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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
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第502話:突風

 

「あり得なッ……!」


 全てを一瞬で灰にする灼熱の炎。

 その中で、黒い人影は確かに歩いていた。

 その身を焼かれ続けながら、ディーに向かって。


「くッ……!」


 今から移動しても、到底間に合わない距離。

 即座に灼熱の閃光を放とうとしたルカだったが、ディーとそれは重なるような位置におり、彼女の額から大粒の汗が頬を伝う。


「ぐッ……クックックッ……どうした? 早く撃たねば……奴が死ぬぞ」


「だ、黙れッ!」


 炎に焼かれながらも歩くことが可能な人間。

 そんな者は、ティタノマキアに1人しかいない。

 そう。再生魔法を持つ、"不死身"のチャムリットである。

 彼女はずっと平面空間に身を隠し、その時を待っていたのだ。

 ジェイドがルカを挑発し、その意識がディーから離れるその時を。

 そんな彼女が握りしは、ロードから奪った魔剣フルンティング。

 それは、使用者に耐え難い激痛を与え、そして命を削る代わりに、超人的な力を与える伝説のつるぎである。


「くッ……そ……!」


 ディーはどうすることも出来ず、ただ魔法を維持する為に両手を突き出しながら、その悍ましい光景を見続けることしか出来ない。


「確かに素晴らしい技だが……ッ! せ、精度がまだ完全ではないようだな……俺なら……頭を狙う」


 ジェイドは片膝を突き、腹部を押さえながら自身の額を指差した。

 彼が言う通り、ルカのそれはまだ完全ではない。

 故に彼女は当てやすい胴体、主に心臓付近を狙ったのだが、狙いは外れ、閃光はジェイドの左脇腹を貫いていた。


「うぅッ……!」


 焦りと緊張から、ルカは狙いを定められずにいた。

 何度も撃とうとするが、下手をすればディーごと貫いてしまう状況に、あと一歩が踏み出せない。

 そうこうしている間に、チャムリットは燃焼と再生を繰り返しながら、遂にディーの目の前へと立った。


「お前には撃てない……覚悟のないお前には」


「黙れ黙れ黙れッ……!」


 ルカは自分を恥じていた。

 いつまで経っても成長せず、挑発に乗って前に出過ぎ、結果としてこの状況を作ってしまった自分自身を。

 その時、チャムリットのつるぎがゆっくりと持ち上がっていく。


「ほらな……撃てない」


「うるせぇッ!! 私はディーさんをッ……ディーさんを絶対……!」


「だったらさっさとしたらどうだ? あの腕を撃てばいい……それだけの話だ。まぁ、外せば奴は死……」


「ル、ルカちゃんッ! 撃てぇッ!!」


「ディーさん……!」


「君なら出来るッ!! 君はちゃんと成長してるッ! 俺は君をッ……信じてるッ!!」


「ッ!」


 魔剣の切先が空を向く。

 それと同時、ルカの肩からスッと力が抜けた。


「フー……」


 そして、彼女が息を吐いた瞬間、魔剣が振り下ろされた。

 だが――――


「!?」


 魔剣の切先はディーに当たることなく、そのまま地面へと突き刺さる。

 ルカの灼熱の閃光が、チャムリットの右肩を撃ち抜いたことによって。


「ナイスッ……!」


「やっ……まだ!」


 喜びも束の間、ルカはすぐさま走り出していた。

 右手を失ったチャムリットが、炎に包まれる中、左手で魔剣を掴もうとしているのを見て。


「ちッ……リセルッ!!」


「なッ!?」


 苛立ち混じりの彼の声に呼応し、何もない地平から巨大な獅子が姿を現す。

 ルカは突然の出来事に戸惑うも、すぐにそれがなんであるかを思い出していた。

 ティタノマキアの1人、融合魔法の使い手リセル。

 冒険者ギルドでは最高位となる討伐ランクSSS、魔獣の王と称される……白銀の獅子(ライオネル)と融合した少女のことを。

 ルカは走りながら魔力を練り上げ、再び灼熱の閃光を放つべく両掌を胸の前で合わせた。


「このぉッ!!」


 そうして放たれた閃光が、虚しく空を切る。


「ッ! 速いッ……!」


 白銀の獅子(ライオネル)そのものとなったリセルは、その10メートル近い巨体には似つかわしくないほどの敏捷性を備えている。

 直線的なルカの技とは、相性があまりにも悪い。

 とはいえ、ディーを守る灼熱の結界は未だ健在。

 いかに高い魔力耐性を持つ白銀の獅子(ライオネル)であっても、彼女の灼熱は容赦なくその身を焼き焦がす。

 ルカが近づく猶予は十二分にあった。

 だが――――


「グルァァァァァァアッ!」


「なッ!?」


 リセルは迷うことなく、我が身を焦がす灼熱の中へと飛び込んでいた。

 ダメージを負うことなど百も承知。

 チャムリットが駄目なら、次は己の番。

 覚悟を持った行動は、確実に相手を後手に回らせる。


「こ、このおッ!」


 閃光が再び空を切る。

 だが今度は、かわされたのではなく外しただけ。

 リセルの気迫に、ルカが押されて。

 炎に包まれた白銀の獅子(ライオネル)は、一瞬でディーの目の前に立つ。

 そして、彼に向けてその巨爪を振り上げた。


「くッ……!」


「や、やめろぉぉぉおッ!」


「まったく……見てらんねぇ」


 その時、風が吹いた。


「ガァッ!?」


 凄まじい魔力が込められたそれは、ルカの上空を通り、リセルの脇腹に直撃すると、その勢いのままに彼女を大きく吹き飛ばす。


「グルァッ!!」


 リセルは空中で身を翻すと、地面に4足で着地。

 体中から体力の煙を上げながら、鋭い眼光で空中にいるそれを睨みつけた。

 ジェイドもまた、腹部を手で押さえながらそれを見る。

 やはり、苛立ちが宿ったその瞳で。


「あ、あなたはッ……!」


「マ、マジで来やがった……!」


 4人の視線を一身に受け、男は微かに笑みを浮かべる。

 背中に生えた赤と黒が混じった色の竜の翼は、まるで優雅にゆっくりと羽ばたき続け、腕を組み、空中から見下ろす様はまさに強者のそれであった。

 そして、彼はジェイドへと視線を向けた。


「やっと、会えたな?」


 真紅の装備を身に纏い、燃え盛る炎のような長く赤い髪と瞳が、さも嬉しそうに揺らいでいた。

 その問いかけに、ジェイドは軽く舌打ちをした後――――


「まさかあんたが来るとはな……ドラグニス……!」


 そう、彼の名を口にした。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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