表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
486/534

第478話:1年

 

 先刻までとは打って変わり、真剣な表情でソロモンはそう問いかける。

 少しの沈黙の後、ロードは微かに笑みを浮かべた。


「あの時を思い出すな……ソロモン」


 かつて、レヴィがインヘルムの魔族に攫われた際、ソロモンは無謀な発言をするロードを叱ったことがあった。

 当時から北の戦乱は始まっており、戦争を止めたいと語るロードではあったが、それはまるで中身のない、ただの願望に過ぎなかった。

 しかし、今はもう違う。


「……覚えてたか」


「うん。あの時はありがとう。おかげで俺は、今もレヴィと一緒にいられる」


「ロード様……」


「ソロモンがいなかったら、今こうしていられたかどうか……」


「どうかね……ま、旦那はなんだかんだやり遂げたと思う。だからこそ……俺は旦那に惚れてんだよ」


「照れるな……はは……」


「そりゃこっちのセリフだよ……で? まだ答えを聞いてないんだけど?」


 今度はニヤリと笑いながら、ソロモンは問いかける。

 ロードはそんな彼に、真剣な眼差しを向けて口を開いた。


「ああ……俺はこの戦争を"止める"。力を貸してくれ、ソロモン」


「……我が魂に誓って、全力を尽くそう」


 そう言って、ソロモンは拳を前に突き出した。

 ロードはそれに同じようにして応えると、安堵の表情を浮かべた。


「ありがとう……認めてくれて」


「ま、認めざるを得ないさ。あの時はただの駄々っ子だったけど……今は違う。うわべだけの言葉じゃなく、力と覚悟が伴ってる。やってやろうぜ、旦那」


「ああ」


「……私もいるんですけど」


 男の世界の片隅で、レヴィは拗ねていた。


「いやっ! レヴィちゃんも一緒に決まってんじゃーん! なぁに言ってんのよぉ……ねぇ旦那!」


「俺……レヴィがいなきゃ何も出来ないよ」


「そ、そうなんですかぁ……? だったらいいですけどぉ……はい……」


「……ちょろいな」


「何か言いました?」


「いえ? 何も」



 ――――――――――――――――――――



「んじゃ、改めて今後について話そっか」


 翌日、ディーの部屋に再び集まった4人は、机を囲んで向かい合っていた。

 机の上には、レヴィが入れた紅茶に加え、お手製のお菓子類まで並び、ここが戦場であることを忘れさせる。

 実際、警戒を怠ることはないが、最前線であるここベンディゴですらが、もう数日間に渡り小規模な戦闘すら行われていない。

 降り積もる雪は日に日に増え、厳冬期が本格的な始まりを告げていたことから、やはりディーが言っていた通り、大規模な戦闘が起きるのは当分先になりそうであった。


「多分だけど、次にデカい戦闘が起きるとすりゃ、来年の3月くらいになると思うんだよね」


 今は12月の初旬。

 何もなければ、ここから3ヶ月ほど、互いに一切手が出せない日々が続く。


「それまでは準備期間ってことですね」


「まぁ、北の戦乱が始まってから初めての冬だし、正直どうなるかは分かんないけど、多分大丈夫だとは思うよ。だから、今のうちに色々教えとく。俺とルカちゃんが移動する前にね」


 ベンディゴが最大の激戦区になっている理由の一つとして、ここが北都ティーターンから見て真東に、レアから見て真西に位置しているということがあった。

 要するに、ベンディゴは両国の直線上に位置しており、北都への侵攻を目指しているレアからすれば、この国こそが最大の障壁となっているのである。

 つまり、ベンディゴが陥落し、レアの前線基地として機能するようなことになれば、この戦争は一気に終局へ向けて加速していくことになる。

 だからこそ、ディーとルカはこの地に留まり、レア側の思惑通りにならないように行動していたのだった。


「ディーさん達はドリューダーに行くんですよね?」


「うん。あっちもなかなかやばいからね」


 北都から見て南東に位置するドリューダーもまた、隣接するレア側の国々から激しい攻撃を受けていた。

 仮にドリューダーが落ちれば、北都の南に位置するザッカバーグとの連携が絶たれ、ティーターン側が総崩れになる可能性すらある。


「俺とルカちゃんがこっちにいるから、ベンディゴに来てたティーターンの本軍を向こうに割いたりして対応してたんだけど、こっちにロードくん達がいてくれれば、俺らが向こうに専念出来る。4人でここを死守するより、二手に分かれてカバーした方が効率いいからね。ま、やばかったら迎えにきてよ」


「分かりました。じゃあ、俺達はこの後にでも出発して、もっと本格的な冬になる前にドリューダーとザッカバーグに一度行っておきます。そうすれば制限はありますけど、いつでも移動出来るようになるので」


「それマジいいよね。くっそ便利じゃん」


「連続使用が出来ないことと、1日3回っていう回数制限、あとは杖本体に触れていないと移動出来ないとか、結構条件はありますけどね」


「十分でしょ。ドリューダー行く時に送ってね」


「あの……」


 ルカがおずおずと手を挙げる。


「どったのルカちゃん?」


「本当に我々がドリューダーでいいんでしょうか? あっちもあっちで大変だと思いますけど、こっちよりは多少マシかと……」


「まぁね。でも、それじゃダメなんよ。ね、ロードくん」


「はい。奴らにとって、一番欲しいのがこのベンディゴです。なので……俺がここにいないと意味がないんです」


 一番欲しい場所に、一番欲しい人間を置く。

 そこまでして尚、ティタノマキアが出てくるかは分からない。

 ただ一つ間違いないのは、戦闘の更なる激化は避けられないということ。

 ロードは、それら全てに対し、受けて立つつもりであった。

 どれだけ時間が、かかろうとも。


「それは分かりますけど……まぁ、いいです。覚悟の上ってことですね。だったら、あなたを信じて任せます……ヨルムンガンド倒したあなたを」


 ルカとて、ロードの実力は当然認めている。

 強さだけで言えば、間違いなく自分より上であり、その点に関しては何も心配していない。

 だが、ただ一つ懸念点として、対人間……特に、対軍戦闘の経験値が圧倒的に足りていないということがあった。

 ルカはそれを案じていたのだが、あのヨルムンガンドを打ち倒したロードであればと、渋々認めることにしたのであった。


「そーいうこと。ロードは強いよ。多分、ここにいる誰よりも」


「いやいやいや……」


「謙遜すんなって。正直言って、俺の魔法はどっちかっつーと対多数向けじゃねぇし、期待してるぜ……ロードくん」


「全力を尽くします」


「おう。もちろんレヴィちゃんもね」


「承知いたしました」


「よっしゃ……じゃ、ベンディゴ王に挨拶しにいこっか」


「はい、分かりました」



 ――――――――――――――――――――



「エポリィ、今日はこの辺りで野営しよう」


「うん! 分かったし! いいとこ探すー!」


 ベンディゴ王との謁見後、ロード達は馬車を借り、いったんベンディゴを出発。

 途中、ドリューダーへと立ち寄り、流転の杖ティエレンの転移条件を満たした後、そのままザッカバーグへ向けて移動していた。

 本来なら厳冬期ということもあり、約3週間ほどかかる道程を、エポリィの力で1週間に短縮。

 もう間もなく、ザッカバーグに到着するというところまで来ていた。


「ロード様、準備出来ました」


「分かった。レーヴァテイン頼む」


「任せな」


 彼女は抜いたつるぎに炎を宿し、それをレヴィが設置した簡易的なかまどへ突き刺した。

 すると地面から炎が上がり、そのまま消えずに鍋の底を明るく照らし始めた。


「さすがです……ありがとうございます。レーヴァテイン様」


「造作もないさね。あんたの飯に比べりゃ、児戯に等しいよ」


主人あるじ、周囲は問題ないようだ」


「竜の匂いもしないわ。早くご飯にしてちょうだい」


「お馬さん繋いだしー! ごはんごはん!」


 周りを警戒していたエクスカリバーとバルムンクが戻り、エポリィも自身の仕事を終えて合流した。

 雪に埋もれた森の中が、一気に騒がしくなっていく。


「分かった分かった。レヴィ頼む」


「間もなく」


 やがて周囲に食欲を唆る匂いが漂い、彼らは切った丸太を椅子代わりに、焚き火の周りを囲うように腰掛けた。


「ねぇレヴィ、ほんとにこいつ気付いてないの?」


 バルムンクが呆れ顔でロードを親指で指す。


「え? な、なに?」


「忘れているのではないか? ずっと戦い続けていたことであるし……」


 エクスカリバーは心配そうにロードを見る。


「な、なんなの?」


「フッ……ロードは自分のことを考えない男さ。まぁ、あたいらはそんな男だから手を貸したんじゃないかい?」


 レーヴァテインは笑いながら火力を調節する。


「どういう……」


「言わないと分かんないし。レヴィ、ちゃんと言ってあげた方がいいし」


 エポリィもまた、呆れた顔でレヴィを促した。


「ふむ……そのようですね」


「……なんなんだいったい」


 ロードが怪訝な表情を浮かべていると、レヴィはおもむろに自身の胸に手を突っ込んだ。


「えっ……えっ?」


「あれ? うんしょ……ど、どこにいきましたかね……あ、ありましたありました。こほん……ロード様」


「は、はい……」


「今日は、何月何日ですか?」


「今日? えっと……12月24日……あっ」


「ロード様、お誕生日……おめでとうございます」


 そう言って差し出した彼女の手に、黒い腕輪が握られていた。

 レヴィは彼の左手を取り、それを手首へと付ける。


「よかった……ぴったりです」


 細身のそれは、ロードの服装によく似合い、神の炎を受けて綺麗に輝いていた。


「レヴィ……」


「ロード様、いつもありがとうございます。私は、あなた様の側にいられて……幸せです」


「それは……俺の方だよ。ありがとうレヴィ……本当に嬉しいよ」


 ロードはそう言いながら、左の手首に付けられた黒い腕輪を、魔銀の義手で大事そうに握った。


「ふふ……よかった」


「お熱いねぇ……あたいの炎よりあっちぃよ」


「ロード! おめでとうだし!」


主人あるじは確か19歳か? 若いのう……なんにせよ、めでたいことだ!」


「まぁ、よかったわね。ほらレヴィ、早く! ごはんごはん!」


「み、みんなありがとう……じゃ、ご飯にしよっか」


 この時より約3ヶ月後。

 ロードとレヴィは、ベンディゴでの初陣を迎えることとなる。

 SSSランク冒険者である彼は、既にその名を知らぬ者などいない存在ではあった。

 だが、ベンディゴでの一戦以来、彼の名は真の意味で世界に轟いていくこととなる。

 稀代の大英雄、ロード=アーヴァインとして。

 そして、その初陣から……更に1年の時が過ぎた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ