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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第7章:頂から視る世界
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第455話:式典

 

 それに合わせ、また大きな歓声が上がった。

 百を超える白い鳩達は二手に分かれ、そのまま晴天の空を駆け巡る。

 その美しい景色に、やがて歓声は消え、感嘆の声が微かに空気を揺らす。


「平和の象徴……か。よい趣向ではないかミデア!」


 ザディアックは嬉しそうな笑みを浮かべながら、側で待機していたオリンポスの宰相ミデアにそう声を掛けた。

 しかし、彼女は怪訝な表情を浮かべ、首を傾げる。


「いえ……我々の策ではありません。おそらく国民が考えたものかと……」


「そうか! まぁ、それでもよい! お、もう到着か……ちと早いな。ロード、もう一周するか!?」


「へ、陛下……!」


「はっはっはっはっはっ! 冗談ではないか!」


 "冗談には聞こえないです"、という言葉を飲み込み、ロードは冷や汗をかきながらため息をついた。

 それと同時にあたりを見回す。

 邪悪な生命の光は見えず、今度は深く息を吐いた。

 いつ、どこから。

 狙われている当の本人よりも、ロードの精神の方が擦り減っていた。

 そして、そんな彼の不安をよそに、馬車は軽やかな足取りでようやく……中央広場に設置された会場へと入っていった。



 ―――――――――――――――――――――



『それでは! これより新たなSSSランク冒険者の拝命式を開催するッ!』


 魔石により拡大されたミデアの声が響き渡ると、押し寄せた民衆から、今日何度目となるか分からない大歓声が上がった。

 中央広場に特設された縦長の壇上には、SSSランクの冒険者7人が向かい合って並び、一つの道を作りあげ、そしてその道の先に、4人の騎士団長に背中を任せたオリンポスの王……ザディアックが立つ。

 そんなザディアックの視界には、7人のSSSランク冒険者と、もはや数えることは叶わないほどの民衆が映っていた。

 そして――――


『さぁ、新たな英雄……ロード=アーヴァインよ! これへッ!』


 それは、まさに新たな英雄の誕生というべき光景であった。

 民衆の中から一歩、また一歩と世界を駆け上がり、ついに彼は世界に名だたる男と成った。

 壇上へと昇り切った頃には、ザディアックすらもが、見惚れるに値すると心の中で賛辞を贈るほどに、彼は清廉で、そして強い生命力に満ち満ちていた。

 かつて……いや、今も憧れ続けている冒険者のいただき達と、彼は今同じ地平に立ったのである。


 背中に当たる地響きのような歓声に、彼はゆっくりと振り返ると、静かに頭を下げ、そして再び前を向いた。

 踏み出した彼の足取りはしなやかで、震えることも、臆することもなく、堂々と――――


「……!」


 その時、ほんの一瞬、彼の足取りが鈍った。

 それを感じ取ったのは、壇上にいる強者達のみで、沸き上がる民衆達はそんなことなどまるで気付かず、ただ歓声を送り続ける。


「ふぅ……」


 歓声にかき消され、自身ですら聞こえない程の微かな吐息。

 足を強引に前へと出し、彼は進み続けた。

 何が彼の足を迷わせたのか。

 その答えは、バーンの正面に立った1人の男。

 勇者……ロイにあった。


「……」


 別に目が合った訳ではない。

 ロイは伏せ目がちに、ただ佇んでいるだけである。

 彼がアスナのことを想い、怒りに震えた訳でもない。

 その感情は確かにあっても、今は心の奥に留めてある。

 ロイからは見えなかったのだ。

 ロードの目には映る筈の……生命の光が。

 他のSSSランク冒険者達は、皆それぞれが強大な生命力に満ち溢れていた。

 それは、ザディアックの背を守る騎士団長達も同義である。

 だが、ロイにはそれがない。

 小さいのではなく、全くないのだ。

 代わりに、ロードにはロイが……ただひたすらに黒く、悍ましく見えていた。

 やがてロードは、ロイの前をスッと横切った。

 背筋にじわりと、嫌な汗が流れるのを感じながら。

 それでも前だけを見つめ、ロードはザディアックの前へと辿り着いた。


『静粛にッ!』


 ミデアの一声で、オリンポスが静まり返る。

 それに一礼した後、彼女はザディアックに視線を送った。

 オリンポスの王は微かに頷くと、ロードの目を見つめながら口を開いた。


『よくぞ……よくぞこの頂へと至った。貴殿は一つ、まさに成し遂げたのだ。無論、聡明な貴殿は、まだ何もと……そう、答えるであろう。だがな英雄よッ!』


 ザディアックが両手を広げる。

 そして、握り締めた右の拳を天へと掲げた。


『貴殿こそが光なのだッ! あの天空に輝く太陽のようにッ! 我らは貴殿に温もりを感じ……そして、その存在があるが故にッ! 希望を胸に一日を迎えられるッ!! まさに選ばれし者……その羨望をッ! 畏敬をッ! 感嘆をッ! どうか無碍にせず誇りと……そう、捉えてほしい』


 ザディアックの言葉に、ロードはロイのことを一瞬忘れ、魂を震わせていた。

 今の言葉は、ザディアックの嘘偽りない想い。

 そしてそれは、強者に対する民衆の想いでもあった。

 謙遜は美徳。

 だが、受容もまた美徳である。

 相手の想いを受け止め、応える。

 そこに不義はない。


『英雄よ……前へ』


 ザディアックの手に、一振りのつるぎが握られていた。

 白銀のつかに、宝石が散りばめられた黄金の鞘。

 それは、SSSランク冒険者のみが持つことを許される儀礼剣。

 まさに頂の証であった。

 横向きに差し出されたつるぎを受け取る為、ロードは再び前へと歩を進める。

 そして、片膝を突いて――――



 ―――――――――――――――――――――



 ロードがザディアックの前に立つ数分前――――


「……お、始まりましたよ」


 望遠鏡でオリンポスの街を見ていた男が、後ろに寝転んでいたもう1人の男にそう声を掛ける。


「やっとか……長いねぇ。長い長い……」


 男は背伸びをしながら立ち上がると、首と腰の骨を鳴らしながら、望遠鏡を持った男の隣に立った。


「ここからはあっという間ですよ」


「まぁな。あー、ちょっとここらの葉っぱ切ってくんね? ぜってー邪魔になるわ」


「はいはい」


 彼らがいる場所は、オリンポスから数キロ離れた山の頂上に生えている木の上。

 そこはオリンポスのメインストリートの延長線上にあり、視界は遮られることなく、拝命式が一望出来た。


「こんなもんで?」


「ん、実によろしい。まさに一直線……いやぁ、やっぱ馬鹿って天才だねぇ」


 へらへら笑う男をよそに、もう1人の男は望遠鏡を置くと、その魔力を練り上げる。


「さっさと準備してくださいよ……ボス」


 ボスと呼ばれた男はニヤリと笑い、長い黒髪をかき上げると、それを紐で縛り上げた。

 そして――――


「わぁってるよヒョドラ君。さぁ、楽しい楽しいショーの……始まりだ」


 実に嬉しそうに、そう言って笑った。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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