第427話:ゴッド
『ハーハッハッハッ! 素晴らしいッ! 最高の気分だァッ!』
「へ、陛下……陛下なのですか!?」
『そうだよリナリアくぅん!! はははッ! 上手くいったんだ! 僕が……僕こそが! こいつの適合者だったのさ!!』
100メートルを超える巨体が壁を突き破って現れたのを見て、レヴィとスカークは示し合わせたかのように合流し、同時に距離を取った。
しかし、距離を取って尚、見上げるそれは変わらない。
「ロ、ロバート王があの中に……ロード様は!?」
「……落ち着くんだレヴィちゃん。あいつはそう簡単にくたばらないでしょ。それより……こいつはかんなりヤバイ状況だよ」
スカークの言う通り、先程までとは一転、状況は最悪となっていた。
大型をブランスが抑え、バイザーも魔力切れ寸前の状態ではあったが、通常の人造魔石機兵の足止めには成功していた。
そして、スカークがエミーナを、レヴィがリナリアをそれぞれ抑え、勝利はまさに目前というところで、その盤面は王の登場によって完全にひっくり返されたのである。
「申し訳ございません陛下ッ……我々が至らぬばかりに……!」
『いいんだよリナリア君! むしろ、そのおかげで僕は"こう"なれたんだ! 最強の王に……いやッ! もはや僕は神にッ……ゴッドロバートになれたのさッ!』
「ゴ、ゴッドロバート?」
『そうッ! ゴッドとは! 古い言葉で"神"を指す言葉ッ……これからは僕のことをそう呼んでくれたまえッ! さぁ、これから始まる僕の世界に……邪魔な者達を駆逐しようじゃないか!』
「ッ!」
巨人の……いや、巨神の一歩が大地を揺らす。
取った距離などまるで無意味であった。
あまりに巨大過ぎるそれの一歩が、無慈悲に空間を押し潰す。
「スカーク様……!」
「やーれやれ……レヴィちゃん、サポートは任せたよ。オイラは……アレの中に入る」
「……かしこまりました」
立てた作戦は単純明快。
スカークが透過魔法で巨神の中に入り、王を討つ。
レヴィは瞬時にそれを理解し、スカークの前へと出た。
「んじゃ……よろしく!」
「いきます……!」
瞬間レヴィは大地を蹴り、スカークは地面に沈む。
『逃げても無駄だよぉッ!』
王は彼女達の行動を"逃走"と見た。
故に、まずは目に見えるレヴィへと標的を絞る。
そうして振り下ろされた巨神の拳が――――
「うッ!?」
彼女の僅か数メートル先に着弾したそれが、大地を激しく揺らし、凄まじい衝撃を生む。
直撃は回避したものの、その風圧だけでレヴィの身体が宙を舞っていた。
「ぐあッ!」
そのまま勢いよく壁に叩きつけられ、彼女の頭の中で高い金属音が鳴り響く。
『ハーハッハッハッ! 逃げられる訳ないじゃない! 蟻だよ蟻! 君らは地を這うだけの蟻さ! 全部見えるんだよここからはッ! だからね……スカーク君!』
「……ちッ」
舌打ちとともに、スカークはレヴィが寄りかかる壁から姿を現していた。
「ス、スカーク様……」
「ごめんレヴィちゃん……駄目だった」
『無駄だよ無駄ぁッ! ゴッドロバートに魔法は効かないんだ! 魔法だけじゃないよぉ!? 魔力を伴う全ての事象を無に還す! ただの鉄の塊じゃないのさ! 完全魔力遮断装甲ッ! 通常の人造魔石機兵の装甲にも魔力軽減の力はあるッ! けど! ゴッドロバートのそれは次元が違うのさぁッ! だからこそ無敵ッ! だからこそ全能ッ! だからこそ神ッ! 神の体内に侵入なんて……出来る訳ないだろぉ!? ハッハッハッ!! さぁて、次にどうなるか……もう分かるよねぇッ!?』
「まずいッ……!」
巨神の拳が再び振り上げられる。
しかし、スカークは魔法を使用して回避することが出来ない。
透過魔法で攻撃をすり抜けようにも、巨神の一撃には意味がなく、壁や床に逃げ込もうにも、逃げ込んだ場所ごと破壊されてしまう。
「レヴィちゃん立って!」
「ぐッ!」
『まずは2人ッ……!』
「"嵐の神の放浪槍"ッ!!」
『ぬッ!?』
次の瞬間、暴風を纏った白き槍が、2人を粉砕せんと放たれた巨拳の軌道を僅かに逸らす。
逸れた拳が地面を砕き、粉塵が舞い上がる中、スカークはレヴィの肩に手を置いて魔力を練り上げた。
「ロ、ロード様ッ……!」
身体が地面に吸い込まれる刹那、見えぬままに、レヴィは主人の名を叫ぶ。
「先に行けレヴィッ! アレは俺がなんとかするッ!」
「あ……で、ですがッ!」
土埃の中から聞こえた声はいつも通りに力強く、彼女はそれで微かに安堵した。
しかし、敵はあまりにも巨大であり、いかにロードとはいえ、どうにか出来るという確信を得るには至らない。
「大丈夫……信じろ!」
「ッ!」
彼もまた、レヴィがそう思うことは分かっていた。
だから、やはりいつも通りの台詞を吐く。
「……分かりました!」
2人はそれで通ずるのだ。
だからこそ、今までの困難を乗り越えてこられた。
「他はお任せをッ!」
「ああ……任せた!」
やがて薄茶色の霧が晴れた時、既にスカークとレヴィの姿はどこにもなく、ただ1人、彼だけが巨神の前に立っていた。
『……ロード君、逃げたんじゃなかったんだねぇ』
「ロバート王……これ以上は無意味です! あなたはもう……!」
『無意味ぃ!? 違う違う! 全てはこれから始まるのだよッ! いいかねロード君!? 無価値だと断じたものをッ……人は顧みないッ!! それは二重の悪さ! けど、僕は違う! 断ずることもなければ顧みるもするッ! 世界は見出されなければならないんだッ! 僕というッ……尊い存在によって!!』
もはや、ロバート王に、ロードの言葉は届かなかった。
窮地の果てに絶大な力を得た彼は、本気で"そう"考えているのだ。
この世界を、自分が救うのだと。
だが、彼の論理には矛盾しかなかった。
王として守るべき存在を……いや、仮に王でなくとも、それを望むならば、超えてはならない一線を何度も踏み越え、数多の人生を踏みにじり、そうして彼は"神"を自称して今そこに立っている。
果たして彼は、断じてもいなければ、顧みてもいるのか。
それは、彼の言葉と行動を見れば明らかだった。
『分かるまいさッ……君には! 見出されなかった者の痛みなど!! 実の親から疎まれ! 秘匿され! 世界から弾かれたッ……空気だったんだよ僕はッ! いやッ! 空気より無価値ッ……まさに"無"だッ!』
しかし、彼がそうなってしまったのも無理はない。
この男もまた、"無能"という名の理不尽に蹂躙され、歩むべき道を違えたのだ。
時世が、運命が、出会いが、そして……"王"という称号が、彼を狂気の道へと誘った。
『だから僕はねぇ!? この世界を導くのさッ! 誰よりも痛みを知るこの僕が!! ああ……違うなぁ! 痛みを知り、世界を統べる力を持つこの僕がだ!! ははッ! 力を得たんだよ僕はッ! 君のように、最初から強い人間には分からッ……!』
「……それは違いますよ」
『な、何が……うッ!?』
圧倒的優位な状況。
しかし、ロバートは思わず言葉を詰まらせた。
その、ロードから迸る、強大な魔力を前に。
「俺は……いや、俺もかつて……"無能"と呼ばれていましたから」
『な……む、無能ッ!? 君が!? そ、そんな馬鹿なことがッ……!』
「事実です……ロバート王。"無能"は、魔法が使えない訳ではないんです。ただ、知らないだけ。だから、あなたもまだ……」
『だ、黙れッ! そうやって僕を騙す気だろう!? そう言えば僕が引くと……この嘘つきめッ!』
もはや、言葉は通らない。
ロードは、次なる言葉を発するのをやめ、黒い手帳をゆっくりと開いた。
『神に唾を吐く不届き者め……決めたよ。まずは君を叩き潰し、この世界の平伏を始めようッ! リナリア君! エミーナ君! 彼は僕が潰すッ! 君らは逃げたやつらを……1人残らず駆逐しろッ!』
「「はっ!」」
「……いや、それは無理だな」
『ッ!?』
全員の……いや、ロード以外の視線が上へと移る。
彼だけは知っていた。
その生命が、その魔力が、こちらへと近づいていたことを。
「あ、あなたはッ……あり得ないッ……!」
「あり得たからここにいんだろうが。まったく……抜け出るのにえらく手間取ったぜ」
その声の主が、ゆっくりと降りてくる。
やがてロードの横に立った彼は、巨大な2本の剣を背中から引き抜いた。
「よう、ロード……一緒に戦うのは初めてだな」
白銀の前髪から覗く瞳が、ロードへと向けられる。
「ええ、心強いです……バーンさん」
「フッ……さて、やるか」
「はいッ!」
そうして2人は、揃って巨神の瞳を睨みつけた。
生存報告がてら……。
少しずつ頑張りますm(_ _)m




