第488話:撤退
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「……完全に、ですか?」
『うん。完全撤退。奴らの前線基地には、だーれもいない状態だよ』
ディーからその連絡があったのは、クロス襲来の翌日の夜になってからであった。
「よく確認出来ましたね……」
『隠密が得意なやつがいてね。全然攻めてこないというか、気配すらなかったから見にいってくれたんだけど、マジで誰もいなかったみたい。物資も持ち帰ってて、残ってたのはテントとゴミぐらいだったらしい』
「なるほど……こっちも何もなかったので……まぁ、昨日の今日ですし、おかしくはないんですけど、一応明日にでも俺が偵察に行こうと思ってたんですが……」
ベンディゴ、ドリューダー、ザッカバーグの3国は、ロードからの報告を受け、最大限の警戒をして朝を迎えた。
ベンディゴについては、大軍を撃退した後だった為、攻めてこなくてもなんらおかしくはなかったのだが、他二つの国に関しては、通常通りの戦闘が行われる可能性が高かった。
しかし、両国ともに何もなく、そのまま夜を迎えていたのである。
『まぁ、単純に奴らが引いただけとは考えにくいね』
「ええ。これでこっちも同じようなら、おそらく……総攻撃の準備かと」
『全軍を集めての一点突破か……ロードくんがいるのにそれをやるってことは、ティタノマキアが出てくるね』
「はい。多分、俺やディーさんを……自分達で抑えるつもりだと思います」
ティタノマキアのメンバーがロード達主力を抑え、その間に物量で押し潰す。
単純にして強力な戦法。
膠着した現状を打破するには、おそらくそれ以外の正着はない。
ロード達も予想していた展開の一つであった。
しかし――――
『ま、だとしたら昨日のベンディゴはなんだったんだっつー話だよね』
「ですね……やってることが矛盾してる」
総数6万の大軍を動かしておきながら、翌日に全軍を引かせ、総攻撃の準備を始める。
あまりにも稚拙で、あまりにも無駄が多過ぎる行き当たりばったりなその行動に、2人は困惑の色を隠せなかった。
『んー……ティタノマキアが、各国を抑えられなくなってるとか?』
「いや、だったらあそこにレア軍がいるのはおかしいです。進軍を許していないなら、援軍を出す必要がない」
『そうなるよねぇ……いったい何がしたいんだ? ティタノマキアは……』
「俺に大軍をぶつけて様子を見たのかもしれませんが、だったらもっと早い段階でやるべきですし、1年も俺を放置した意味が分からない……」
『何か理由があってこうなったんだろうけど……あのさ、ひとまず奴らの目的は、ロードくんの確保と、ティーターンの殲滅……なんだよね?』
「目的の目的……みたいな感じだと思うんですけど、現状はその筈です。ただ、やってることがめちゃくちゃ過ぎて……よく分からなくなってきました」
『んー! 何がしたいんだほんとに! なんかさ! 結局奴らの手のひらの上じゃん今!? あー……なんか俺もルカちゃんみたくなってきた……頭いてー』
「はは……俺もですよ」
そう言って、ロードは紅茶の入ったカップを口に運ぶ。
彼の傍には、眉間に皺を寄せて考え込むレヴィもいた。
『奴らの思考を上回るなんかをこっちがしない限り、永遠に後手に回っちまう……あ、そういや、ロードくんの方はどう? 連絡取れた人いる?』
駒が足りていないのは、ディーもロードと同様に理解しており、2人は信頼に足る人物に片っ端から声を掛けていた。
「いえ……バーンさんもズィードさんも連絡つかずです。他の人も身の回りのことで手がいっぱいみたいで……ディーさんの方は?」
『こっちもダメ。今んとこ他のSSSランクの連中も、同期のアホどもも無理っぽい……つかぶっちゃけ、今まではティタノマキアの連中が表に出てこないからあれだったけど、いざ前に出てこられると厄介かも……ティタノマキアって今9人だっけ? 名前が分かんないのも含めて』
「はい。あくまで俺達が知ってる範囲で、ですけどね。もう一度共有しておきますか?」
『よろ』
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現状、ティタノマキアについて判明している情報は以下の通りである。
クロス
ティタノマキアのリーダーで、二十代後半だと思われる。
白髪に黒いローブ姿の男性。
魔法名は不明だが、何かを生み出す力を持っている様子。
何もない場所からゲイピサールを取り出したり、空を自由に飛んだりと、能力に謎が多い。
アナ
副リーダー。
二十代前半くらいで、大半はクロスと行動を共にしている。
ティタノマキアは、彼女とクロスで創設したらしい。
何かを察知するような力を使い、ズィードの攻撃すら回避してみせた。
今回、クロスに隠し事をしているのが判明。
また、状況的におそらく彼女は神獣で、人型に変身している状態の可能性が高い。
ジェイド
戦闘と移動能力が高い。
ティタノマキアでは上位の存在。
二十代後半の男性。
使用する魔法は平面世界を操る"次元魔法"。
フェイク
二十代前半の男性。
"複製魔法"により、1人で多数の役割をこなす。
ティタノマキアの中では唯一といってもいい激情家。
今回、ロードに魔法を破られている。
チャムリット
二十代前半の女性。
"再生魔法"を持ち、不死身といっても過言ではない。
魔剣"フルンティング"を使い、戦闘面が大幅に強化されている。
ムム
二十代前半の女性。
両眼の色が違うオッドアイ。
戦闘能力はないが、"千里眼魔法"と"予知夢"による情報収集がメイン。
リセル
18歳の女性。
"融合魔法"により、上位の魔物と融合している。
フェイクとともに行動することが多く、複製された魔物同士を融合することで、更に強力な魔物を生み出すことも可能。
上記の7名以外に、クロスとアナのみが知る2人のメンバーがおり、シェリルが聞いた限りでは、かなりの猛者だという話である。
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『んー……ムムって奴はおいといて、最低でも8人はつえーのがいる訳だよね』
「ええ。そのムムにしても厄介です。知らないうちに見られていれば、奴らが攻めたい時に俺やディーさんがいる場所を把握し、それによって行動を決めたりも出来る……」
『見られてる前提で動いた方がいいね。あとは、なんも分からない2人か……そのうちの1人は、ロードくんの記憶をどうこうしたっていう女だよね』
「はい。かなり強力な力を持っていました。全く抵抗出来ませんでしたし、完璧な状態でも抗えたかどうか……」
『こっちは俺、ルカちゃん、ロードくん、レヴィちゃんだからねぇ……さすがにこのレベルの2対1はキツイかな』
「最悪の場合、俺が何人か受け持ちますよ」
『あー、武具達を使うって訳ね? ただなー……それだとロードくんの負担がデカ過ぎるし、やっぱもうちょいティタノマキアと戦える人が欲しいね。ティーターンの騎士団長さん達も強いけど、通常戦闘に集中してもらった方がいいっしょ? そっちが崩れちゃったら元も子もないし』
「ですね。とりあえず、人探しは続けましょう。あとは、奴らがどこに攻めてくるか、ですね」




