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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時
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第407話:噂

 

「間違い……ねぇんだな?」


 下の階層に向かっていた最中、ロードからの連絡を受けたブランスは、暗い声でそう彼に聞き返した。


『はい……ソフィアは王と一緒にいます』


「そうか……わりぃ」


 "自分達のミスにより、ソフィアを巻き込んでしまった"。

 そんな自戒の念が、彼の声から力を奪っていた。


『いや、ブランスさん達だけの所為じゃないです……俺がもっと上手くやっていれば……』


 同様の思いはロードにもあった。

 戦力は低下してしまうが、万全を期すならば武具の1人でも置いてくるべきだったと、ロードは後悔していた。


『……とにかく、こうなった以上は仕方ないです。ソフィアを助けつつ、後は作戦通りにいきましょう』


「ああ……そうだな」


『既にバーンさん達は地下へ入りました。入り口は、1階にある書庫のような場所です』


「あそこか……そこは確か、部屋に入りきらなくなった王の蔵書を保管する場所だった筈だ。前に兄貴達に城を案内してもらった時に見た記憶がある。そういや、王以外が入ることはまずねぇって言ってた気もするわ。そこに隠し通路があったんだな」


『はい。本に見せかけた仕掛けをいじると、本棚が移動して通路が現れるようになっていました。レヴィの魔法がなかったら分からなかったと思います』


「なるほどな……」


『あ、それから……王のすぐ側に、俺の知らない生命の反応が7つありました。恐らくそれが七影だと思います』


「やっぱ離れなかったか……ま、そうだろうよ」


『レヴィ曰く、七影は間違いなくこの件を知っているみたいなので……戦闘は避けられないと思います』


「予想通りって訳だな。分かった。とにかくすぐにそっちへ行く」


『了解です。では……』


「……ちっ」


 光を失った通信魔石を懐にしまい、ブランスは唇を軽く噛み締めた。


「気負うな……じゃ、ないんでしたっけ?」


「ハッ……この野郎」


 後ろを歩くシェリルにそう言われ、ブランスはニヤリと笑った。


「うるせぇよ小娘が……よっしゃてめぇら、地下への入り口をロードがみっけたらしい。バーン達は先に行った……つまり、城の上部は制圧済みって訳だ。俺らも急ぐぞ」


 ブランスを先頭に、シェリル、カレン、バイザー、バハムートの5人は、誰もいなくなった城の階段を駆け下りていく。


「これなら、転移する意味はあまりなかったかもしれんな」


 バハムートの言葉に、ブランスは走りながら頷いた。


「ああ、かもな。だが、王が真っ直ぐ地下に行くかも分からなかったし、七影がどう動くかも未知数だったからなぁ……とりあえず、現状上手くいってるからよしだ」


 因みに、転移装置がどこに置かれるかによっては、彼らが陽動に回る可能性もあった。

 結果はバーンのほぼ読み通り、転移装置は王の私室に運ばれ、更には王側が襲撃をティタノマキアの仕業だと思い、最も安全な地下への移動を選択した為、彼らは無駄な消耗をすることなく地下へと向かえたことから、ブランスの言う通り、現状はそう悪くない状態だと言える。

 無論、ソフィアの件を除けば、ではあるが。


「あとの懸念は地下に何があるかってのと……七影だな」


「分かっちゃいたがめんどくせぇな」


「出来れば何人か上でやっちまいたかったが……しゃーねぇな」


「よぉ、七影ってのはそんなにやべぇやつらなんか? あたいからすりゃ、あんたら3人とか、あのばけもんみてぇなバーンの兄さんもそうだし、ロード辺りなんかも手こずるなんて想像つかねぇんだけど……」


「どうだろうな……実際やってみねぇと分かんねぇけど、魔法には相性もあるし、舐めてかかれるレベルじゃねぇのは確かだ。気は抜けねぇよ」


「あー……相手の魔法までは分かってねぇもんな……」


 彼らが持っている七影の情報は、その名前と容姿、そして出回っている噂と、そこからくる異名のみであった。



 ―――――――――――――――――――――



 まるで少女のような姿をした親衛隊隊長、リナリア。

 彼女はその容姿とは裏腹に、シュメール軍の最高戦力として恐れられている。

 噂では、過去にロバート王暗殺を企てた反政府組織数十名を1人で壊滅させたとも言われており、その実力は底知れない。

 今回の作戦において、最も警戒する人物である。


 親衛隊ナンバー2の実力者、ボッグス。

 2メートルを超える巨躯を誇り、圧倒的な破壊力を持つ騎士である。

 言葉を発することがほぼなく、無言のままに敵を制圧することから、"沈黙"の異名を持つ。


 大柄な女拳士、ミルミル。

 徒手格闘で、彼女の右に出る者はいないとまで言われる実力者。

 穏やかな性格をしているが、戦場では躊躇なく、そして笑顔で人を殴り殺す。

 その為、いつしか彼女は"無邪気な殺戮者"と呼ばれるようになったという。


 黒衣の剣士、ガンナル。

 接近戦を得意とする、親衛隊の切り込み隊長。

 身体は痩せ細り、頬もこけ、やもすると病人にも見える彼ではあるが、気性が荒く、非常に好戦的な人物として知られている。

 親衛隊最速の男という称号も相まって、"瞬殺"の異名を持つ危険な男である。


 褐色の戦士、ダンディ。

 身体は男性であるが、心は乙女だと自称している肉体派戦士。

 得物は斧で、魔法を組み合わせたその破壊力は想像を絶する。

 素の身体能力も高く、戦闘力は高め。


 正確無比な射手、バルゾイ。

 シュメール1の弓の使い手。

 その腕は凄まじく、何キロも離れた場所にある標的をも一撃で撃ち抜くという。

 更に、魔法を矢に付与し、様々な攻撃を繰り出してくる技巧派。


 空間を操る魔法使い、エミーナ。

 王の命を幾度も救ってきた守りの要。

 正確な能力は不明だが、空間を操っていると思われる力を使い、あらゆる場面で活躍してきた。

 今回、リナリアに次いで注意すべき存在である。



 ―――――――――――――――――――――



「今のうちにもっかい思い出しとけ。どいつもこいつも一癖ある奴らだ……油断すんな」


「てめぇが一番怪しいがな……」


「あぁん!? なんか言ったかバイザー!?」


「地下に入ったら三手に分かれる……で、いいんだろ?」


「ちっ! はぐらかしやがって……そうだよ!」


「私とバイザーが単独、お前達は3人だったな」


「ああ。流石にこいつらを放っとく訳にはいかねぇからな。しっかりついてこいよ小娘ども」


「へいへい……」


「……冗談抜きに一瞬で死ぬ可能性もあんだ……マジで気ぃ抜くんじゃねーぞ」


「ッ!」


 ブランスの本気のトーンに、カレンは一瞬言葉を詰まらせた。

 実際、彼が言っていることは大袈裟でもなんでもない。

 七影は王を守る為、彼らを殺すつもりでかかってくるだろう。

 彼らにその気があろうが、なかろうが。


「……分かってっよ」


「シェリルもいいな?」


「……ええ、分かってます」


「よし……ん、こっちだ」


 1階エントランスまで下りた彼らは、ブランスの誘導に従って書庫へと走った。

 やがて見えたその扉を開けると、中でロードとレヴィが彼らを出迎えた。


「待たせたな」


「いえ、そんなには……こっちです」


 ロードに連れられた先、本来本棚があったであろう場所に、人が1人通れるだけの通路があり、その先に地下へと続く階段があった。


「……生命の反応は?」


「既に俺の感知出来る範囲内にはありません。バーンさん達の反応も少し前に消えました。俺が感知出来る範囲は、だいたい1〜2キロくらいなので……」


「相当な深さ……って訳だな。よくもまぁそんなもんを誰にも気付かれずに掘れたもんだ」


「なんらかの魔法も使ってるんでしょうけど、それにしたって凄い執念というか……怖いくらいですね」


「ああ……ま、とにかく行くか。ここで話しててもしょうがねぇ」


「分かりました。俺が先行します」


 僅かな灯りを頼りに、ロード達は階段を下っていく。

 その階段は、気を付けなければ肩が壁に触れてしまう程の狭さしかなく、その所為か嫌な圧迫感を覚え、また地下から上がってくる生暖かい空気が、形容し難い嫌な雰囲気を醸し出していた。


「ここは……」


 時間にして数分、やがてその狭い階段が終わりを告げると、今度は巨大な穴が彼らの前に広がっていた。

 下を覗くと、螺旋状に連なる灯りが見え、やもすると幻想的なその光景は、逆に今の彼らにとって、言い知れぬ不安を与えるものであった。


「どこまで続いてんだよこれ……」


「……行こう」


 思わず不安げな声を上げるカレンを鼓舞するかのように、ロードはそう言って、螺旋状の階段を下り始めた。

 コツコツと、7人の足音が闇に吸い込まれていく。

 螺旋状の階段に柵はなく、一歩間違えれば長い浮遊感を楽しんだ後、確実な死を迎えることになるだろう。


「ちょ……あれ……」


 と、その時、何かに気付いたカレンの声に導かれ、全員の視線がそこへと集まる。


「牢屋……みてぇだな」


 壁を抉るようにして作られた質素な檻。

 ただし、鉄格子は太く、見るからに堅固であった。

 それは、捕らえたものを絶対に逃がさないという、強い意志が感じられる程に。

 そして、彼女達が見ているそここそが――――


「分かってはいましたけど……気味が悪いですね」


「あ、なんかここ……檻の下に削った跡が……」


 つい先程まで、ティアとアスナがいた場所でもあった。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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