第402話:手合わせ
「やぁ、待たせたね」
「「……ッ!」」
"聞かれたか?"と考えるのと同時、レヴィはある違和感を覚えていた。
それがなんなのか、明確には分からない。
だが、さっきとは微かに雰囲気が違う……と、彼女はそう感じていた。
無論、"視"れば何かしらは分かるだろう。
しかし、先程と同様、王の周りには7人の親衛隊が立っており、魔法を発動することが出来なかった。
「陛下……!」
慌てて立ち上がろうとするグラットンに合わせ、レヴィが椅子の手すりに手を置いた直後、ロバートの右手がそれらを制した。
「あー、よいよい。座ったままで」
笑顔でそう言うロバートに、2人は安堵する。
どうやら最悪の事態は避けられたようだ、と。
「む、まだ支度が済んでおらんではないか……リナリア君」
「かしこまりました。ダンディ、給仕場に行け」
「えっ? わたしぃ!?」
黒い肌をした筋肉質な男が、驚いたように手を口へと当てる。
リナリアはそれを睨みつけながら――――
「ほう……お前以外にダンディという名の者がいるのか? 私は知らないが、もしそうなのであれば是非教えて……」
「きー! はいはい分かりましたぁ! もうっ……ほんっとリナリアちゃんってそういうとこアレだと思う! ふんっ!」
ダンディは自身の坊主頭を掻きむしりながらそう言うと、腰をくねらせながら早足で部屋を出て行く。
その様子に、他の6人はため息をつくのだった。
「……部下が失礼しました。グラットン様はご存知かと思いますが、あの男にはああいうところがありまして……」
「あ、いえ……ははは……」
「まぁアレでも腕は立つ。人は見かけによらないという良い例だな。さ、食事が来るまで暫し話でもしようか。リナリア君、何か飲み物を」
「すぐに」
―――――――――――――――――――――
やがて食事が運ばれ、本格的な会食が始まった。
私は2人の会話に耳を傾けながら、勢揃いした"七影"に意識を向ける。
鑑定魔法を使わずとも、彼らが優秀なことは一目瞭然。
問題は、彼らが本当に敵になるか否か、ということだが……。
「余はなグラットン……この国をもっと大きくしたいのだ。今はまだ中堅国家の一つに過ぎぬが、いずれは5大国家をも超えるような……そんな国に。そなたも力を貸してくれ。期待しているぞ」
「陛下……」
……結局、リドリーとジグドラは真の黒幕を知らなかった。
背後にシュメール政府がいることには気付いていたようだが、彼らに接触していたのはあくまで末端の人間……恐らく、その先は探るだけ無駄であり、危険だと判断したのだろう。
だから、本当にロバート王が直接関わっているかは正直分からない。
私達にとって一番いい結末は、王が関わっていないということだ。
それならば、首魁である人間を突き出し、ロバート王に裁いて貰えば事は済む。
ただ、シュメール政府が打ち出した冒険者誘致の政策は、ほぼ全てがロバート王の肝いりのものであり、また、あれだけの人数が失踪しているにも拘らず、未だになんの解決策も講じていないところを鑑みるに、やはり王が今回の件を主導している可能性は極めて高い。
無論、シュメール王に直接仕えているブライトシャフト家の長兄ガラッド様や、次兄のエバンス様が知らなかった以上、シュメール城にいる全ての人間が関知している訳ではないのだろうが、恐らく幹部クラスはロバート王の傀儡に成り下がり、シュメールはもはや独裁政権になっているのではないか……というのが、バーン様の導き出した結論。
となれば、これだけロバート王に近い七影が、この件を知らないという方がおかしいだろう。
つまり、彼らとの衝突は……まず避けられない。
「何か?」
「えっ?」
不意に親衛隊隊長のリナリアと目が合い、そう声を掛けられた私は、思わず声を上げてしまっていた。
「どうかしたのかな? ……リナリア君」
「いえ、先程から何やら視線を……そちらの方から。ですので、何かご用でもあるのかと」
……意識を向け過ぎたか。
失態……いや、ここはあえて……。
「……お気を悪くさせてしまったようで申し訳ありません。私も主人を守護する立場として、かの名高い七影様がどれ程のものなのかつい……」
「レ、レベッカ!?」
踏み込む。
今は少しでも情報が欲しい。
吉と出るか凶と出るかは……。
「ふむ……グラットン、彼女の腕前は?」
「えっ!? あ、ああ……そう……ですな……ビウス程ではありませんが、並みの冒険者では歯が立たないかと……」
「リナリア君、どうかね?」
「並みの冒険者……フッ……ご謙遜が過ぎます。私の見立てでは、Sは堅いかと」
「ほぉ……やはり優秀なようだね。どうだろうリナリア君、余興に一つ……誰かと手合わせなどは」
ッ! ……願ってもない。
話だけでもと思っていたのだが……どうやら吉と出たようだ。
「陛下……」
「いいじゃないか。こんな機会などそうそうないし、彼女の為だと思って……ね?」
……やはり、先程とはどこか雰囲気が違う。
謁見の間で見たロバート王とは……何かが。
「はぁ……分かりました。ミルミル、あの方と手合わせを」
「あ、はーい」
ミルミルと呼ばれた彼女は、髪の長い大柄な女性だった。
武器は持っていないようだが、女性とは思えぬ程に筋骨隆々で、拳はかなり使い込まれているのが分かる。
その佇まいもそうだが、微かに漏れている魔力から察するに、かなりの実力者なのは間違いない。
とはいえ、リナリア以外では唯一の女性……一応気を遣われたというところか。
「あくまで陛下の御前ですので、飛び道具の類はなしに。よろしいですね?」
やはり近接系か。
私も能力は晒したくない……望むところだ。
「かしこまりました。陛下、貴重な機会をいただき、改めて感謝を」
「うんうん。余も楽しみだ。存分にやりたまえ」
「は……」
すぐにスペースが設けられ、私はミルミルと向かい合った……のだが――――
「ふわー……あなた強そうですねぇ。ちゃんとやらないと負けちゃうかも……あ、よろしくお願いしますねぇ」
「あ、はい……こちらこそよろしくお願いします」
どうにも掴みどころがないというか……見た目に反して可愛らしいというか……やりにくいですね。
先程のダンディという方もそうでしたが、隊長のリナリアもまるで幼い少女みたいですし、この方も……ロバート王は、見た目によらない方を重宝するきらいでもあるんでしょうか?
「では、始めましょうか」
リナリアの声に合わせ、私達は互いに構えをとった。
やはり、構えを取るとよく分かる。
彼女は本物だ。
まぁとにかく……この状況なら魔力を――――
「し、失礼いたしますッ!」
私が魔力を練ろうとした直前、若い男性の声とともに……食堂の扉が再び勢いよく開かれた。




