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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
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第498話:動向

 

 そう。彼はまだ、直接ロードと戦ったことがない。

 ティーターンが劣勢となって以降、彼はその立場上、前線に赴くことを禁じられており、その機会がなかなか巡って来なかったのである。

 そして迎えた今日この日、まさに決戦の地において、無敗と無敗が初めて直接ぶつかることとなったのだった。


「まぁ、ちとこちらが有利過ぎるきらいはあるが……まぁ、南も止めておるようじゃし、東もどうなるか分からんな。しかし、50万の民を使うとは……いやはや……おっと、いかん。王の(めい)は絶対……ワシ如きが否定することなどあってはならぬ。ワシはただ、レアに勝利をもたらすのみよ」


 ちなみに、彼は操られてもいなければ、当然レアの王族のような複製でもない。

 ズィグラッドはレア王家に恩があり、それにより終生の忠誠を誓っている。

 故に、王の意向が真逆に変わったとしてもただそれに従い、そこに自らの意思は一切介入させない。

 ティタノマキアからすれば、彼を操る必要は皆無であり、むしろその力を存分に振るってもらうべく、何もしないという選択を取るのは至極当然であった。


「さて、と……」


 両の膝に手をつき、ズィグラッドはゆっくりと立ち上がる。

 そして、背中に無骨な大剣と斧を背負うと、そのままテントの外に出た。


「うむ……快晴快晴……よい戦日和なり」


「閣下」


 テントの周りには彼の親衛部隊が並び立ち、その命令を今か今かと待ちわびているようであった。


「分かった分かった。では……参ろうかの。鳴らせぃ」


「はっ!」


 そして、開戦のドラの音が鳴り響いた。


「来た……!」


 甲高いドラの音が何度も響き渡る。

 それに合わせ、レア軍の侵攻が始まった。


「敵部隊約2万……1万ずつに別れて進軍を開始。全て歩兵です」


「ま、当然といえば当然だね。ヴァルツーの二の舞にはなりたくないだろうし……ライラ! ミディルク! 聞こえる!?」


 カルサは手にした通信魔石に向け、声を張り上げた。


『こちらライラ。良好』


『こちらミディルク。問題ありません』


 2人はカルサ直属の部下であり、彼女が最も信頼をおく人間でもあった。

 応答を確認し、カルサは戦場を見つめながら口を開く。


「1千ずつ率いて応戦して! まともにやり合わないでね! こっちは馬を使えるから!」


『ライラ了解』


『ミディルク了解。牽制します』


「よろしく! 敵はこっちが時間を稼げばなんとかなることを知らない! うまくやって! ……よし」


 通信を切り、カルサは再び戦場を見つめる。

 ライラ、ミディルクの両部隊は、馬上から魔法での攻撃を行いつつ、一撃を入れては離れるという行動を繰り返し、敵の足止めを開始していた。


「……あの子達ならきっと上手くやってくれる。レヴィちゃんはどうする?」


「しばらくはここで待機するつもりですが、危なくなれば前に出ます」


「分かった。武具の人達は?」


「近くで待機中です。ティタノマキアの動向にも目を向けなければなりませんので、こちらまで手が回るかは不明です。正面のこともありますし」


「そうだね……ティタノマキアか……ほんと最悪な奴らだね! もう!」


「ふふっ……ええ、そうですね」



 ――――――――――――――――――――



 ベンディゴと"群れ"を挟んだ後方の森の中。

 ティタノマキアの面々は、未だそこから動かずにいた。


「目からの報告です。まず南ですが、指揮をとっているのはティーターン第二騎士団団長アマド。兵1万を率いて我が軍と目下戦闘中……こちらの損耗は約2万」


「2万……ロードか?」


 アナからの報告に、クロスはそう尋ねた。


「いえ、彼の姿はまだどこにもありません。ただ、彼の力が猛威を振るっているようです」


「……なるほど。何人だ?」


「おそらく2ですが、それ以外にもいるかもしれません」


「ふむ……続けてくれ」


「はい。北の戦場は先程戦闘を開始。こちらはズィグラッドが指揮を。こちらには現在、彼に関係するものは見当たりません。そして正面ですが……」


「見えているからいい。まったく……SSSランクというのは、まさに人外という他ないな」


 呆れたように、クロスはそう言い放つ。

 その視線の先に、映像魔石によって映し出されたベンディゴ正面の戦場があった。


「どのようにして抑えるかと思えば……まさかこんな力技とはな」


 正面の戦場を預かったのは、ディーとルカの2名。

 彼らは50万の"群れ"の前に降り立つと、すぐさま行動を開始した。


「ええ……正直に言って驚きました。こちらと違い、なんの補助もなしにこんな真似が……」


 ディーは両手を前に突き出すと、"群れ"に目掛けてある魔法を発動した。

 己の全ての力を使い放ったその魔法は、ゆっくりとはいえ確実に進行していた"群れ"をその場に留め、先刻から一切前に進ませずにいた。


「ディー=マイネリーベ……よもや、これ程とはな」


「彼を討てばまた動き出すのでしょうが、もう1人が邪魔を」


「ルッカルルカ……か。どうだフェイク」


「やってっけど……俺の複製じゃ無理だぜありゃあ……」


 全ての力を使っているディーは、その場から一歩も動かずに魔法を発動し続けていた。

 いや、正確には動けないと言った方が正しい。

 そんな彼を討たんと放たれる、フェイクの複製達による攻撃。

 その尽くを、ルカは力でねじ伏せていた。


「しかしクロス様、所詮はその場しのぎです。根本的な解決は不可能……双方とも、いずれ力尽きるのは目に見えています」


「まぁ、な……」


 だがこの時、クロスにはある予感があった。

 ほぼ間違いなく、ロードが何かを企んでいるという予感が。


「……ムム、レヴィを見ろ」


「えっ? メイドさんの方?」


「そうだ。彼女はロードと行動を共にしている可能性が高いからな。ロードの方はまだ使いたくない。やってくれ」


「分かった。んっ……」


 ムムは千里眼魔法を発動し、レヴィの姿を探し始めた。

 一度直接見た相手ならば、1ヶ月間どこにいても探し出すことが出来る力。

 ムムはこのような日に備え、ロードやレヴィといった主要な人物を見るため戦場に混じり、直接目で捉えていたのだった。

 ただし、千里眼魔法は1日に一度しか同じ相手を見ることが出来ない。

 故に、力の使い所はクロスによって決定される。


「……見えた。北の戦場を見てる……街の中にある監視塔の上。近くにいるのは……ティーターンの第一騎士団団長だね……ロードくんらしき人はいない」


「……そうか。ありがとう。しばらく待機していてくれ」


「うん」


 力は空振りに終わったが、レヴィが違う戦場にいること、ロードと行動を共にしていないことは分かった。

 クロスは手を顎に当てて思案を始める。


「やはり、崩すなら東か。彼女が最も御し易い。それだけの力を持ちながら……何を焦っているのやら」


 そして、現状南はどうでもよく、北はズィグラッドに任せれば事は足りると判断した彼は――――


「ジェイド、チャムリット……リセル」


 彼らの名を呼んだ。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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