第397話:代用品
「順調です。闘技大会ではそれなりに高水準の素材が多く手に入りましたし、それ以外にも今月は13名ほど……特に、今日手に入った2名の内の1名は……あのコスモに勝るとも劣らない素材かと」
「マジ!? そりゃいいねぇ……後で見にいこっかなぁ? あ、一応ザディアックに口を利いてもらってるから大丈夫だと思うけど、あんまりやり過ぎないようにしてね?」
因みに、ザディアックはシュメール政府が行なっていることを全く知らない。
シュメール王が言っている"口利き"とは、"シュメール冒険者ギルドに対する監査をしないでくれ"というものであり、人攫いを黙認しろというものではなかった。
冒険者ギルドに監査が入った場合、それはすぐさま世間に知れ渡り、そのギルドに対する評価は著しく低下する。
シュメール王はそれを避ける為、ザディアックから冒険者ギルド本部へと圧力をかけさせていたのだった。
「承知しております。今月は闘技大会のこともあり、いつもより多く集まりましたが、平常時は30名以下に抑えるよう指示を出していますので。ただ……一つ気掛かりなことが」
「……何?」
会議室に緊張が走る。
王の低い声には、そうさせるだけの悍ましさがあった。
「オルグレンが……何やら不穏な動きを見せているようです」
途端に会議室内が騒めき出す。
オルグレンは、全冒険者ギルドを統括するグランドマスター。
仮に感付かれているとなれば、シュメールにとって最悪の事態へと発展しかねない。
「まだいたんだ……ふーん……で、具体的には?」
「はい。監視からの報告によると、日中は普通に観光をしていたらしいのですが、深夜に冒険者ギルド内へ入るのを確認したとのこと……恐らく、ウルフリックに会いに行ったのでしょう。何を話したかは分かりませんが、オルグレンとウルフリックは年齢も近いですし、我々の知らない繋がりがあったのかもしれません」
「あっそう……邪魔くさいね」
「はい。非常に」
シュメール王は、ザディアックからそんな話など聞いていない。
それどころか、オルグレンは闘技大会が終了次第、オリンポスへ帰国させる予定だと聞いていた。
「ザディアックの性格上、オルグレンを自分の手元からこんなに長く離れさせないと思うんだよねぇ……」
「はい。つまり、今オルグレンが行なっていることは……彼個人の意思ということになるかと」
ザディアックからの圧力がある中で、オルグレンが個人的に動いているとなれば、シュメール冒険者ギルドの異常を見過ごせないと判断していることになる。
もはや、"仮に感付かれていた場合"……などと悠長なことは言ってられないレベルであると、シュメール王ロバートは頭の中でそう結論付けた。
「……なんとかなる?」
それは、"コスモのように出来るか?"という意味。
その問いに、リナリアは静かに首を横に振った。
「不可能です。我々の力では、彼を御することは出来ません。アレを含むSSSランクの冒険者とは、もはやこの世の理を超えた存在……迂闊に手を出せば、それこそ国が滅びます」
それは、オルグレンを仕留め損ね、シュメールの異常さが世間に露見した結果そうなる……という意味と、彼の力で物理的に……という、二つの意味での滅びである。
「……アレを使ってもダメかな?」
「可能性は……ですが、どちらにしろ町が崩壊してしまいますし、何より……今はまだ使う時ではないかと」
「だよね……じゃ、正攻法ならどう?」
「陛下がザディアックに進言なさればあるいは……ですが、やはりそれ相応の理由が必要となるかと」
「んー……ザディアックにさ、"オルグレンがまだいるけどなんかあんの?"って聞くとすんじゃん? そしたら、"多分たまにしか外に出られないから、ただ観光してるだけじゃないか?"とか言われそうなんだよなぁ……」
「あり得ますね。かといって何かしらの理由をつけて"早く引き上げさせろ"……などと言えば、ザディアックは騙せても、オルグレンには確信を与える結果になるやもしれません」
「……とりあえず静観かな」
「今はそれがよろしいかと。なんにせよ、今露見することだけは絶対に避けなければなりません。我が国の兵器が北の戦乱で活躍しているのは事実であり、世間がそれを知る日も近い……そうなれば、我が国は世界をリードする立場になります。今は代用品を使っていますが、いずれは各国が溜め込んでいる魔石を吐き出させることも容易い……必然的に、バビニアの連中も我が国にこうべを垂れることになります」
「だよね……よし、オルグレンがいる間は、素材集めを中止するように伝えて。あと、月の制限は当分半数の15に」
「かしこまりました」
「レアだって本気でティーターンを滅ぼす気なんかないだろうし、そろそろ和平交渉が始まる筈だ。そうなってさえしまえば……」
「はい。我が国が生み出した魔導兵器……人造魔石機兵により、陛下が天に立ちます」
人造魔石機兵。
それは、シュメールが長年争ってきた隣国バビニアとの戦に備え、ダンジョン内などにいる通常の魔石人形を参考に開発した……自立型の決戦魔導兵器である。
大きさは用途に合わせ様々だが、一般的なもので全高約3メートルほど。
鎧を身に纏った騎士のような出で立ちであり、材質は高い物理防御力と魔法耐性を備えたシュメール原産のメドガル鉄鋼を使用している。
基本兵装は剣と盾。
それ以外にも、スピアやボウガンを装備した中距離タイプや、大砲を装備した遠距離タイプ、巨大な盾を二つ持ち、通常のものより一回り大きい突撃タイプなど、様々な戦局に対応が可能である。
その巨躯から繰り出される破壊力は凄まじく、耐久性も抜群で、まさに完全無欠の決戦兵器であるが、何より有用な点として、人造魔石機兵には当然ながら感情というものがない。
緊張も、焦燥も、恐怖も、罪悪感も、戦において生まれるであろう全ての感情を抱くことなく、ただ命じられたままに剣を振るう。
相対するものからすれば、これ程厄介なことはなかった。
無論、欠点もある。
まず一つに、敵味方の区別がつかないということが、人造魔石機兵の大きな欠点であった。
人造魔石機兵同士で争うことがないように魔術回路を組まれているが、それ以外に近付くもの全てが敵であり、仮に味方であろうが問答無用で襲いかかる。
指示には専用の魔石を用い、ある程度離れた場所から行うことが出来る為問題ないが、前進させ、殲滅の命令を出したが最後、人造魔石機兵は内蔵されている魔力がなくなる寸前まで、目につくもの全てを相手に戦い続ける。
また、その"内蔵されている魔力"というのが第二の欠点であった。
どんなに戦況が優位であっても、内蔵されている魔力が切れそうになると、人造魔石機兵は指定された場所へと後退を始める。
魔力が切れるタイミングは、稼働時間などによってある程度の目処が立つものの、完全にそれを把握することは不可能。
その為、上手く扱わなければ、敵に反撃の機会を与えるきっかけとなってしまう。
ただし、戦闘続行不可能なほどに破壊されていなければ、魔力を補給するだけで、再び戦線へと復帰出来るというのは、人造魔石機兵の強みの一つでもあった。
そして、最後の欠点。
人造魔石機兵の核には、魔石の中でも特に純度が高く、また、それ相応の大きさがなければならないということであった。
並みの魔石では、仮に起動してもすぐに燃料切れを起こし、ほとんど使い物にならなかったのである。
ここでシュメールに誤算が生まれてしまう。
シュメールが長い年月をかけ、人造魔石機兵を実用段階にまでこぎつけたのは、奇しくもティーターンの魔石が枯渇したのと同時期であったのだ。
これにより、シュメール王を始め、開発者達は頭を抱えた。
莫大な開発資金と、長い年月をかけて作り上げた最強の兵器が、燃料がないというだけで役に立たなくなってしまう。
そんなことは許されない。
また、シュメール王ロバートには夢があった。
シュメールを、5大国家さえ超える……天下に轟く超大国にするという夢が。
そうして彼は、野望と苦悩の中であることを思いつく。
魔石が手に入らないのであれば、それに替わるものを使えばいい。
強大な魔力を蓄えられる別の何かに。
それこそが……人であったのだ。




