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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
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第460話:待ち人

 

 ―――――――――――――――――――――


「へ、陛下!?」


 王の居室前で警戒にあたっていた2人の兵士が、背後から聞こえた扉の音に反応して振り返ると、扉を開け放ち、辺りを見回すザディアックがそこにいた。

 時刻は、夜の10時である。


「い、いかがなさいましたか!?」


「な、何が……!」


「……いや、気にするでない。部屋の外が少々気になってな。だが、どうやら余の杞憂であったようだ。そのまま励むがよい」


「「は、ははっ!」」


「うむ。ではな」


 扉を閉め、ザディアックは部屋の奥へと向かう。

 壁にかけられたランタンの淡い光のみが照らす室内は薄暗く、足元は暗闇に覆われていた。

 彼は豪華な装飾のなされた椅子へ座ると、その傍らにある小さな丸テーブルに置いてあった黄金の酒杯に手を伸ばす。

 飲みかけのワインを飲み干すと、顔を下げて一つ息を吐きながら目を閉じ、微かに口角を上げた。


「そこに……いるのであろう?」


 そうして、そのまま暗闇に問いかけた。


「……陛下、失礼いたします」


「……!」


 ザディアックが顔を上げると、そこに待ち人が立っていた。

 そしてその傍には、美しく赤い瞳を輝かすメイド姿の女性と、およそ不釣り合いな兜をかぶった小さな男の子が立っていた。

 ザディアックは驚愕しつつも冷静に務め、背もたれに身体を預けながら笑みを浮かべた。


「ふっ……流石だな、と褒めておこう。が、同時に落胆も禁じえぬ。こうも容易く、余の前に立たれては、な」


 ザディアックの居室。

 それはつまり、オリンポスの心臓である。

 誰にも気付かれることなくその場に立つことなど、本来であれば絶対に不可能なことであった。


「陛下……その、お声が……」


「案ずるな。この位置であれば、よほど大きな音でも立てぬ限り、外の衛兵が気付くことはない。さて、まずは聞かせてくれまいか? 如何にして我が眼前に、貴様らが立ち得たのかを」


 ロードが泊まっていた宿から城までには、二つの巨大な門を越えなければならない。

 一般の国民が住むエリアから、貴族の住むエリアへ繋がる第二の門と、そこから更に、王族とその警護のみが入る事を許される、オリンポス城が聳え立つエリアに通ずる第三の門。

 当然ながら、門と門の間にも数多の監視と、魔法を使用するどころか、魔力を練っただけで反応する結界が張り巡らされている。

 突破は不可能な筈であった。


「それは……こいつのおかげです」


 ロードの魔銀の義手が、黒い兜越しにハディスの頭を優しく撫でる。


「こ、こら! 吾輩の頭を気安く撫でるでない!」


 そう言いつつも、満更でもなさそうな表情を浮かべながら、ハディスはロードの手を払いのける。

 それを見ていたレヴィは、クスクスと笑っていた。


「こいつはハディス……姿どころか、気配も何もかも全て消せる力を持つ兜です。彼のおかげでここまで来られました。ありがとな、ハディス」


「ふ、ふん! まったく……ロードは吾輩がおらんと何も出来んな!」


「うん、そうだよ。全部ハディスのおかげだ」


「ハディス様、流石です」


「そ、そうだろそうだろ! にゃっはっはっはっ!」


「ほう……つまり、その者の力で、ここに至る全ての監視を掻い潜ったと……俄かには信じられぬが、信じざるを得ぬか……現にこうして、余の前にいるのだからな。それも貴様の魔法という訳か?」


「えーっと、正確には違います。俺の魔法は、物質に生命を与える魔法で、今はこの伝説の武具であるハディスに生命を与え、その力を使って貰っている、という感じです」


「……なんと。そのような魔法が……いや、待て。それもそうだが、伝説の武具だと? 古の文献に記述があったのは記憶しているが……御伽話の類いと……」


「みんな実在しています。因みに、ただの物に生命を与えてもこうはなりません。例えば、陛下の盃に生命を与えたとした場合、手足が生えて人のような動きはしますが、ハディスのようにはなりません。彼らには魂があるんです。だからこうして、力を貸してもらっうことが出来るという訳です」


「ふむ……彼ら、ということは、他にもあると?」


「はい」


 ロードは肯定し、そこで言葉を止めた。

 ここまででも少し話し過ぎたとは思っていたが、これ以上続けるとなると、1から全てを語る必要が出てきてしまう。

 全てを語るには、まだザディアックを信用しきれてはいなかった。


「そうか……やれやれ、余もまた……まだまだ無知ということか。世界を統べる力を持っていようが、この世はかくも広く、深淵の底は影すら踏めぬ……いや、これは喜ぶべきであるな。クックックッ……感謝するぞ、ロードよ」


「あ、は、はい……」


「さて、これで最後だ。何故、余に扉を開けさせた?」


「あ、それはまぁ……流石にひとりでに扉が開いたらおかしいので……」


「なるほど……余を間者にした訳か。最後の関門を突破する手引きを……此度の襲撃のように」


 微かに冷たい空気が流れた。

 ザディアックの眼光は鋭く、浮かべる笑みが逆に威圧感を増幅させていた。

 ロードの喉は無意識に唾を飲み込み、その瞳は助けを求めるようにレヴィへと向かう。

 褐色のメイドは澄まし顔で、ザディアックへ笑顔を向けていた。

 ハディスは兜を深く被り、黙って床を見つめていた。


「クックックッ……勘違いするでないわ。余は怒りなど微塵も抱いておらぬ。それに、間者はもう見つけたしな」


「え? も、もうですか?」


「然り。いると分かれば目星はつく。ましてや、あの鳩を放った者は面が割れていたしな……通ったルートから逆算すれば、誰がどう手引きしたか容易く辿り着けるが道理よ。故に、むしろ今宵は機嫌が良い。邪魔な存在が消え、こうして貴様にも会えたことだしな。さて……」


 ザディアックはロードから視線を外し、黄金の酒杯にワインを注ぐ。

 そして、空いた手でやはり豪華なソファーを指差した。

 ロード達は頭を上げた後、静かにそこへ腰掛けた。


「そろそろ貴様が問いたいのではないか? ん……ふぅ……何故、己がここへ呼ばれたのかをな」


 ワインを片手に、ザディアックは再びロードへと視線を向ける。

 齢30。

 整った容姿を持つ彼は、年齢よりもかなり若く見え、黄金の前髪から覗く蒼い瞳が、怪しく煌めいていた。

 ロードがその問い掛けに頷くと、彼は盃をテーブルに置いた。


「……ロードよ。実際のところ、余のことをどう思っていた?」


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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