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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時
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第414話:圧倒

 

 時は少し遡り――――


「あら、やっぱり私って運がいいわ……大当たりね」


 やはり大きな柱が立ち並ぶ広い空間に、ダンディの嬉しそうな声が響く。


「……大当たり?」


 それを受け、ロードはそう聞き返した。


「ふふっ! だってあなた……強いじゃない? 私はね、強い人と戦うのが趣味なの。だから、闘技大会の時から目をつけてってわけ。それに、顔は見えないけど……あなた絶対イケメンでしょ」


「……はい?」


「あー! たまらないわ! 声だけで分かるの私! あ、いけないいけない……ついね。でも、興奮するわぁ……」


 涎を垂らし、恍惚の笑みを浮かべるダンディを見て、ロードはギリシアの第1騎士団長であるスパルタクスのことを思い出し、身体を震わせた。


「震えちゃって……かーわいい」


「……」


 そして、彼とは違い、絶対に深く関わってはならない人物であると悟る。


「うふっ! ああ、そういえば……あなたティタノマキアだったのね。なんでまた闘技大会に?」


「ん……」


 ダンディは、未だに侵入者がティタノマキアであると思い込んでいた。

 ロードはバーンの思惑通りに事が進んでいたことに多少驚きながらも、怪しまれないように言葉を続けた。


「暇つぶし……みたいなものですよ。特に大きな意味はありません」


「ふぅん? まぁいっか。そんなことは……どうでも」


 そう言った直後、ダンディの魔力が膨れ上がる。

 背負っていた両手持ちの斧を手にし、彼は一気に臨戦態勢へと移行した。

 もはや我慢など出来なかったのだ。

 ロードという、極上の獲物を前にして。


「うっふふふふふ……最高だわぁ! ほんっと陛下には感謝しなくちゃ! あの方の側にいるだけで、いくらでも戦えるッ……!」


 ダンディもまた、他のメンバーと同じように、戦いこそが全てであった。

 生まれた時から身体と心が一致せず、それによって虐げられ、差別され、実の親にまで距離を置かれた。

 それでも彼は変わらなかった。

 いや、変えられなかった。

 そう生まれたのだから。


「今あなたの顔が見られないのは残念だけどぉ、後でたっぷり可愛がってあげるわぁ……あなたが死んでからねッ!」


 故に、ありのままを受け入れ、自分を真っ当に評価してくれたシュメール王に忠義を立てるのは、半ば当然のことであった。

 恵まれた肉体と、天性の戦闘センスを持っていた彼は、シュメール王の期待に尽く応え、そうして今の地位にまで上り詰める。

 もはや、彼のことを蔑む者はどこにもいない。


「ひゃおッ!」


 独特の掛け声を上げ、ダンディが大地を蹴る。

 異常に長い脚は、しなやかで強靭な筋肉によって覆われ、その速さは相対する者に、身体強化魔法使いかと錯覚させる程であった。

 だが違う。

 彼の魔法は、そんな柔なものではなく、もっと遥かに厄介な代物。

 それを繰り出す魔力を体内で練り上げながら、ダンディはロードに向かってその斧を――――


「はうッ!?!?」


 振り下ろす刹那、ダンディの腹部に激痛が走った。

 彼の視線がロードから外れ、自然と下へ向かう。


「なんッ……どごがらッ……!?」


 2人の間には、間違いなく何もなかった。

 しかし今、背中に小さな黒い騎士を背負い、短い金髪を靡かせてニヤリと笑う女が……そこにいた。


「いましたよ……最初からぁッ!」


「おどばばばばばッ!?」


 1秒どころか、その半分の半分にも満たない刹那。

 放たれた、十を超える拳の雨。

 それらは的確にダンディの急所を穿ち、最後に放った右のストレートにより、彼は十数メートル吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。


「おうおう、容赦ないのぅ……キュレル」


「いやいや! ロードさんに言われた通り! めちゃんこ手を抜きましたよ! じゃなきゃ、原型留めてないですから!」


 キュレルと呼ばれた少女は、屈託のない笑顔を浮かべながら、そう言って更に拳を固めた。



 ―――――――――――――――――――――



 キュレル 獅子殺しの拳


 かつて天界で暴れ回った獅子の姿をした魔獣を、とある女神が殴り殺した際につけていた手袋。

 それ自体に力はなかったが、獅子の血を浴びたことと、破れた部分を補修する際、女神が自身の髪の毛を使用したことで聖物となった。

 身に付けると、腕力と格闘術が大幅に強化される。

 ただし、使用時は蹴り技が使用不可能となる。


 武器ランク:【SSS】

 能力ランク:【SS】



 ―――――――――――――――――――――



「あ、そう……まぁ、ロードよ、吾輩はもうええかの?」


「ああ。ありがとうハディス」


「うむ。また呼ぶがよい」


 姿を消せる冥界の兜を手帳に納め、ロードは拳を構えたまま前を向く女性の横に立った。

 と、その時――――


「はッ……ぐッ……うぅッ……」


 ダンディは仰向けからうつ伏せに体勢を変え、両手で身体を起こすと、片膝を突いてロード達を睨みつけた。


「……起きますね。手を抜き過ぎました」


 キュレルはそう言ったが、実際は少し違う。

 彼女はロードから、"殺さないように"という命を受けてはいたが、初めて肉体を得た高揚感もあり、そこそこ本気で殴ってしまっていた。

 無論、彼女が本気の本気ならば、ダンディは既にこの世にいない。

 とはいえ、それなりに本気を出したのに、仕留めきれなかったという事実が、彼女の自尊心に傷をつけた。

 ただこの場合、起き上がったダンディを褒めるべきだろう。


「追撃を?」


「いや……大丈夫」


 彼はそう言って、逸るキュレルを制す。

 ロードにしか見えない、生命の色や形。

 それが、ダンディが相当に弱っていることを表していた。


「ちッ……きしょ……うがぁッ!」


 絞り出した虚勢の咆哮。

 それが、今の彼の精一杯。

 不意に喰らった攻撃は、彼の身体と誇りを打ち砕いていた。

 とはいえ、見抜けなかった己が悪いと、ダンディは理解している。

 故に、今の咆哮は、不甲斐ない己に対するもの。

 これは、生死を懸けたなんでもありの殺し合いであり、敵に非はないと。

 ただ、だからといって――――


「こ、このまま終わると……思うなよッ……!」


 ダンディの手が、懐に忍ばせていた魔石に伸びる。

 瞬間、ロードの背筋が凍りついた。


「……まさか」


 ダンディの後方。

 暗闇に光る、三つの赤灯。

 歪な魔力と同時に感じた……人の生命。

 そうして、地響きとともに現れた三体の人造魔石機兵(ハイゴーレム)を見て、ロードは深く息を吐きながら、静かに目を閉じた。

 怒りと落胆。

 人の業の深さに、彼は改めて強い憤りを感じていた。

 しかし、彼はそれを爆発させられない性格。

 だから目を閉じ、息を吐くことで抑えつけた。

 それでも――――


「ふふふッ……ただじゃ通さないッ! 少なくとも、腕の1本や2……ほ……」


 その時、ロードの身体から、おびただしい量の魔力が溢れ出す。

 味方である筈のキュレルすらが恐れを抱く程のそれによって、ダンディは言葉を見失っていた。

 身につけていた黒いマントが舞い上がり、隠れていた魔銀の義手が露わになると、彼はその銀の指で黒い手帳のページを静かにめくった。


「マルテ……ドラグヴァンディル……ヘラクレスッ……!」


 呼ばれたのは、手帳に巣食う巨人達。

 巨槍マルテ。

 継承剣ドラグヴァンディル。

 英雄戦棍ヘラクレス。

 ロードは、それらが現れた瞬間に生命を与える。

 そうして、次の瞬間には――――


「な……あ……」


 ロードの右後ろに身長3メートルのドラグヴァンディルが、左後方に4メートルのヘラクレスが、そして、彼の真後ろに……10メートルを超えるマルテが立っていた。


「所持者よ……」


「3人とも、あの人達の動きを止めてくれ。それだけでいい」


「……任せよ」


「承知した。継承者よ」


「うん、わかった」


 そんな巨人達を前にしても、人造魔石機兵(ハイゴーレム)に恐れはない。

 魔石によって命ぜられるがまま、目標に向かって突き進む。

 しかし、結果は火を見るより明らかであった。


「ぬぅんッ!」


 ヘラクレスは人造魔石機兵(ハイゴーレム)の大剣を弾き飛ばし、頭を掴んで地面に叩きつける。


「かぁッ!」


 ドラグヴァンディルは大槍を一閃にて打ち砕き、そのまま組み伏せて自由を奪った。


「む、むん!」


 マルテの掌底が、人造魔石機兵(ハイゴーレム)を一撃で地に伏せさせる。

 戦いは、まさに一瞬で終わった。


「あ、ありえな……なんッ……はっ!?」


 驚愕するダンディの前に、いつの間にかロードが立っていた。

 そして、彼は静かに魔銀の手を差し出した。


「懐にあるものをこちらに」


「……ッ!」


 勝敗は完全に決していた。

 だが、ダンディにも意地がある。

 それに、"はい分かりました"と差し出せる程、彼の忠義心は安くない。

 故にそれは――――


「死……ごッ……」


 ダンディが、最後の力を振り絞って立ち上がり、渾身の力を込めて放った右の拳。

 それは当たり前のように空を切り、変わりに打ち抜かれたロードの左拳が、鍛え抜かれた腹筋を再度貫いていた。

 瞬間ダンディは白目を剥き、地面に崩れ落ちる。

 ロードは無言のまま、彼の懐に手を入れて魔石を取り出すと、試すように魔力を込めた。


「む……所持者よ、止まったぞ」


「こちらもだ。ふぅ、なかなかに力が強い。厄介だぞこれは」


「うごかなくなった……うん」


「ありがとう、3人とも。多分、また呼ぶことになると思う。とりあえず、一旦戻すね……あ、キュレル」


 3人を手帳に戻しながら、ロードは獅子殺しの少女に声をかけた。


「あ、はいっ!」


「君はそのままついてきてくれ。頼んだよ」


「りょ、りょーかい!」


「さて……」


 ロードは先にある闇を見つめ、仲間達の生命を探り始めた。

 そして――――


「……みんなかなり苦戦してるな。多分、ここ以外にもアレがいる……無理もない。ん、バハムートさんとこれは……シェリルか? 2人は先に……バハムートさんはともかく、シェリルは1人で? ……とにかく助けた方がいいな。力を貸してくれキュレル」


「はいっ!」


 ロードは、仲間達の様子に目を向けることで、悲しみと怒りを抑え込んでいた。

 そして冷静に、心の中で蒼い炎燃やし続ける。

 最後に待つ、悲しい王を……その炎で焦がす為に。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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