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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
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第495話:たかが

 

「ヘラクレス殿ッ!」


 猛るベンディゴ軍が一気に前へと出る。

 その中でアマドは、棍棒を肩に担ぎ、先頭を走るヘラクレスと並走しながら声を掛けた。


「うむ。お主がこの軍の頭であるな?」


「はっ! アマドと申します! 此度の助太刀……感謝という言葉では到底……!」


「よい。我が所持者の命なれば当然よ。それよりアマドよ……気付いておるか」


 鋭い眼光で前を睨みつけるヘラクレスに、アマドは小さく頷いた。


「はい……奴ら、全く怯む様子がございません」


 ヘラクレスの一撃は、間違いなく敵軍の中央部隊を殲滅し、その被害は1万に迫るほどであった。

 だが、彼らは怯むどころか、むしろ更に猛り狂い、ベンディゴ軍へ向けて前へ前へと突き進んでいた。


「あれだけの威力……通常ならば、被害状況の確認に加え、作戦の見直しを検討……とにかく、少なくとも足は止まる筈かと」


「うむ。だが、奴らはまるで意に介しておらん」


「ええ。確かにあの威力であれば、同程度の追撃はないと判断……と、考えたにしてもやはり異常です。あれだけの力……隣にいた私ですら、心の底から畏怖しました。敵であれば、尻尾を巻いて逃げ出してもおかしくはない」


「フ……実際、それを狙わせてもらった。さすがにこの我であっても……1人であの数は骨が折れる」


 実際のところ、ヘラクレスに与えられた魔力はそう多くはない。

 故に先の一撃、彼女は魔力節約の為、4割程度の力で放っていた。

 それでも、仮にもう一度同じ威力で放てば、彼女の魔力はほぼゼロとなってしまう。


「我らも微力ながらお手伝いさせていただきます。しかし、奴らの狂気はどこから……」


「簡単なことよ。正面の民がそうであるように、奴らもまた……操られているのだろう」


「えっ!? あ、あの人数を操るだけでも人間を遥かに超越したものだというのに、こちらの戦場にまで力を……!」


「うむ。で、そのせいなのか、あえてそうしているのかは分からぬが、正面の民とは操り方が違うようだ」


「た、確かに……50万の民はどこか虚な……」


「これはあくまで我の推測だが、おそらく奴らは……感情を操られているのであろう」


「感情を……! な、なるほど……確かにそれなら合点がいきます。戦闘能力はそのままに、戦うことのみを考えさせるという訳ですか……」


「おそらくな。正面といいこれといい、まったく……どうやらティタノマキアとやらは、神にでもなったつもりでいるらしい。気に食わんな……我としては」


「ッ!」


 ヘラクレスから溢れ出る分厚い魔力に、アマドの額から頬にかけて汗が流れ落ちる。

 そして、彼女が味方でよかったと、心の底からそう思うのだった。


「さて、アマドよ。ここから先、もうゆるりと語り合う暇はあるまい。全軍に伝えよ。"我の背についてこい"……とな」


「ヘ、ヘラクレス殿は本気でこのまま……お1人で正面から!?」


「いや、先に申した通り、我"1人"では無理だ。だがあいにく、この戦場にはお主らの他にもう1人……信に足る者がいる。アマド、左舷を厚くしろ。それで事は足りる。囲まれぬよう、常に移動しながら戦うのだ。よいな?」


「わ、わかりました!」


「うむ。さて……」


 アマドが後方に指示を出す中、ヘラクレスは握りし棍棒に力を込めた。


「「「「ウォォォォオォォオオォオッッッ!!」」」


 間近に迫ったレア軍の兵士達は、その誰もが目と口を限界まで開き、全力で走りながら全力で雄叫びを上げ続けていた。

 気が触れたようなその様に、ヘラクレスは眉間に皺を寄せた後、その目を閉じた。


「……哀れな」


 ヘラクレスはその場に立ち止まると、身の丈に迫る巨大な棍棒を天へと向ける。

 真っ直ぐ伸びたそれに、背後で見ていたベンディゴ兵の中には、思わず涙する者さえあった。

 それは、それ程までに、ただひたすらに尊く、神々しいと、そう思える光景だったからに他ならない。

 そして、その棍棒が微かに傾いたその刹那――――


「うぬぅあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!」


 力の限りに振り下ろされた大英雄の棍棒は、空気を破裂させ、大地を砕き、その衝撃により、たったの一撃で数百の兵士達を吹き飛ばした。


「ぐッ……な、なんと……!」


 ヘラクレスの真後ろにいたアマドは、吹き飛びそうになる身体を必死に抑え込みながらそう口にした。

 単純な膂力のみで、一切の魔力を使わずに放ったそれは、やはり人の理を超えていた。


「……ふむ」


 ヘラクレスは、何かを確認するようにそう呟いた後、再び棍棒を担ぎ上げた。

 今の一撃は、彼女の中でもっとも魔力消費が少ないものである。

 それで数百。だが、たかが数百。

 敵はまだ、9万以上も控えている。


「やはり、ちと厳しいか。まぁよい……それもよい。我には似合わぬが、そういった戦いもある。なぁ、そうであろう!?」


「え……なッ!?」


 彼女の言葉に戸惑いを見せたアマドだったが、その直後起きた巨大な衝撃によって、驚愕しながら視線を右へと向けた。

 そして、彼は我が目を疑った。

 そこには、あまりにも巨大な、黄金に輝く片刃の斧があった。


「なッ……ヘ、ヘラクレス殿あれは!?」


「我と共に、この戦場を預かりし豪傑よ。我が身の丈で換算すれば、約4人分といったところか……ともかく、大軍を相手取るのならば、我以上といっても過言ではない」


「ヘラクレス殿以上ッ……あ、で、ですが! 使い手は何処に……」


「おっと……1つ伝えておこう。あやつに対し、決して言ってはならぬことがある」


「言ってはならぬこと?」


「うむ。よいかアマドよ。あやつには、決して"小さい"と言っては……」


 直後、巨大な斧がピクリと動いた。


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