第419話:赤
「超大型……未完成?」
「ご覧の通り、外は出来てるよ。ただ、中がね。コスモ君でも……って、知らないか。まぁとにかく、君くらい魔力を持った人間でも駄目だったんだ。彼でも足りない。ああ、因みに1人で全部って訳じゃないんだ。両手足には、それなりの魔力を持った人間が何十人も入ってて、心臓部に入れたメインの人間が、それらを統括して制御するのね。コスモ君にはそれを期待したんだけど、上手くいかなかったのよ。出力が上がんなくてさ。魔力は足りてるっぽいんだけど、何かが足りてないみたいでね。だから、次は君にお願いしようかなって……ね」
そう言って、王はティアを見た。
嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて。
「ッ! あ……」
思わず顔を背けたくなるような、狂気に満ち満ちたそれ。
それでも2人は、下を向かなかった。
というより、彼女達の視線は、その先にあった。
そこに、探し求めていたものがあったから。
「陛下……」
「あーもう! 分かってるって! 今は無理なんでしょ!? だったらさー、せめて普通のはやろうよ。それくらいいいじゃん。戦力も増えるし」
「ですが……」
「なんでさ? ねぇ君、大型は起動したんでしょ?」
「あっ、は、はい! 既に配置済みで……全人造魔石機兵が戦闘態勢にありますが……」
この場所の手前にあった球状の空間。
既にそこは、大型人造魔石機兵を始め、残る全ての人造魔石機兵達が配備されていた。
侵入者を、駆逐する為に。
「いいね。で、新しい中型と小型は?」
「は、はっ! こちらに……後は入れるだけです」
王達のすぐ横に、胸が開いた通常サイズの人造魔石機兵と、それをひと回り小さくしたものが2台並んでいた。
「ほらぁ! 問題なし! 超大型は一旦諦めるからさぁ……もう我慢の限界なんだよ」
王の声が、一気に低くなる。
こうなった王は止まらない。
諦めたリナリアは、王に気付かれぬよう、僅かに肩を落とした。
「……かしこまりました。おい、準備しろ」
そして、白衣の男達に、そう指示を出した。
「は、はい! では、処置室に……」
「あー、いいよいいよ。ここでやっちゃおう。あれでしょ? この子の入れ物」
「へ、陛下……!」
既に王は、腰にぶら下がっていた剣の柄を握っていた。
「し、失礼ながら! ここではさすがに……生体を維持出来なくなる可能性が……!」
「大丈夫大丈夫。鍛えてるから。スパッとやるからさ。傷口は……あ、そこにある溶接用のバーナーで焼けばいいじゃん。そしたら止まるでしょ……出血は」
ティアとアスナの背筋が凍る。
先程聞いた王の発言。
"余分なところは取る"。
それが、何度も頭の中を駆け巡った。
「リナリア君、そっちの2人……下ろしちゃってよ」
散々"おあずけ"をくらっていたロバート王は、もはや自制心の限界を迎えていた。
いや、そもそも彼に自制心などなく、ただ状況に合わせて行動していただけに過ぎない。
しかし、それすらも限界に達していた。
何かを破壊したい、破滅させたい、泣き叫ばせたい、狂わせたい……そんな衝動が、止めどなく溢れ出していた。
手はカタカタと震え、不自然に取り繕った笑顔が、より一層不気味さを醸し出す。
いつも近くにおり、ロバートを敬愛しているリナリアでさえ、不快に感じる程に。
彼女は、やはり王に気付かれぬよう、微かにため息をついた後、3人の少女を抱える人造魔石機兵へ近付いて行った。
「なッ!?」
ティアとアスナは、何も言葉を交わすことなく、ほぼ同時に動いていた。
「ぬぐッ!?」
もともと外れていた手枷を投げつけ、2人はひるんだリナリアの横を同時に駆け抜ける。
「しまっ……!」
「ほぇ……あだッ!?」
そして、呆気にとられていたエミーナに、アスナの体当たりが炸裂した。
「ティア!」
「んりゃぁぁぁあッ!」
ティアは走った。
視界の先にあったのは、ガラス張りの貯水タンク。
もちろん、ティアの力では割れない。
ただ、触れれば話は別。
それだけ近くならば、ガラス越しでも水を操ることが可能となる。
「もう少……しッ!?」
そうなれば、まだチャンスはあった。
「ティ、ティア!」
「何ッ……これッ……!」
しかし、そうはならなかった。
「ふぅ……残念でしたぁ」
ティアとアスナの身体が、ふわふわと空中を漂う。
手足をバタつかせようが、何をしようがどうにもならない。
まるで、見えない何かが胴体に括り付けられ、そのまま吊るされているかのように。
これがエミーナの空間魔法。
彼女の魔法は、あまりにも強大だった。
「……エミーナ君、ブロンドの方を僕の前に」
エミーナは、ちらりとリナリアを見る。
そして、彼女が頷いたのを確認し、右手を前に突き出した。
「うッ!?」
「アスナッ……!」
エミーナの右手が横に移動するのに合わせ、宙に浮いたアスナの身体がスライドしていく。
因みに、あらゆる魔力を無効化するアスナの魔力耐性が及ばないのは、彼女自身ではなく、エミーナが空間自体を操っているからに他ならない。
アスナをではなく、彼女を包む空間を操っている以上、その力では抗えなかったのだ。
「や、やめてお願いッ! 私はどうなってもいいからッ……アスナだけはッ!」
ティアの声に、耳を貸す者はいない。
彼女が叫び続ける間も、エミーナの右手は淀みなく動き、リナリアは白衣の男達に淡々と指示を出し、王は鞘から剣を抜く。
そうして、アスナは王の前に跪かされ、彼女の右手が意思とは関係なく、王の御前に差し出された。
「……さて、今から右手とお別れする訳だけど、何か言いたいことはあるかな?」
「あ、あなたはッ……!」
「狂ってる……かな? そうかもね。ただ、それは君らが決めた価値観だろう? 結局のところ、物の価値なんてものは個々に違うんだよ。僕にとっては最上だけれど、君らにとっては最低なだけさ。ああ、それと……さよならするのは右手だけじゃないよ? まぁ、君らは馬鹿じゃないようだし、もう理解していると思うけど一応ね。欲しいのは魔力の器であって、人間じゃあない。だから正確に言うと、人間という概念にお別れする準備は出来たかな? ……だね」
「お願いッ……やめてッ……!」
「んっふっふっふっ……大丈夫だよティア君。悲しむことはない。悲しむこともなくなるんだから。では、まず一つ。さぁ、いい声で……叫んでね?」
「やめてぇぇぇえッ!!」
振り下ろされた剣。
それが、肉を切り、骨を断ち、鮮血を撒き散らす――――
「んえッ!?」
「なッ!?」
――――筈だった。
「……あ?」
目の前にいたアスナは消え、更にはティアもソフィアの姿もなくなっていた。
振り下ろされた剣は床を叩き、その高い金属音の残響だけがそこに残った。
「ッ! き、貴様はッ……!?」
王は、リナリアの声を聞いてようやく我に返った。
そして、彼女の視線の先に身体を向ける。
その先に、ティア達を庇うようにして立つ者がいた。
「……君は?」
王は静かにそう問うた。
怒りを無理やり抑え込むように。
それを受け――――
「あなた方のような……」
赤く長い髪をなびかせ、その少女もまた、静かにそう返す。
そして――――
「……下衆に名乗る、名前はありません」
シェリルは、そう言って彼らを睨みつけた。
体調不良の為、いつもより短めです(´・ω・`)
申し訳ございません_| ̄|○




