第61話:デュランダル
「お、おはようレヴィ」
「お、おはようございます」
「昨日はごめんな……」
「い、いえ……私も申し訳ありませんでした……取り乱しまして……」
「いや、レヴィは悪くないよ」
「と、とりあえずお食事を……」
「あ、うん」
あの後、歩けなくなった私はロード様におぶって貰い、このお屋敷まで帰ってきた。
普段は酒などあまり飲まないのだが、あの時はどうしようもなく飲みたい気分だった。
ロード様が他の女性と楽しそうにしているのが我慢できなくて……。
あんなに酔ったのは初めてだった。
酔って記憶を無くす人もいるらしいが、私はどんなに酔っても全部鮮明に覚えている。
昨日のことも全部……。
「はぅ……」
思い出したら変な声が出てしまった。
抑えが利かなくなり、ロード様に抱きついた挙句、不可抗力とはいえ……キ、キ、キ……。
「はぅぅっ……!」
「ど、どうしたレヴィ!?」
「ひゃあっ! な、なんでもないです!」
「そ、そっか?」
「も、もう少々お待ち下さい!」
「あ、ああ……」
これはいけない……。
舞い上がってるのが自分でも分かる。
でも……嬉しかったなぁ。
よし、もう恥ずかしがるのはやめよう。
私は……ロード様の為に頑張るのみ!
「出来ました」
「はやっ!?」
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美味すぎる朝食を食べながらレヴィを見る。
あの様子だと、レヴィは恐らく昨日のことを覚えているようだ。
でも、その方がよかったかもしれない。
俺の気持ちが伝わったならそれで……。
あ、あれは事故みたいなものだったけど……うん……。
「ごちそう様でした」
「お粗末様でした」
レヴィの淹れてくれた紅茶を飲みながら、今日は何をするかを話す。
疲れていたせいか、昨日は結局昼過ぎまで寝てしまい、ソロモンの願いを叶えに行っただけで終わってしまった。
けど、レヴィのこととは別にいいことが2つもあった。
「ロード様、今日はいかがされますか?」
「今日こそデュランダルとグングニルに挨拶するよ。力も上がったし、仲間がまた増えたからね」
そう。昨日ソロモンに生命を与えた際に、生命魔法のレベルが上がり丁度20になっていた。
更に、新たに力を貸してくれる人が4人増え、合計で20人が俺の力となってくれている。
ひょっとすると、闘技大会の優勝が効いたのかもしれない。
「新たに得た力は地味ですが、これからの戦闘が楽になりますね」
「そうだね。単純に生命魔法の底上げみたいなもんだからな。魔力消費が減れば、長い戦いになっても対応出来るし」
俺が新たに得た力は〝生命魔法の強化〟である。
少ない魔力で今までより長く生命を与えられたり、また、生命魔法を与えてから人型になるまでがかなり早くなるらしい。
加えて重量制限も自分の5倍までと、かなり緩和されていた。
「じゃ、早速……デュランダル!」
手帳から、柄から剣身まで全てが黒い剣が姿を現した。
うん……やっぱりかっこいい。
「大会ではかなりお世話になりましたね」
「ああ、デュランダルがいて助かったよほんと」
鎧だけを切断し、相手を倒せる剣はこれからも頼りになるだろう。
武器も斬れるし、無力化するにはうってつけだ。
俺はデュランダルに生命を与える。
するとデュランダルが黒い光を放った次の瞬間、そにこには全身黒い装備に身を包んだ男性が立っていた。
「はやっ!」
「これは便利ですね」
彼は目を開くと、自身の身体を確かめるように手や足を動かし始めた。
「おお……これが私の肉体……ああ、すまない。挨拶が先だったね。私の名はデュランダル。よろしく、ロード殿」
そう言って、デュランダルは胸に手を当て丁寧にお辞儀してくれた。
黒髪に黒い服、肌も浅黒い。
背は俺より少し高い程度。非常に整った顔をしており、男の俺でもドキッとするほどだった。
「よろしくデュランダル。こっちこそ挨拶が遅れてすまなかったな」
「デュランダル様よろしくお願い致します」
「気にしないでくれロード殿。レヴィ殿も。役に立てて私も嬉しいからね」
「そう言ってもらえてよかったよ。因みに、なんで力を貸してくれたか教えてくれるか?」
「大体は他の者と同じだよ。私のような伝説と呼ばれる武具達は皆強大な力を持っている。だからこそ慎重に見極めなければならない。手にした者が正しく使うことが出来るか否かをね。その点ロード殿は善い心を持っている。手帳の中でも日に日に評価が上がっていてね。今後もどんどん増えると思うよ」
「そうなのか……なんかありがたいな。あ、そういえば手帳の中ってどうなってるんだ?」
前から気になってはいたが、いつも聞きそびれてしまっていた。
いい機会だし聞かせてもらおう。
「んー……大きな家の中にいる感じかな。私達は武器の姿でそこを彷徨っているんだ。自分の部屋みたいな空間や、皆が集まる場所もあって、そのどこにいても外の様子は分かるようになっている。大抵の武具達は自由に動き回っているけど、中には部屋から一切出ない者もいるね。因みに、特に辛くもないし苦しくもない。もちろんこうやって外に出て力を振るうのは嬉しいし、肉体を貰えるなんて思ってなかったから今は最高の気分だよ。ありがとう」
そう言ってデュランダルは優しく微笑んだ。
か、かっこいい……あ、いやいや。
「なるほどそういう感じなのか。まぁ、喜んでくれてよかったよ。で、デュランダルは何かやりたいこととかあるかな?」
「うーん……なら、手合わせを」
「え? 俺と?」
「もちろん。斬れ味は抑えるから、その剣でも問題ないよ」
デュランダルはイアリスを指差した。
手合わせか……庭も広いし壁も高いから大丈夫かな。
「分かった。それが望みなら応えるよ」
「ありがとうロード殿」
俺達は庭に出て、少し距離を置いて向かい合った。
やはり雰囲気が半端じゃない。
そういえば、伝説の武具と戦うのって初めてだな。
なんかワクワクしてきた。
俺がイアリスを抜くと、デュランダルも自身である黒いロングソードを腰から抜いた。
長さは同じくらいか……頼むぞイアリス。
両手でイアリスの柄を握り、中段に構えてデュランダルの首に切っ先を向ける。
デュランダルは左足を引き、両手で柄を握って右肘に剣身を乗せた。
「それでは参ります……始めっ!」
レヴィの合図と同時に、イアリスとデュランダルが激突する。
激しい鍔迫り合いの中、デュランダルがニヤッと笑った。
「いい剣だね……力を落としているとはいえ、私と打ち合って刃こぼれしないなんて……!」
「この剣には……色々と詰まっているからなっ!」
鍔迫り合いの状態から剣を振り抜き、デュランダルを弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
「はぁぁっ!」
片膝をついたデュランダルは、俺の打ち下ろしを頭上で受け止めた。
そのまま刃を滑らせ俺の剣を受け流し、流れるように立ち上がったデュランダルの剣が俺に襲い掛かる。
「ぐっ!?」
振り下ろされる直前、間一髪俺の蹴りが早く突き刺さり、デュランダルを吹き飛ばすことに成功した。
危ない危ない……。
「さすがだねロード殿……さぁ、まだまだいくよ!」
「ああ……満足するまでやってやるさ!」
デュランダルとの打ち合いはその後も暫く続き、俺達は時間を忘れ、ただただ剣を振るうのだった。
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「いやぁ満足したよ。ありがとうロード殿」
「そりゃよかった。俺も楽しかったよデュランダル」
「お2人ともお疲れ様でした。紅茶をいれましたから、どうぞゆっくりなさって下さい」
庭にある白い机の上には、綺麗な黄金色の紅茶が入ったカップが置かれていた。
俺達は椅子に腰掛け、暖かい日差しを浴びながら一息つく。
「なぁ、デュランダルから見て俺の剣技はどうなんだ?」
ふと気になった疑問をデュランダルにぶつけてみる。
「そうだね……私が力を使っていないからなんとも言えないけど、少なくとも打ち合った中では最強クラスだと言えるね。私がというより私を以前使っていた者と戦った中では、という意味だよ」
「そうか……少し安心したよ」
「ロード殿は自分を過小評価している節があるね。あなたは強いよ。私が保証する」
そう言ってデュランダルは紅茶を飲む。
伝説の武具にそう言ってもらえたのは嬉しかった。
少しは自信を持ってもいいのかもしれない。
「ありがとうデュランダル。自信になったよ」
「ふふ、なら良かった。さて、そろそろ私は戻るとしよう。他にも会うつもりなのだろう?」
「ああ、そのつもりだ。ありがとうデュランダル。これからもよろしくな」
「もちろん。またいつでも呼んでくれ」
デュランダルから魔力を抜き手帳に戻す。
なんというか、すごくいい人だったな。
これからも彼にはお世話になるだろう。
「さて、次はグングニルを呼ぼうかな」




