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無能と呼ばれた俺、4つの力を得る  作者: 松村道彦
第6章:木漏れ日の時
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第395話:アストライアー

 

 同時刻、別室――――


「俺とリドリーは……2人でやってたんだ。人攫いは金になる……特に、魔力が強い奴はな。それが女なら尚更……」


「……アストライアー」


「2人は嘘、お金になるのは真実、魔力が強い者というのは……嘘混じりの真実のようですね」


「ッ!?」


 ジグドラから、声にならない声が出ていた。

 ロードはそれを確認した後――――


「続けてくれ」


 そう"彼女"に促した。


「はい。それから、最後の"女なら尚更"というのは、半分嘘を言っているようです。これは私の推測になりますが、通常の人攫い業ならば、女性の方が高値だというのは本当なのでしょう。しかし、今現在請け負っている仕事では、魔力さえ高ければ男性でも女性でも関係ない……といった感じでしょうか。それならば、一つ前の"魔力が強い者の方が高価である"、という発言に感じた、微かな嘘の匂いにも説明がつきます。恐らく、普段は魔力の多寡など二の次で、性別や容姿が最優先される……つまり、"今の仕事"では本当で、"通常の仕事"では嘘、ということだと思います」


 肩ほどにまで伸びた彼女の髪は、丁度半分に白と黒で分かれ、その前髪の下にある両目は、麻布で完全に覆われていた。

 それは、目で見たものをただ信ずるのではなく、心の中にあるもう一つの目で、隠された真実を見抜くという証。

 そうして、右手に持った金色の天秤を前に突き出したまま、アストライアーは淡々と語り続ける。


「よって、"今の仕事"に関しては、2人だけで行なっているのではなく、お金にはなり、魔力が高ければ高いほどよく、性別も容姿も関係ない……ということになります」


 ジグドラは、ただ黙ることしか出来なかった。

 それらが全て、真実であったから。

 しかし、彼に非はない。

 どう言葉を並べようが、どれだけ演技をしようが、神が創りし"真実の天秤"に……嘘は通らないのだから。



 ―――――――――――――――――――――



 アストライアー 真実の天秤


 神が生み出した聖なる天秤。

 対象が語る言葉を嗅ぎ分け、嘘と真実を見抜く力を持つ。

 心を全て読める訳ではなく、語る言葉に含まれた"嘘の匂い"を感じ取る力の為、正確な真実を導き出すことは不可能。

 また、相手が何も語らなければ、当然能力は使用出来ない。


 武具ランク:【SS】

 能力ランク:【S】



 ―――――――――――――――――――――



 本来のアストライアーの能力は、先述の通り、その言葉が真実か嘘かを見抜くのみである。

 だが、ロードの生命魔法により、その力は一段上へと昇華していた。

 伝説の武具である彼女には、当然最初から魂がある。

 元の姿のままならば、ただ魂はそこにあるだけで、決して語ることはない。

 だが、数百数千と嘘を見抜いてきた彼女は、黙したままに、その経験値を蓄積し続けていた。

 かつての持ち主が、自身を使用して真実に至る……数多の道程。

 それら全てが、彼女の推察力を極限まで高めたのだ。

 そして今、彼女は肉体を持ち、それを語る"口"を与えられた。

 嘘か真実かを所持者に伝えるだけだった彼女は、その先にある"真相"を暴く語り手となったのである。


「ありがとうアストライアー……よく分かったよ」


「恐縮です」


「では、ジグドラさん……次の質問です」


「……ッ!」


 フードとマスクの間から覗く、ロードの鋭い視線。

 ジグドラは、圧倒的な恐怖を感じていた。

 当然、彼にもリドリーが別室にいることは告げられている。

 そして、そこにバーンがいることも。

 "何かを語らなければ、リドリーがどうなるか分からない"。

 彼がそんな思考に辿り着くのも無理はなかった。


 無論、ロード達は拷問をする気などさらさらない。

 だが、ジグドラには、そんなことなど分からない。

 だから語ったのだ。

 虚実を混ぜて。

 しかし、それはいとも容易く見破られてしまう。

 彼は今、ロード達にマイナスのイメージを与えてしまったことを後悔していた。

 嘘をついた罰に、リドリーが凄惨な目にあうのでは……と。

 そもそも、彼が嘘を混ぜたのは、真実を話せば自分達の身が危ないと感じていたからであった。

 だが、それは少し先にある恐怖であり、今目の前にある恐怖に……勝てる筈もない。

 それ故に、彼に残された選択肢は――――


「わ、悪かった! なんでも話すッ……だ、だからリドリーには……!」


 "従順な下僕となる"。

 それのみであった。


「それは約束します。だから、全て話してください。ティアとアスナをどこにやったのか……そして、あなた達の後ろにいるのは誰なのか……その全てを」



 ―――――――――――――――――――――



「おっ」


「あ、あれ?」


 ロード達が聞き取りを終え、部屋から出たのと同時、隣の部屋から出てくるバーンの姿がそこにあった。


「そっちも終わったか。丁度よかったな」


「あ、はい。それで、今アストライアーを連れてバーンさんのところに行こうかと……ひょっとして……もう?」


「まぁ、一応な。素直に話してたとは思う」


「……どうやったんですか?」


 バーンにそういった類の能力はない。

 それを理解した上での質問だった。


「直接的なことは何も? ただ、ちょいと……お願いしただけさ」


「お、お願い……」


 不敵に笑うバーンの"お願い"を想像し、ロードは少し身震いした。


「とはいえ、本当のことを話しているかは分からん。情報を擦り合わせよう」


「あ、そうですね。2人の監視は、グレイプニルとデュランダル、それからオートクレールに任せます」


「ん、それなら安心だな。んじゃ、食堂で話すか。レヴィやブランス達も待ってるだろうし」


「分かりました。行こうアストライアー」


「はい」


 バーンの後に続き、ロード達は薄暗い階段を上がっていく。

 今彼らがいた場所は、別に牢獄でもなんでもなく、ブライトシャフト家の地下にある普通の倉庫。

 それを、ただそれらしく見えるように装飾しただけである。

 そうして3人が食堂へと辿り着くと、既に彼らを除く全員がそこへと集まっていた。


「待たせたな」


「んな待ってねーよ。むしろ、もう終わったんかって感じだが?」


「ああ、一応な。話しながら擦り合わせる。みんな座ってくれ」


 バーンの言葉に従い、皆が一斉に長机へと集まっていく。

 今いるメンバーは、バーン、ロード、レヴィ、アストライアー、ブランス、バハムート、ブランスの父グラットン、執事頭のビウス、バイザー、そしてシェリルとカレンの11名。


「結構な大所帯になったな」


「つっても、相手が相手だかんなぁ……あ、そういや、お前の仲間ってのは?」


「もうすぐここに来る。ブランス、兄貴達とは話せたか?」


「ああ。なかなか信じなかったけど、なんとか説得出来たぜ。今日の夜に一度帰って来るってよ。真ん中だけな」


「分かった。親父さんの方は?」


「言われた通りに話した。ほぼほぼこっちの要求は通ったが……本当にいいのかい?」


 その発言を受け、全員の視線がバーンへと向けられる。

 グラットンが戸惑っていることに、それなりの理由があるのだと察したのだ。


「ああ……今からやる擦り合わせや、ブランスの兄貴達の情報を見てから最終的に判断するが……大筋はそれでいく」


「……分かった。まぁ、既に覚悟は出来ておるし、その方がいいかもしれんな。さて、皆にも伝えておこう。バーン君の指示通り、ワシと王との会食は……明日の夜7時に決まった」


「あ、明日の夜!?」


「つまりそれって……!」


「そうだ。決行は明日の夜7時……それでいく」


 食堂内が微かに騒めく中、ロードは静かに拳を握り締めた。

 そして、目を閉じ、やはり静かに息を吐く。

 隣にいたレヴィもまた、主人のそれにならった。


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30.3.25より、書籍第2巻が発売中です。 宜しくお願い致しますm(_ _)m
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