第65話:処刑
知っているかもしれないどころではなかった。
世界中で知らぬ者のいない、偉大な王の1人じゃないか。
世界最強の王……SSランク冒険者としても名を馳せている彼の人気は他国でも高い。
「顔は見たことなかったから気付かなかったな。そうかあの人が……でも、この間のオリンポス会談にも出席していたし、病気だなんて噂も聞いたことがないぞ」
「うーん……色々と疑問はありますが、ご本人に直接聞くのが一番でしょうね。とりあえず回復を待ちましょう」
ケルト王なら無能の少女の件も知っているだろう。
回復すれば話を聞けるかもしれない。
「そうだな……とりあえず現在地の確認をしておこう。さっき見えた川の形状からして……」
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あれから約3時間後。
現在地の確認を済ませ、苦しむケルト王の顔を布で拭いたり、声を掛けたりしていると、彼の呼吸が徐々に穏やかになっていった。
「うん……もうそろそろ大丈夫ー」
「よかった……見ているこっちまで辛かったからな……」
やがて苦痛に歪んでいた彼の表情が穏やかになると、遂にケルト王は目を覚ました。
ゆっくりと身体を起こして深呼吸を始め、それが終わると今度は立ち上がり、不思議そうに手を握ったり開いたりしている。
「こ、これは……痛みがない……な、治ったのか? こんな……こんなことがっ……!」
ケルト王は拳を握りしめ、涙を浮かべて喜んでいる。
なんだかこっちまで嬉しくなってしまった。
本当に死を覚悟していたのだろう。
「陛下、ご無事でなによりです」
「あ、ああ! き、君達のおかげだ! な、あっ、ど、どうっ……ああ……なんと礼をすればいいか……言葉が出てこぬ……と、とにかくありがとう!!」
興奮冷めやらぬケルト王は、俺達全員と握手をしながら頭を下げていた。
「頭をお上げください陛下。お役に立ててよかった」
「ではロード様、私は戻りますねー。陛下、お身体ご自愛下さいませー!」
「あ、ああ! ああ! ありがとう……ありがとう!」
ケルト王に笑顔で応え、手を振るアスクレピオスから魔力を抜き、そのまま手帳に戻す。
「陛下、まずは一息つきましょう。色々とお話を伺いたいので」
「わ、分かった! もう諦めていたのだ……それがまさかこんなことになるとは……! おお……神よ……」
「レヴィ、紅茶を頼む」
「かしこまりました」
グヴィリアルが倒した木をデュランダルで簡単に切り分け、3人分の椅子と机代わりの丸太をこしらえる。
それに座り、レヴィの紅茶を飲みながら少しずつ話を始めた。
「……美味い。こんなに美味い紅茶を飲んだのは初めてだ」
「お気に召して頂けた様で光栄です陛下」
「ああ……なんと清々しい気分か。改めて礼を言わせてくれ。どうやら俺のことを知っている様だが、一応名乗らせて頂こう。我が名はオーランド=ガドリック=ケルト。ケルトの現国王である。君達には返しても返しても返しきれぬ大恩が出来てしまった。本当に……ありがとう」
ケルト王は立ち上がり、再び深々と頭を下げる。
俺達も立ち上がりそれに応えた。
「陛下、もう十分お気持ちは頂きました。お話をお聞かせ願いたいのですが、よろしいでしょうか?」
「無論。全てに答えよう」
俺達は再び腰を下ろし、ケルト王に色々と話を聞く。
彼がその全てに答えてくれたおかげで、大体何があったのかを知ることが出来た。
「なるほど……それでここに」
「ああ……最後の我が儘というやつだ。もう死を間近に感じておったしな。すまないが、今度は俺にも質問させてくれ。まず、君達は何故ここに? それに、不治の病を癒したその力……君達はいったい何者なんだ?」
「あ、申し訳ありません。まだ名前も言ってませんでした……俺の名前はロード=アーヴァイン。こっちはレヴィと言います。非礼をお許し下さい」
「いや、そんなことは構わん。というか今ロードと言ったな……その名をどこかで……ああ! ニーベルグ闘技大会で優勝したあの!」
「あ、はい。そうです」
「なるほど! あのグラウディを破った男であったか! その強さに合点がいったわ……して、何故ここに?」
「話せば長くなりますが……」
「構わん。是非聞かせてくれ」
俺はケルト王に全てを話した。
無能と呼ばれていたことや、伝説の武具達のこと、生命魔法や無能という概念を消すために旅をしていることも。
「それで、情報誌にケルトの名前があったんです。無能と呼ばれた少女が暴行事件を起こして幽閉されていると。その人がどんな人かは分かりませんが、このまま極刑になることだけは避けたいと思いまして……せめて話だけでも聞ければと」
「なるほどな……にわかには信じられぬが、他ならぬ命の恩人の言葉……ケルトの誇りに懸けて信じよう。それに、そう言われると俺にも思い当たる節はある」
「と、言いますと……?」
「以前にも無能と呼ばれた者がケルトにいたのだが、やはり酷い扱いを受けていたと聞く。確かに無能という存在に対し俺も嫌な感情を持ってはいた。だが、民達の無能に対する様子を聞いた時は、何故そこまでという思いがあってな。今の話を聞いてそれを理解したわ……」
「なるほど……そういうことでしたか……」
「うむ……それに、あれは5日前だったか……我がケルトの騎士団長が、無能と呼ばれた少女に話をしにいった際、どうにも違和感を覚えると申してきたのだ。騎士団長のエディは、あの少女が人を殴ったとは思えないと言っておった。あの男には人を見極める力があってな。善人か悪人かが瞬時に分かるという稀有な男なのだ。実際奴が見逃した悪人は1人もおらんのがその証拠よ。だからだろう、再調査願いを出しておったのだが、無能故既に処刑が決ま……いかん……いかんぞ!」
突然ケルト王は慌てて立ち上がった。
い、いったい何が……?
「今何時だ!?」
「え? 後2、3分程で正午ですが……」
「い、いかん! その者の処刑は確か今日の正午だった筈だ! そうだ……今日町を出る前にそう告げられたから覚えておる……と、止めなければ! 殴ったにせよ殴らなかったにせよ……アスナという少女を極刑にしてはならぬ!」
…………え?
いや、きっと同じ名前なだけだろう。
アスナは無能ではない。
だ、だが一応……。
「へ、陛下……その女の子の名前って……アスナ=リンドテイルじゃ……ニーベルグ出身じゃないですよね?」
「え……? そ、その通りだ。確か冒険者登録ではニーベルグ出身だった筈だが……何故知っている!?」
あり得ない。
意味が分からない。
何故アスナが無能に……いや、今考えている暇はない!
「ど、どうした……まさか!」
「お、俺の……幼馴染かもしれません。でも、彼女は無能じゃなかった!」
「な、なんだと!? いったいどういうことだ!」
「分かりません! と、とにかく助けないと……!」
「く、くそっ! 通信魔石が破壊されていなければ……!」
処刑までそれしかないとなると、ここからエポリィがどんなに馬車を飛ばしても間に合わない。
「ロード様! ブリューナク様なら……!」
「いや駄目だ! ブリューナクの速さはあくまで直線的な移動……障害物の多い森の中じゃどうしたって遅くなる!」
「な、なら空を! ブリューナク様とあの方の力を合わせればどうです!?」
「そ、そうか! ブリューナク! タラリア!」
手帳からブリューナクと、羽根の生えた靴を呼び出す。
それを脚装備の上から履き、魔力を込めて空中に足を踏み出すと、見えない階段を上るように空中を歩くことが出来た。
この靴を履いていれば空中を駆けることが出来る……それにブリューナクの雷速を合わせれば……!
「レヴィ! 陛下と一緒に馬車でケルトへ!」
「分かりました!」
「ロード急げ! 後のことは俺に任せるがいい! なんとしても止めよ! これを持っていけ!」
ケルト王は俺に一振りの短剣を投げ渡した。
綺麗な装飾から、かなり高価なものだと分かる。
「俺が常に持ち歩いているケルト王族の宝剣だ! 俺の使いだという証拠になる筈……それを見せよ!」
「ありがとうございます陛下!」
俺はケルトに向け空中を駆け抜ける。
何があったかは知らない。
もちろん色々あったけど……君のおかげで俺は……!
このまま終わりじゃ駄目だっ!
「アスナ……死ぬな……!」




