第444話:最高責任者
「ええ!? な、なんでオリンポス王が!?」
本当に……なんでなんだ?
俺の存在を知っているのかすら怪しいくらいなのに……。
「詳しくは分からんが、考えられるとすれば……オルグレンのおっさんかもな」
「オルグレンさんって……あ」
そ、そうか……オルグレンさんは冒険者ギルドのグランドマスターで、その本部があるのはオリンポス……。
「オルグレンのおっさんは、もうほとんどオリンポスの人間だ。オリンポスは冒険者ギルドの一番の太客だからなぁ……好む好まないに関係なく、ザディアックには逆らえねぇ。ま、あの人がザディアックの横暴からギルドを守ってる部分も大きいが、聞かれちまったら真実を話すしかねぇだろうな。シュメールで何があって、誰がどうしたのか……あれだけでかい騒ぎとなると、容易に嘘はつけねぇし」
確かに……。
「今思えば、あの夜におっさんと会っちまったのはまずかったかもな。結果論だが」
「そう……ですね。少し不注意だったかもしれません。詳しく話す間も無かったですし……」
俺は思い返していた。
ロバート王が消えた……あの夜のことを。
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「……駄目だ。やっぱりどこにもいないね」
ロバート王が乗っていた人造魔石機兵から姿を現したスカークは、ため息混じりにそう言った。
「そんな……」
「ロード様、生命の反応は……?」
「……周囲に反応はなかった。今見えるのはこの中だけだ」
スカークが人造魔石機兵の中に潜ったのは、今ので2回目である。
最初に潜った際、スカークが見つからなかったと告げた瞬間、ロードはすぐさま周囲を飛び回り、生命の反応を探していた。
しかしロバートは見つからず、ロードはスカークにもう一度くまなく捜索するように頼んだのだが、結果は変わらなかった。
「ここに来るまで数分……いったいどこに消えたのでしょうか……」
「分からない……分からないけど、今はこの中にいる人達を助けよう。スカークさん、ちょっと大変だと思いますが……」
「そりゃ構わないんだけど、実は魔力が結構キツくなってきてんだよね」
「ガンバンテイン」
「はいはい。あんた、手を出しなさい」
「お? おお……おお!?」
スカークの手にガンバンテインが触れた瞬間、彼の身体に魔力が戻っていく。
「どう?」
「すげぇな一気に満タンに……これならいけるぜ!」
「よかった……こっちも準備しておきます」
「わぁった! さぁて、全員引き摺り出しちゃうぞぉ!」
「お願いしま……ッ……!」
「ロード様ッ!?」
スカークが三度人造魔石機兵の中に消えた瞬間、ロードの身体がぐらりと揺らぐ。
そのまま倒れそうになる彼を、レヴィは咄嗟に両腕で抱き締めた。
「ロード様! ロード様! だ、大丈夫ですか!?」
「う……あ、ああ……大丈夫……ちょ、ちょっと目眩がしただけだよ」
ロードはそう言ってレヴィから離れると、黒い手帳に手をかけながら大きく息を吸った。
「……ほら、大丈夫だ。今はもうなんともないよ」
「そ、それならよろしいのですが……ご無理はなさらないでくださいね?」
「平気さ。それに、俺のことなんかより中にいる人達の無事を確かめる方が先決だ。完全に機能は止まっているみたいだし……」
「それはそうですが……」
「ま、ちょっと強い力を使い過ぎたのかもね。魔力は大量にあるから、そんなに心配しないで大丈夫だと思うわよ。なくなったらまた私のをあげるだけだし」
「ありがとうガンバンテイン。よし……エクスカリバー」
現れた聖剣の柄を引き抜き、ロードはいつものように魔力を込める。
そうして現れたエクスカリバーは、凛とした表情で3人の前に立った。
「話は聞いていた。よろしく頼む……ガンバンテイン」
「ええ、こちらこそよろしくエクスカリバー。会えて嬉しいわ。一応言っておくけど、魔力の心配はいらないわよ」
「心得た。しかし、100人以上か……骨が折れそうだな」
「いつも悪いな」
「エクスカリバー様、また腕によりをかけた食事を作らせていただきますので、どうか一つ……」
「それは楽しみ……む」
「ん……!」
何かの気配を感じ、ロードとエクスカリバーが同時に振り返る。
「よう、終わったみたいだな」
「バーンさん……」
そこに、ゆっくりと笑顔で歩いてくるバーンの姿があった。
しかし、ロードの表情を見て、バーンの笑みが消える。
「……なんかあったみたいだな」
「ええ……実は……」
ロードから経緯を聞いたバーンは、「ふむ……」と唸りながら腕を組んで首を傾げた。
「まだ協力者がいたか、あるいは全く別の何者かが……だな。恐らく後者だろうが、どちらにせよ、ロバート王の行方を追うのは難しそうだな」
「はい……とにかく今は、この中の人達を助ける方が先決かなと」
「俺もそう思う。手を貸すよ」
「お願いしま……」
「ふーむ……デカイのう」
「「ッ!?」」
その声が聞こえるまで、誰も彼に気付けなかった。
バーンも、生命を探知出来るロードですらも。
すぐ近くに、その巨躯があったのにも拘らず。
「あ、あなたは……!」
「ったく、人が悪いぜ……オルグレンのおっさんよぉ」
「あっはっはっはっ! すまんすまん……驚かせちまったな」
冒険者ギルドにおける最高責任者。
グランドマスターにして、SSSランク冒険者のまとめ役であるその男……オルグレン=ファーターは、大きな身体を揺らしながらそう言って豪快に笑った。
「危うく斬りかかるところだったぞ……」
「ほぉ? お前の間合いに気付かれずに入れたのなら、俺もまだまだ捨てたもんじゃないな」
「……んなことより、おっさんまだこの国にいたのかよ?」
「ん、ああ……ちと、ウルフリックから話があると言われてな。その話の内容は……まぁ、今お前達が片付けてくれたものだ」
やはり……と、ロード達は頷いた。
「ザディアック様からの帰還命令を強引に先延ばしにしてまでこの国に留まっていたのだが、よもやこのようなことになるとは……まずは謝らせてくれ。手を貸せなくて……本当にすまなかった」
「あ、いやっ……そんな……!」
深々と頭を下げるオルグレンに、ロードは恐縮しながら首を横に振った。
バーンは一つため息を吐いた後、再び口を開く。
「……おっさんの立場は分かってるよ。謝られてもこっちが困るだけだからやめてくれや」
冒険者ギルドの運営に携わる者は、いついかなる場合においても中立の立場でなければならない。
特に、彼は冒険者ギルドの長。
国の内情への過度な介入は、仮にそれが正しい行いであったとしても、後々必ず遺恨を残す。
故にオルグレンは動けなかった。
バーンはそれを理解しているが故に、そう言ったのである。
「すまん……」
「だから謝るなっての」
「む……ん、分かった。さて、君が噂のロード君だったんだね」
「あ、はい!」
「闘技大会も見事だったが、先程の戦いぶりも素晴らしかった。いやはや、君のような若者がいれば、俺のようなおっさんも楽ができ……じゃない……冒険者ギルドも安泰だなぁ!」
「あ、あはは……」
「あっはっはっはっはっ! ……ん?」
その時、オルグレンの通信魔石が紫色の光を放つ。
次の瞬間、彼の顔が一気に青ざめていった。
「どうしたおっさ……」
「やばい……ザディアック様からだ……」
「えぇ!?」
「は、早くお出てなった方がよろしいのでは?」
「やだなぁもう……はぁ……で、ではな諸君! 俺はオリンポスに帰還する! バーン! 後のことは任せたぞ!」
「お、おう」
「うむ! ではさらばだ! あ、はい! オルグレ……いや違うんですよ陛下! ちょっと問題が起こりまして……」
2メートルを超える巨躯の男は、その身体を縮こませ、頭をペコペコと下げながら去って行った。
その様子を眺めていたロード達は、社会の厳しさを感じられずにはいられなかったのだった。
「おっしゃあ! とりあえず2人……あれ? ど、どったの?」




