第422話:追跡
「だ、誰も!? それって……!」
「まさか、もう全員……あの鎧の中に?」
「……かもね。オイラも道中で、アレを擦り抜けた時に驚いたよ。まさか、攫った人を兵器にしてるなんてさ……とにかく、ここから先には進めないから、一旦真上に出てみよう。潜ってるだけで魔力は減ってくし、どっか安全な場所を見つけないとまずいことになっちゃうからさ」
「わ、分かりました……」
「おけ。んじゃ上がるね。こっからは静かに。オイラが先行するから、ゆっくりついて来て」
2人が頷いたのを確認し、スカークは上へと舵を切った。
ゆっくりと、まるで階段を上るように、スカーク達は地中を上昇していく。
やがてうっすら光が見え、地面付近に近付いたことが分かると、彼はもう一度振り返って口に指を当て、慎重に顔を床から出した。
「……やっべーなこれ」
小さく呟いたそれが、ティアとシェリルの緊張感を煽る。
スカークは頭を沈め、少し下に潜ってから2人の方を向いた。
「今、さっきいた場所の一個前……あの球状の空間の隅っこにいるみたい。この真上が入り口だね。んで、アレが何体いるか分かんねーくらいいる。あと、すっげぇデカイのも……」
「デカイの……大型ってやつかな……」
「そうなん? まぁ、とにかくここじゃ出れんから、このまま壁ギリギリを通って上に移動しよう。効果がもつかちと怪しいけど……ついて来て」
スカークの"透過魔法"は、強力な効果に比例するかのように、数多くの制約を抱えていた。
特に重い制約の一つが、魔力の消費量である。
一般的な魔法に使う魔力を1とするならば、スカークのそれは10。
並の魔術師の場合、数分の戦闘で魔力が枯渇するレベルである。
しかし、彼の父はかのニーベルグの騎士団長、ディン=ゾルダート。
背丈こそ父のようにはならず、170センチ程度の上背しかない彼だが、剣の扱いや戦いのセンスなど、それらは彼の父がディンであることを語らずとも理解させる程であった。
そんな彼は、当然のように魔力量も並ではない。
この最深部に至るまで、何度も魔法を使用しているが、まだまだ魔力には余裕があった。
その為、今問題なのは時間制限である。
連続で使用出来る時間は約7分であり、それを超えると魔法は自動的に解除。
もしその瞬間にどこかへ潜っていた場合、そのまま生き埋めとなってしまう。
その為スカークは、ところどころで休憩を取りながら、4人を地上に運ぶつもりであった。
現在、魔法を使用してから約3分が経過。
平静を装ってはいるが、自身を含めた5人分の魔力消費、加えて連続使用の制約が、彼に微かな焦りを抱かせ始めていた。
更に、そんな彼らに追い討ちがかかる。
「うッ……この匂い……!」
「ど、どうしたのティア?」
「さっきの……リナリアとエミーナがこっちに近付いて来てる!」
「マジ!?」
ティアの言う通りだった。
既に彼女達2人は、スカーク達を追って球状の空間にまで来ていた。
そして――――
「嘘……なんで!? ま、真っ直ぐこっちに……!」
まるで彼らの位置が最初から分かっているかのように、2人の足は隅の壁へと向かっていた。
更に、多くの人造魔石機兵がそれに続く。
「……なるほどね。そりゃそっか」
「ス、スカークさん?」
「んとね、言ってしまえば、今ここは彼女の空間の中だ。さっきは君らと戦闘中だったからバレなかったけど、探すことに集中すれば……オイラの魔法でも隠れ切れないって訳よ」
「そ、そんな……」
「……スカークさん、戦いましょう。もうそれしかないです」
シェリルの提案に、スカークは一瞬目を閉じた後、再び目を開けて首を横に振った。
「ダメだね。3人を守りながら戦うのは無理。そんな甘い相手じゃないもん」
「だったら……!」
「オイラが一人でやるよ。シェリルちゃんは魔法を使って4人で逃げてくれ。言ってること……分かるよね?」
「ッ!」
再度言い渡された、戦力外通告。
"いた方が邪魔"。
スカーク程の実力者にとって、彼女達はそういう存在であった。
「オイラが先に出る。合図をしたら、君らはとにかく逃げること。いい?」
「……分かりました」
「はい……」
「はいはい、そんな顔しないの。とりあえず、目的の一つは果たしたんだからさ。今はそれでいいじゃない?」
「はい……」
「ん……さて、行こうかね」
スカークはそう言って、ゆっくりと壁の方へ身体を向ける。
そして、一つ息を吐いたあと、その足を前へと出した。
「存外、早い再開となったな」
「……だね」
壁から姿を現した彼らの視界は、2人の魔法使いと、凄まじい数の人造魔石機兵によって埋め尽くされていた。
更に、その後方には、全てを見下ろすように立つ、巨大な影があった。
「あ、あれが大型……」
「大きい……」
その大きさは、通常の人造魔石機兵の10倍にもなる約30メートル。
その巨躯に、ソフィアとアスナをそれぞれ背負った2人は、思わず足が竦んでしまう。
「あれ? 王様は?」
「……陛下は、貴様達の手には届かん場所にいる」
それを感じたスカークは、リナリアに話しかけることで時間を稼ぐ。
彼女達の足に、地がつくまでの時間を。
「なぁんだ。今更びびっちゃったって訳ね?」
「ふふっ……滑稽だな。"空白"のスカークよ」
「……何がよ?」
「虚勢に挑発……黄金世代の名が泣くぞ?」
ミシッと、両者の間にある空間が音を立てる。
その緊張感に、スカークの背後にいた2人の額から汗が流れた。
「……悪いけど、他人からもらったもんに固執しない質でね。好きに思えば?」
「そうか……さて、一応聞いておく。他に何人いる?」
「言わないっしょ……そんなん」
「だろうな。では……」
直後、張り詰めていた空気が――――
「行けぇッ!」
「さっさと死ねッ!」
一気に、爆発した。
「ッ! ティア!」
「うんッ!」
2人の合図が響くと同時、シェリルはティアの手を取り、人造魔石機兵達とエミーナの魔力が解き放たれる。
更に、スカークとリナリアの魔力がぶつかった刹那、その全ての衝突による力の奔流が、地下に流れる筈のない暴風を生んでいた。
「しぃッ!」
リナリアの拳が虚空を切る。
それは、ソフィアを穿った不可視の一撃。
だが――――
「ッ!? やはりこいつの魔法ッ……!」
不可視の一撃は、不可侵の魔法には至らず、スカークは何事もなかったかのように前へと進む。
更に、人造魔石機兵達が放つ数多の魔法も全て擦り抜けながら、"空白"の英雄は笑みを浮かべてリナリアを見ていた。
「見下すか……スカークッ!」
「いやぁ? オイラにとっちゃいつものことだからねぇ。特に何も変わらないよ」
「ちッ……ならば!」
リナリアの視線が、スカークから外れて上へと向かう。
その先に、出口へと向かう4人の姿があった。
「エミーナァッ!」
「分かってますっ……てぇ!?」
「やらせないってば!」
直後、スカークは一瞬で間合いを詰め、エミーナに飛びかかる。
そうして、鞘から抜かれた赤い剣がエミーナの首筋に――――
「ッ!?」
しかし、間違いなく当たる筈であったそれが、まるで何かに掴まれたように動きを止める。
間一髪のところで難を逃れたエミーナは、そのまま逃げるように宙空へと身を浮かせた。
「さっさと奴らを追えッ! 大型は任せるッ!」
「は、はいっ!」
「ちッ……」
空を飛んでいくエミーナに舌打ちした後、スカークは再びリナリアと対峙した。
「……君の魔法も、中々厄介だね」
「ふん……貴様が言うと、皮肉にしか聞こえんがな」
「ははっ! ……で、どういう仕組み?」
「貴様が死ぬ間際に……教えてやるッ!」
彼女の手の動きに合わせ、人造魔石機兵の軍隊がスカークへと走り出す。
通常、人造魔石機兵は敵味方を認識出来ない。
しかし、彼女は別であった。
それこそが、彼女の魔法の秘密。
「なんとか逃げ切ってよね……」
スカークはそう呟いた後、再び剣を握り締めた。




