか? 私はなんだか懐かしいです」


 王の部屋……こんな気品溢れる部屋に入ったことがなかった俺は妙に緊張していた。

 だが、さすがは伝説の王のメイド。彼女にとっては懐かしくすらある空間らしい。

 ふかふかのソファーに座っていても、いつも通り背筋をピンと伸ばしていた。


 あの後、王の言葉を受けた民衆は特に騒ぐこともなくその場を離れていった。

 皆一様に何かを考えるような……そんな表情を浮かべて。

 あれならきっと大丈夫だろう。


 共にケルト城へと連れてこられたアスナは、身なりを整える為に一旦別室へと案内された。

 心身ともに死の間際にあったからな……落ち着いてからゆっくり話が出来たらいい。

 彼女に何があったのか……やはり勇者が関わって……。

 そんなことを考えていると、やはり豪華な扉が豪快に開かれ、ケルト王がエディさんを連れて現れる。

 俺達はすぐに立ち上がり頭を下げた。


「礼などせんでくれ。君達に頭を下げられては、俺は土下座するしか応えるすべがなくなってしまう」


 濃い茶色の短髪を後ろに流し、髪と同じ色の立派な髭を蓄えたケルト王はそう言って笑う。

 毛皮の装飾がなされた鎧を身につけ、赤いマントを纏うその姿は、やはり王と呼ぶに相応しい出で立ちだった。

 そんなケルト王に促され、再びふかふかのソファーへと腰を下ろす。

 金の装飾が施されたガラスのテーブルを挟んで、ケルト王もゆっくりと腰を下ろした。

 エディさんはケルト王の背後で手を後ろに組んで立っている。


「陛下、アスナを助けて頂き……ありがとうございました」


 とにかくお礼をしないと……。

 ケルト王の協力がなければこうはならなかっただろう。


「……礼をするのはこちらの方よ。命はおろか、ケルトの誇りすら救われた。我らはロードに返しきれぬ恩が出来てしまったわ……」


「陛下の仰る通りだ。ありがとうロード君。私は処刑が行われた後、騎士団長の職を辞するつもりだったのだ。自分の無力さに耐えられなくてな……だが、貴殿が全てを救ってくれた」


 そうだったのか……。

 やはり、かなり悩んでいた様だ。

 するとケルト王が申し訳なさそうに口を開く。


「エディ……それは俺のせいでもある。お前にばかり抱え込ませてすまなかったな……」


「陛下こそ……何故打ち明けて下さらなかったのですか? 我らが頼りない存在だと、そうおっしゃっている様なものです」


 エディさんは悲しげな目をケルト王に向ける。

 もちろんケルト王自身も、それは分かっていたのだろう。


「すまん……いらぬ心配を掛けたくなくてな。まぁ、それは後にしよう。今はロードの話が聞きたいのだ。今ならあの時より落ち着いて聞くことが出来る故、もう一度詳しく話してくれないか?」


「分かりました。全てをお話し……」


 その時、俺の通信魔石が突然光り出した。

 こんな時にいったい誰から……。


「出るがよい。我らのことは気にするな」


「あ、申し訳ありません陛下……はい、ロードですが……?」


『おう、バーンだ』


「バ、バーンさん!? どうしたんですか突然……」


「バーンだと……? ロードと知り合いだったのか!?」


『あれ……その声……オーランドのおっさんか? え、なんでロードと一緒にいるんだ!?』


 お、王様をおっさんよばわり……恐ろしい人だ……。

 というか2人も知り合いだったのか。


「まぁ、色々ありまして……後で連絡しようと思ってたんですが……」


『よく分からんが……なんか取り込み中なら後にしようか?』


「あ、いや……だったらバーンさんもこのまま話に参加してもらった方がいいかもしれません。陛下、バーンさんもこの話は知ってるんです」


「なるほど。ならバーンよ、お前もこのまま参加せい」


『ん? ひょっとしてロードお前……オーランドのおっさんにも話したのか?』


「と、言いますか……バーンさんとの約束破っちゃいました」


『は?』


 とりあえず俺は、バーンさんにケルトでの出来事を伝える。

 ケルト王を助けたことから、アスナのことまでを話すと、バーンさんは「ふむ」と呟いた。


『それは仕方ないな。というか、俺でも同じことをしただろうよ。ただ……』


「ええ……これで多分バレますよね」


「それは……無能という概念を創った者に、ということか?」


『ああ……どこのどいつかは分からないが、この一件は間違いなく世界に……』


箝口令(かんこうれい)を敷くか……エディ急げ。情報誌関係の奴は特にな」


「はっ! かしこまりました陛下」


 エディさんはすぐに部屋を後にした。

 でも、多分無駄だろう。


『情報誌には載らないとしても……人の口に戸は立てられない。遅かれ早かれ気付かれるだろうな。ロード、ここからは慎重にやれ。くれぐれも気を付けろよ』


「はい、分かってます……」


 今まで狙われたことなどは無かったが、今度からは分からない。

 注意していかなければ。


「では、もう一度最初から頼む。俺にも協力出来ることがあるかもしれない」


「分かりました。では、最初から全部……」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「とすると……やはり魔族か竜族ではないか?」


『断定は出来ないな。ティタノマキアも臭うが……』


「神殿の件はどうされます?」


『あそこは特殊だからなぁ……所謂いわゆる不可侵領域みたいなもんだし、おいそれと手を出すと面倒だぞ』


「バーンの言う通りだな。あれはケルトの国王である俺でも手を出しにくい場所だ。あそこのトップはかなりの切れ者と聞く。確実な証拠でもなければ薮蛇になりかねん」


「現状では動けないか……」


 議論はだいぶ煮詰まっていたが、やはりまだ判断材料が少な過ぎる。

 どれも決め手に欠け、結局話し合いは堂々巡りの様相を呈していた。

 とにかく一番の疑問は〝何故無能という概念を創ったのか〟ということなのだが、それが分からないことが一番の問題でもあった。

 動機が分からなければ全体が見えてこない。


「結局はまだまだ材料不足……か。だが、間違いなくそれはあるのだ。根気よく探っていくしかあるまい。あ、そういえば……バーンは何故ロードに連絡をよこしたのだ?」


『あっ……忘れてた。いや、大したことじゃないんだが……最近ドラゴンの討伐依頼が多い様な気がしてな。ロードがどこにいるかは分からなかったんだが、そっちでもそうなのかと思って連絡したんだ。因みに俺がいるのはギリシアだ。かなりアルメニア寄りだけどな』


 ギリシア……ヴァルハラ大陸の西に位置する5大国家の1つか。

 アルメニアはギリシアの南、更に竜族の大陸に近い為に昔からドラゴンの数は多い。その分、竜狩りの騎士が多いことでも有名な中堅国家だ。

 両国とも元々ドラゴンの比率が高い国だった筈だが、バーンさんがわざわざ連絡してきたということは通常よりもかなり多いということだろう。

 こっちの情報か……俺はまだケルトの冒険者ギルドに行ってないから分からないな。


「陛下どうです?」


「んん……最近はあまり依頼を受けていなかったからなぁ。もう限界を悟っておったし……」


 そうか……陛下が依頼を受けたのは久しぶりだと言っていたな。

 あの身体では無理もない。


『それにしても驚いたぜ……まさかオーランドのおっさんが魔法病だったとはな……』


「お前には……というよりアリスには会わないようにしておったからな。あの娘に会えばすぐバレてしまうし」


『あー……だからオリンポス会談でも会わなかったのか。みずくせぇなぁ……』


「すまんな……とりあえず冒険者ギルドに連絡を取ってみよう。誰かおるか!?」


 現れた兵士にケルト王が用件を告げると、彼は一旦いなくなった後すぐに戻ってきた。

 みんな仕事が早い……どうやら優秀な人材が多いらしい。


「陛下、ご報告致します。ケルト冒険者ギルドによりますと、現在はドラゴンより魔物の方が依頼数が多いとのこと。しかも、普段の倍以上との報告がありました」


「倍だと……?」


「はっ! 依頼数は上下する為、一概に異常とは言えないそうです。ただ、それでもかなり多いのは確かだそうで、冒険者ギルドでも一応留意しているとのことです」


「そうか……ご苦労。下がってよい」


「はっ!」


 兵士は敬礼すると部屋から出ていく。

 こっちでは魔物か……やはり世界はどんどん嫌な方向へと流れている気がしていた。

 平和な時代……弱くなっていく冒険者……無能……竜族と魔族の不穏な動き……ティタノマキア……神殿……全てが重なりすぎている。


「世界は今、激しく動こうとしている。我々は……大きなうねりの中にいるのかもしれん」


 その時扉がノックされ、ケルト王がそれに応えると、エディさんと共に……アスナが部屋へと入ってきた。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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