第451話:区域
「ロ、ロード殿?」
「えっ? は、はい?」
「いやその……なんだか今……とても怖い顔をされていたので……」
……顔に出てたか。
「あー……いや、もうすぐだなと思ったら、なんだか緊張してきてしまいまして……」
「あ、なるほど! それはそうですよね! 私がロード殿のお立場なら、今頃緊張で震えっぱなしだと思います」
「あはは……俺も似たようなものです」
……バーンさんが言っていたように、現SSSランク冒険者は原則として、この拝命式に参加しなければならないことになっている。
もちろん義務ではないから、それ相応の理由があれば参加を辞退することも可能らしい。
因みに、バーンさんから教えてもらった今回の不参加者は3人。
そのうちの2人……ディーさんとルカさんは、今も北に留まって、戦争による被害を少しでも抑えようと奔走している。
現在の北の戦況は、シュメールから供給されていた人造魔石機兵がいなくなったことで、もともと優勢だったレアへと一気に傾いてしまった。
もはやティーターンの滅亡は時間の問題……だから2人は、北にある小さな村々に住む人達を守るように動いているとのことだ。
シュメールの闇を払った先に、ティーターンの滅亡が……バーンさんは仕方のないことだと言っていたけど、それを思うとなんだかやりきれない気持ちになる。
そして、不参加のもう1人は、本物の"操作魔法"の使い手であるベアトリーチェさん。
バーンさんから聞いた話では、もの凄い美人だけど、かなりキツい性格をしてるらしく、そのギャップから"地獄の女神"とか、その指先一つで、思うがままに全てを破壊する力から……"破滅"のベアトリーチェと、そう呼ばれているらしい。
俺がかつて与えられたと思っていた魔法を使いこなす人……正直会ってみたかったけど、今はいい。
とにかく大事なことは、勇者ロイに会えるってことだ。
正確に言えば俺じゃなく……レヴィが、だけど。
ただ問題は――――
「ジェニー補佐」
「ああ、分かっている。お2人とも、間もなくメインストリートに入ります。と言っても、すぐに第二の門を潜りますので一瞬ですが……どんな様子かはご覧いただけると思いますよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「おお、これは凄い……」
馬車がメインストリートに入った瞬間、車窓は大量の馬車が行き交う風景に変わり、更にその先を見ると、先程までいたサブストリートとは比べ物にならないくらいの多くの人々の姿がそこにあった。
そして、俺達が向かう先には――――
「あれが第二の……」
シュメールで戦った超大型人造魔石機兵と同じくらいの……とにかく巨大な門があった。
その門の上には、オリンポス城の先端部分が顔を出している。
どっちもデカ過ぎて、遠近感がおかしくなりそうだ。
「はい。といっても、あれが全て開く訳ではないですが」
「え? そうなんですか?」
「ええ。あの巨大な門の下の方に、通行用の小さな門があるんです。中央エリアにはそこから入ります」
「だったらあの巨大な門は……」
「通常、開くことはありません。ただ、先程申し上げたように、有事の際は民衆を中に入れる為に開かれることになっております。小さな門では、一度に通れる数に限りがありますから」
「なるほど……」
そんな話をしているうちに、馬車は第二の門の前へと辿り着いた。
近くだと尚更大きく見える。
「では、我々は通行の手続きをして参りますので、ここで少々お待ちください」
「あ、はい。分かりました」
「……ロード様」
2人が馬車から離れたのを見計らい、レヴィが小声で話しかけてきた。
「ん?」
「とにかく冷静に……ですよ?」
……敵わないな。
「分かってるよレヴィ。それより問題は、どうやって"視る"かだ」
「ですね……しかし、こればかりはなんとも……」
今回の件で、俺の存在はティタノマキアに完全に認知されてしまうだろう。
ただ、悪いことばかりじゃなく、利点もいくつかあった。
その一つが、勇者ロイに直接会えること。
俺と、レヴィが。
「アリスさんの"真偽の眼"……それには映らなかったものが、レヴィの鑑定魔法なら"視え"るかもしれない」
ニーベルグの闘技大会が終わったあと、バーンさんから聞いたロイの話。
アリスさんの力でロイを"視た"時、その心の中には何もなく、ただ闇だけが広がっていて何も分からなかったと、バーンさんは話していた。
けど、レヴィの鑑定魔法なら、ロイの何かを掴めるかもしれない。
それこそが、この話の最大の利点だった。
「直に会うチャンスなんてそうそうない……なんとしてもロイの力を見極めて、アスナの魔法を取り戻すんだ」
「はい。ただ、拝命式はお城の中で行われますからね……あの中は魔法禁止区域……魔力を練っただけで拘束されてしまいます」
「ああ……とすると、それ以外の場所でロイに……」
「ッ! ロード様……!」
「申し訳ありません。お待たせ致しました」
「あ、いえ……全然待ってないです」
危ない危ない……誰かに聞かれたらその時点でアウトだ。
今俺達が信用出来るのはバーンさんと、ズィードさん、ヴォルクスファングさん、それからヴィヴィアンさんだけだ。
その3人には、バーンさんが話を通してくれることになっている。
なんとか上手くやるしか……。
「では、これより中に入ります。先にお伝えしておきますが、この門の中からは"魔法制限区域"になります。魔法の使用には許可が必要となりますので、くれぐれもご注意を」
知ってるけど、一応聞いておくか。
「分かりました。あの、因みに使ったらどうなるんですか?」
「あ、はい。ここから先のエリアには、魔力を感知する特殊な魔石が至る所に設置されておりまして、何者かが魔法を発動しようとした瞬間に警報が鳴ります。後は常駐しているいずれかの騎士団が現場に駆けつけ、対象者を拘束することになります」
「なるほど……」
「そしてもう一つ……これを超えた先に第三の門がありますが、そこはオリンポス城がある王族のエリアですので、"魔法禁止区域"となります。そこでは魔力を練っただけで、第一から第五までの騎士団長を含む精鋭部隊が即座に向かい、その対象を殲滅することになります。相手が誰であろうとも、です」
誰であっても……。
「仮にそれが、ザディアック王だとしても?」
「はい。陛下はかつてこう仰られておりました。"仮に余が魔法を使った場合も即座に殺せ。もし使ったならば、それは偽物である"……と」
なるほど……迷いを消す、いい言葉だ。
「因みに、陛下は更にこう付け加えられました。"まぁ仮にそうなった場合、既に貴様らは主君を守ることも出来ない能無しの極みであるのだから、余にとってはもはやどうでもよいことなのだがな"と……」
「あー……」
いい方はアレだけど、ごもっともだなぁ……。
「その為、我らは容赦しません。決してお忘れなきようお願い致します」
「分かりました。肝に銘じます」
……つまり、ロイをレヴィが"視る"為には、第三の門は勿論、第二の門よりも外……この一般区画でなきゃ駄目ってことか。
しかも、出来ればロイに気付かれないようにやるとなると……かなり道は険しそうだ。
「それでは出発します」
そうして、再び馬車は動き始めた。
ロイが待つであろう、オリンポス城に向けて。




