第465話:独り
「ッ!? ま、まさか……!」
奴らはレアを裏で操り、北の戦乱を引き起こした。
更に、竜族へ情報を流し、ギリシア陥落のきっかけを作ったのもまた……奴らだ。
そして、そのどちらも陛下の選択が大きく影響している。
陛下がロイによって本当に操られていたとすれば、それはつまり――――
「勇者ロイが……ティタノマキアと繋がっている?」
「はい。あくまで、可能性の一つに過ぎませんが」
「ロイ……!」
陛下は拳を握り締め、唇を噛み締めていた。
文字通り、怒りに震えながら。
「陛下、あくまで可能性の話です。真実とは限りません」
「だが……"無能"と呼ばれし者は、通常より強い魔法を有するのであろう!? ならば、あやつがそうであった可能性も……!」
「仮にそうであったとしても、今はまだ何も出来ません。何の証拠もありませんので……」
「くっ……このオリンポスが……この余が! 何も出来ぬと言うのか!?」
「陛下、お気持ちは分かります。しかし、繰り返しになりますが、あくまでこれは可能性の話です。今お話ししたのは、あくまで状況証拠だけを元にした推論……いえ、ただのこじつけに過ぎません」
確かに……そもそもの話、陛下がロイに操られていたという確たる証拠はない。
ただ、それを前提とするならば、最も怪しいのはロイだというのもまた事実だ。
あれだけの力……元"無能"だった可能性は否定出来ない。
しかし、バーンさんのような例もある。
あの人も昔、俺のように神殿で本当の魔法を知ることが出来ず、ただスキルのみで戦い、それでなんとかなってしまっていた。
たまたまアリスさんと出逢ったから"無能"と呼ばれることはなかったが、ひょっとしたらロイにもそんな過去があったのかもしれない。
まぁ、結局のところ……何もかもが不明瞭だ。
「それに、仮にロイがそうだとすると、矛盾することもあります」
「矛盾?」
「ええ。まず第一に、ロード様はご存知かと思いますが、シェリルからそういった類の話はありませんでした」
「そうだな……けど、確かシェリルも知らないメンバーが2人いた筈だ。そのうちの片方ということは?」
「はい。もちろんそれもなくはないです。まぁ、私の中でそれはかなり薄いですが……念の為、再度シェリルに詳しく話を聞いた方がよろしいかと」
「うん……そうだな。直接会って話を聞こう」
通信魔石には記録が残るし、傍受される危険性もある。
どちらにせよ、陛下が教皇と俺達を引き合わせてくれるまでには時間がかかる訳だし、ニーベルグでそれを待っていても問題はないだろう。
ティエレンの転移を使えば、距離の問題はなくなるしな。
とりあえず、この後の俺達の行動は決まった。
「ええ、そうしましょう。で、話を戻しますが、第二の矛盾点として、先程陛下も仰られておりましたが、ギリシア奪還の際、オリンポスにはティタノマキアから脅迫状のようなものが届いていたのですよね?」
「ああ。あれは、これまでに出されていた犯行声明と照らし合わせ、間違いなく本物であると確信出来るものであった。余の命を狩ると、間違いなくそう書いてあったわ」
「陛下、そもそもそれがおかしいのですよ。ただでさえ、陛下を襲撃するという行為自体が難しいものである筈なのに、わざわざそれを知らせ、更に警戒度を高める必要がいったいどこにあるのでしょうか?」
「ぬ……」
確かにそうだ。
本当にやりたいのなら、最初から黙ってやればいいだけの…………そうか……そういうことか。
「……反政府同盟と同じだ」
「なんだと?」
「ロード様の仰る通りです。反政府同盟もまた、本来出す必要のない犯行声明を出していました。ただし、これには陛下に対して、"逃げずに姿を現せ"という別の意味が込められていた訳です。なので、ティタノマキアの場合も……」
「ティタノマキアは竜族と繋がっていた。単なる情報共有だけじゃなく、かなり手厚くサポートしていたと言っても過言じゃない。それは、竜族がヴァルハラで猛威を振るえば振るうほど、奴らにとって都合がいい何かがあったからだ。だから脅迫状を出して、オリンポスが自由に動けないようにした……特にあの勇者を、戦場には出させたくなかったから」
……あの強さだ。
多分、ギリシア大戦にロイが参戦していたら、被害は今より遥かに少なくなっていただろう。
「その通りです。ですが……」
「ロイがティタノマキアの一員だとすれば、そんなことをする必要がない……だろ?」
「はい」
最初から裏で繋がっていたのなら、正直言ってどうにでも出来ることだ。
それこそ、"陛下のお側を離れる訳にはいかない"とかなんとか言えばいい。
もちろん、あの脅迫状によって、ロイだけでなく、オリンポスの主力も抑えられる可能性は高かった。
事実そうなったしな。
けど、そもそもそれ以前に――――
「た、確かに……だが、余が命ずれば、あやつとてギリシアに行かない訳には…………あ……」
「そうなのです陛下。あの脅迫状は、なんの意味もないのですよ。何故なら陛下はあの時……操られていたのですから」
そう。
意味がないんだ。
ロイがティタノマキアで、陛下を操れるのなら、それでもう全ては済んでいる。
他に余計な事をする必要がない。
「故に、奴らは別。ただ目的が合致していただけ。それがなんなのかは分かりませんが、とにかく陛下はあの時……ロイとティタノマキア両方に動かされていたのです」
「…………よく、分かった」
陛下は、静かにそう言った。
そこにさっきまでの激情はなく、レヴィの言ったことを……冷静に受け止めているように見えた。
「陛下……」
「気を遣わんでよい。ロード、レヴィ、感謝する。ようやく……余は今の立ち位置を理解した。次の話に移るぞ」
「はい」
「承知いたしました」
「ひとまず余は、神託の巫女……プリストリアと貴様らを引き合わせるために動く。貴様らはさっき話していた……そう、元ティタノマキアの娘に話を聞きに行くのだな?」
「そのつもりです。俺達はこの後、ニーベルグへ」
シェリルは今、ティア、アスナ、カレン……それからバハムートさんと一緒に、ニーベルグで過ごしている。
別れてからそんなに日も経っていないが、また会えるのは少し楽しみでもあった。
あ、確か、バーンさんもニーベルグに行くって言ってたな。
またすぐ再会することになりそうだけど、アリスさんとザワンさんに会うのは久しぶりだ。
「分かった」
「陛下、ロイとは……」
「それも分かっている。怪しまれないよう、これまで通り接するつもりだ……癪だがな」
……そうだろうな。
よし、じゃあ今度こそ……。
「陛下、それではそろそろ……」
「待て」
「は、はい?」
立ちあがろうとするのを、再び止められる。
な、なんだろう?
「最後に一つ言っておく。それがいつかは分からぬが……おそらく、余は再び操られるだろう」
……可能性は高い。
抗う術がない以上は。
「無論、余は余の思うままに選択する。オリンポスの益となるように。だが、それが正しいのかそうでないのか……もはや余自身にも先が見えぬ。故に、余の選択が誤っていると判断した場合……貴様らがそれを止めよ」
「陛下……」
陛下は目を閉じ、微かに笑みを浮かべた後に言葉を続けた。
「確かにこの邂逅……最初は神託によるものであった。だが、貴様らと言葉を交わし、今はそれだけではないと……そう思っている。貴様らは、信頼に足る人物だ。貴様らの旅路、そして知り得たものを、包み隠さず語ってくれたこと……改めて感謝する。ロード、レヴィよ……余に、力を貸してくれ」
「もちろんです……陛下」
「お任せ下さい」
「……ありがとう。ではな。時が来れば連絡する」
「はい。よろしくお願いします。レヴィ」
「はい、すぐに。さぁ、ハディス様、ハディス様……」
「むあっ? お、おお……んむ……あ、終わったのかぁ?」
「ええ。さぁ、またお願いします」
「ふあ……んむ……まったくぅ……吾輩がおらんとお主らは……ん、よし。それではゆくぞ?」
「陛下、申し訳ありませんがまた扉を……」
「分かった。貴様らが消え次第、再び扉を開けよう」
「お願いします。では……また」
「ああ……また会おう」
そうして、俺達は再びハディスの力で世界から消える。
陛下を独り……その場に残して。




