第470話:がっかり
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「んんっ……」
「あー……」
「スゥッー……」
「もう少々お待ち下さいね、ロード様」
「あ、うん……」
話し合いの後、俺とレヴィは生命を与えたミョルニルと一緒にニーベルグの自宅へと戻った。
レヴィは最近出来ていなかったからだろう、それはもう楽しそうに埃だらけの家を掃除し始めたので、俺とミョルニルがそれをリビングで待っていると、不意に家のチャイムがなり、出るとそこには……シェリルとカレン、それからアスナにしがみつくティアが立っていたのだった。
で、今に至るまでほとんど誰も喋らず、ただじっと椅子に座ってレヴィを待っているという状況が続いていた。
「きっひっひっ……スケコマシ……」
「や、やめろミョルニル……」
「ちょっとティア……いい加減1人で座りなよ」
「スゥッー……」
ティアは椅子に座るアスナにまたがり、抱きつくような姿勢のまま動かない。
聞こえるのは、深い吐息だけである。
そして、シェリルは何度も咳払いをし、カレンは口を開けて虚空を見つめている。
いったい何しに来たんだ……。
「ごめんね、ロード」
「え、いや? なんで?」
不意にアスナにそう言われ、思わず声が裏返ってしまった。
「突然来ちゃって」
「いや全然……いつでも大歓迎だよ。それで? 何かあったのか?」
「ううん。私からは何もないよ。話せただけで嬉しい」
「そっか……俺も嬉しいよ。まぁ、久しぶりってほどでもないけどな」
「ふふっ! そうだね」
最後に会ったのはシュメールで、別れたのは今から2週間くらい前だったかな。
バーンさんに至っては昨日も会ってるし。
オリンポスに呼ばれたのが本当に突然だったし、その後のザディアック様との話も急だったからな。
予想外のことが多過ぎる。
「ね、いつまでいられるの?」
「あー、どうだろう……バーンさん次第かな。ただ、どっちにしても1週間くらいはいようと思ってたよ」
「んんっ!」
「あ、あー……ふーん……」
「スゥッー!」
な、なんなんだ……。
「ちょ、くすぐった……分かったから! あ、だったら街を回らない? 久しぶりでしょ? ニーベルグに戻ってきたの」
「あ、ああ……」
ニーベルグは、それこそ闘技大会以来か。
もちろん……ティアのことがあったのも忘れてない。
まぁ、本人はいまだに目を合わすどころか、こっちを見てすらくれない訳だけど……。
「そうだな……うん、いいよ。だったら明日とかにするか。早い方が間違いないし。レヴィ」
「分かりました。明日ですね。楽しみです」
呼ぶと一瞬で現れ、にこっと笑ってまたすぐ消える。
……本当は転移魔法でも使えるんじゃないだろうか。
「じゃあ、明日の朝10時にまた来るよ。この人達こんなだし」
「あ、ああ……分かっ――――」
「え? アスナ達泊まっていかないの?」
「「「「「えっ!?」」」」」
ミョルニル以外の全員が一斉にレヴィを見る。
当のレヴィはキョトンとした顔でこちらを見ていた。
「い、いいの? レヴィ……」
「うん。なんなら、もう部屋も準備しちゃったけど? あ、ご飯はこの後に作るね。もう終わるから」
「あ、分かった……じゃあ、今のうちに準備してくるね。そんなつもりじゃなかったから、何も持ってきてないし」
「分かった。ゆっくりでいいよ」
「はーい。じゃ、ロードまた来るね」
「あ、ああ……」
「ん。ほら、いくよあんた達」
そう言って、アスナは3人を引き連れて出て行った。
あっという間に色々なことが……。
「ど、どうなってるんだいったい……」
「……スケコマシ」
だからやめろって……。
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「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
「はい、お粗末さまでした」
7人での食事が終わり、すぐさまレヴィが食卓の片付けを始める。
今日も最高に美味かった。
ちなみに初めて食べたミョルニルは、いまだに恍惚の表情を浮かべたまま、こちらの世界に戻ってきていない。
「よいしょ……」
「あ、こらっ……もう……」
ティアはするりとアスナの懐に潜り込み、またさっきの体勢になる。
食事をしている時は普通に座っていたが、やはり目を合わせてはくれなかった。
まぁ、理由は分かってるが……。
「そんなんで明日どうするの? 明日も私の胸に顔を埋めたまま過ごすの?」
「……」
「まったく……あと、シェリルとカレンもだよ? いつまでそうしてるつもり?」
「んっ……」
「だって……なぁ……」
「なぁ、2人の魔法を教えてくれないか?」
「「えっ?」」
「いや、なんとなくは聞いてるけど、まだ詳しくは知らないからさ。魔法だけじゃなく、2人がどういう人なのかも」
「ロードさん……」
「そう……だな……」
シェリルは赤い長い髪を、カレンも黒く綺麗な髪を触りながら、やっとこっちを見てくれた。
「せっかくこうやって話す時間も出来たし、聞かせてくれよ2人の話を。これから一緒に戦う仲間だろ? ティアもさ」
「ん……」
ティアはアスナから離れ、ゆっくりと隣の椅子に座った。
そして、やっと俺を見てくれた。
「ありがとなティア」
「ロードさ……はい!」
「うん。じゃ、カレンから色々聞かせてくれよ」
「あ、あたいから!? わ、分かった……えっと、あたいはフォッケンの生まれで――――」
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「拒絶魔法に、時加速魔法か……どっちもすごい魔法だな」
彼女達から身の上話などを聞き、話題は2人の魔法へと移っていた。
「まだまだ上手く使えてねぇけどな」
「私もです。回数で言えば、日に10回程度で、1回に加速可能な時間もせいぜい1、2秒くらいですから」
「それになぁ……あたいら共通の問題に、攻撃手段がないってのがあんだよな」
「なるほど……カレンの魔法は、敵の攻撃を防ぐのが得意で、シェリルの魔法は躱すことが得意だけど……」
「ええ。それだけじゃ相手に勝てない。だから私は今、ディンさんから剣技を」
「あたいも基礎から教わってるとこだ」
魔法は強力だけど、他が追いついてない感じか。
あ、そういえば……。
「レヴィ、2人のスキルは?」
俺のスキル"武芸百般"みたいなのがあれば、2人の戦い方もまた違ってくるかもしれない。
「あ、そうですね。すっかり失念しておりました。今"視て"みます。まずはカレン様から……」
「なぁレヴィ、様はやめてくれよ……ムズムズする」
「私も……あと、敬語じゃなくて、ティアとかアスナみたいに話して欲しい……かな」
「……分かった。じゃあ、そうするね」
レヴィはそう言ってニコッと笑う。
かわいい。
「じゃ、改めて……うーん……残念だけど、カレンのスキルは戦闘向きじゃないね」
「マジかぁ……なんなん?」
「カレンのスキルは"免疫力強化"。はやい話が……食あたりしない」
しょ、食あたり……?
「そ、それってつまり……は、腹を壊さねぇだけ……か?」
「うん。ランクは【B】だね」
「……がっかりスキル」
「がっ!? ティ、ティアてめぇ……今なんつったコラァ!」
「ひぃっ! 助けてアスナ!」
「あ、こらっ……服に潜り込むなっ!」
ち、ちなみに、ティアのスキルは"魔力芳香"。
魔力を匂いで判別出来るという結構便利な力で、ランクは【S】に分類される。
アスナのスキルは"魔力耐性"。
魔力から生み出される攻撃などをかなり軽減出来る、これまたいい能力だ。
こっちのランクも【S】と、どこまでも仲がいい。
「特技は……特にないね」
「おぃぃ……踏んだり蹴ったりじゃねぇかよぉ……」
「まぁまぁ……拒絶魔法は【SSS】だから、それだけでも十分でしょ? じゃ、次はシェリルね」
「よ、よろしく……」
「ん……んん!?」
「え、なに……なにそのリアクション!?」
レヴィはかなり驚きながら、黙ったままじっとシェリルを"視て"いる。
いったい何が"視え"たんだ?
「戦闘向きのスキルじゃない……ないけど……」
「な、なに……早く言ってよ……」
「【SSS】ランクの……スキルだよ」




